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Title: Manyoshu [Book 14]
Author: Anonymous
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Makoto Yoshimura, Akihiro Okajima, et al.
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第十四巻東歌3348
[原文]奈都素妣久 宇奈加美我多能 於伎都渚尓 布袮波等<杼>米牟 佐欲布氣尓家里 [訓読]夏麻引く海上潟の沖つ洲に船は留めむさ夜更けにけり [仮名],なつそびく,うなかみがたの,おきつすに,ふねはとどめむ,さよふけにけり
3349
[原文]可豆思加乃 麻萬能宇良<未>乎 許具布祢能 布奈妣等佐和久 奈美多都良思母 [訓読]葛飾の真間の浦廻を漕ぐ船の船人騒く波立つらしも [仮名],かづしかの,ままのうらみを,こぐふねの,ふなびとさわく,なみたつらしも
3350
[原文]筑波祢乃 尓比具波麻欲能 伎奴波安礼杼 伎美我美家思志 安夜尓伎保思母 [訓読]筑波嶺の新桑繭の衣はあれど君が御衣しあやに着欲しも [仮名],つくはねの,にひぐはまよの,きぬはあれど,きみがみけしし,あやにきほしも
3350S
[原文]多良知祢能 安麻多伎保思母 [訓読]たらちねの あまた着欲しも [仮名]たらちねの,あまたきほしも
3351
[原文]筑波祢尓 由伎可母布良留 伊奈乎可母 加奈思吉兒呂我 尓努保佐流可母 [訓読]筑波嶺に雪かも降らるいなをかも愛しき子ろが布乾さるかも [仮名],つくはねに,ゆきかもふらる,いなをかも,かなしきころが,にのほさるかも
3352
[原文]信濃奈流 須我能安良能尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣<婆> 登伎須疑尓家里 [訓読]信濃なる須我の荒野に霍公鳥鳴く声聞けば時過ぎにけり [仮名],しなぬなる,すがのあらのに,ほととぎす,なくこゑきけば,ときすぎにけり
相聞3353
[原文]阿良多麻能 伎倍乃波也之尓 奈乎多弖天 由伎可都麻思自 移乎佐伎太多尼 [訓読]あらたまの伎倍の林に汝を立てて行きかつましじ寐を先立たね [仮名],あらたまの,きへのはやしに,なをたてて,ゆきかつましじ,いをさきだたね
3354
[原文]伎倍比等乃 萬太良夫須麻尓 和多佐波太 伊利奈麻之母乃 伊毛我乎杼許尓 [訓読]伎倍人のまだら衾に綿さはだ入りなましもの妹が小床に [仮名],きへひとの,まだらぶすまに,わたさはだ,いりなましもの,いもがをどこに
3355
[原文]安麻乃波良 不自能之婆夜麻 己能久礼能 等伎由都利奈波 阿波受可母安良牟 [訓読]天の原富士の柴山この暗の時ゆつりなば逢はずかもあらむ [仮名],あまのはら,ふじのしばやま,このくれの,ときゆつりなば,あはずかもあらむ
3356
[原文]不盡能祢乃 伊夜等保奈我伎 夜麻治乎毛 伊母我理登倍婆 氣尓餘婆受吉奴 [訓読]富士の嶺のいや遠長き山道をも妹がりとへばけによばず来ぬ [仮名],ふじのねの,いやとほながき,やまぢをも,いもがりとへば,けによばずきぬ
3357
[原文]可須美為流 布時能夜麻備尓 和我伎奈婆 伊豆知武吉弖加 伊毛我奈氣可牟 [訓読]霞居る富士の山びに我が来なばいづち向きてか妹が嘆かむ [仮名],かすみゐる,ふじのやまびに,わがきなば,いづちむきてか,いもがなげかむ
3358
[原文]佐奴良久波 多麻乃緒婆可里 <古>布良久波 布自能多可祢乃 奈流佐波能其登 [訓読]さ寝らくは玉の緒ばかり恋ふらくは富士の高嶺の鳴沢のごと [仮名],さぬらくは,たまのをばかり,こふらくは,ふじのたかねの,なるさはのごと
3358S1
[原文]麻可奈思美 奴良久波思家良久 佐奈良久波 伊豆能多可祢能 奈流佐波奈須与 [訓読]ま愛しみ寝らくはしけらくさ鳴らくは伊豆の高嶺の鳴沢なすよ [仮名]まかなしみ,ぬらくはしけらく,さならくは,いづのたかねの,なるさはなすよ
3358S2
[原文]阿敝良久波 多麻能乎思家也 古布良久波 布自乃多可祢尓 布流由伎奈須毛 [訓読]逢へらくは玉の緒しけや恋ふらくは富士の高嶺に降る雪なすも [仮名]あへらくは,たまのをしけや,こふらくは,ふじのたかねに,ふるゆきなすも
3359
[原文]駿河能宇美 於思敝尓於布流 波麻都豆良 伊麻思乎多能美 波播尓多我比奴 [一云 於夜尓多我比奴] [訓読]駿河の海おし辺に生ふる浜つづら汝を頼み母に違ひぬ [一云 親に違ひぬ] [仮名],するがのうみ,おしへにおふる,はまつづら,いましをたのみ,ははにたがひぬ,[おやにたがひぬ]
3360
[原文]伊豆乃宇美尓 多都思良奈美能 安里都追毛 都藝奈牟毛能乎 <美>太礼志米梅楊 [訓読]伊豆の海に立つ白波のありつつも継ぎなむものを乱れしめめや [仮名],いづのうみに,たつしらなみの,ありつつも,つぎなむものを,みだれしめめや
3360S
[原文]之良久毛能 多延都追母 都我牟等母倍也 美太礼曽米家武 [訓読]白雲の絶えつつも継がむと思へや乱れそめけむ [仮名],しらくもの,たえつつも,つがむともへや,みだれそめけむ
3361
[原文]安思我良能 乎弖毛許乃母尓 佐須和奈乃 可奈流麻之豆美 許呂安礼比毛等久 [訓読]足柄のをてもこのもにさすわなのかなるましづみ子ろ我れ紐解く [仮名],あしがらの,をてもこのもに,さすわなの,かなるましづみ,ころあれひもとく
3362
[原文]相模祢乃 乎美祢見<可>久思 和須礼久流 伊毛我名欲妣弖 吾乎祢之奈久奈 [訓読]相模嶺の小峰見そくし忘れ来る妹が名呼びて我を音し泣くな [仮名],さがむねの,をみねみそくし,わすれくる,いもがなよびて,あをねしなくな
3362S
[原文]武蔵祢能 乎美祢見可久思 和須礼<遊>久 伎美我名可氣弖 安乎祢思奈久流 [訓読]武蔵嶺の小峰見隠し忘れ行く君が名懸けて我を音し泣くる [仮名],むざしねの,をみねみかくし,わすれゆく,きみがなかけて,あをねしなくる
3363
[原文]和我世古乎 夜麻登敝夜利弖 麻都之太須 安思我良夜麻乃 須疑乃木能末可 [訓読]我が背子を大和へ遣りて待つしだす足柄山の杉の木の間か [仮名],わがせこを,やまとへやりて,まつしだす,あしがらやまの,すぎのこのまか
3364
[原文]安思我良能 波I祢乃夜麻尓 安波麻吉弖 實登波奈礼留乎 阿波奈久毛安夜思 [訓読]足柄の箱根の山に粟蒔きて実とはなれるを粟無くもあやし [仮名],あしがらの,はこねのやまに,あはまきて,みとはなれるを,あはなくもあやし
3364S
[原文]波布久受能 比可波与利己祢 思多奈保那保尓 [訓読]延ふ葛の引かば寄り来ね下なほなほに [仮名],はふくずの,ひかばよりこね,したなほなほに
3365
[原文]可麻久良乃 美胡之能佐吉能 伊波久叡乃 伎美我久由倍伎 己許呂波母多自 [訓読]鎌倉の見越しの崎の岩崩えの君が悔ゆべき心は持たじ [仮名],かまくらの,みごしのさきの,いはくえの,きみがくゆべき,こころはもたじ
3366
[原文]麻可奈思美 佐祢尓和波由久 可麻久良能 美奈能瀬河泊尓 思保美都奈武賀 [訓読]ま愛しみさ寝に我は行く鎌倉の水無瀬川に潮満つなむか [仮名],まかなしみ,さねにわはゆく,かまくらの,みなのせがはに,しほみつなむか
3367
[原文]母毛豆思麻 安之我良乎夫祢 安流吉於保美 目許曽可流良米 己許呂波毛倍杼 [訓読]百づ島足柄小舟歩き多み目こそ離るらめ心は思へど [仮名],ももづしま,あしがらをぶね,あるきおほみ,めこそかるらめ,こころはもへど
3368
[原文]阿之我利能 刀比能可布知尓 伊豆流湯能 余尓母多欲良尓 故呂河伊波奈久尓 [訓読]あしがりの土肥の河内に出づる湯のよにもたよらに子ろが言はなくに [仮名],あしがりの,とひのかふちに,いづるゆの,よにもたよらに,ころがいはなくに
3369
[原文]阿之我利乃 麻萬能古須氣乃 須我麻久良 安是加麻可左武 許呂勢多麻久良 [訓読]あしがりの麻万の小菅の菅枕あぜかまかさむ子ろせ手枕 [仮名],あしがりの,ままのこすげの,すがまくら,あぜかまかさむ,ころせたまくら
3370
[原文]安思我里乃 波故祢能祢呂乃 尓古具佐能 波奈都豆麻奈礼也 比母登可受祢牟 [訓読]あしがりの箱根の嶺ろのにこ草の花つ妻なれや紐解かず寝む [仮名],あしがりの,はこねのねろの,にこぐさの,はなつつまなれや,ひもとかずねむ
3371
[原文]安思我良乃 美佐可加思古美 久毛利欲能 阿我志多婆倍乎 許知弖都流可<毛> [訓読]足柄のみ坂畏み曇り夜の我が下ばへをこち出つるかも [仮名],あしがらの,みさかかしこみ,くもりよの,あがしたばへを,こちでつるかも
3372
[原文]相模治乃 余呂伎能波麻乃 麻奈胡奈須 兒良波可奈之久 於毛波流留可毛 [訓読]相模道の余綾の浜の真砂なす子らは愛しく思はるるかも [仮名],さがむぢの,よろぎのはまの,まなごなす,こらはかなしく,おもはるるかも
3373
[原文]多麻河泊尓 左良須弖豆久利 佐良左良尓 奈仁曽許能兒乃 己許太可奈之伎 [訓読]多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの子のここだ愛しき [仮名],たまかはに,さらすてづくり,さらさらに,なにぞこのこの,ここだかなしき
3374
[原文]武蔵野尓 宇良敝可多也伎 麻左弖尓毛 乃良奴伎美我名 宇良尓R尓家里 [訓読]武蔵野に占部肩焼きまさでにも告らぬ君が名占に出にけり [仮名],むざしのに,うらへかたやき,まさでにも,のらぬきみがな,うらにでにけり
3375
[原文]武蔵野乃 乎具奇我吉藝志 多知和可礼 伊尓之与比欲利 世呂尓安波奈布与 [訓読]武蔵野のをぐきが雉立ち別れ去にし宵より背ろに逢はなふよ [仮名],むざしのの,をぐきがきぎし,たちわかれ,いにしよひより,せろにあはなふよ
3376
[原文]古非思家波 素弖毛布良武乎 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓豆奈由米 [訓読]恋しけば袖も振らむを武蔵野のうけらが花の色に出なゆめ [仮名],こひしけば,そでもふらむを,むざしのの,うけらがはなの,いろにづなゆめ
3376S
[原文]伊可尓思弖 古非波可伊毛尓 武蔵野乃 宇家良我波奈乃 伊呂尓R受安良牟 [訓読]いかにして恋ひばか妹に武蔵野のうけらが花の色に出ずあらむ [仮名],いかにして,こひばかいもに,むざしのの,うけらがはなの,いろにでずあらむ
3377
[原文]武蔵野乃 久佐波母呂武吉 可毛可久母 伎美我麻尓末尓 吾者余利尓思乎 [訓読]武蔵野の草葉もろ向きかもかくも君がまにまに我は寄りにしを [仮名],むざしのの,くさはもろむき,かもかくも,きみがまにまに,わはよりにしを
3378
[原文]伊利麻治能 於保屋我波良能 伊波為都良 比可婆奴流々々 和尓奈多要曽祢 [訓読]入間道の於保屋が原のいはゐつら引かばぬるぬる我にな絶えそね [仮名],いりまぢの,おほやがはらの,いはゐつら,ひかばぬるぬる,わになたえそね
3379
[原文]和我世故乎 安杼可母伊波武 牟射志野乃 宇家良我波奈乃 登吉奈伎母能乎 [訓読]我が背子をあどかも言はむ武蔵野のうけらが花の時なきものを [仮名],わがせこを,あどかもいはむ,むざしのの,うけらがはなの,ときなきものを
3380
[原文]佐吉多萬能 津尓乎流布祢乃 可是乎伊多美 都奈波多由登毛 許登奈多延曽祢 [訓読]埼玉の津に居る船の風をいたみ綱は絶ゆとも言な絶えそね [仮名],さきたまの,つにをるふねの,かぜをいたみ,つなはたゆとも,ことなたえそね
3381
[原文]奈都蘇妣久 宇奈比乎左之弖 等夫登利乃 伊多良武等曽与 阿我之多波倍思 [訓読]夏麻引く宇奈比をさして飛ぶ鳥の至らむとぞよ我が下延へし [仮名],なつそびく,うなひをさして,とぶとりの,いたらむとぞよ,あがしたはへし
3382
[原文]宇麻具多能 祢呂乃佐左葉能 都由思母能 奴礼弖和伎奈婆 汝者故布婆曽毛 [訓読]馬来田の嶺ろの笹葉の露霜の濡れて我来なば汝は恋ふばぞも [仮名],うまぐたの,ねろのささはの,つゆしもの,ぬれてわきなば,なはこふばぞも
3383
[原文]宇麻具多能 祢呂尓可久里為 可久太尓毛 久尓乃登保可婆 奈我目保里勢牟 [訓読]馬来田の嶺ろに隠り居かくだにも国の遠かば汝が目欲りせむ [仮名],うまぐたの,ねろにかくりゐ,かくだにも,くにのとほかば,ながめほりせむ
3384
[原文]可都思加能 麻末能手兒奈乎 麻許登可聞 和礼尓余須等布 麻末乃弖胡奈乎 [訓読]葛飾の真間の手児名をまことかも我れに寄すとふ真間の手児名を [仮名],かづしかの,ままのてごなを,まことかも,われによすとふ,ままのてごなを
3385
[原文]可豆思賀能 麻萬能手兒奈我 安里之<可婆> 麻末乃於須比尓 奈美毛登杼呂尓 [訓読]葛飾の真間の手児名がありしかば真間のおすひに波もとどろに [仮名],かづしかの,ままのてごなが,ありしかば,ままのおすひに,なみもとどろに
3386
[原文]尓保杼里能 可豆思加和世乎 尓倍須登毛 曽能可奈之伎乎 刀尓多弖米也母 [訓読]にほ鳥の葛飾早稲をにへすともその愛しきを外に立てめやも [仮名],にほどりの,かづしかわせを,にへすとも,そのかなしきを,とにたてめやも
3387
[原文]安能於登世受 由可牟古馬母我 可豆思加乃 麻末乃都藝波思 夜麻受可欲波牟 [訓読]足の音せず行かむ駒もが葛飾の真間の継橋やまず通はむ [仮名],あのおとせず,ゆかむこまもが,かづしかの,ままのつぎはし,やまずかよはむ
3388
[原文]筑波祢乃 祢呂尓可須美為 須宜可提尓 伊伎豆久伎美乎 為祢弖夜良佐祢 [訓読]筑波嶺の嶺ろに霞居過ぎかてに息づく君を率寝て遣らさね [仮名],つくはねの,ねろにかすみゐ,すぎかてに,いきづくきみを,ゐねてやらさね
3389
[原文]伊毛我可度 伊夜等保曽吉奴 都久波夜麻 可久礼奴保刀尓 蘇提婆布利弖奈 [訓読]妹が門いや遠そきぬ筑波山隠れぬほとに袖は振りてな [仮名],いもがかど,いやとほそきぬ,つくはやま,かくれぬほとに,そではふりてな
3390
[原文]筑波祢尓 可加奈久和之能 祢乃未乎可 奈伎和多里南牟 安布登波奈思尓 [訓読]筑波嶺にかか鳴く鷲の音のみをか泣きわたりなむ逢ふとはなしに [仮名],つくはねに,かかなくわしの,ねのみをか,なきわたりなむ,あふとはなしに
3391
[原文]筑波祢尓 曽我比尓美由流 安之保夜麻 安志可流登我毛 左祢見延奈久尓 [訓読]筑波嶺にそがひに見ゆる葦穂山悪しかるとがもさね見えなくに [仮名],つくはねに,そがひにみゆる,あしほやま,あしかるとがも,さねみえなくに
3392
[原文]筑波祢乃 伊波毛等杼呂尓 於都流美豆 代尓毛多由良尓 和我於毛波奈久尓 [訓読]筑波嶺の岩もとどろに落つる水よにもたゆらに我が思はなくに [仮名],つくはねの,いはもとどろに,おつるみづ,よにもたゆらに,わがおもはなくに
3393
[原文]筑波祢乃 乎弖毛許能母尓 毛利敝須恵 波播已毛礼杼母 多麻曽阿比尓家留 [訓読]筑波嶺のをてもこのもに守部据ゑ母い守れども魂ぞ会ひにける [仮名],つくはねの,をてもこのもに,もりへすゑ,ははいもれども,たまぞあひにける
3394
[原文]左其呂毛能 乎豆久波祢呂能 夜麻乃佐吉 和須<良>許婆古曽 那乎可家奈波賣 [訓読]さ衣の小筑波嶺ろの山の崎忘ら来ばこそ汝を懸けなはめ [仮名],さごろもの,をづくはねろの,やまのさき,わすらこばこそ,なをかけなはめ
3395
[原文]乎豆久波乃 祢呂尓都久多思 安比太欲波 佐波<太>奈利努乎 萬多祢天武可聞 [訓読]小筑波の嶺ろに月立し間夜はさはだなりぬをまた寝てむかも [仮名],をづくはの,ねろにつくたし,あひだよは,さはだなりぬを,またねてむかも
3396
[原文]乎都久波乃 之氣吉許能麻欲 多都登利能 目由可汝乎見牟 左祢射良奈久尓 [訓読]小筑波の茂き木の間よ立つ鳥の目ゆか汝を見むさ寝ざらなくに [仮名],をづくはの,しげきこのまよ,たつとりの,めゆかなをみむ,さねざらなくに
3397
[原文]比多知奈流 奈左可能宇美乃 多麻毛許曽 比氣波多延須礼 阿杼可多延世武 [訓読]常陸なる浪逆の海の玉藻こそ引けば絶えすれあどか絶えせむ [仮名],ひたちなる,なさかのうみの,たまもこそ,ひけばたえすれ,あどかたえせむ
3398
[原文]比等未奈乃 許等波多由登毛 波尓思奈能 伊思井乃手兒我 許<登>奈多延曽祢 [訓読]人皆の言は絶ゆとも埴科の石井の手児が言な絶えそね [仮名],ひとみなの,ことはたゆとも,はにしなの,いしゐのてごが,ことなたえそね
3399
[原文]信濃道者 伊麻能波里美知 可里婆祢尓 安思布麻之<奈牟> 久都波氣和我世 [訓読]信濃道は今の墾り道刈りばねに足踏ましなむ沓はけ我が背 [仮名],しなぬぢは,いまのはりみち,かりばねに,あしふましなむ,くつはけわがせ
3400
[原文]信濃奈流 知具麻能河泊能 左射礼思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟 [訓読]信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はむ [仮名],しなぬなる,ちぐまのかはの,さざれしも,きみしふみてば,たまとひろはむ
3401
[原文]中麻奈尓 宇伎乎流布祢能 許藝弖奈婆 安布許等可多思 家布尓思安良受波 [訓読]なかまなに浮き居る船の漕ぎ出なば逢ふことかたし今日にしあらずは [仮名],なかまなに,うきをるふねの,こぎでなば,あふことかたし,けふにしあらずは
3402
[原文]比能具礼尓 宇須比乃夜麻乎 古由流日波 勢奈能我素R母 佐夜尓布良思都 [訓読]日の暮れに碓氷の山を越ゆる日は背なのが袖もさやに振らしつ [仮名],ひのぐれに,うすひのやまを,こゆるひは,せなのがそでも,さやにふらしつ
3403
[原文]安我古非波 麻左香毛可奈思 久佐麻久良 多胡能伊利野乃 於<久>母可奈思母 [訓読]我が恋はまさかも愛し草枕多胡の入野の奥も愛しも [仮名],あがこひは,まさかもかなし,くさまくら,たごのいりのの,おくもかなしも
3404
[原文]可美都氣努 安蘇能麻素武良 可伎武太伎 奴礼杼安加奴乎 安杼加安我世牟 [訓読]上つ毛野安蘇のま麻むらかき抱き寝れど飽かぬをあどか我がせむ [仮名],かみつけの,あそのまそむら,かきむだき,ぬれどあかぬを,あどかあがせむ
3405
[原文]可美都氣努 乎度能多杼里我 可波治尓毛 兒良波安波奈毛 比等理能未思弖 [訓読]上つ毛野乎度の多杼里が川路にも子らは逢はなもひとりのみして [仮名],かみつけの,をどのたどりが,かはぢにも,こらはあはなも,ひとりのみして
3405S
[原文]可美都氣乃 乎野乃多杼里我 安波治尓母 世奈波安波奈母 美流比登奈思尓 [訓読]上つ毛野小野の多杼里があはぢにも背なは逢はなも見る人なしに [仮名],かみつけの,をののたどりが,あはぢにも,せなはあはなも,みるひとなしに
3406
[原文]可美都氣野 左野乃九久多知 乎里波夜志 安礼波麻多牟恵 許登之許受登母 [訓読]上つ毛野佐野の茎立ち折りはやし我れは待たむゑ来とし来ずとも [仮名],かみつけの,さののくくたち,をりはやし,あれはまたむゑ,ことしこずとも
3407
[原文]可美都氣努 麻具波思麻度尓 安佐日左指 麻伎良波之母奈 安利都追見礼婆 [訓読]上つ毛野まぐはしまとに朝日さしまきらはしもなありつつ見れば [仮名],かみつけの,まぐはしまとに,あさひさし,まきらはしもな,ありつつみれば
3408
[原文]尓比多夜麻 祢尓波都可奈那 和尓余曽利 波之奈流兒良師 安夜尓可奈思<母> [訓読]新田山嶺にはつかなな我に寄そりはしなる子らしあやに愛しも [仮名],にひたやま,ねにはつかなな,わによそり,はしなるこらし,あやにかなしも
3409
[原文]伊香保呂尓 安麻久母伊都藝 可奴麻豆久 比等登於多波布 伊射祢志米刀羅 [訓読]伊香保ろに天雲い継ぎかぬまづく人とおたはふいざ寝しめとら [仮名],いかほろに,あまくもいつぎ,かぬまづく,ひととおたはふ,いざねしめとら
3410
[原文]伊香保呂能 蘇比乃波里波良 祢毛己呂尓 於久乎奈加祢曽 麻左可思余加婆 [訓読]伊香保ろの沿ひの榛原ねもころに奥をなかねそまさかしよかば [仮名],いかほろの,そひのはりはら,ねもころに,おくをなかねそ,まさかしよかば
3411
[原文]多胡能祢尓 与西都奈波倍弖 与須礼騰毛 阿尓久夜斯豆之 曽能可<抱>与吉尓 [訓読]多胡の嶺に寄せ綱延へて寄すれどもあにくやしづしその顔よきに [仮名],たごのねに,よせつなはへて,よすれども,あにくやしづし,そのかほよきに
3412
[原文]賀美都家野 久路保乃祢呂乃 久受葉我多 可奈師家兒良尓 伊夜射可里久母 [訓読]上つ毛野久路保の嶺ろの葛葉がた愛しけ子らにいや離り来も [仮名],かみつけの,くろほのねろの,くずはがた,かなしけこらに,いやざかりくも
3413
[原文]刀祢河泊乃 可波世毛思良受 多太和多里 奈美尓安布能須 安敝流伎美可母 [訓読]利根川の川瀬も知らず直渡り波にあふのす逢へる君かも [仮名],とねがはの,かはせもしらず,ただわたり,なみにあふのす,あへるきみかも
3414
[原文]伊香保呂能 夜左可能為提尓 多都努自能 安良波路萬代母 佐祢乎佐祢弖婆 [訓読]伊香保ろのやさかのゐでに立つ虹の現はろまでもさ寝をさ寝てば [仮名],いかほろの,やさかのゐでに,たつのじの,あらはろまでも,さねをさねてば
3415
[原文]可美都氣努 伊可保乃奴麻尓 宇恵古奈<宜> 可久古非牟等夜 多祢物得米家武 [訓読]上つ毛野伊香保の沼に植ゑ小水葱かく恋ひむとや種求めけむ [仮名],かみつけの,いかほのぬまに,うゑこなぎ,かくこひむとや,たねもとめけむ
3416
[原文]可美都氣努 可保夜我奴麻能 伊波為都良 比可波奴礼都追 安乎奈多要曽祢 [訓読]上つ毛野可保夜が沼のいはゐつら引かばぬれつつ我をな絶えそね [仮名],かみつけの,かほやがぬまの,いはゐつら,ひかばぬれつつ,あをなたえそね
3417
[原文]可美都氣努 伊奈良能奴麻乃 於保為具左 与曽尓見之欲波 伊麻許曽麻左礼 [柿本朝臣人麻呂歌集出也] [訓読]上つ毛野伊奈良の沼の大藺草外に見しよは今こそまされ [柿本朝臣人麻呂歌集出也] [仮名],かみつけの,いならのぬまの,おほゐぐさ,よそにみしよは,いまこそまされ
3418
[原文]可美都氣<努> 佐野田能奈倍能 武良奈倍尓 許登波佐太米都 伊麻波伊可尓世母 [訓読]上つ毛野佐野田の苗のむら苗に事は定めつ今はいかにせも [仮名],かみつけの,さのだのなへの,むらなへに,ことはさだめつ,いまはいかにせも
3419
[原文]伊可保世欲 奈可中次下 於毛比度路 久麻許曽之都等 和須礼西奈布母 [訓読]伊香保せよ奈可中次下思ひどろくまこそしつと忘れせなふも [仮名],いかほせよ,*******,おもひどろ,くまこそしつと,わすれせなふも
3420
[原文]可美都氣努 佐野乃布奈波之 登里波奈之 於也波左久礼騰 和波左可流賀倍 [訓読]上つ毛野佐野の舟橋取り離し親は放くれど我は離るがへ [仮名],かみつけの,さののふなはし,とりはなし,おやはさくれど,わはさかるがへ
3421
[原文]伊香保祢尓 可未奈那里曽祢 和我倍尓波 由恵波奈家杼母 兒良尓与里弖曽 [訓読]伊香保嶺に雷な鳴りそね我が上には故はなけども子らによりてぞ [仮名],いかほねに,かみななりそね,わがへには,ゆゑはなけども,こらによりてぞ
3422
[原文]伊可保可是 布久日布加奴日 安里登伊倍杼 安我古非能未思 等伎奈可里家利 [訓読]伊香保風吹く日吹かぬ日ありと言へど我が恋のみし時なかりけり [仮名],いかほかぜ,ふくひふかぬひ,ありといへど,あがこひのみし,ときなかりけり
3423
[原文]可美都氣努 伊可抱乃祢呂尓 布路与伎能 遊吉須宜可提奴 伊毛賀伊敝乃安多里 [訓読]上つ毛野伊香保の嶺ろに降ろ雪の行き過ぎかてぬ妹が家のあたり [仮名],かみつけの,いかほのねろに,ふろよきの,ゆきすぎかてぬ,いもがいへのあたり
3424
[原文]之母都家野 美可母乃夜麻能 許奈良能須 麻具波思兒呂波 多賀家可母多牟 [訓読]下つ毛野みかもの山のこ楢のすまぐはし子ろは誰が笥か持たむ [仮名],しもつけの,みかものやまの,こならのす,まぐはしころは,たがけかもたむ
3425
[原文]志母都家<努> 安素乃河泊良欲 伊之布<麻>受 蘇良由登伎奴与 奈我己許呂能礼 [訓読]下つ毛野阿蘇の川原よ石踏まず空ゆと来ぬよ汝が心告れ [仮名],しもつけの,あそのかはらよ,いしふまず,そらゆときぬよ,ながこころのれ
3426
[原文]安比豆祢能 久尓乎佐杼抱美 安波奈波婆 斯努比尓勢毛等 比毛牟須婆佐祢 [訓読]会津嶺の国をさ遠み逢はなはば偲ひにせもと紐結ばさね [仮名],あひづねの,くにをさどほみ,あはなはば,しのひにせもと,ひもむすばさね
3427
[原文]筑紫奈留 尓抱布兒由恵尓 美知能久乃 可刀利乎登女乃 由比思比毛等久 [訓読]筑紫なるにほふ子ゆゑに陸奥の可刀利娘子の結ひし紐解く [仮名],つくしなる,にほふこゆゑに,みちのくの,かとりをとめの,ゆひしひもとく
3428
[原文]安太多良乃 祢尓布須思之能 安里都々毛 安礼波伊多良牟 祢度奈佐利曽祢 [訓読]安達太良の嶺に伏す鹿猪のありつつも我れは至らむ寝処な去りそね [仮名],あだたらの,ねにふすししの,ありつつも,あれはいたらむ,ねどなさりそね
譬喩歌3429
[原文]等保都安布美 伊奈佐保曽江乃 水乎都久思 安礼乎多能米弖 安佐麻之物能乎 [訓読]遠江引佐細江のみをつくし我れを頼めてあさましものを [仮名],とほつあふみ,いなさほそえの,みをつくし,あれをたのめて,あさましものを
3430
[原文]斯太能宇良乎 阿佐許求布祢波 与志奈之尓 許求良米可母与 <余>志許佐流良米 [訓読]志太の浦を朝漕ぐ船はよしなしに漕ぐらめかもよよしこさるらめ [仮名],しだのうらを,あさこぐふねは,よしなしに,こぐらめかもよ,よしこさるらめ
3431
[原文]阿之我里乃 安伎奈乃夜麻尓 比古布祢乃 斯利比可志母與 許己波故賀多尓 [訓読]足柄の安伎奈の山に引こ船の後引かしもよここばこがたに [仮名],あしがりの,あきなのやまに,ひこふねの,しりひかしもよ,ここばこがたに
3432
[原文]阿之賀利乃 和乎可鶏夜麻能 可頭乃木能 和乎可豆佐祢母 可豆佐可受等母 [訓読]足柄のわを可鶏山のかづの木の我をかづさねも門さかずとも [仮名],あしがりの,わをかけやまの,かづのきの,わをかづさねも,かづさかずとも
3433
[原文]多伎木許流 可麻久良夜麻能 許太流木乎 麻都等奈我伊波婆 古非都追夜安良牟 [訓読]薪伐る鎌倉山の木垂る木を松と汝が言はば恋ひつつやあらむ [仮名],たきぎこる,かまくらやまの,こだるきを,まつとながいはば,こひつつやあらむ
3434
[原文]可美都家野 安蘇夜麻都豆良 野乎比呂美 波比尓思物能乎 安是加多延世武 [訓読]上つ毛野阿蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ [仮名],かみつけの,あそやまつづら,のをひろみ,はひにしものを,あぜかたえせむ
3435
[原文]伊可保呂乃 蘇比乃波里波良 和我吉奴尓 都伎与良之母与 比多敝登於毛敝婆 [訓読]伊香保ろの沿ひの榛原我が衣に着きよらしもよひたへと思へば [仮名],いかほろの,そひのはりはら,わがきぬに,つきよらしもよ,ひたへとおもへば
3436
[原文]志良登保布 乎尓比多夜麻乃 毛流夜麻乃 宇良賀礼勢奈<那> 登許波尓毛我母 [訓読]しらとほふ小新田山の守る山のうら枯れせなな常葉にもがも [仮名],しらとほふ,をにひたやまの,もるやまの,うらがれせなな,とこはにもがも
3437
[原文]美知乃久能 安太多良末由美 波自伎於伎弖 西良思馬伎那婆 都良波可馬可毛 [訓読]陸奥の安達太良真弓はじき置きて反らしめきなば弦はかめかも [仮名],みちのくの,あだたらまゆみ,はじきおきて,せらしめきなば,つらはかめかも
雜歌3438
[原文]都武賀野尓 須受我於等伎許由 可牟思太能 等能乃奈可知師 登我里須良思母 [訓読]都武賀野に鈴が音聞こゆ可牟思太の殿のなかちし鳥猟すらしも [仮名],つむがのに,すずがおときこゆ,かむしだの,とののなかちし,とがりすらしも
3438S
[原文]美都我野尓 和久胡思 [訓読]美都我野に 若子し [仮名],みつがのに ,わくごし,
3439
[原文]須受我祢乃 波由馬宇馬夜能 都追美井乃 美都乎多麻倍奈 伊毛我多太手欲 [訓読]鈴が音の早馬駅家の堤井の水を給へな妹が直手よ [仮名],すずがねの,はゆまうまやの,つつみゐの,みづをたまへな,いもがただてよ
3440
[原文]許乃河泊尓 安佐菜安良布兒 奈礼毛安礼毛 余知乎曽母弖流 伊R兒多婆里尓 [一云 麻之毛安礼母] [訓読]この川に朝菜洗ふ子汝れも我れもよちをぞ持てるいで子給りに [一云 ましも我れも]
3441
[原文]麻等保久能 久毛為尓見由流 伊毛我敝尓 伊都可伊多良武 安由賣安我古麻 [訓読]ま遠くの雲居に見ゆる妹が家にいつか至らむ歩め我が駒 [仮名],まとほくの,くもゐにみゆる,いもがへに,いつかいたらむ,あゆめあがこま
3441S
[原文]等保久之弖 安由賣久路古<麻> [訓読]遠くして 歩め黒駒 [仮名],とほくして ,あゆめくろこま
3442
[原文]安豆麻治乃 手兒乃欲妣左賀 古要我祢弖 夜麻尓可祢牟毛 夜杼里波奈之尓 [訓読]東道の手児の呼坂越えがねて山にか寝むも宿りはなしに [仮名],あづまぢの,てごのよびさか,こえがねて,やまにかねむも,やどりはなしに
3443
[原文]宇良毛奈久 和我由久美知尓 安乎夜宜乃 波里弖多弖礼波 物能毛比弖都母 [訓読]うらもなく我が行く道に青柳の張りて立てれば物思ひ出つも [仮名],うらもなく,わがゆくみちに,あをやぎの,はりてたてれば,ものもひでつも
3444
[原文]伎波都久乃 乎加能久君美良 和礼都賣杼 故尓毛<美>多奈布 西奈等都麻佐祢 [訓読]伎波都久の岡のくくみら我れ摘めど籠にも満たなふ背なと摘まさね [仮名],きはつくの,をかのくくみら,われつめど,こにもみたなふ,せなとつまさね
3445
[原文]美奈刀<能> 安之我奈可那流 多麻古須氣 可利己和我西古 等許乃敝太思尓 [訓読]港の葦が中なる玉小菅刈り来我が背子床の隔しに [仮名],みなとの,あしがなかなる,たまこすげ,かりこわがせこ,とこのへだしに
3446
[原文]伊毛奈呂我 都可布河泊豆乃 佐<左良乎疑> 安志等比<登>其等 加多理与良斯毛 [訓読]妹なろが使ふ川津のささら荻葦と人言語りよらしも [仮名],いもなろが,つかふかはづの,ささらをぎ,あしとひとごと,かたりよらしも
3447
[原文]久佐可氣乃 安努奈由可武等 波里之美知 阿努波由加受弖 阿良久佐太知奴 [訓読]草蔭の安努な行かむと墾りし道安努は行かずて荒草立ちぬ [仮名],くさかげの,あのなゆかむと,はりしみち,あのはゆかずて,あらくさだちぬ
3448
[原文]波奈治良布 己能牟可都乎乃 乎那能乎能 比自尓都久麻提 伎美我与母賀母 [訓読]花散らふこの向つ峰の乎那の峰のひじにつくまで君が代もがも [仮名],はなぢらふ,このむかつをの,をなのをの,ひじにつくまで,きみがよもがも
3449
[原文]思路多倍乃 許呂母能素R乎 麻久良我欲 安麻許伎久見由 奈美多都奈由米 [訓読]白栲の衣の袖を麻久良我よ海人漕ぎ来見ゆ波立つなゆめ [仮名],しろたへの,ころものそでを,まくらがよ,あまこぎくみゆ,なみたつなゆめ
3450
[原文]乎久佐乎等 乎具佐受家乎等 斯抱布祢乃 那良敝弖美礼婆 乎具佐可<知>馬利 [訓読]乎久佐男と乎具佐受家男と潮舟の並べて見れば乎具佐勝ちめり [仮名],をくさをと,をぐさずけをと,しほぶねの,ならべてみれば,をぐさかちめり
3451
[原文]左奈都良能 乎可尓安波麻伎 可奈之伎我 <古>麻波多具等毛 和波素登毛波自 [訓読]左奈都良の岡に粟蒔き愛しきが駒は食ぐとも我はそとも追じ [仮名],さなつらの,をかにあはまき,かなしきが,こまはたぐとも,わはそともはじ
3452
[原文]於毛思路伎 野乎婆奈夜吉曽 布流久左尓 仁比久佐麻自利 於非波於布流我尓 [訓読]おもしろき野をばな焼きそ古草に新草交り生ひは生ふるがに [仮名],おもしろき,のをばなやきそ,ふるくさに,にひくさまじり,おひはおふるがに
3453
[原文]可是<能>等能 登抱吉和伎母賀 吉西斯伎奴 多母登乃久太利 麻欲比伎尓家利 [訓読]風の音の遠き我妹が着せし衣手本のくだりまよひ来にけり [仮名],かぜのとの,とほきわぎもが,きせしきぬ,たもとのくだり,まよひきにけり
3454
[原文]尓波尓多都 安佐提古夫須麻 許余比太尓 都麻余之許西祢 安佐提古夫須麻 [訓読]庭に立つ麻手小衾今夜だに夫寄しこせね麻手小衾 [仮名],にはにたつ,あさでこぶすま,こよひだに,つまよしこせね,あさでこぶすま
相聞3455
[原文]古非思家婆 伎麻世和我勢古 可伎都楊疑 宇礼都美可良思 和礼多知麻多牟 [訓読]恋しけば来ませ我が背子垣つ柳末摘み枯らし我れ立ち待たむ [仮名],こひしけば,きませわがせこ,かきつやぎ,うれつみからし,われたちまたむ
3456
[原文]宇都世美能 夜蘇許登乃敝波 思氣久等母 安良蘇比可祢弖 安乎許登奈須那 [訓読]うつせみの八十言のへは繁くとも争ひかねて我を言なすな [仮名],うつせみの,やそことのへは,しげくとも,あらそひかねて,あをことなすな
3457
[原文]宇知日佐須 美夜能和我世波 夜麻<登>女乃 比射麻久其登尓 安乎和須良須奈 [訓読]うちひさす宮の我が背は大和女の膝まくごとに我を忘らすな [仮名],うちひさす,みやのわがせは,やまとめの,ひざまくごとに,あをわすらすな
3458
[原文]奈勢能古夜 等里乃乎加恥志 奈可太乎礼 安乎祢思奈久与 伊久豆君麻弖尓 [訓読]汝背の子や等里の岡道しなかだ折れ我を音し泣くよ息づくまでに [仮名],なせのこや,とりのをかちし,なかだをれ,あをねしなくよ,いくづくまでに
3459
[原文]伊祢都氣波 可加流安我<手>乎 許余比毛可 等能乃和久胡我 等里弖奈氣可武 [訓読]稲つけばかかる我が手を今夜もか殿の若子が取りて嘆かむ [仮名],いねつけば,かかるあがてを,こよひもか,とののわくごが,とりてなげかむ
3460
[原文]多礼曽許能 屋能戸於曽夫流 尓布奈未尓 和<我>世乎夜里弖 伊波布許能戸乎 [訓読]誰れぞこの屋の戸押そぶる新嘗に我が背を遣りて斎ふこの戸を [仮名],たれぞこの,やのとおそぶる,にふなみに,わがせをやりて,いはふこのとを
3461
[原文]安是登伊敝可 佐宿尓安波奈久尓 真日久礼弖 与比奈波許奈尓 安家奴思太久流 [訓読]あぜと言へかさ寝に逢はなくにま日暮れて宵なは来なに明けぬしだ来る [仮名],あぜといへか,さねにあはなくに,まひくれて,よひなはこなに,あけぬしだくる
3462
[原文]安志比奇乃 夜末佐波妣登乃 比登佐波尓 麻奈登伊布兒我 安夜尓可奈思佐 [訓読]あしひきの山沢人の人さはにまなと言ふ子があやに愛しさ [仮名],あしひきの,やまさはびとの,ひとさはに,まなといふこが,あやにかなしさ
3463
[原文]麻等保久能 野尓毛安波奈牟 己許呂奈久 佐刀乃美奈可尓 安敝流世奈可母 [訓読]ま遠くの野にも逢はなむ心なく里のみ中に逢へる背なかも [仮名],まとほくの,のにもあはなむ,こころなく,さとのみなかに,あへるせなかも
3464
[原文]比登其登乃 之氣吉尓余里弖 麻乎其母能 於夜自麻久良波 和波麻可自夜毛 [訓読]人言の繁きによりてまを薦の同じ枕は我はまかじやも [仮名],ひとごとの,しげきによりて,まをごもの,おやじまくらは,わはまかじやも
3465
[原文]巨麻尓思吉 比毛登伎佐氣弖 奴流我倍尓 安杼世呂登可母 安夜尓可奈之伎 [訓読]高麗錦紐解き放けて寝るが上にあどせろとかもあやに愛しき [仮名],こまにしき,ひもときさけて,ぬるがへに,あどせろとかも,あやにかなしき
3466
[原文]麻可奈思美 奴礼婆許登尓豆 佐祢奈敝波 己許呂乃緒呂尓 能里弖可奈思母 [訓読]ま愛しみ寝れば言に出さ寝なへば心の緒ろに乗りて愛しも [仮名],まかなしみ,ぬればことにづ,さねなへば,こころのをろに,のりてかなしも
3467
[原文]於久夜麻能 真木乃伊多度乎 等杼登之弖 和<我>比良可武尓 伊利伎弖奈左祢 [訓読]奥山の真木の板戸をとどとして我が開かむに入り来て寝さね [仮名],おくやまの,まきのいたとを,とどとして,わがひらかむに,いりきてなさね
3468
[原文]夜麻杼里乃 乎呂能<波>都乎尓 可賀美可家 刀奈布倍美許曽 奈尓与曽利鶏米 [訓読]山鳥の峰ろのはつをに鏡懸け唱ふべみこそ汝に寄そりけめ [仮名],やまとりの,をろのはつをに,かがみかけ,となふべみこそ,なによそりけめ
3469
[原文]由布氣尓毛 許余比登乃良路 和賀西奈波 阿是曽母許与比 与斯呂伎麻左奴 [訓読]夕占にも今夜と告らろ我が背なはあぜぞも今夜寄しろ来まさぬ [仮名],ゆふけにも,こよひとのらろ,わがせなは,あぜぞもこよひ,よしろきまさぬ
3470
[原文]安比見弖波 千等世夜伊奴流 伊奈乎加<母> 安礼也思加毛布 伎美末知我弖尓 [柿本朝臣人麻呂歌集出也] [訓読]相見ては千年やいぬるいなをかも我れやしか思ふ君待ちがてに [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
3471
[原文]思麻良久波 祢都追母安良牟乎 伊米能未尓 母登奈見要都追 安乎祢思奈久流 [訓読]しまらくは寝つつもあらむを夢のみにもとな見えつつ我を音し泣くる [仮名],しまらくは,ねつつもあらむを,いめのみに,もとなみえつつ,あをねしなくる
3472
[原文]比登豆麻等 安是可曽乎伊波牟 志可良<婆>加 刀奈里乃伎奴乎 可里弖伎奈波毛 [訓読]人妻とあぜかそを言はむしからばか隣の衣を借りて着なはも [仮名],ひとづまと,あぜかそをいはむ,しからばか,となりのきぬを,かりてきなはも
3473
[原文]左努夜麻尓 宇都也乎能登乃 等抱可騰母 祢毛等可兒呂賀 於<母>尓美要都留 [訓読]左努山に打つや斧音の遠かども寝もとか子ろが面に見えつる [仮名],さのやまに,うつやをのとの,とほかども,ねもとかころが,おもにみえつる
3474
[原文]宇恵太氣能 毛登左倍登与美 伊R弖伊奈婆 伊豆思牟伎弖可 伊毛我奈氣可牟 [訓読]植ゑ竹の本さへ響み出でて去なばいづし向きてか妹が嘆かむ [仮名],うゑだけの,もとさへとよみ,いでていなば,いづしむきてか,いもがなげかむ
3475
[原文]古非都追母 乎良牟等須礼杼 遊布麻夜万 可久礼之伎美乎 於母比可祢都母 [訓読]恋ひつつも居らむとすれど遊布麻山隠れし君を思ひかねつも [仮名],こひつつも,をらむとすれど,ゆふまやま,かくれしきみを,おもひかねつも
3476
[原文]宇倍兒奈波 和奴尓故布奈毛 多刀都久能 努賀奈敝由家婆 故布思可流奈母 [訓読]うべ子なは我ぬに恋ふなも立と月のぬがなへ行けば恋しかるなも [仮名],うべこなは,わぬにこふなも,たとつくの,ぬがなへゆけば,こふしかるなも
3476S
[原文]奴我奈敝由家杼 和<奴><由賀>乃敝波 [訓読]ぬがなへ行けど我ぬ行がのへば [仮名],ぬがなへゆけど,わぬゆがのへば
3477
[原文]安都麻道乃 手兒乃欲婢佐可 古要弖伊奈婆 安礼波古非牟奈 能知波安比奴登母 [訓読]東路の手児の呼坂越えて去なば我れは恋ひむな後は逢ひぬとも [仮名],あづまぢの,てごのよびさか,こえていなば,あれはこひむな,のちはあひぬとも
3478
[原文]等保斯等布 故奈乃思良祢尓 阿抱思太毛 安波乃敝思太毛 奈尓己曽与佐礼 [訓読]遠しとふ故奈の白嶺に逢ほしだも逢はのへしだも汝にこそ寄され [仮名],とほしとふ,こなのしらねに,あほしだも,あはのへしだも,なにこそよされ
3479
[原文]安可見夜麻 久左祢可利曽氣 安波須賀倍 安良蘇布伊毛之 安夜尓可奈之毛 [訓読]安可見山草根刈り除け逢はすがへ争ふ妹しあやに愛しも [仮名],あかみやま,くさねかりそけ,あはすがへ,あらそふいもし,あやにかなしも
3480
[原文]於保伎美乃 美己等可思古美 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 欲太知伎努可母 [訓読]大君の命畏み愛し妹が手枕離れ夜立ち来のかも [仮名],おほきみの,みことかしこみ,かなしいもが,たまくらはなれ,よだちきのかも
3481
[原文]安利伎奴乃 佐恵々々之豆美 伊敝能伊母尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比具流之母 [訓読]あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ苦しも [仮名],ありきぬの,さゑさゑしづみ,いへのいもに,ものいはずきにて,おもひぐるしも
3482
[原文]可良許呂毛 須蘇乃宇知可倍 安波祢杼毛 家思吉己許呂乎 安我毛波奈久尓 [訓読]韓衣裾のうち交へ逢はねども異しき心を我が思はなくに [仮名],からころも,すそのうちかへ,あはねども,けしきこころを,あがもはなくに
3482S
[原文]可良己呂母 須素能宇知可比 阿波奈敝婆 祢奈敝乃可良尓 許等多可利都母 [訓読]韓衣裾のうち交ひ逢はなへば寝なへのからに言痛かりつも [仮名]からころも,すそのうちかひ,あはなへば,ねなへのからに,ことたかりつも
3483
[原文]比流等家波 等<家>奈敝比毛乃 和賀西奈尓 阿比与流等可毛 欲流等家也須家 [訓読]昼解けば解けなへ紐の我が背なに相寄るとかも夜解けやすけ [仮名],ひるとけば,とけなへひもの,わがせなに,あひよるとかも,よるとけやすけ
3484
[原文]安左乎良乎 遠家尓布須左尓 宇麻受登毛 安須伎西佐米也 伊射西乎騰許尓 [訓読]麻苧らを麻笥にふすさに績まずとも明日着せさめやいざせ小床に [仮名],あさをらを,をけにふすさに,うまずとも,あすきせさめや,いざせをどこに
3485
[原文]都流伎多知 身尓素布伊母乎 等里見我祢 哭乎曽奈伎都流 手兒尓安良奈久尓 [訓読]剣大刀身に添ふ妹を取り見がね音をぞ泣きつる手児にあらなくに [仮名],つるぎたち,みにそふいもを,とりみがね,ねをぞなきつる,てごにあらなくに
3486
[原文]可奈思伊毛乎 由豆加奈倍麻伎 母許呂乎乃 許登等思伊波婆 伊夜可多麻斯尓 [訓読]愛し妹を弓束並べ巻きもころ男のこととし言はばいや勝たましに [仮名],かなしいもを,ゆづかなべまき,もころをの,こととしいはば,いやかたましに
3487
[原文]安豆左由美 須恵尓多麻末吉 可久須酒曽 宿莫奈那里尓思 於久乎可奴加奴 [訓読]梓弓末に玉巻きかくすすぞ寝なななりにし奥をかぬかぬ [仮名],あづさゆみ,すゑにたままき,かくすすぞ,ねなななりにし,おくをかぬかぬ
3488
[原文]於布之毛等 許乃母登夜麻乃 麻之波尓毛 能良奴伊毛我名 可多尓伊弖牟可母 [訓読]生ふしもとこの本山のましばにも告らぬ妹が名かたに出でむかも [仮名],おふしもと,このもとやまの,ましばにも,のらぬいもがな,かたにいでむかも
3489
[原文]安豆左由美 欲良能夜麻邊能 之牙可久尓 伊毛呂乎多弖天 左祢度波良布母 [訓読]梓弓欲良の山辺の茂かくに妹ろを立ててさ寝処払ふも [仮名],あづさゆみ,よらのやまへの,しげかくに,いもろをたてて,さねどはらふも
3490
[原文]安都左由美 須恵波余里祢牟 麻左可許曽 比等目乎於保美 奈乎波思尓於家礼 [柿本朝臣人麻呂歌集出也] [訓読]梓弓末は寄り寝むまさかこそ人目を多み汝をはしに置けれ [柿本朝臣人麻呂歌集出也]
3491
[原文]楊奈疑許曽 伎礼波伴要須礼 余能比等乃 古非尓思奈武乎 伊可尓世余等曽 [訓読]柳こそ伐れば生えすれ世の人の恋に死なむをいかにせよとぞ [仮名],やなぎこそ,きればはえすれ,よのひとの,こひにしなむを,いかにせよとぞ
3492
[原文]乎夜麻田乃 伊氣能都追美尓 左須楊奈疑 奈里毛奈良受毛 奈等布多里波母 [訓読]小山田の池の堤にさす柳成りも成らずも汝と二人はも [仮名],をやまだの,いけのつつみに,さすやなぎ,なりもならずも,なとふたりはも
3493
[原文]於曽波夜母 奈乎許曽麻多賣 牟可都乎能 四比乃故夜提能 安比波多<我>波自 [訓読]遅速も汝をこそ待ため向つ峰の椎の小やで枝の逢ひは違はじ [仮名],おそはやも,なをこそまため,むかつをの,しひのこやでの,あひはたがはじ
3493S
[原文]於曽波夜毛 伎美乎思麻多武 牟可都乎能 思比乃佐要太能 登吉波須具登母 [訓読]遅速も君をし待たむ向つ峰の椎のさ枝の時は過ぐとも [仮名],おそはやも,きみをしまたむ,むかつをの,しひのさえだの,ときはすぐとも
3494
[原文]兒毛知夜麻 和可加敝流弖能 毛美都麻弖 宿毛等和波毛布 汝波安杼可毛布 [訓読]子持山若かへるでのもみつまで寝もと我は思ふ汝はあどか思ふ [仮名],こもちやま,わかかへるでの,もみつまで,ねもとわはもふ,なはあどかもふ
3495
[原文]伊波保呂乃 蘇比能和可麻都 可藝里登也 伎美我伎麻左奴 宇良毛等奈久文 [訓読]巌ろの沿ひの若松限りとや君が来まさぬうらもとなくも [仮名],いはほろの,そひのわかまつ,かぎりとや,きみがきまさぬ,うらもとなくも
3496
[原文]多知婆奈乃 古婆乃波奈里我 於毛布奈牟 己許呂宇都久思 伊弖安礼波伊可奈 [訓読]橘の古婆の放髪が思ふなむ心うつくしいで我れは行かな [仮名],たちばなの,こばのはなりが,おもふなむ,こころうつくし,いであれはいかな
3497
[原文]可波加美能 祢自路多可我夜 安也尓阿夜尓 左宿佐寐弖許曽 己登尓弖尓思可 [訓読]川上の根白高萱あやにあやにさ寝さ寝てこそ言に出にしか [仮名],かはかみの,ねじろたかがや,あやにあやに,さねさねてこそ,ことにでにしか
3498
[原文]宇奈波良乃 根夜波良古須氣 安麻多安礼婆 伎美波和須良酒 和礼和須流礼夜 [訓読]海原の根柔ら小菅あまたあれば君は忘らす我れ忘るれや [仮名],うなはらの,ねやはらこすげ,あまたあれば,きみはわすらす,われわするれや
3499
[原文]乎可尓与西 和我可流加夜能 佐祢加夜能 麻許等奈其夜波 祢呂等敝奈香母 [訓読]岡に寄せ我が刈る萱のさね萱のまことなごやは寝ろとへなかも [仮名],をかによせ,わがかるかやの,さねかやの,まことなごやは,ねろとへなかも
3500
[原文]牟良佐伎波 根乎可母乎布流 比等乃兒能 宇良我奈之家乎 祢乎遠敝奈久尓 [訓読]紫草は根をかも終ふる人の子のうら愛しけを寝を終へなくに [仮名],むらさきは,ねをかもをふる,ひとのこの,うらがなしけを,ねををへなくに
3501
[原文]安波乎呂能 乎呂田尓於波流 多波美豆良 比可婆奴流奴留 安乎許等奈多延 [訓読]安波峰ろの峰ろ田に生はるたはみづら引かばぬるぬる我を言な絶え [仮名],あはをろの,をろたにおはる,たはみづら,ひかばぬるぬる,あをことなたえ
3502
[原文]和我目豆麻 比等波左久礼杼 安佐我保能 等思佐倍己其登 和波佐可流我倍 [訓読]我が目妻人は放くれど朝顔のとしさへこごと我は離るがへ [仮名],わがめづま,ひとはさくれど,あさがほの,としさへこごと,わはさかるがへ
3503
[原文]安齊可我多 志保悲乃由多尓 於毛敝良婆 宇家良我波奈乃 伊呂尓弖米也母 [訓読]安齊可潟潮干のゆたに思へらばうけらが花の色に出めやも [仮名],あせかがた,しほひのゆたに,おもへらば,うけらがはなの,いろにでめやも
3504
[原文]波流敝左久 布治能宇良葉乃 宇良夜須尓 左奴流夜曽奈伎 兒呂乎之毛倍婆 [訓読]春へ咲く藤の末葉のうら安にさ寝る夜ぞなき子ろをし思へば [仮名],はるへさく,ふぢのうらばの,うらやすに,さぬるよぞなき,ころをしもへば
3505
[原文]宇知比佐都 美夜能瀬河泊能 可保婆奈能 孤悲天香眠良武 <伎>曽母許余比毛 [訓読]うちひさつ宮能瀬川のかほ花の恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も [仮名],うちひさつ,みやのせがはの,かほばなの,こひてかぬらむ,きぞもこよひも
3506
[原文]尓比牟路能 許騰伎尓伊多礼婆 波太須酒伎 穂尓弖之伎美我 見延奴己能許呂 [訓読]新室のこどきに至ればはだすすき穂に出し君が見えぬこのころ [仮名],にひむろの,こどきにいたれば,はだすすき,ほにでしきみが,みえぬこのころ
3507
[原文]多尓世婆美 弥<年>尓波比多流 多麻可豆良 多延武能己許呂 和我母波奈久尓 [訓読]谷狭み峰に延ひたる玉葛絶えむの心我が思はなくに [仮名],たにせばみ,みねにはひたる,たまかづら,たえむのこころ,わがもはなくに
3508
[原文]芝付乃 御宇良佐伎奈流 根都古具佐 安比見受安良婆 安礼古非米夜母 [訓読]芝付の御宇良崎なるねつこ草相見ずあらば我れ恋ひめやも [仮名],しばつきの,みうらさきなる,ねつこぐさ,あひみずあらば,あれこひめやも
3509
[原文]多久夫須麻 之良夜麻可是能 宿奈敝杼母 古呂賀於曽伎能 安路許曽要志母 [訓読]栲衾白山風の寝なへども子ろがおそきのあろこそえしも [仮名],たくぶすま,しらやまかぜの,ねなへども,ころがおそきの,あろこそえしも
3510
[原文]美蘇良由久 <君>母尓毛我母奈 家布由伎弖 伊母尓許等<杼>比 安須可敝里許武 [訓読]み空行く雲にもがもな今日行きて妹に言どひ明日帰り来む [仮名],みそらゆく,くもにもがもな,けふゆきて,いもにことどひ,あすかへりこむ
3511
[原文]安乎祢呂尓 多奈婢久君母能 伊佐欲比尓 物能乎曽於毛布 等思乃許能己呂 [訓読]青嶺ろにたなびく雲のいさよひに物をぞ思ふ年のこのころ [仮名],あをねろに,たなびくくもの,いさよひに,ものをぞおもふ,としのこのころ
3512
[原文]比登祢呂尓 伊波流毛能可良 安乎祢呂尓 伊佐欲布久母能 余曽里都麻波母 [訓読]一嶺ろに言はるものから青嶺ろにいさよふ雲の寄そり妻はも [仮名],ひとねろに,いはるものから,あをねろに,いさよふくもの,よそりづまはも
3513
[原文]由布佐礼婆 美夜麻乎左良奴 尓努具母能 安是可多要牟等 伊比之兒呂<波>母 [訓読]夕さればみ山を去らぬ布雲のあぜか絶えむと言ひし子ろはも [仮名],ゆふされば,みやまをさらぬ,にのぐもの,あぜかたえむと,いひしころはも
3514
[原文]多可伎祢尓 久毛能都久能須 和礼左倍尓 伎美尓都吉奈那 多可祢等毛比弖 [訓読]高き嶺に雲のつくのす我れさへに君につきなな高嶺と思ひて [仮名],たかきねに,くものつくのす,われさへに,きみにつきなな,たかねともひて
3515
[原文]阿我於毛乃 和須礼牟之太波 久尓波布利 祢尓多都久毛乎 見都追之努波西 [訓読]我が面の忘れむしだは国はふり嶺に立つ雲を見つつ偲はせ [仮名],あがおもの,わすれむしだは,くにはふり,ねにたつくもを,みつつしのはせ
3516
[原文]對馬能祢波 之多具毛安良南敷 可牟能祢尓 多奈婢久君毛乎 見都追思努<波>毛 [訓読]対馬の嶺は下雲あらなふ可牟の嶺にたなびく雲を見つつ偲はも [仮名],つしまのねは,したぐもあらなふ,かむのねに,たなびくくもを,みつつしのはも
3517
[原文]思良久毛能 多要尓之伊毛乎 阿是西呂等 許己呂尓能里弖 許己婆可那之家 [訓読]白雲の絶えにし妹をあぜせろと心に乗りてここば愛しけ [仮名],しらくもの,たえにしいもを,あぜせろと,こころにのりて,ここばかなしけ
3518
[原文]伊波能倍尓 伊可賀流久毛能 可努麻豆久 比等曽於多波布 伊射祢之賣刀良 [訓読]岩の上にいかかる雲のかのまづく人ぞおたはふいざ寝しめとら [仮名],いはのへに,いかかるくもの,かのまづく,ひとぞおたはふ,いざねしめとら
3519
[原文]奈我波伴尓 己良例安波由久 安乎久毛能 伊弖来和伎母兒 安必見而由可武 [訓読]汝が母に嘖られ我は行く青雲の出で来我妹子相見て行かむ [仮名],ながははに,こられあはゆく,あをくもの,いでこわぎもこ,あひみてゆかむ
3520
[原文]於毛可多能 和須礼牟之太波 於抱野呂尓 多奈婢久君母乎 見都追思努波牟 [訓読]面形の忘れむしだは大野ろにたなびく雲を見つつ偲はむ [仮名],おもかたの,わすれむしだは,おほのろに,たなびくくもを,みつつしのはむ
3521
[原文]可良須等布 於保乎曽杼里能 麻左R尓毛 伎麻左奴伎美乎 許呂久等曽奈久 [訓読]烏とふ大をそ鳥のまさでにも来まさぬ君をころくとぞ鳴く [仮名],からすとふ,おほをそとりの,まさでにも,きまさぬきみを,ころくとぞなく
3522
[原文]伎曽許曽波 兒呂等左宿之香 久毛能宇倍由 奈伎由久多豆乃 麻登保久於毛保由 [訓読]昨夜こそば子ろとさ寝しか雲の上ゆ鳴き行く鶴の間遠く思ほゆ [仮名],きぞこそば,ころとさねしか,くものうへゆ,なきゆくたづの,まとほくおもほゆ
3523
[原文]佐可故要弖 阿倍乃田能毛尓 為流多豆乃 等毛思吉伎美波 安須左倍母我毛 [訓読]坂越えて安倍の田の面に居る鶴のともしき君は明日さへもがも [仮名],さかこえて,あへのたのもに,ゐるたづの,ともしききみは,あすさへもがも
3524
[原文]麻乎其母能 布能<末>知可久弖 安波奈敝波 於吉都麻可母能 奈氣伎曽安我須流 [訓読]まを薦の節の間近くて逢はなへば沖つま鴨の嘆きぞ我がする [仮名],まをごもの,ふのまちかくて,あはなへば,おきつまかもの,なげきぞあがする
3525
[原文]水久君野尓 可母能波抱能須 兒呂我宇倍尓 許等乎呂波敝而 伊麻太宿奈布母 [訓読]水久君野に鴨の這ほのす子ろが上に言緒ろ延へていまだ寝なふも [仮名],みくくのに,かものはほのす,ころがうへに,ことをろはへて,いまだねなふも
3526
[原文]奴麻布多都 可欲波等里我栖 安我己許呂 布多由久奈母等 奈与母波里曽祢 [訓読]沼二つ通は鳥が巣我が心二行くなもとなよ思はりそね [仮名],ぬまふたつ,かよはとりがす,あがこころ,ふたゆくなもと,なよもはりそね
3527
[原文]於吉尓須毛 乎加母乃毛己呂 也左可杼利 伊伎豆久伊毛乎 於伎弖伎努可母 [訓読]沖に住も小鴨のもころ八尺鳥息づく妹を置きて来のかも [仮名],おきにすも,をかものもころ,やさかどり,いきづくいもを,おきてきのかも
3528
[原文]水都等利乃 多々武与曽比尓 伊母能良尓 毛乃伊波受伎尓弖 於毛比可祢都母 [訓読]水鳥の立たむ装ひに妹のらに物言はず来にて思ひかねつも [仮名],みづとりの,たたむよそひに,いものらに,ものいはずきにて,おもひかねつも
3529
[原文]等夜乃野尓 乎佐藝祢良波里 乎佐乎左毛 祢奈敝古由恵尓 波伴尓許呂波要 [訓読]等夜の野に兎ねらはりをさをさも寝なへ子ゆゑに母に嘖はえ [仮名],とやののに,をさぎねらはり,をさをさも,ねなへこゆゑに,ははにころはえ
3530
[原文]左乎思鹿能 布須也久草無良 見要受等母 兒呂我可奈門欲 由可久之要思母 [訓読]さを鹿の伏すや草むら見えずとも子ろが金門よ行かくしえしも [仮名],さをしかの,ふすやくさむら,みえずとも,ころがかなとよ,ゆかくしえしも
3531
[原文]伊母乎許曽 安比美尓許思可 麻欲婢吉能 与許夜麻敝呂能 思之奈須於母敝流 [訓読]妹をこそ相見に来しか眉引きの横山辺ろの獣なす思へる [仮名],いもをこそ,あひみにこしか,まよびきの,よこやまへろの,ししなすおもへる
3532
[原文]波流能野尓 久佐波牟古麻能 久知夜麻受 安乎思努布良武 伊敝乃兒呂波母 [訓読]春の野に草食む駒の口やまず我を偲ふらむ家の子ろはも [仮名],はるののに,くさはむこまの,くちやまず,あをしのふらむ,いへのころはも
3533
[原文]比登乃兒乃 可奈思家之太波 々麻渚杼里 安奈由牟古麻能 乎之家口母奈思 [訓読]人の子の愛しけしだは浜洲鳥足悩む駒の惜しけくもなし [仮名],ひとのこの,かなしけしだは,はますどり,あなゆむこまの,をしけくもなし
3534
[原文]安可胡麻我 可度弖乎思都々 伊弖可天尓 世之乎見多弖思 伊敝能兒良波母 [訓読]赤駒が門出をしつつ出でかてにせしを見立てし家の子らはも [仮名],あかごまが,かどでをしつつ,いでかてに,せしをみたてし,いへのこらはも
3535
[原文]於能我乎遠 於保尓奈於毛比曽 尓波尓多知 恵麻須我可良尓 古麻尓安布毛能乎 [訓読]己が命をおほにな思ひそ庭に立ち笑ますがからに駒に逢ふものを [仮名],おのがをを,おほになおもひそ,にはにたち,ゑますがからに,こまにあふものを
3536
[原文]安加胡麻乎 宇知弖左乎妣吉 己許呂妣吉 伊可奈流勢奈可 和我理許武等伊布 [訓読]赤駒を打ちてさ緒引き心引きいかなる背なか我がり来むと言ふ [仮名],あかごまを,うちてさをびき,こころひき,いかなるせなか,わがりこむといふ
3537
[原文]久敝胡之尓 武藝波武古宇馬能 波都々々尓 安比見之兒良之 安夜尓可奈思母 [訓読]くへ越しに麦食む小馬のはつはつに相見し子らしあやに愛しも [仮名],くへごしに,むぎはむこうまの,はつはつに,あひみしこらし,あやにかなしも
3537S
[原文]宇麻勢胡之 牟伎波武古麻能 波都々々尓 仁必波太布礼思 古呂之可奈思母 [訓読]馬柵越し麦食む駒のはつはつに新肌触れし子ろし愛しも [仮名],うませごし,むぎはむこまの,はつはつに,にひはだふれし,ころしかなしも
3538
[原文]比呂波之乎 宇馬古思我祢弖 己許呂能未 伊母我理夜里弖 和波己許尓思天 [訓読]広橋を馬越しがねて心のみ妹がり遣りて我はここにして [仮名],ひろはしを,うまこしがねて,こころのみ,いもがりやりて,わはここにして
3538S
[原文]乎波夜之尓 古麻乎波左佐氣 [訓読]小林に駒を馳ささげ [仮名],をばやしに,こまをはささげ
3539
[原文]安受乃宇敝尓 古馬乎都奈伎弖 安夜抱可等 比等豆麻古呂乎 伊吉尓和我須流 [訓読]あずの上に駒を繋ぎて危ほかど人妻子ろを息に我がする [仮名],あずのうへに,こまをつなぎて,あやほかど,ひとづまころを,いきにわがする
3540
[原文]左和多里能 手兒尓伊由伎安比 安可胡麻我 安我伎乎波夜未 許等登波受伎奴 [訓読]左和多里の手児にい行き逢ひ赤駒が足掻きを速み言問はず来ぬ [仮名],さわたりの,てごにいゆきあひ,あかごまが,あがきをはやみ,こととはずきぬ
3541
[原文]安受倍可良 古麻<能>由胡能須 安也波刀文 比<登>豆麻古呂乎 麻由可西良布母 [訓読]あずへから駒の行ごのす危はとも人妻子ろをまゆかせらふも [仮名],あずへから,こまのゆごのす,あやはとも,ひとづまころを,まゆかせらふも
3542
[原文]<佐>射礼伊思尓 古馬乎波佐世弖 己許呂伊多美 安我毛布伊毛我 伊敝<能>安多里可聞 [訓読]さざれ石に駒を馳させて心痛み我が思ふ妹が家のあたりかも [仮名],さざれいしに,こまをはさせて,こころいたみ,あがもふいもが,いへのあたりかも
3543
[原文]武路我夜乃 都留能都追美乃 那利奴賀尓 古呂波伊敝<杼>母 伊末太<年>那久尓 [訓読]むろがやの都留の堤の成りぬがに子ろは言へどもいまだ寝なくに [仮名],むろがやの,つるのつつみの,なりぬがに,ころはいへども,いまだねなくに
3544
[原文]阿須可河泊 之多尓其礼留乎 之良受思天 勢奈那登布多理 左宿而久也思母 [訓読]あすか川下濁れるを知らずして背ななと二人さ寝て悔しも [仮名],あすかがは,したにごれるを,しらずして,せななとふたり,さねてくやしも
3545
[原文]安須可河泊 世久登之里世波 安麻多欲母 為祢弖己麻思乎 世久得四里世<婆> [訓読]あすか川堰くと知りせばあまた夜も率寝て来ましを堰くと知りせば [仮名],あすかがは,せくとしりせば,あまたよも,ゐねてこましを,せくとしりせば
3546
[原文]安乎楊木能 波良路可波刀尓 奈乎麻都等 西美度波久末受 多知度奈良須母 [訓読]青柳の張らろ川門に汝を待つと清水は汲まず立ち処平すも [仮名],あをやぎの,はらろかはとに,なをまつと,せみどはくまず,たちどならすも
3547
[原文]阿遅乃須牟 須沙能伊利江乃 許母理沼乃 安奈伊伎豆加思 美受比佐尓指天 [訓読]あぢの棲む須沙の入江の隠り沼のあな息づかし見ず久にして [仮名],あぢのすむ,すさのいりえの,こもりぬの,あないきづかし,みずひさにして
3548
[原文]奈流世<呂>尓 木都能余須奈須 伊等能伎提 可奈思家世呂尓 比等佐敝余須母 [訓読]鳴る瀬ろにこつの寄すなすいとのきて愛しけ背ろに人さへ寄すも [仮名],なるせろに,こつのよすなす,いとのきて,かなしけせろに,ひとさへよすも
3549
[原文]多由比我多 志保弥知和多流 伊豆由可母 加奈之伎世呂我 和賀利可欲波牟 [訓読]多由比潟潮満ちわたるいづゆかも愛しき背ろが我がり通はむ [仮名],たゆひがた,しほみちわたる,いづゆかも,かなしきせろが,わがりかよはむ
3550
[原文]於志弖伊奈等 伊祢波都可祢杼 奈美乃保能 伊多夫良思毛与 伎曽比登里宿而 [訓読]おしていなと稲は搗かねど波の穂のいたぶらしもよ昨夜ひとり寝て [仮名],おしていなと,いねはつかねど,なみのほの,いたぶらしもよ,きぞひとりねて
3551
[原文]阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖 [訓読]阿遅可麻の潟にさく波平瀬にも紐解くものか愛しけを置きて [仮名],あぢかまの,かたにさくなみ,ひらせにも,ひもとくものか,かなしけをおきて
3552
[原文]麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須毛 [訓読]まつが浦にさわゑうら立ちま人言思ほすなもろ我が思ほのすも [仮名],まつがうらに,さわゑうらだち,まひとごと,おもほすなもろ,わがもほのすも
3553
[原文]安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母 [訓読]あじかまの可家の港に入る潮のこてたずくもが入りて寝まくも [仮名],あぢかまの,かけのみなとに,いるしほの,こてたずくもが,いりてねまくも
3554
[原文]伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母 [訓読]妹が寝る床のあたりに岩ぐくる水にもがもよ入りて寝まくも [仮名],いもがぬる,とこのあたりに,いはぐくる,みづにもがもよ,いりてねまくも
3555
[原文]麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓 [訓読]麻久良我の許我の渡りの韓楫の音高しもな寝なへ子ゆゑに [仮名],まくらがの,こがのわたりの,からかぢの,おとだかしもな,ねなへこゆゑに
3556
[原文]思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武 [訓読]潮船の置かれば愛しさ寝つれば人言繁し汝をどかもしむ [仮名],しほぶねの,おかればかなし,さねつれば,ひとごとしげし,なをどかもしむ
3557
[原文]奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓 [訓読]悩ましけ人妻かもよ漕ぐ舟の忘れはせなないや思ひ増すに [仮名],なやましけ,ひとづまかもよ,こぐふねの,わすれはせなな,いやもひますに
3558
[原文]安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛 [訓読]逢はずして行かば惜しけむ麻久良我の許我漕ぐ船に君も逢はぬかも [仮名],あはずして,ゆかばをしけむ,まくらがの,こがこぐふねに,きみもあはぬかも
3559
[原文]於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母 [訓読]大船を舳ゆも艫ゆも堅めてし許曽の里人あらはさめかも [仮名],おほぶねを,へゆもともゆも,かためてし,こそのさとびと,あらはさめかも
3560
[原文]麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波 [訓読]ま金ふく丹生のま朱の色に出て言はなくのみぞ我が恋ふらくは [仮名],まかねふく,にふのまそほの,いろにでて,いはなくのみぞ,あがこふらくは
3561
[原文]可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母 [訓読]金門田を荒垣ま斎み日が照れば雨を待とのす君をと待とも [仮名],かなとだを,あらがきまゆみ,ひがとれば,あめをまとのす,きみをとまとも
3562
[原文]安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖 [訓読]荒礒やに生ふる玉藻のうち靡きひとりや寝らむ我を待ちかねて [仮名],ありそやに,おふるたまもの,うちなびき,ひとりやぬらむ,あをまちかねて
3563
[原文]比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母 [訓読]比多潟の礒のわかめの立ち乱え我をか待つなも昨夜も今夜も [仮名],ひたがたの,いそのわかめの,たちみだえ,わをかまつなも,きぞもこよひも
3564
[原文]古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟 [訓読]古須気ろの浦吹く風のあどすすか愛しけ子ろを思ひ過ごさむ [仮名],こすげろの,うらふくかぜの,あどすすか,かなしけころを,おもひすごさむ
3565
[原文]可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母 [訓読]かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月片寄るも [仮名],かのころと,ねずやなりなむ,はだすすき,うらののやまに,つくかたよるも
3566
[原文]和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖 [訓読]我妹子に我が恋ひ死なばそわへかも神に負ほせむ心知らずて [仮名],わぎもこに,あがこひしなば,そわへかも,かみにおほせむ,こころしらずて
防人歌3567
[原文]於伎弖伊可婆 伊毛婆麻可奈之 母知弖由久 安都佐能由美乃 由都可尓母我毛 [訓読]置きて行かば妹はま愛し持ちて行く梓の弓の弓束にもがも [仮名],おきていかば,いもはまかなし,もちてゆく,あづさのゆみの,ゆづかにもがも
3568
[原文]於久礼為弖 古非波久流思母 安佐我里能 伎美我由美尓母 奈良麻思物能乎 [訓読]後れ居て恋ひば苦しも朝猟の君が弓にもならましものを [仮名],おくれゐて,こひばくるしも,あさがりの,きみがゆみにも,ならましものを
3569
[原文]佐伎母理尓 多知之安佐氣乃 可奈刀R尓 手婆奈礼乎思美 奈吉思兒良<波>母 [訓読]防人に立ちし朝開の金戸出にたばなれ惜しみ泣きし子らはも [仮名],さきもりに,たちしあさけの,かなとでに,たばなれをしみ,なきしこらはも
3570
[原文]安之能葉尓 由布宜里多知弖 可母我鳴乃 左牟伎由布敝思 奈乎波思努波牟 [訓読]葦の葉に夕霧立ちて鴨が音の寒き夕し汝をば偲はむ [仮名],あしのはに,ゆふぎりたちて,かもがねの,さむきゆふへし,なをばしのはむ
3571
[原文]於能豆麻乎 比登乃左刀尓於吉 於保々思久 見都々曽伎奴流 許能美知乃安比太 [訓読]己妻を人の里に置きおほほしく見つつぞ来ぬるこの道の間 [仮名],おのづまを,ひとのさとにおき,おほほしく,みつつぞきぬる,このみちのあひだ
譬喩歌3572
[原文]安杼毛敝可 阿自久麻<夜>末乃 由豆流波乃 布敷麻留等伎尓 可是布可受可母 [訓読]あど思へか阿自久麻山の弓絃葉のふふまる時に風吹かずかも [仮名],あどもへか,あじくまやまの,ゆづるはの,ふふまるときに,かぜふかずかも
3573
[原文]安之比奇能 夜麻可都良加氣 麻之波尓母 衣我多奇可氣乎 於吉夜可良佐武 [訓読]あしひきの山かづらかげましばにも得がたきかげを置きや枯らさむ [仮名],あしひきの,やまかづらかげ,ましばにも,えがたきかげを,おきやからさむ
3574
[原文]乎佐刀奈流 波奈多知波奈乎 比伎余治弖 乎良無登須礼杼 宇良和可美許曽 [訓読]小里なる花橘を引き攀ぢて折らむとすれどうら若みこそ [仮名],をさとなる,はなたちばなを,ひきよぢて,をらむとすれど,うらわかみこそ
3575
[原文]美夜自呂乃 <須>可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊<R>曽祢 許米弖思努波武 [訓読]美夜自呂のすかへに立てるかほが花な咲き出でそねこめて偲はむ [仮名],みやじろの,すかへにたてる,かほがはな,なさきいでそね,こめてしのはむ
3576
[原文]奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家 [訓読]苗代の小水葱が花を衣に摺りなるるまにまにあぜか愛しけ [仮名],なはしろの,こなぎがはなを,きぬにすり,なるるまにまに,あぜかかなしけ
挽歌3577
[原文]可奈思伊毛乎 伊都知由可米等 夜麻須氣乃 曽我比尓宿思久 伊麻之久夜思母 [訓読]愛し妹をいづち行かめと山菅のそがひに寝しく今し悔しも [仮名],かなしいもを,いづちゆかめと,やますげの,そがひにねしく,いましくやしも
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