中納言家持
題しらず
神なびのみむろの山のくずかづらうらふきかへす秋はきにけり
崇徳院御哥
百首哥に、はつ秋のこゝろを
いつしかとおぎの葉むけのかたよりにそゝや秋とぞ風もきこゆる
藤原季通朝臣
このねぬるよのまに秋はきにけらしあさけの風のきのふにもにぬ
後徳大寺左大臣
文治六年女御入内屏風に
いつもきくふもとのさとゝおもへどもきのふにかはる山おろしの風
藤原家隆朝臣
百首哥よみ侍りける中に
きのふだにとはんとおもひしつのくにのいく田のもりに秋はきにけり
藤原秀能
最勝四天王院の障子に、たかさごかきたるところ
ふく風の色こそ見えねたかさごのおのへの松に秋はきにけり
皇太后宮大夫俊成
百首哥たてまつりし時
ふしみ山松のかげより見わたせばあくる田のもに秋風ぞふく
家隆朝臣
守覚法親王、五十首哥よませ侍りける時
あけぬるか衣手さむしすがはらやふしみのさとの秋のはつ風
摂政太政大臣
千五百番哥合に
ふかくさのつゆのよすがを契にてさとをばかれず秋はきにけり
右衛門督通具
あはれまたいかにしのばん袖のつゆ野はらの風に秋はきにけり
源具親
しきたへの枕のうへにすぎぬなりつゆをたづぬる秋のはつ風
顕昭法師
みづくきのをかのくず葉もいろづきてけさうらがなし秋のはつ風\
越前
秋はたゞ心よりをくゆふつゆを袖のほかともおもひけるかな\
藤原雅経
五十首哥たてまつりし時、秋哥
きのふまでよそにしのびしゝたおぎのすゑ葉のつゆに秋風ぞ吹
太上天皇
太神宮にたてまつりし秋哥の中に
あさつゆのをかのかやはら山かぜにみだれてものは秋ぞかなしき
西行法師
題しらず
をしなべてものをおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風
あはれいかに草葉のつゆのこぼるらん秋風たちぬみやぎのゝはら
皇太后宮大夫俊成
崇徳院に百首哥たてまつりける時
みしぶつきうへし山田にひたはへて又袖ぬらす秋はきにけり
法性寺入道前関白太政大臣
中納言、中将に侍りける時、家に山家早秋といへる心をよませ侍りけるに
あさぎりやたつたの山のさとならで秋きにけりとたれかしらまし\
中務卿具平親王
題しらず
ゆふぐれはおぎふく風のをとまさるいまはたいかにねざめせられん
後徳大寺左大臣
ゆふさればおぎの葉むけをふくかぜにことぞともなく涙おちけり
皇太后宮大夫俊成
崇徳院に百首哥たてまつりける時
おぎの葉も契ありてや秋風のをとづれそむるつまとなりけん
七条院権大夫
題しらず
秋きぬと松ふく風もしらせけりかならずおぎのうは葉ならねど
藤原経衡
題をさぐりて、これかれ哥よみけるに、しのだのもりの秋風をよめる
日をへつゝをとこそまされいづみなるしのだのもりのちえの秋風
式子内親王
百首哥に
うたゝねのあさけのそでにかはるなりならすあふぎの秋のはつ風
相模
題しらず
てもたゆくならすあふぎのをきどころわするばかりに秋風ぞふく
大弐三位
秋風はふきむすべどもしらつゆのみだれてをかぬ草の葉ぞなき
曾禰好忠
あさぼらけおぎのうは葉のつゆみればやゝはださむし秋のはつ風
小野小町
ふきむすぶ風はむかしの秋ながらありしにもにぬ袖のつゆかな
紀貫之
延喜御時、月次屏風に
おほぞらをわれもながめてひこぼしのつまゝつよさへひとりかもねん
赤人
題しらず
このゆふべふりつる雨はひこぼしのとわたるふねのかいのしづくか\
宇治前関白太政大臣 宇治前関白太政大臣の家に、七夕の心をよみ侍りけるに [入金葉集之由、雅経朝臣申之]
契けんほどはしらねどたなばたのたえせぬけふのあまのかは風
権大納言長家
としをへてすむべきやどのいけみづはほしあひのかげもおもなれやせん
藤原長能
花山院御時、七夕の哥つかうまつりけるに
袖ひちてわがてにむすぶ水のおもにあまつほしあひのそらをみるかな
祭主輔親
七月七日、たなばたまつりするところにてよみける
雲間よりほしあひのそらを見わたせばしづ心なきあまの河なみ
太宰大弐高遠
七夕哥とてよみ侍りける
たなばたのあまのは衣うちかさねぬるよすゞしき秋風ぞふく
小弁
たなばたの衣のつまは心してふきなかへしそ秋のはつ風
皇太后宮大夫俊成
たなばたのとわたる舟のかぢの葉にいく秋かきつ露の玉づさ\
式子内親王
百首哥のなかに
ながむれば衣手すゞしひさかたのあまのかはらの秋のゆふぐれ
入道前関白太政大臣
家に百首哥よみ侍りける時
いかばかり身にしみぬらんたなばたのつまゝつよゐのあまの河風\
権中納言公経
七夕の心を
ほしあひのゆふべすゞしきあまのがはもみぢのはしをわたる秋風
待賢門院堀河
たなばたのあふせたえせぬあまのがはいかなる秋かわたりそめけん
女御徽子女王
わくらばにあまの河なみよるながらあくるそらにはまかせずもがな
大中臣能宣朝臣
いとゞしく思ひけぬべしたなばたのわかれの袖にをけるしらつゆ
貫之
中納言兼輔家屏風に
たなばたはいまやわかるゝあまのがは河ぎりたちてちどりなくなり\
前中納言匡房
堀河院御時百首哥中に、はぎをよみ侍ける
河水に鹿のしがらみかけてけりうきてながれぬ秋はぎの花
従三位頼政
題しらず
かり衣われとはすらじつゆふかき野はらのはぎの花にまかせて
権僧正永縁
秋はぎをおらではすぎじつき草の花ずり衣つゆにぬるとも
顕昭法師
守覚法親王、五十首哥よませ侍りけるに
はぎが花ま袖にかけてたかまとのおのへの宮にひれふるやたれ\
祐子内親王家紀伊
題しらず
をくつゆもしづ心なく秋風にみだれてさけるまのゝはぎはら
人麿
秋はぎのさきちる野辺のゆふつゆにぬれつゝきませよはふけぬとも
中納言家持
さをしかのあさたつ野辺の秋はぎにたまとみるまでをけるしらつゆ
凡河内躬恒
秋の野をわけゆくつゆにうつりつゝわが衣手は花のかぞする\
小野小町
たれをかもまつちの山のをみなへし秋とちぎれる人ぞあるらし
藤原元真
をみなへし野辺のふるさとおもひいでゝやどりし虫の声やこひしき\
左近中将良平
千五百番哥合に
ゆふされば玉ちるのべのをみなへしまくらさだめぬ秋風ぞふく
公猷法師
蘭をよめる
ふぢばかまぬしはたれともしらつゆのこぼれてにほふ野辺の秋風
清輔朝臣
崇徳院に百首哥たてまつりける時
うすぎりのまがきの花のあさじめり秋はゆふべとたれかいひけん
皇太后宮大夫俊成
入道前関白、右大臣に侍りける時、百首哥よませ侍りけるに
いとかくや袖はしほれし野辺にいでゝむかしも秋の花はみしかど
大納言経信
つくしに侍りける時、秋野をみてよみ侍りける
花見にと人やりならぬのべにきて心のかぎりつくしつるかな
曾禰好忠
題しらず
をきて見んとおもひしほどにかれにけりつゆよりけなるあさがほの花
貫之
山がつのかきほにさけるあさがほはしのゝめならであふよしもなし
坂上是則
うらがるゝあさぢがはらのかるかやのみだれてものをおもふころかな
人麿
さをしかのいるのゝすゝきはつお花いつしかいもがたまくらにせん
読人しらず
をぐら山ふもとのゝべの花すゝきほのかに見ゆる秋の夕ぐれ
女御徽子女王
ほのかにも風はふかなん花すゝきむすぼゝれつゝつゆにぬるとも
式子内親王
百首哥に
花すゝき又つゆふかしほにいでゝながめじとおもふ秋のさかりを
八条院六条
摂政太政大臣、百首哥よませ侍けるに
野辺ごとにをとづれわたるあき風をあだにもなびく花すゝき哉
左衛門督通光
和哥所哥合に、朝草花といふことを
あけぬとて野辺より山にいる鹿のあとふきをくる萩の下風
前大僧正慈円
題しらず
身にとまるおもひをおぎのうはゞにてこの比かなし夕ぐれの空
大蔵卿行宗
崇徳院御時、百首哥めしけるに、萩を
身のほどをおもひつゞくるゆふぐれのおぎのうはゞに風わたるなり
源重之女
秋哥よみ侍りけるに
秋はたゞものをこそおもへつゆかゝるおぎのうへふく風につけても
藤原基俊
堀河院に百首哥たてまつりける時
秋風のやゝはださむくふくなへにおぎのうは葉のをとぞかなしき
摂政太政大臣
百首哥たてまつりし時
おぎの葉にふけばあらしの秋なるをまちけるよはのさを鹿の声
をしなべておもひしことのかずかずになを色まさる秋のゆふぐれ
題しらず
くれかゝるむなしきそらの秋をみておぼえずたまる袖のつゆかな\
家に百首哥合し侍けるに
ものおもはでかゝるつゆやは袖にをくながめてけりな秋のゆふぐれ
前大僧正慈円
をのこども詩をつくりて哥にあはせ侍しに、山路秋行といふことを
み山ぢやいつより秋の色ならん見ざりし雲のゆふぐれのそら\
寂蓮法師
題しらず
さびしさはその色としもなかりけりま木たつ山の秋のゆふぐれ
西行法師
こゝろなき身にも哀はしられけりしぎたつさはの秋のゆふぐれ
藤原定家朝臣
西行法師すゝめて百首哥よませ侍りけるに
見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋のゆふぐれ\
藤原雅経
五十首哥たてまつりし時
たへてやはおもひありともいかゞせんむぐらのやどの秋のゆふぐれ
宮内卿
秋のうたとてよみ侍ける
おもふことさしてそれとはなきものを秋のゆふべを心にぞとふ\
鴨長明
秋風のいたりいたらぬ袖はあらじたゞわれからのつゆのゆふぐれ\
西行法師
おぼつかな秋はいかなるゆへのあればすゞろにものゝかなしかるらん
式子内親王
それながらむかしにもあらぬ秋風にいとゞながめをしづのをだまき
藤原長能
題しらず
ひぐらしのなくゆふぐれぞうかりけるいつもつきせぬ思なれども
和泉式部
秋くればときはの山の松風もうつるばかりに身にぞしみける
曾禰好忠
秋風のよそにふきくるをとは山なにの草木かのどけかるべき
相模
暁のつゆはなみだもとゞまらでうらむる風の声ぞのこれる
藤原基俊
法性寺入道前関白太政大臣家の哥合に、野風
たかまとのゝぢのしのはらすゑさはぎそゝやこがらしけふゝきぬなり
右衛門督通具
千五百番哥合に
ふかくさのさとの月かげさびしさもすみこしまゝのゝべの秋風\
皇太后宮大夫俊成女
五十首哥たてまつりし時、杜間月といふことを
おほあらきのもりの木のまをもりかねて人だのめなる秋のよの月
藤原家隆朝臣
守覚法親王、五十首哥よませ侍けるに
ありあけの月まつやどの袖のうへに人だのめなるよゐのいなづま
藤原有家朝臣
摂政太政大臣家百首哥合に
風わたるあさぢがすゑのつゆにだにやどりもはてぬよゐのいなづま
左衛門督通光
水無瀬にて十首哥たてまつりし時
むさし野やゆけども秋のはてぞなきいかなる風かすゑにふくらん
前大僧正慈円
百首哥たてまつりし時、月哥
いつまでかなみだくもらで月は見し秋まちえても秋ぞこひしき
式子内親王
ながめわびぬ秋よりほかのやどもがな野にも山にも月やすむらん
円融院御哥
題しらず
月かげのはつ秋風とふけゆけば心づくしにものをこそおもへ
三条院御哥
あしびきの山のあなたにすむ人はまたでや秋の月をみるらん
堀河院御哥
雲間微月といふ事を
しきしまやたかまと山のくもまより光さしそふゆみはりの月
堀河右大臣
題しらず
人よりも心のかぎりながめつる月はたれともわかじものゆへ\
橘為仲朝臣
あやなくもくもらぬよゐをいとふかなしのぶのさとの秋のよの月
法性寺入道前関白太政大臣
風ふけばたまちるはぎのしたつゆにはかなくやどる野辺の月かな\
従三位頼政
こよひたれすゞふく風を身にしめてよしのゝたけの月をみるらん
大宰大弐重家
法性寺入道前関白太政大臣家に、月哥あまたよみ侍けるに
月みればおもひぞあへぬ山たかみいづれのとしの雪にかあるらん
藤原家隆朝臣
和哥所哥合に、湖辺月といふことを
にほのうみや月の光のうつろへばなみの花にも秋はみえけり
前大僧正慈円
百首哥たてまつりし時
ふけゆかばけぶりもあらじゝほがまのうらみなはてそ秋のよの月
皇太后宮大夫俊成女
題しらず
ことはりの秋にはあへぬなみだかな月のかつらもかはるひかりに
家隆朝臣
ながめつゝおもふもさびしひさかたの月のみやこのあけがたのそら
摂政太政大臣
五十首哥たてまつりし時、月前草花
ふるさとのもとあらのこはぎさきしより夜なよな庭の月ぞうつろふ
建仁元年三月哥合に、山家秋月といふことをよみ侍し
時しもあれふるさと人はをともせでみやまの月に秋風ぞふく
八月十五夜和哥所哥合に、深山月といふことを
ふかゝらぬとやまのいほのねざめだにさぞな木のまの月はさびしき\
寂蓮法師
月前風
月はなをもらぬこのまもすみよしの松をつくして秋風ぞふく
鴨長明
ながむればちゞにものおもふ月に又わが身ひとつの峰の松風
藤原秀能
山月といふことをよみ侍ける
あしびきの山ぢのこけのつゆのうへにねざめ夜ぶかき月をみるかな
宮内卿
八月十五夜和哥所哥合に、海辺秋月といふことを
心あるをじまのあまのたもとかな月やどれとはぬれぬものから
宜秋門院丹後
わすれじななにはの秋のよはのそらことうらにすむ月はみるとも
鴨長明
松しまやしほくむあまの秋のそで月はものおもふならひのみかは
七条院大納言
題しらず
ことゝはんのじまがさきのあま衣なみと月とにいかゞしほるゝ
藤原家隆朝臣
和哥所の哥合に、海辺月を
秋のよの月やをじまのあまのはらあけがたちかきおきのつり舟
前大僧正慈円
題しらず
うき身にはながむるかひもなかりけり心にくもる秋のよの月
大江千里
いづくにかこよひの月のくもるべきをぐらの山もなをやかふらん
源道済
こゝろこそあくがれにけれ秋のよの夜ぶかき月をひとりみしより
上東門院小少将
かはらじなしるもしらぬも秋のよの月まつほどの心ばかりは
和泉式部
たのめたる人はなけれど秋のよは月見てぬべき心ちこそせね
藤原範永朝臣
月を見てつかはしける
見る人の袖をぞしぼる秋の夜は月にいかなるかげかそふらん
相模
返し
身にそへるかげとこそみれ秋の月袖にうつらぬおりしなければ
大納言経信
永承四年内裏哥合に
月かげのすみわたるかなあまのはら雲ふきはらふよはのあらしに
左衛門督通光
題しらず
たつた山よはにあらしの松ふけば雲にはうときみねの月かげ\
左京大夫顕輔
崇徳院に百首哥たてまつりけるに
秋風にたなびく雲のたえまよりもれいづる月のかげのさやけさ
道因法師
題しらず
山のはに雲のよこぎるよゐのまはいでゝも月ぞなをまたれける
殷富門院大輔
ながめつゝおもふにぬるゝたもとかないくよかはみん秋のよの月
式子内親王
よゐのまにさてもねぬべき月ならば山のはちかきものはおもはじ
ふくるまでながむればこそかなしけれおもひもいれじ秋のよの月
摂政太政大臣
五十首哥たてまつりし時
雲はみなはらひはてたる秋風を松にのこして月をみるかな
家に月五十首哥よませ侍ける時
月だにもなぐさめがたき秋のよの心もしらぬ松の風かな
定家朝臣
さむしろやまつよの秋の風ふけて月をかたしくうぢのはしひめ
右大将忠経
題しらず
秋のよのながきかひこそなかりけれまつにふけぬるありあけの月\
摂政太政大臣
五十首哥たてまつりし時、野径月
ゆくすゑはそらもひとつのむさし野にくさのはらよりいづる月かげ
宮内卿
雨後月
月をなをまつらんものかむらさめのはれゆく雲のすゑのさと人
右衛門督通具
題しらず
秋のよはやどかる月もつゆながら袖にふきこすおぎのうは風
源家長
秋の月しのにやどかるかげたけてをざゝがはらにつゆふけにけり\
前太政大臣
元久元年八月十五夜、和哥所にて、田家見月といふ事を
風わたる山田のいほをもる月やほなみにむすぶこほりなるらん\
前大僧正慈円
和哥所哥合に、田家月を
かりのくるふしみのをだに夢さめてねぬよのいほに月をみるかな
皇太后宮大夫俊成女
いな葉ふく風にまかせてすむいほは月ぞまことにもりあかしける
題しらず
あくがれてねぬよのちりのつもるまで月にはらはぬとこのさむしろ
大中臣定雅
秋の田のかりねのとこのいなむしろ月やどれともしけるつゆかな
左京大夫顕輔
崇徳院御時、百首哥めしけるに
あきの田にいほさすしづのとまをあらみ月とゝもにやもりあかすらん
式子内親王
百首哥たてまつりし秋哥に
秋の色はまがきにうとくなりゆけどたまくらなるゝねやの月かげ
太上天皇
秋のうたのなかに
あきのつゆやたもとにいたくむすぶらんながきよあかずやどる月かな
左衛門督通光
千五百番哥合に
さらにまたくれをたのめとあけにけり月はつれなき秋のよの空\
二条院讃岐
経房卿家哥合に、暁月の心をよめる
おほかたに秋のねざめのつゆけくはまたたが袖にありあけの月
藤原雅経
五十首哥たてまつりし時
はらひかねさ海修呂弔罎里靴欧 |