藤原家隆朝臣
和哥所にて、をのこども哥よみ侍りしに、ゆふべのしかといふことを
したもみぢかつちる山のゆふしぐれぬれてやひとり鹿のなくらん
入道左大臣
百首哥たてまつりし時
山おろしに鹿のねたかくきこゆなりおのへの月にさよやふけぬる\
寂蓮法師
野わきせしをのゝくさぶしあれはてゝみ山にふかきさをしかの声
俊恵法師
題しらず
あらしふくまくずがはらになくしかはうらみてのみやつまをこふらん
前中納言匡房
つまこふる鹿のたちどをたづぬればさ山がすそに秋風ぞふく
恵慶法師
たかさごのおのへにたてるしかのねにことのほかにもぬるゝ袖かな
惟明親王
百首哥たてまつりし時、秋の哥
み山べの松のこずゑをわたるなりあらしにやどすさをしかの声
土御門内大臣
晩聞鹿といふことをよみ侍し
われならぬ人もあはれやまさるらん鹿なく山の秋の夕ぐれ
摂政太政大臣
百首哥よみ侍りけるに
たぐへくる松のあらしやたゆむらんおのへにかへるさを鹿のこゑ
前大僧正慈円
千五百番哥合に
なくしかのこゑにめざめてしのぶかな見はてぬ夢の秋の思を
権中納言俊忠
家に哥合し侍りけるに、鹿をよめる
よもすがらつまどふ鹿のなくなへにこはぎがはらのつゆぞこぼるゝ
源道済
題しらず
ねざめしてひさしくなりぬ秋の夜はあけやしぬらん鹿ぞなくなる
西行法師
を山だのいほちかくなくしかのねにおどろかされておどろかすかな
中宮大夫師忠
白河院、鳥羽におはしましけるに、田家秋興といへることを、人々よみ侍りけるに
山ざとのいな葉の風にねざめしてよぶかく鹿のこゑをきくかな
藤原顕綱朝臣
郁芳門院のせんざいあはせによみ侍りける
ひとりねやいとゞさびしきさをしかのあさふすをのゝくずのうら風
俊恵法師
題しらず
たつた山こずゑまばらになるまゝにふかくもしかのそよぐなるかな
権大納言長家
祐子内親王家哥合のゝち、しかのうたよみ侍りけるに
すぎてゆく秋のかたみにさをしかのをのがなくねもおしくやあるらん
前大僧正慈円
摂政太政大臣家の百首哥合に
わきてなどいほもる袖のしほるらんいな葉にかぎる秋の風かは
よみ人しらず
題しらず
秋田もるかりいほつくりわがをれば衣手さむしつゆぞをきける\
前中納言匡房
秋くればあさけの風の手をさむみ山田のひたをまかせてぞきく
善滋為政朝臣
ほとゝぎすなくさみだれにうへし田をかりがねさむみ秋ぞくれぬる
中納言家持
いまよりは秋風さむくなりぬべしいかでかひとりながきよをねん
人麿
秋されば雁のは風にしもふりてさむきよなよなしぐれさへふる
さをしかのつまどふ山のをかべなるわさ田はからじしもはをくとも
貫之
かりてほす山田のいねは袖ひちてうへしさなへとみえずもあるかな
菅贈太政大臣
草葉にはたまとみえつゝわび人の袖の涙の秋のしらつゆ
中納言家持
わがやどのおばながすゑにしらつゆのをきし日よりぞ秋風もふく
恵慶法師
秋といへば契をきてやむすぶらんあさぢがはらのけさのしらつゆ
人麿
秋さればをくしらつゆにわがやどのあさぢがうは葉色づきにけり
天暦御哥
おぼつかな野にも山にもしらつゆのなにごとをかはおもひをくらん\
堀河右大臣
後冷泉院、みこの宮と申しける時、尋野花といへる心を
つゆしげみ野辺をわけつゝから衣ぬれてぞかへる花のしづくに
基俊
閑庭露しげしといふことを
庭のおもにしげるよもぎにことよせて心のまゝにをけるつゆかな
贈左大臣長実
白河院にて、野草露繁といへる心を
秋の野のくさ葉をしなみをくつゆにぬれてや人のたづねゆくらん\
寂蓮法師
百首哥たてまつりし時
ものおもふ袖よりつゆやならひけん秋風ふけばたへぬ物とは
太上天皇
秋の哥のなかに
つゆは袖にものおもふころはさぞなをくかならず秋のならひならねど\
野はらよりつゆのゆかりをたづねきてわが衣手に秋風ぞふく\
西行法師
題しらず
きりぎりすよさむに秋のなるまゝによはるか声のとをざかりゆく
家隆朝臣
守覚法親王五十首哥中に
むしのねもながきよあかぬふるさとになをおもひそふ松風ぞふく
式子内親王
百首哥中に
あともなき庭のあさぢにむすぼゝれつゆのそこなる松むしのこゑ
藤原輔尹朝臣
題しらず
秋風は身にしむばかりふきにけりいまやうつらんいもがさ衣
前大僧正慈円
衣うつをとはまくらにすがはらやふしみの夢をいくよのこしつ
権中納言公経
千五百番哥合に、秋哥
ころもうつね山のいほのしばしばもしらぬ夢ぢにむすぶたまくら\
摂政太政大臣
和哥所哥合に、月のもとに衣うつといふことを
さとはあれて月やあらぬとうらみてもたれあさぢふに衣うつらん
宮内卿
まどろまでながめよとてのすさびかなあさのさ衣月にうつこゑ
定家朝臣
千五百番哥合に
秋とだにわすれんとおもふ月かげをさもあやにくにうつ衣かな
大納言経信
擣衣をよみ侍ける
ふるさとに衣うつとはゆくかりやたびのそらにもなきてつぐらん
貫之
中納言兼輔家の屏風哥
雁なきてふく風さむみから衣君まちがてにうたぬよぞなき
藤原雅経
擣衣の心を
みよしのゝ山の秋風さよふけてふるさとさむく衣うつなり
式子内親王
ちたびうつきぬたのをとに夢さめてものおもふ袖のつゆぞくだくる
百首哥たてまつりし時
ふけにけり山のはちかく月さへてとをちのさとに衣うつ声
道信朝臣
九月十五夜、月くまなく侍けるをながめあかして、よみ侍ける
秋はつるさよふけがたの月みれば袖ものこらずつゆぞをきける
藤原定家朝臣
百首哥たてまつりし時
ひとりぬる山どりのおのしだりおにしもをきまよふとこの月かげ
寂蓮法師
摂政太政大臣、大将に侍ける時、月哥五十首よませ侍けるに
ひとめ見し野辺のけしきはうらがれてつゆのよすがにやどる月かな
大納言経信
月のうたとてよみ侍ける
秋の夜は衣さむしろかさねても月の光にしく物ぞなき
華山院御哥
九月つごもりがたに
あきのよははや長月になりにけりことはりなりやねざめせらるゝ
寂蓮法師
五十首哥たてまつりし時
むらさめのつゆもまだひぬまきの葉にきりたちのぼる秋の夕ぐれ
太上天皇
秋哥とて
さびしさはみやまの秋のあさぐもりきりにしほるゝまきのしたつゆ\
左衛門督通光
河霧といふことを
あけぼのや河せのなみのたかせ舟くだすか人の袖の秋ぎり\
権大納言公実
堀河院御時、百首哥たてまつりけるに、きりをよめる
ふもとをばうぢの河ぎりたちこめて雲井に見ゆる朝日山かな
曾禰好忠
題しらず
山ざとにきりのまがきのへだてずはをちかた人の袖もみてまし
清原深養父
なくかりのねをのみぞきくをぐら山きりたちはるゝ時しなければ
人麿
かきほなるおぎの葉そよぎ秋風のふくなるなへに雁ぞなくなる
秋風に山とびこゆるかりがねのいやとをざかり雲がくれつゝ
凡河内躬恒
はつかりのは風すゞしくなるなへにたれかたびねの衣かへさぬ\
読人しらず
かりがねは風にきおひてすぐれどもわがまつ人のことつてもなし
西行法師
よこ雲の風にわかるゝしのゝめに山とびこゆるはつかりの声
白雲をつばさにかけてゆくかりのかど田のおものともしたふなる
前大僧正慈円
五十首哥たてまつりし時、月前聞雁といふことを
おほえ山かたぶく月のかげさえてとば田のおもにおつるかりがね
朝恵法師
題しらず
むら雲や雁のはかぜにはれぬらん声きくそらにすめる月かげ\
皇太后宮大夫俊成女
ふきまよふ雲井をわたるはつかりのつばさにならすよもの秋風
家隆朝臣
詩にあはせし哥の中に、山路秋行
秋風の袖にふきまく峰の雲をつばさにかけて雁もなくなり
宮内卿
五十首哥たてまつりし時、菊籬月といへるこゝろを
霜をまつまがきのきくのよゐのまにをきまよふ色は山のはの月
花園左大臣室
鳥羽院御時、内裏よりきくをめしけるに、たてまつるとてむすびつけ侍ける
こゝのへにうつろひぬともきくの花もとのまがきをおもひわするな
権中納言定頼
題しらず
いまよりは又さくはなもなきものをいたくなをきそきくのうへのつゆ
中務卿具平親王
かれゆくのべのきりぎりすを
秋風にしほるゝ野べの花よりもむしのねいたくかれにけるかな
大江嘉言
題しらず
ねざめする袖さへさむく秋のよのあらしふくなり松むしのこゑ
前大僧正慈円
千五百番哥合に
秋をへてあはれもつゆもふかくさのさとゝふものはうづらなりけり
左衛門督通光
いり日さすふもとのおばなうちなびきたが秋風にうづらなくらん\
皇太后宮大夫俊成女
題しらず
あだにちるつゆのまくらにふしわびてうづらなくなりとこの山風
千五百番哥合に
とふ人もあらしふきそふ秋はきてこの葉にうづむやどのみちしば
色かはるつゆをば袖にをきまよひうらがれてゆく野辺の秋かな
太上天皇
秋哥とて
あきふけぬなけやしもよのきりぎりすやゝかげさむしよもぎふの月
摂政太政大臣
百首哥たてまつりし時
きりぎりすなくやしもよのさむしろに衣かたしきひとりかもねん
春宮権大夫公継
千五百番哥合に
ねざめする長月の夜のとこさむみけさふく風にしもやをくらん\
前大僧正慈円
和哥所にて六首哥つかうまつりし時、秋哥
秋ふかきあはぢの島のありあけにかたぶく月をゝくる浦風
暮秋の心を
なが月もいくありあけになりぬらんあさぢの月のいとゞさびゆく
寂蓮法師
摂政太政大臣、大将に侍りける時、百首哥よませ侍りけるに
かさゝぎの雲のかけはし秋くれて夜半には霜やさえわたるらん
中務卿具平親王
さくらのもみぢはじめたるを見て
いつのまにもみぢしぬらん山桜きのふか花のちるをおしみし
高倉院御哥
紅葉透霧といふことを
うすぎりのたちまふ山のもみぢばゝさやかならねどそれとみえけり\
八条院高倉
秋のうたとてよめる
神なびのみむろのこずゑいかならんなべての山もしぐれする比
太上天皇
最勝四天王院の障子に、すゞかがはかきたるところ
すゞか河ふかき木の葉に日かずへて山田のはらの時雨をぞきく\
皇太后宮大夫俊成
入道前関白太政大臣家に百首哥よみ侍けるに、紅葉
心とやもみぢはすらんたつた山松はしぐれにぬれぬものかは
藤原輔尹朝臣
大井河にまかりて、もみぢ見侍りけるに
おもふことなくてぞ見ましもみぢばをあらしの山のふもとならずは
曾禰好忠
題しらず
いり日さすさほの山べのはゝそはらくもらぬ雨とこの葉ふりつゝ
宮内卿
百首哥たてまつりし時
たつた山あらしや峰によはるらんわたらぬ水もにしきたえけり
摂政太政大臣
左大将に侍ける時、家に百首哥合し侍りけるに、はゝそをよみ侍りける
はゝそはらしづくも色やかはるらんもりのした草秋ふけにけり
定家朝臣
時わかぬなみさへ色にいづみがははゝそのもりに嵐ふくらし
俊頼朝臣
障子のゑに、あれたるやどにもみぢゝりたる所をよめる
ふるさとはちるもみぢ葉にうづもれてのきのしのぶに秋風ぞふく
式子内親王
百首哥たてまつりし秋哥
きりの葉もふみわけがたくなりにけりかならず人をまつとなけれど
曾禰好忠
題しらず
人はこず風にこのはゝちりはてゝよなよなむしはこゑよはるなり
春宮大夫公継
守覚法親王五十首哥によみ侍ける
もみぢばのいろにまかせてときは木も風にうつろふ秋の山かな\
家隆朝臣
千五百番哥合に
つゆ時雨もる山かげのしたもみぢぬるともおらん秋のかたみに
西行法師
題しらず
松にはふまさのはかづらちりにけりと山の秋は風すさぶらん
前参議親隆
法性寺入道前関白太政大臣家哥合に
うづらなくかた野にたてるはじもみぢゝりぬばかりに秋風ぞふく
二条院讃岐
百首哥たてまつりし時
ちりかゝるもみぢの色はふかけれどわたればにごる山がはの水
柿本人麿
題しらず
あすか河もみぢばながるかづらきの山の秋風ふきぞしくらし
権中納言長方
あすか河せゞになみよるくれなゐやかづらき山のこがらしの風\
権中納言公経
なが月のころ、みなせに日ごろ侍けるに、あらしの山のもみぢ、なみだにたぐふよし、申しつかはして侍ける人の返ごとに
もみぢばをさこそあらしのはらふらめこの山本も雨とふるなり
摂政太政大臣
家に百首哥合し侍りける時
たつたひめいまはのころのあき風に時雨をいそぐ人の袖かな
権中納言兼宗
千五百番哥合に
ゆく秋のかたみなるべきもみぢばゝあすはしぐれとふりやまがはん\
前大納言公任
紅葉見にまかりて、よみ侍ける
うちむれてちるもみぢばをたづぬれば山ぢよりこそ秋はゆきけれ\
能因法師
つのくにゝ侍けるころ、道済が許につかはしける
夏草のかりそめにとてこしやどもなにはの浦に秋ぞくれぬる
くれの秋、おもふ事侍けるころ
かくしつゝくれぬる秋とおいぬれどしかすがになを物ぞかなしき
守覚法親王
五十首哥よませ侍けるに
身にかへていざゝは秋をおしみゝんさらでもゝろきつゆのいのちを\
前太政大臣
閏九月尽の心を
なべてよのおしさにそへておしむかな秋より後の秋のかぎりを\
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