読人しらず
題しらず
よそにのみ見てやゝみなんかづらきやたかまの山のみねの白雲
をとにのみありときゝこしみよしのゝ滝はけふこそ袖におちけれ
人麿
あしびきの山田もるいほにをくか火のしたこがれつゝわがこふらくは
いその神ふるのわさ田のほにはいでず心のうちにこひやわたらん
在原業平朝臣
女につかはしける
かすが野のわかむらさきのすり衣しのぶのみだれかぎりしられず
延喜御哥
中将更衣につかはしける
むらさきの色にこゝろはあらねどもふかくぞ人をおもひそめつる
中納言兼輔
題しらず
みかのはらわきてながるゝいづみがはいつみきとてかこひしかるらん
坂上是則
平定文家哥合に
そのはらやふせやにおふるはゝきゞのありとは見えてあはぬきみかな
藤原高光
人のふみつかはして侍ける返事にそへて、女につかはしける
としをへておもふ心のしるしにぞそらもたよりの風はふきける
西宮前左大臣
九条右大臣のむすめにはじめてつかはしける
とし月はわが身にそへてすぎぬれど思ふこゝろのゆかずもあるかな
大納言俊賢母
返し
もろともにあはれといはず人しれぬとはずがたりをわれのみやせん
中納言朝忠
天暦御時哥合に
人づてにしらせてしかなかくれぬのみごもりにのみこひやわたらん
太宰大弐高遠
はじめて女につかはしける
みごもりのぬまのいはがきつゝめどもいかなるひまにぬるゝたもとぞ
謙徳公
いかなるおりにかありけん、女に
から衣袖に人めはつゝめどもこぼるゝものは涙なりけり
前大納言公任
左大将朝光五節舞姫たてまつりけるかしづきを見て、つかはしける
あまつそらとよのあかりに見し人のなをおもかげのしひてこひしき
謙徳公
つれなく侍ける女に、しはすのつごもりにつかはしける
あらたまのとしにまかせて見るよりはわれこそこえめあふさかの関
本院侍従
堀河関白ふみなどつかはして、さとはいづくぞととひ侍ければ
わがやどはそこともなにかをしふべきいはでこそ見めたづねけりやと
忠義公
返し
わがおもひそらのけぶりとなりぬれば雲井ながらもなをたづねてん
貫之
題しらず
しるしなきけぶりを雲にまがへつゝ夜をへてふじの山ともえなん
深養父
けぶりたつおもひならねど人しれずわびてはふじのねをのみぞなく
藤原惟成
女につかはしける
風ふけばむろのやしまのゆふけぶり心のそらにたちにけるかな\
藤原義孝
ふみつかはしける女に、おなじつかさのかみなる人かよふと聞ゝて、つかはしける
白雲のみねにしもなどかよふらんおなじみかさの山のふもとを
和泉式部
題しらず
けふもまたかくやいぶきのさしもぐささらばわれのみもえやわたらん
源重之
つくば山は山しげ山しげゝれどおもひいるにはさはらざりけり
大中臣能宣朝臣
又かよふ人ありける女のもとにつかはしける
われならぬ人に心をつくば山したにかよはんみちだにやなき
大江匡衡朝臣
はじめて女につかはしける
人しれずおもふ心はあしびきの山した水のわきやかへらん
清原元輔
女をものごしにほのかに見てつかはしける
にほふらんかすみのうちの桜花おもひやりてもおしき春かな\
能宣朝臣
としをへていひわたり侍ける女の、さすがにけぢかくはあらざりけるに、はるのすゑつかたいひつかはしける
いくかへりさきちる花をながめつゝものおもひくらす春にあふらん
躬恒
題しらず
おく山のみねとびこゆるはつかりのはつかにだにも見でやゝみなん
亭子院御哥
おほぞらをわたる春日のかげなれやよそにのみしてのどけかるらん\
謙徳公
正月、あめふり風ふきける日、女につかはしける
春風のふくにもまさるなみだかなわがみなかみも氷とくらし
たびたび返事せぬ女に
水のうへにうきたるとりのあともなくおぼつかなさをおもふ比かな
曾禰好忠
題しらず
かたをかの雪まにねざすわか草のほのかに見てし人ぞこひしき
和泉式部
返事せぬ女のもとにつかはさんとて、人のよませ侍ければ、二月許によみ侍ける
あとをだに草のはつかに見てしかなむすぶばかりのほどならずとも
興風
題しらず
しものうへにあとふみつくるはまちどりゆくゑもなしとねをのみぞなく\
中納言家持
秋はぎのえだもとをゝにをくつゆのけさきえぬとも色にいでめや
藤原高光
あき風にみだれてものはおもへどもはぎのした葉のいろはかはらず
花園左大臣
しのぶぐさのもみぢしたるにつけて、女のもとにつかはしける
わがこひもいまはいろにやいでなましのきのしのぶもゝみぢしにけり
摂政太政大臣
和哥所哥合に、久忍恋といふことを
いその神ふるの神すぎふりぬれどいろにはいでずつゆも時雨も
太上天皇
北野宮哥合に、忍恋の心を
わがこひはまきのした葉にもるしぐれぬるとも袖のいろにいでめや
前大僧正慈円
百首哥たてまつりし時よめる
わがこひは松をしぐれのそめかねてまくずがはらに風さはぐなり
摂政太政大臣
家に哥合し侍けるに、夏恋の心を
うつせみのなくねやよそにもりのつゆほしあへぬ袖を人のとふまで
寂蓮法師
おもひあれば袖にほたるをつゝみてもいはゞや物をとふ人はなし
太上天皇
水無瀬にてをのこども、久恋といふことをよみ侍しに
思つゝへにけるとしのかひやなきたゞあらましのゆふぐれの空
式子内親王
百首哥の中に忍恋を
たまのをよたえなばたえねながらへばしのぶることのよはりもぞする
わすれてはうちなげかるゝゆふべかなわれのみしりてすぐる月日を
わがこひはしる人もなしせくとこの涙もらすなつげのを枕
入道前関白太政大臣
百首哥よみ侍ける時、忍恋
しのぶるに心のひまはなけれどもなをもる物はなみだなりけり
謙徳公
冷泉院みこの宮と申ける時、さぶらひける女房を見かはしていひわたり侍けるころ、てならひしけるところにまかりて、ものにかきつけ侍ける
つらけれどうらみんとはたおもほえずなをゆくさきをたのむ心に
読人しらず
返し
雨もこそはたのまばもらめたのまずはおもはぬ人と見てをやみなん
貫之
題しらず
風ふけばとはになみこすいそなれやわが衣手のかはく時なき
道信朝臣
すまのあまのなみかけ衣よそにのみきくはわが身になりにけるかな
三条院女蔵人左近
くすだまを女につかはすとて、おとこにかはりて
ぬまごとに袖ぞぬれぬるあやめぐさ心にゝたるねをもとむとて
前大納言公任
五月五日、馬内侍につかはしける
ほとゝぎすいつかとまちしあやめぐさけふはいかなるねにかなくべき
馬内侍
返し
さみだれはそらおぼれするほとゝぎすときになくねは人もとがめず\
法成寺入道前摂政太政大臣
兵衛佐に侍ける時、五月ばかりに、よそながらもの申そめてつかはしける
ほとゝぎす声をきけど花のえにまだふみなれぬ物をこそおもへ
馬内侍
返し
ほとゝぎすしのぶるものをかしは木のもりても声のきこえける哉
ほとゝぎすのなきつるは聞ゝつやと申ける人に
こゝろのみそらになりつゝほとゝぎす人だのめなるねこそなかるれ
伊勢
題しらず
みくまのゝ浦よりをちにこぐ舟のわれをばよそにへだてつるかな
なにはがたみじかきあしのふしのまもあはでこのよをすぐしてよとや
人麿
みかりするかりはのをのゝならしばのなれはまさらでこひぞまされる
読人しらず
うどはまのうとくのみやはよをばへんなみのよるよるあひ見てしかな\
あづまぢのみちのはてなるひたちおびのかことばかりもあはんとぞ思
にごりえのすまんことこそかたからめいかでほのかにかげをみせまし
しぐれふる冬のこの葉のかはかずぞものおもふ人の袖はありける\
ありとのみをとに聞ゝつゝをとは河わたらば袖にかげもみえなん
水くきのをかの木の葉をふきかへしたれかは君をこひんと思し\
わが袖にあとふみつけよはまちどりあふことかたし見てもしのばん
中納言兼輔
女のもとよりかへり侍けるに、ほどもなくゆきのいみじうふり侍ければ
冬のよのなみだにこほるわが袖の心とけずも見ゆるきみかな
藤原元真
題しらず
しも氷心もとけぬ冬のいけによふけてぞなくをしの一声\
なみだがは身もうくばかりながるれどきえぬは人の思なりけり
実方朝臣
女につかはしける
いかにせんくめぢのはしのなかぞらにわたしもはてぬ身とやなりなん
女のすぎのみをつゝみてをこせて侍ければ
たれぞこのみわのひばらもしらなくに心のすぎのわれをたづぬる
小弁
題しらず
わがこひはいはぬばかりぞなにはなるあしのしのやのしたにこそたけ
伊勢
わがこひはありそのうみの風をいたみしきりによするなみのまもなし
藤原清正
人につかはしける
すまのうらにあまのこりつむもしほ木のからくもしたにもえわたる哉
源景明
題しらず
あるかひもなぎさによする白浪のまなくものおもふわが身なりけり
貫之
あしびきの山したゝぎついはなみの心くだけて人ぞこひしき
あしびきのやましたしげき夏草のふかくも君をおもふ比かな
坂上是則
をじかふす夏野のくさのみちをなみしげきこひぢにまどふ比かな
曾禰好忠
かやり火のさよふけがたのしたこがれくるしやわが身人しれずのみ
ゆらのとをわたるふな人かぢをたえゆくゑもしらぬ恋のみちかも
権中納言師時
鳥羽院御時、うへのをのこども、風によするこひといふ心をよみ侍けるに
おひ風にやへのしほぢをゆくふねのほのかにだにもあひみてしかな
摂政太政大臣
百首哥たてまつりし時
かぢをたえゆらのみなとによる舟のたよりもしらぬおきつしほ風
式子内親王
題しらず
しるべせよあとなきなみにこぐ舟のゆくゑもしらぬやへのしほ風
権中納言長方
きのくにやゆらのみなとにひろふてふたまさかにだにあひみてしかな
権中納言師俊
法性寺入道前関白太政大臣家哥合に
つれもなき人の心のうきにはふあしのしたねのねをこそはなけ\
摂政太政大臣
和哥所哥合に、忍恋をよめる
なには人いかなるえにかくちはてんあふことなみに身をつくしつゝ
皇太后宮大夫俊成
隠名恋といへる心を
あまのかるみるめをなみにまがへつゝなぐさのはまをたづねわびぬる
相模
題しらず
あふまでのみるめかるべきかたぞなきまだなみなれぬいそのあま人
業平朝臣
みるめかるかたやいづくぞさほさしてわれにをしへよあまのつり舟
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