儀同三司母
中関白かよひそめ侍けるころ
わすれじのゆくすゑまではかたければけふをかぎりのいのちともがな
謙徳公
しのびたるをんなをかりそめなるところにゐてまかりて、かへりてあしたにつかはしける
かぎりなくむすびをきつる草枕いつこのたびをおもひわすれん
業平朝臣
題しらず
おもふにはしのぶることぞまけにけるあふにしかへばさもあらばあれ
廉義公
人の許にまかりそめて、あしたにつかはしける
昨日まであふにしかへばと思しをけふはいのちのおしくもあるかな
式子内親王
百首哥に
あふことをけふまつがえのたむけ草いくよしほるゝそでとかはしる
源正清朝臣
頭中将に侍ける時、五節所のわらはにもの申そめてのち、たづねてつかはしける
こひしさにけふぞたづぬるおく山の日かげのつゆに袖はぬれつゝ
西行法師
題しらず
あふまでのいのちもがなとおもひしはくやしかりけるわが心かな
三条院女蔵人左近
人心うす花ぞめのかり衣さてだにあらで色やかはらん
興風
あひみてもかひなかりけりうばたまのはかなき夢におとるうつゝは
実方朝臣
なかなかのものおもひそめてねぬるよははかなき夢もえやはみえける
伊勢
しのびたる人とふたりふして
夢とても人にかたるなしるといへばたまくらならぬ枕だにせず
和泉式部
題しらず
まくらだにしらねばしらじ見しまゝに君かたるなよ春のよの夢
馬内侍
人にものいひはじめて
わすれても人にかたるなうたゝねのゆめみてのちもながゝらじよを
藤原範永朝臣
女につかはしける
つらかりしおほくのとしはわすられてひとよの夢をあはれとぞみし
高倉院御哥
題しらず
けさよりはいとゞおもひをたきましてなげきこりつむあふさかの山\
俊頼朝臣
初会恋のこゝろを
あしのやのしづはたおびのかたむすび心やすくもうちとくるかな
読人しらず
題しらず
かりそめにふしみのゝべの草枕つゆかゝりきと人にかたるな
相模
人しれずしのびけることを、ふみなどちらすときゝける人につかはしける
いかにせんくずのうらふく秋風にした葉のつゆのかくれなき身を
実方朝臣
題しらず
あけがたきふたみのうらによるなみのそでのみぬれておきつしま人
伊勢
あふことのあけぬよながらあけぬればわれこそかへれ心やはゆく
太宰帥敦道親王
九月十日あまり、夜ふけていづみしきぶがかどをたゝかせ侍けるに、きゝつけざりければ、あしたにつかはしける
秋のよのありあけの月のいるまでにやすらひかねてかへりにしかな
道信朝臣
題しらず
心にもあらぬわが身のゆきかへりみちのそらにてきえぬべき哉\
延喜御哥
近江更衣にたまはせける
はかなくもあけにけるかなあさつゆのおきての後ぞきえまさりける
更衣源周子
御返し
あさつゆのおきつるそらもおもほえずきえかへりつる心まどひに
円融院御哥
題しらず
をきそふるつゆやいかなるつゆならんいまはきえねとおもふわが身を
謙徳公
おもひいでゝいまはけぬべしよもすがらおきうかりつるきくのうへの露
清慎公
うばたまのよるの衣をたちながらかへる物とはいまぞしりぬる\
藤原清正
夏の夜、女の許にまかりて侍けるに、人しづまるほど、夜いたくふけてあひて侍ければ、よみける
みじかよのゝこりすくなくふけゆけばかねて物うきあかつきの空
大納言清蔭
女みこにかよひそめて、あしたにつかはしける
あくといへばしづ心なきはるのよの夢とや君をよるのみはみん
和泉式部
やよひのころ、よもすがらものがたりしてかへり侍りける人の、けさはいとゞものおもはしきよし申つかはしたりけるに
けさはしもなげきもすらんいたづらに春のよひとよ夢をだにみで
赤染衛門
題しらず
心からしばしとつゝむものからにしぎのはねがきつらきけさかな
九条入道右大臣
しのびたるところよりかへりて、あしたにつかはしける
わびつゝも君が心にかなふとてけさもたもとをほしぞわづらふ\
亭子院御哥
小八条のみやす所につかはしける
たまくらにかせるたもとのつゆけきはあけぬとつぐる涙なりけり
藤原惟成
題しらず
しばしまてまだ夜はふかしなが月のありあけの月は人まどふ也
実方朝臣
前栽のつゆをきたるを、などか見ずなりにしと申ける女に
おきて見ば袖のみぬれていとゞしく草葉の玉のかずやまさらん
二条院讃岐
二条院御時、あか月かへりなんとするこひといふことを
あけぬれどまだきぬぎぬになりやらで人の袖をもぬらしつるかな
西行法師
題しらず
おもかげのわするまじきわかれかななごりを人の月にとゞめて
摂政太政大臣
後朝の恋のこゝろを
またもこん秋をたのむのかりだにもなきてぞかへる春のあけぼの
賀茂成助
女の許にまかりて、心ちのれいならず侍ければ、かへりてつかはしける
たれゆきて君につげましみちしばのつゆもろともにきえなましかば
左大将朝光
女の許に、ものをだにいはむとてまかれりけるに、むなしくかへりて、あしたに
きえかへりあるかなきかのわが身かなうらみてかへるみちしばのつゆ
華山院御哥
三条関白女御、入内のあしたにつかはしける
あさぼらけおきつるしものきえかへりくれまつほどの袖をみせばや
藤原道経
法性寺入道前関白太政大臣家哥合に
庭におふるゆふかげ草のしたつゆやくれをまつまの涙なるらん
小侍従
題しらず
まつよゐにふけゆくかねのこゑきけばあかぬわかれのとりは物かは
藤原知家
これも又ながきわかれになりやせんくれをまつべきいのちならねば
西行法師
ありあけはおもひいであれやよこ雲のたゞよはれつるしのゝめのそら
清原元輔
大井がは井せきの水のわくらばにけふはたのめしくれにやはあらぬ
読人しらず
けふとちぎりける人の、あるかとゝひて侍ければ
ゆふぐれにいのちかけたるかげろふのありやあらずやとふもはかなし
定家朝臣
西行法師人びとに百首哥よませ侍けるに
あぢきなくつらきあらしの声もうしなどゆふぐれにまちならひけん
太上天皇
こひのうたとて
たのめずは人はまつちの山なりとねなまし物をいざよひの月\
摂政太政大臣
みなせにて恋十五首哥合に、夕恋といへる心を
なにゆへと思もいれぬゆふべだにまちいでし物を山のはの月
宮内卿
寄風恋
きくやいかにうはのそらなる風だにもまつにおとするならひありとは
西行法師
題しらず
人はこで風のけしきもふけぬるにあはれに雁のをとづれてゆく
八条院高倉
いかゞふく身にしむ色のかはるかなたのむるくれの松風の声\
鴨長明
たのめをく人もながらの山にだにさよふけぬれば松風の声\
藤原秀能
いまこんとたのめしことをわすれずはこのゆふぐれの月やまつらん
式子内親王
まつこひといへる心を
君まつとねやへもいらぬまきのとにいたくなふけそ山のはの月
西行法師
恋哥とてよめる
たのめぬに君くやとまつよゐのまのふけゆかでたゞあけなましかば
定家朝臣
かへるさの物とや人のながむらんまつよながらのありあけの月
読人しらず
題しらず
きみこんといひしよごとにすぎぬればたのまぬものゝこひつゝぞふる
人麿
衣手に山おろしふきてさむき夜を君きまさずはひとりかもねん
馬内侍
左大将朝光ひさしうをとづれ侍らで、たびなるところにきあひて、まくらのなければ草をむすびてしたるに
あふことはこれやかぎりのたびならん草の枕も霜がれにけり
女御徽子女王
天暦御時、まどをにあれやと侍りければ
なれゆくはうき世なればやすまのあまのしほやき衣まどをなるらん
坂上是則
あひてのちあひがたき女に
きりふかき秋の野中のわすれ水たえまがちなる比にもあるかな
安法々師女
三条院、みこの宮と申ける時、ひさしくとはせたまはざりければ
世のつねの秋風ならばおぎの葉にそよとばかりのをとはしてまし
中納言家持
題しらず
あしびきの山のかげ草むすびをきてこひやわたらんあふよしをなみ\
延喜御哥
あづまぢにかるてふかやのみだれつゝつかのまもなくこひやわたらん
権中納言敦忠
むすびをきしたもとだに見ぬ花すゝきかるともかれじきみしとかずは
源重之
百首哥中に
霜のうへにけさふる雪のさむければかさねて人をつらしとぞ思\
安法々師女
題しらず
ひとりふすあれたるやどのとこのうへにあはれいくよのねざめしつらん
重之
やましろのよどのわかこもかりにきて袖ぬれぬとはかこたざらなん\
貫之
かけておもふ人もなけれどゆふさればおもかげたえぬ玉かづらかな
平定文
みやづかへしける女をかたらひ侍けるに、やんごとなきおとこのいりたちていふけしきを見てうらみけるを、女あらがひければよみ侍ける
いつはりをたゞすのもりのゆふだすきかけつゝちかへわれをおもはゞ
鳥羽院御哥
人につかはしける
いかばかりうれしからましもろともにこひらるゝ身もくるしかりせば
入道前関白太政大臣
片思のこゝろを
わればかりつらきをしのぶ人やあるといまよにあらば思ひあはせよ
前大僧正慈円
摂政太政大臣家百首哥合に、契恋の心を
たゞたのめたとへば人のいつはりをかさねてこそは又もうらみめ\
右衛門督家通
女をうらみて、いまはまからじと申てのち、猶わすれがたくおぼえければつかはしける
つらしとはおもふ物からふしゝばのしばしもこりぬ心なりけり
読人しらず
たのむこと侍ける女、わづらふ事侍ける、をこたりて、久我内大臣のもとにつかはしける
たのめこしことの葉ばかりとゞめをきてあさぢがつゆときえなましかば
久我内大臣
返し
あはれにもたれかはつゆもおもはましきえのこるべきわが身ならねば
小侍従
題しらず
つらきをもうらみぬわれにならふなようき身をしらぬ人もこそあれ
殷富門院大輔
なにかいとふよもながらへじさのみやはうきにたへたるいのちなるべき
刑部卿頼輔
こひしなんいのちは猶もおしきかなおなじよにあるかひはなけれど
西行法師
あはれとて人の心のなさけあれなかずならぬにはよらぬなげきを
身をしれば人のとがとはおもはぬにうらみがほにもぬるゝ袖かな
皇太后宮大夫俊成
女につかはしける
よしさらばのちのよとだにたのめをけつらさにたへぬ身ともこそなれ
藤原定家朝臣母
返し
たのめをかんたゞさばかりを契にてうきよの中の夢になしてよ
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