菅贈太政大臣
山
あしびきのこなたかなたにみちはあれど宮こへいざといふ人ぞなき
日
あまのはらあかねさしいづるひかりにはいづれのぬまかさえのこるべき
月
つきごとにながるとおもひしますかゞみにしのうみにもとまらざりけり
雲
山わかれとびゆく雲のかへりくるかげみる時は猶たのまれぬ
霧
きりたちてゝる日の本はみえずとも身はまどはれじよるべありやと
雪
花とちり玉とみえつゝあざむけば雪ふるさとぞ夢に見えける
松
おいぬとて松はみどりぞまさりけるわがくろかみの雪のさむさに
野
つくしにも紫おふる野辺はあれどなき名かなしぶ人ぞきこえぬ
道
かるかやの関もりにのみ見えつるは人もゆるさぬ道べなりけり
海
うみならずたゝへる水の底までにきよき心は月ぞてらさん
かさゝぎ
ひこぼしのゆきあひをまつかさゝぎのとわたるはしを我にかさなん
波
ながれ木とたつ白浪とやくしほといづれかゝらきわたつみのそこ
よみ人しらず
題しらず
さゞなみのひら山風のうみふけばつりするあまの袖かへるみゆ
白浪のよするなぎさによをつくすあまのこなればやどもさだめず
摂政太政大臣
千五百番哥合に
舟のうち浪のうへにぞ老にけるあまのしわざもいとまなのよや
前中納言匡房
題しらず
さすらふる身はさだめたるかたもなしうきたる舟のなみにまかせて
増賀上人
いかにせん身をうきふねのにをゝもみつゐのとまりやいづこなるらん
人麿
あしがものさはぐいり江の水のえのよにすみがたきわが身なりけり
能宣朝臣
あしがものは風になびくうき草のさだめなきよをたれかたのまん
順
なぎさのまつといふことをよみ侍ける
おいにけるなぎさの松のふかみどりしづめるかげをよそにやはみる
能因法師
山水をむすびてよみ侍ける
葦引の山した水にかげみればまゆしろたへにわれ老にけり\
法成寺入道前摂政太政大臣
あまになりぬときゝける人に、さうぞくつかはすとて
なれ見てし花のたもとをうちかへしのりの衣をたちぞかへつる\
東三条院
きさきにたちたまひける時、冷泉院のきさいの宮の御ひたひをたてまつりたまへりけるを、出家の時、返したてまつりたまふとて
そのかみの玉のかづらをうちかへしいまは衣のうらをたのまん
冷泉院太皇太后宮
返し
つきもせぬひかりのまにもまぎれなでおいてかへれるかみのつれなさ
枇杷皇太后宮
上東門院出家のゝち、こがねの装束したる沈のずゞ、しろがねのはこにいれて、むめのえだにつけてたてまつられける
かはるらん衣のいろをおもひやるなみだやうらの玉にまがはん
上東門院
返し
まがふらんころものたまにみだれつゝなをまださめぬ心ちこそすれ
和泉式部
題しらず
しほのまによものうらうらたづぬれどいまはわが身のいふかひもなし
一条院皇后宮
屏風のゑに、しほがまのうらかきて侍けるを
いにしへのあまやけぶりとなりぬらん人めも見えぬしほがまのうら
天暦御哥
少将高光、横河にのぼりてかしらおろし侍にけるをきかせ給てつかはしける
宮こより雲のやへたつおく山のよかはの水はすみよかるらん\
如覚
御返し
もゝしきのうちのみつねにこひしくて雲のやへたつ山はすみうし\
惟喬親王
世をそむきて、をのといふところにすみ侍けるころ、業平朝臣の、ゆきのいとたかうふりつみたるをかきわけてまうできて、ゆめかとぞ思おもひきやとよみ侍けるに
夢かともなにかおもはんうきよをばそむかざりけんほどぞくやしき
女御徽子女王
みやこのほかにすみ侍けるころ、ひさしうをとづれざりける人につかはしける
雲井とぶ雁のねちかきすまゐにもなをたまづさはかけずやありけん
伊勢
亭子院おりゐたまはんとしける秋、よみける
白露はをきてかはれどもゝしきのうつろふ秋は物ぞかなしき
藤原清正
殿上はなれ侍りてよみ侍ける
あまつ風ふけゐのうらにゐるたづのなどか雲井にかへらざるべき\
読人しらず
\二条院、菩提樹院におはしましてのちの春、むかしをおもひいでゝ大納言経信まいりて侍ける又の日、女房の申つかはしける
いにしへのなれし雲井をしのぶとやかすみをわけて君たづねけん
定家朝臣
最勝四天王院の障子に、おほよどかきたる所
おほよどのうらにかりほすみるめだにかすみにたへてかへるかりがね
後白河院御哥
最慶法師、千載集かきてたてまつりけるつゝみがみに、すみをすりふでをそめつゝとしふれどかきあらはせることのはぞなきとかきつけて侍ける御返し
はまちどりふみをくあとのつもりなばかひあるうらにあはざらめやは
後朱雀院御哥
上東門院、高陽院におはしましけるに、行幸侍りて、せきいれたる滝を御覧じて
滝つせに人の心を見ることはむかしにいまもかはらざりけり\
周防内侍
権中納言通俊、後拾遺撰び侍けるころ、まづかたはしもゆかしくなど申て侍ければ、申あはせてこそとて、まだきよがきもせぬ本をつかはして侍けるを見て、返しつかはすとて
あさからぬ心ぞみゆるをとはがはせきいれし水のながれならねど\
壬生忠見
哥たてまつれとおほせられければ、忠峯がなどかきあつめてたてまつりけるおくにかきつけゝる
ことの葉の中をなくなくたづぬればむかしの人にあひみつる哉\
藤原為忠朝臣
遊女の心をよみ侍ける
ひとりねのこよひもあけぬたれとしもたのまばこそはこぬもうらみめ
赤染衛門
大江挙周はじめて殿上ゆるされて、くさふかきにはにおりて拝しけるを見侍て
くさわけてたちゐるそでのうれしさにたへずなみだのつゆぞこぼるゝ\
伊勢大輔
秋ごろわづらひける、をこたりて、たびたびとぶらひにける人につかはしける
うれしさはわすれやはするしのぶぐさしのぶる物を秋の夕ぐれ
大納言経信
返し
秋風のをとせざりせば白露のゝきのしのぶにかゝらましやは
右大将済時
あるところにかよひ侍けるを、朝光大将見かはして、よひとよものがたりしてかへりて、又の日
しのぶぐさいかなるつゆかをきつらんけさはねもみなあらはれにけり\
左大将朝光
返し
あさぢふをたづねざりせばしのぶぐさおもひをきけんつゆを見ましや\
読人しらず
わづらひける人の、かく申侍ける
ながらへんとしもおもはぬつゆの身のさすがにきえんことをこそおもへ\
小馬命婦
返し
つゆの身のきえばわれこそさきだゝめをくれん物かもりの下草\
和泉式部
題しらず
いのちさへあらば見つべき身のはてをしのばん人のなきぞかなしき\
大僧正行尊
れいならぬこと侍りけるに、しれりけるひじりの、とぶらひにまうできて侍ければ
さだめなきむかしがたりをかぞふればわが身もかずにいりぬべき哉
前大僧正慈円
五十首哥たてまつりし時
世中のはれゆくそらにふる霜のうき身ばかりぞをき所なき
れいならぬこと侍けるに、無動寺にてよみ侍ける
たのみこしわがふるてらのこけのしたにいつしかくちん名こそおしけれ
大僧正行尊
題しらず
くりかへしわが身のとがをもとむれば君もなきよにめぐるなりけり\
清原元輔
うしといひてよをひたふるにそむかねば物おもひしらぬ身とやなりなん
よみ人しらず
そむけどもあめのしたをしはなれねばいづくにもふる涙なりけり
女蔵人内匠
延喜御時、女蔵人内匠、白馬節会見けるに、くるまよりくれなゐのきぬをいだしたりけるを、検非違使のたゞさんとしければ、いひつかはしける
おほぞらにてる日のいろをいさめてもあめのしたにはたれかすむべき\
かくいひければ、たゞさずなりにけり
周防内侍
れいならでうづまさにこもりて侍けるに、心ぼそくおぼえければ
かくしつゝゆふべの雲となりもせば哀かけてもたれかしのばん
前大僧正慈円
題しらず
おもはねどよをそむかんといふ人のおなじかずにやわれもなるらん\
西行法師
かずならぬ身をも心のもちがほにうかれては又かへりきにけり
をろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつゐのおもひは
とし月をいかでわが身にをくりけん昨日の人もけふはなきよに
うけがたき人のすがたにうかびいでゝこりずやたれも又しづむべき
寂蓮法師
守覚法親王、五十首哥よませ侍けるに
そむきてもなをうき物はよなりけり身をはなれたる心ならねば
述懐の心をよめる
身のうさをおもひしらずはいかゞせんいとひながらも猶すぐす哉
前大僧正慈円
なにごとをおもふ人ぞと人とはゞこたへぬさきに袖ぞぬるべき
いたづらにすぎにしことやなげかれんうけがたき身の夕暮のそら
うちたえてよにふる身にはあらねどもあらぬすぢにもつみぞかなしき
和哥所にて、述懐のこゝろを
山ざとに契しいほやあれぬらんまたれんとだにおもはざりしを
右衛門督通具
袖にをく露をばつゆとしのべどもなれゆく月やいろをしるらん
定家朝臣
君がよにあはずはなにを玉のをのながくとまではおしまれじ身を\
家隆朝臣
おほかたの秋のねざめのながき夜も君をぞいのる身をおもふとて
わかのうらやおきつしほあひにうかびいづるあはれわが身のよるべしらせよ
その山とちぎらぬ月も秋風もすゝむる袖につゆこぼれつゝ
雅経朝臣
君がよにあへるばかりの道はあれど身をばたのまずゆくすゑの空
皇太后宮大夫俊成女
おしむともなみだに月も心からなれぬる袖に秋をうらみて
摂政太政大臣
千五百番哥合に
うきしづみこんよはさてもいかにぞと心にとひてこたへかねぬる
題しらず
われながら心のはてをしらぬかなすてられぬよの又いとはしき\
をしかへし物をおもふはくるしきにしらずがほにてよをやすぎまし
守覚法親王
五十首哥よみ侍けるに、述懐の心を
ながらへてよにすむかひはなけれどもうきにかへたる命なりけり\
権中納言兼宗
世をすつる心はなをぞなかりけるうきをうしとはおもひしれども\
左近中将公衡
述懐の心をよみ侍ける
すてやらぬわが身ぞつらきさりともとおもふ心にみちをまかせて
よみ人しらず
題しらず
うきながらあればあるよにふるさとの夢をうつゝにさましかねても
源師光
うきながら猶おしまるゝいのちかな後のよとてもたのみなければ
賀茂重保
さりともとたのむ心のゆくすゑもおもへばしらぬよにまかすらん\
荒木田長延
つくづくとおもへばやすきよの中を心となげくわが身なりけり\
刑部卿頼輔
入道前関白家百首哥よませ侍けるに
河舟のゝぼりわづらふつなでなわくるしくてのみよをわたる哉
大僧都覚弁
題しらず
おいらくの月日はいとゞはやせがはかへらぬなみにぬるゝ袖かな\
藤原行能
よみて侍ける百首哥を、源家長がもとに見せにつかはしけるおくに、かきつけて侍ける
かきながすことの葉をだにしづむなよ身こそかくても山河の水
鴨長明
身のゝぞみかなひ侍らで、やしろのまじらひもせでこもりゐて侍けるに、あふひを見てよめる
見ればまづいとゞ涙ぞもろかづらいかに契てかけはなれけん
源季景
題しらず
おなじくはあれないにしへおもひいでのなければとてもしのばずもなし
西行法師
いづくにもすまれずはたゞすまであらんしばのいほりのしばしなるよに
月のゆく山に心をゝくりいれてやみなるあとの身をいかにせん
前大僧正慈円
五十首哥の中に
おもふことなどゝふ人のなかるらんあふげばそらに月ぞさやけき
いかにしていまゝでよには在曙のつきせぬ物をいとふ心は
西行法師、山ざとよりまかりいでゝ、むかし出家し侍しその月日にあたりて侍ると申たりける返事に
うきよいでし月日のかげのめぐりきてかはらぬ道を又てらすらん
承仁法親王
前僧都全真西国のかたに侍ける時、つかはしける
人しれずそなたをしのぶ心をばかたぶく月にたぐへてぞやる
前右大将頼朝
前大僧正慈円、ふみにてはおもふほどのことも申つくしがたきよし、申つかはして侍ける返事に
みちのくのいはでしのぶはえぞしらぬかきつくしてよつぼのいしぶみ
大江嘉言
世中のつねなきころ
けふまでは人をなげきてくれにけりいつ身のうへにならんとすらん\
清慎公
題しらず
みちしばのつゆにあらそふわが身かないづれかまづはきえんとすらん
皇嘉門院
なにとかやかべにおふなる草のなよそれにもたぐふわが身なりけり
権中納言資実
こしかたをさながら夢になしつればさむるうつゝのなきぞかなしき\
性空上人
松の木のやけゝるを見て
ちとせふる松だにくつるよの中にけふともしらでたてるわれかな
後頼朝臣
題しらず
かずならでよにすみの江のみをつくしいつをまつともなき身なりけり
皇太后宮大夫俊成
うきながらひさしくぞよをすぎにける哀やかけしすみよしの松
家隆朝臣
春日社哥合に、松風といふことを
かすが山たにのむもれ木くちぬとも君につげこせみねの松風
宜秋門院丹後
なにとなくきけば涙ぞこぼれぬるこけのたもとにかよふ松風
女御徽子女王
さうしにあしでながうたなどかきて、おくに
みな人のそむきはてぬるよのなかにふるのやしろの身をいかにせん
実方朝臣
臨時祭の舞人にてもろともに侍けるを、ともに四位してのち、祭の日つかはしける
衣での山井の水にかげみえし猶そのかみの春ぞこひしき
道信朝臣
題しらず
いにしへの山井の衣なかりせばわすらるゝ身となりやしなまし
賀茂左衛門
後冷泉院御時大嘗会に、ひかげのくみをして、実基朝臣のもとにつかはすとて、先帝御時おもひいでゝ、そへていひつかはしける
たちながらきてだに見せよをみ衣あかぬむかしの忘がたみに
天暦御哥
秋夜きりぎりすをきくといふ題をよめと、人びとにおほせられて、おほとのごもりにけるあしたに、そのうたを御覧じて
秋の夜のあか月がたのきりぎりすひとづてならできかまし物を
中務卿具平親王
秋雨を
ながめつゝわがおもふことはひぐらしにのきのしづくのたゆるよもなし
能宣朝臣 題しらず [被出之]
みづくきのあとにのこれる玉の声いとゞもさむき秋の風哉
小野小町
こがらしの風にもみぢて人しれずうきことの葉のつもる比かな
皇太后宮大夫俊成
述懐百首哥よみける時、紅葉を
嵐ふくみねのもみぢの日にそへてもろくなりゆくわが涙哉
崇徳院御哥
題しらず
うたゝねはおぎふく風におどろけどながき夢ぢぞさむる時なき
宮内卿
竹の葉に風ふきよはるゆふぐれのものゝ哀は秋としもなし\
和泉式部
ゆふぐれは雲のけしきをみるからにながめじとおもふ心こそつけ
くれぬめりいくかをかくてすぎぬらん入あひのかねのつくづくとして
西行法師
またれつる入あひのかねのをとすなりあすもやあらばきかんとすらん
皇太后宮大夫俊成
暁の心をよめる
あか月とつげの枕をそばだてゝきくもかなしき鐘のをと哉
式子内親王
百首哥に
あか月のゆふつけどりぞ哀なるながきねぶりをおもふ枕に
和泉式部
あまにならんとおもひたちけるを、人のとゞめ侍ければ
かくばかりうきをしのびてながらへばこれよりまさる物もこそおもへ
題しらず
たらちねのいさめし物をつれづれとながむるをだにとふ人もなし
大僧正行尊
くまのへまいりておほみねへいらんとて、としごろやしなひたてゝ侍りけるめのとのもとにつかはしける
あはれとてはぐゝみたてしいにしへはよをそむけともおもはざりけん
土御門内大臣
百首哥たてまつりし時
くらゐ山あとをたづねてのぼれどもこをおもふみちに猶まよひぬる
皇太后宮大夫俊成
百首哥よみ侍けるに、懐旧哥
むかしだにむかしとおもひしたらちねのなをこひしきぞはかなかりける\
俊頼朝臣
述懐百首哥よみ侍けるに
さゝがにのいとかゝりける身のほどをおもへば夢の心ちこそすれ
僧正遍昭
ゆふぐれにくものいとはかなげにすかくを、つねよりもあはれと見て
さゝがにのそらにすかくもおなじことまたきやどにもいくよかはへん
西宮前左大臣
題しらず
ひかりまつえだにかゝれるつゆのいのちきえはてねとやはるのつれなき
赤染衛門
野わきしたるあしたに、おさなき人をだにとはざりける人に
あらくふく風はいかにと宮木のゝこはぎがうへを人のとへかし\
和泉式部、みちさだにわすられてのち、ほどなく敦道親王かよふときゝて、つかはしける
うつろはでしばしゝのだのもりをみよかへりもぞするくずのうら風
和泉式部
返し
秋風はすごくふけどもくずの葉のうらみがほには見えじとぞおもふ
皇太后宮大夫俊成
やまひかぎりにおぼえ侍ける時、定家朝臣、中将転任のこと申とて、民部卿範光もとにつかはしける
をざゝはら風まつ露のきえやらずこのひとふしをおもひをくかな
前大僧正慈円
題しらず
世中をいまはの心つくからにすぎにしかたぞいとゞこひしき
よをいとふ心のふかくなるまゝにすぐる月日をうちかぞへつゝ
ひとかたにおもひとりにし心にはなをそむかるゝ身をいかにせん
なにゆへにこのよをふかくいとふぞと人のとへかしやすくこたへん\
おもふべきわが後のよはあるかなきかなければこそはこのよにはすめ
西行法師
世をいとふ名をだにもさはとゞめをきてかずならぬ身のおもひいでにせん
身のうさをおもひしらでやゝみなましそむくならひのなきよなりせば
いかゞすべきよにあらばやはよをもすてゝあなうのよやとさらにおもはん\
なに事にとまる心のありければさらにしも又よのいとはしき\
入道前関白太政大臣
むかしよりはなれがたきはうきよかなかたみにしのぶ中ならねども
大僧正行尊
なげく事侍けるころ、おほみねにこもるとて、同行どもゝかたへは京へかへりねなど申てよみ侍ける
おもひいでゝもしもたづぬる人もあらばありとないひそさだめなきよに
題しらず
かずならぬ身をなにゆへにうらみけんとてもかくてもすぐしけるよを
前大僧正慈円
百首哥たてまつりしに
いつかわれみ山のさとのさびしきにあるじとなりて人にとはれん
俊頼朝臣
題しらず
うき身には山田のをしねをしこめてよをひたすらにうらみわびぬる
山田法師
としごろ修行の心ありけるを、すてがたき事侍りてすぎけるに、おやなどなくなりて、心やすくおもひたちけるころ、障子にかきつけ侍ける
しづのをのあさなあさなにこりつむるしばしのほどもありがたのよや
寂蓮法師
題しらず
かずならぬ身はなき物になしはてつたがためにかはよをもうらみん
法橋行遍
たのみありて今ゆくすゑをまつ人やすぐる月日をなげかざるらん\
源師光
守覚法親王、五十首哥よませ侍けるに
ながらへていけるをいかにもどかましうき身のほどをよそにおもはゞ\
八条院高倉
題しらず
うきよをばいづる日ごとにいとへどもいつかは月のいるかたを見ん
西行法師
なさけありしむかしのみ猶しのばれてながらへまうき世にもふるかな
清輔朝臣
ながらへば又このごろやしのばれんうしと見しよぞ今はこひしき
西行法師
寂蓮、人々すゝめて百首哥よませ侍けるに、いなび侍て熊野にまうでける道にて、ゆめに、なにごともおとろへゆけど、このみちこそよのすゑにかはらぬものはあれ、なをこのうたよむべきよし、別当湛快、三位俊成に申と見侍て、おどろきながらこの哥をいそぎよみいだしてつかはしけるおくにかきつけ侍ける
すゑのよもこのなさけのみかはらずと見し夢なくはよそにきかまし
皇太后宮大夫俊成
千載集えらび侍ける時、ふるき人ゝのうたを見て
ゆくすゑはわれをもしのぶ人やあらんむかしをおもふ心ならひに
西行法師 題しらず [被出之]
ねがはくは花のしたにて春しなんそのきさらぎのもち月の比
皇太后宮大夫俊成
崇徳院に百首哥たてまつりける、無常哥
世中をおもひつらねてながむればむなしきそらにきゆる白雲
式子内親王
百首哥に
くるゝまもまつべきよかはあだしのゝすゑばのつゆに嵐たつ也
華山院御哥
つのくにゝおはして、みぎはのあしを見たまひて
つのくにのながらふべくもあらぬかなみじかきあしのよにこそ有けれ
中務卿具平親王
題しらず
風はやみおぎの葉ごとにをくつゆのをくれさきだつほどのはかなさ
蝉丸
秋風になびくあさぢのすゑごとにをく白露のあはれ世中
よの中はとてもかくてもおなじことみやもわらやもはてしなければ
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