しるらめやけふのねの日のひめこ松おひんすゑまでさかゆべしとは
この哥は、日吉社司、社頭のうしろの山にまかりて、子日して侍ける夜、人のゆめに見えけるとなん
なさけなくおる人つらしわがやどのあるじわすれぬ梅のたちえを
この哥は、建久二年のはるのころ、つくしへまかれりけるものゝ、安楽寺の梅をおりて侍ける夜のゆめに見えけるとなん
ふだらくのみなみのきしにだうたてゝいまぞさかえんきたのふぢなみ\
このうたは、興福寺の南円堂つくりはじめ侍ける時、春日のえのもとの明神、よみたまへりけるとなん
夜やさむき衣やうすきかたそぎのゆきあひのまより霜やをくらん
住吉御哥となん
いかばかりとしはへねどもすみの江の松ぞふたゝびおひかはりぬる
この哥は、ある人、すみよしにまうでゝ、人ならばとはましものをすみのえのまつはいくたびおひかはるらんと、よみてたてまつりける御返事となんいへる
むつましと君はしらなみみづかきのひさしきよゝりいはひそめてき
伊勢物語に、住吉に行幸の時、おほんかみ、げ行したまひてとしるせり
人しれずいまやいまやとちはやぶる神さぶるまで君をこそまて\
このうたは、待賢門院の堀河、山とのかたよりくまのへまうで侍けるに、かすがへまいるべきよしのゆめを見たりけれど、のちにまいらんとおもひて、まかりすぎにけるを、かへり侍けるに、託宣したまひけるとなん
みちとをしほどもはるかにへだゝれりおもひをこせよわれもわすれじ
このうたは、陸奥にすみける人の、熊野へ三年まうでんと願をたてゝまいりて侍けるが、いみじうくるしかりければ、いまふたゝびをいかにせんとなげきて、おまへにふしたりけるよのゆめに見えけるとなん
おもふこと身にあまるまでなる滝のしばしよどむをなにうらむらん
このうたは、身のしづめる事をなげきて、あづまのかたへまからんとおもひたちける人、くまのゝおまへに通夜して侍けるゆめにみえけるとぞ
われたのむ人いたづらになしはてば又雲わけてのぼるばかりぞ
賀茂の御哥となん
かゞみにもかげみたらしの水のおもにうつるばかりの心とをしれ\
これ又、かもにまうでたる人のゆめに見えけるといへり
ありきつゝきつゝ見れどもいさぎよき人の心をわれわすれめや
石清水の御哥といへり
にしのうみたつ白浪のうへにしてなにすぐすらんかりのこのよを
このうたは、称徳天皇の御時、和気清麿を宇佐宮にたてまつりたまひける時、託宣し給けるとなん
大江千古
延喜六年日本紀竟宴に、神日本磐余彦天皇
しらなみにたまよりひめのこしことはなぎさやつゐにとまりなりけん
紀淑望
猿田彦
ひさかたのあめのやへ雲ふりわけてくだりし君をわれぞむかへし
三統理平
玉依姫
とびかけるあまのいはふねたづねてぞあきつしまには宮はじめける
賀茂社の午日うたひ侍なる哥
やまとかもうみにあらしのにしふかばいづれのうらにみ舟つながん
紀貫之
神楽をよみ侍ける
をく霜にいろもかはらぬさかき葉のかをやは人のとめてきつらん
臨時祭をよめる
宮人のすれるころもにゆふだすきかけて心をたれによすらん\
摂政太政大臣
大将に侍りける時、勅使にて太神宮にまうでゝよみ侍ける
神風やみもすそ河のそのかみに契しことのすゑをたがふな
藤原定家朝臣
おなじ時、外宮にてよみ侍ける
契ありてけふみやがはのゆふかづらながきよまでもかけてたのまん
読人しらず
公継卿、勅使にて太神宮にまうでゝかへりのぼり侍けるに、斎宮の女房の中より申をくりける
うれしさも哀もいかにこたへましふるさと人にとはれましかば
春宮権大夫公継
返し
神風やいすゞ河浪かずしらずすむべきみよに又かへりこん\
太上天皇
太神宮のうたのなかに
ながめばや神ぢの山に雲きえてゆふべのそらをいでん月かげ\
神かぜやとよみてぐらになびくしでかけてあふぐといふもかしこし
西行法師
題しらず
宮ばしらしたついはねにしきたてゝつゆもくもらぬ日のみかげ哉
神ぢ山月さやかなるちかひありてあめのしたをばてらすなりけり
伊勢の月よみのやしろにまいりて、月を見てよめる
さやかなるわしのたかねの雲井よりかげやはらぐる月よみのもり
前大僧正慈円
神祇哥とてよみ侍ける
やはらぐるひかりにあまるかげなれやいすゞがはらの秋のよの月
中院入道右大臣
公卿勅使にてかへり侍ける、いちしのむまやにてよみ侍ける
たちかへり又も見まくのほしきかなみもすそがはのせゞの白浪
皇太后宮大夫俊成
入道前関白家百首哥よみ侍けるに
神風やいすゞのかはの宮ばしらいくちよすめとたちはじめけん
俊恵法師
神風やたまぐしの葉をとりかざしうちとの宮に君をこそいのれ
越前
五十首哥たてまつりし時
神かぜや山田のはらのさかき葉に心のしめをかけぬ日ぞなき
大中臣明親
社頭納涼といふことを
いすゞ河そらやまだきに秋の声したついはねの松の夕風\
よみ人しらず
香椎宮のすぎをよみ侍ける
ちはやぶるかしゐの宮のあやすぎは神のみそぎにたてるなりけり
法印成清
八幡宮の権官にてとしひさしかりけることをうらみて、御神楽の夜まいりて、さかきにむすびつけ侍ける
さかき葉にそのいふかひはなけれども神に心をかけぬまぞなき
周防内侍
賀茂にまいりて
としをへてうきかげをのみみたらしのかはるよもなき身をいかにせん
皇太后宮大夫俊成
文治六年女御入代の屏風に、臨時祭かけるところをよみ侍ける
月さゆるみたらし河にかげみえてこほりにすれる山あゐの袖
按察使公通
社頭雪といふ心をよみ侍ける
ゆふしでの風にみだるゝをとさえて庭しろたへに雪ぞつもれる
前大僧正慈円
十首哥合の中に、神祇をよめる
君をいのる心のいろを人とはゞたゞすの宮のあけの玉がき
賀茂重保
みあれにまいりて、やしろのつかさ、をのをのあふひをかけゝるによめる
あとたれし神にあふひのなかりせばなにゝたのみをかけてすぎまし
賀茂幸平
社司どもきぶねにまいりてあまごひし侍けるついでによめる
おおみ田のうるおふばかりせきかけて井せきにおとせかはかみの神\
鴨長明
鴨社哥合とて人々よみ侍けるに、月を
いしかはのせみのをがはのきよければ月もながれをたづねてぞすむ
中納言資仲
弁に侍ける時、春日祭にくだりて、周防内侍につかはしける
よろづよをいのりぞかくるゆふだすきかすがの山の峰の嵐に
入道前関白太政大臣
文治六年女御入代屏風に、春日祭
けふまつる神の心やなびくらんしでに浪たつさほのかは風
家に百首哥よみ侍ける時、神祇の心を
あめのしたみかさの山のかげならでたのむかたなき身とはしらずや
皇太后宮大夫俊成
かすが野のをどろのみちのむもれ水すゑだに神のしるしあらはせ
藤原伊家
大原野祭にまいりて、周防内侍につかはしける
ちよまでも心してふけもみぢばを神もをしほの山おろしの風
前大僧正慈円
最勝四天王院の障子に、をしほ山かきたる所
をしほ山神のしるしを松の葉にちぎりしいろはかへる物かは
日吉社にたてまつりける哥の中に、二宮を
やはらぐるかげぞふもとにくもりなきもとの光はみねにすめども
述懐の心を
わがたのむなゝのやしろのゆふだすきかけてもむつの道にかへすな
をしなべて日よしのかげはくもらぬになみだあやしき昨日けふかな
もろ人のねがひをみつのはま風に心すゞしきしでのをとかな
北野によみてたてまつりける
さめぬればおもひあはせてねをぞなく心づくしの古の夢
白河院御哥
熊野へまうでたまひける時、みちに花のさかりなりけるを御覧じて
さきにほふ花のけしきをみるからに神の心ぞゝらにしらるゝ
太上天皇
熊野にまいりてたてまつり侍し
いはにむすこけふみならすみくまのゝ山のかひあるゆくすゑもがな
新宮にまうづとて、熊野河にて
くまのがはくだすはやせのみなれざほさすがみなれぬ浪のかよひぢ\
徳大寺左大臣
白河院くまのにまうでたまへりける御ともの人びと、しほやの王子にて哥よみ侍けるに
たちのぼるしほやのけぶりうら風になびくを神の心とも哉
よみ人しらず
くまのへまうで侍しに、いはしろ王子に人々の名などかきつけさせて、しばし侍しに、拝殿のなげしにかきつけて侍し哥
いはしろの神はしるらんしるべせよたのむうきよの夢のゆくすゑ
太上天皇
くまのゝ本宮やけて、としのうちに遷宮侍しにまいりて
契あればうれしきかゝるおりにあひぬわするな神もゆくすゑの空
左京大夫顕輔
加賀のかみにて侍ける時、しら山にまうでたりけるをおもひいでゝ、日吉の客人の宮にてよみ侍ける
としふともこしの白山わすれずはかしらの雪を哀とも見よ
藤原道経
一品聡子内親王、すみよしにまうでゝ、人々うたよみ侍けるによめる
すみよしのはま松がえに風ふけばなみのしらゆふかけぬまぞなき
津守有基 奉幣使にてすみよしにまいりて、むかしすみけるところのあれたりけるを見て、よみ侍ける [被出之]
すみよしとおもひしやどはあれにけり神のしるしをまつとせしまに
能宣朝臣
ある所の屏風のゑに、十一月、神まつる家のまへに、馬にのりて人のゆく所を
さかき葉の霜うちはらひかれずのみすめとぞいのる神のみまへに
貫之
延喜御時屏風に、夏神楽の心をよみ侍ける
河やしろしのにおりはへほす衣いかにほせばかなぬかひざらん
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