[語り]
實にや安樂世界より、今此娑婆に示現して、我等が爲の觀世音、仰ぐも高し高き屋に、登りて民の賑ひを、契りおきてし難波津や、三ツづつ十ウと三ツの里、札所々々の靈地靈佛、廻れば罪も夏の雲、熱くろしとて駕籠をはや、をりはの乞目三六の、十八九なる顏世花、今咲出しの初花に、傘は被ずとも召さずとも、照日の神も男神、除けて日負はよもあらじ。頼みありける巡禮道、西國三十三所にも向ふと聞ぞ有難き。一番に天滿の大融寺。此御寺の名も古りし、昔の人も氣のとほるの、大臣の君が鹽竃の、浦を都に堀江漕ぐ、汐汲舟の跡絶えず、今も弘誓の櫓拍子に、法の玉鉾ゑい/\。大阪巡禮胸に木札の普陀落や、大江の岸に打つ波に、白む夜明の、鳥も二番に長福寺。空に眩き久方の、光に映る我影の、あれ/\走れば走る。これ/\又留れば留る。振のよしあし見る如く、心も嘸や神佛、照す鏡の神明宮。拜み廻りて法住寺。人の願ひも我如く、誰をか戀の祈りぞと、仇の悋氣や法界寺。東は如何に大鏡寺。草の若芽も春過て、遲れ咲なる菜種や罌粟の、露に憔るる夏の蟲。おのが妻戀ひ優しやすしや。彼地へ飛つれ、此地へ飛連れ、彼地やこち風ひた/\/\、羽と羽とを袷の袖、染た模樣を花かとて、肩にとまればおのづから、紋に揚羽の超泉寺。さて善道寺栗東寺。天滿の札所殘りなく、其方にめぐる夕立の、雲の羽衣蝉の羽の、薄き手拭暑き日に、貫く汗の玉造。稻荷の宮にまよふとの、闇はことはり御佛も、衆生の爲の親なれば、是ぞ小長谷の興徳寺。四方に眺めの果しなく、西に船路の海深く、波の淡路に消えずも通ふ、沖の潮風身に染む鴎、汝も無常の烟に咽ぶ。色に焦れて死ふなら、しんぞ此身は成次第。さて實に好いけいでん寺。縁に引れて又何時か、此處に高津の遍妙院。菩提の種や上寺町の、長安寺より誓安寺。上りやすな/\、下りやちよこ/\、上りつ下りつ谷町筋を、歩みならはず行きならはねば、所體くづをれア、恥しの、森で裳裾がはら/\/\、はつと翻るを打掻合せ、ゆるみし帯を引締め/\、しめて絆はれ藤の棚。十七番に重願寺。これからいくつ生玉の、本誓寺ぞと伏拜む。珠數に繋がん菩提寺や。はや天王寺に六時堂、七千餘巻の經堂に、經讀む鳥のときぞとて、餘所の待宵きぬ%\も、思はで辛き鐘の聲、こん金堂に講堂や、萬燈院に灯す火は、影も耀く蝋燭の、しん清水にしばしとて、軈て休らふ逢坂の、關の清水を汲上つ、手に掬び上げ口嗽ぎ、無明の酒の醉さます、木々の下風ひや/\と、右の袖口左の袖へ、通る烟管に燻る火も、道の慰み熱からず。吹て亂るる薄烟、空に消えては是も亦、行衞も知らぬ相思草、人忍ぶ草道草に、日も傾きぬ急がんと、又立出る雲の脚。時雨の松の下寺町に、信心深き眞光寺。覺らぬ身さへ大覺寺。さて金臺寺大蓮寺。廻り/\て是ぞはや、三十番にみつ寺の、大慈大悲の頼みにて、かくる佛の御手の糸。白髪町とよ黒髪は、戀に亂るる妄執の、夢を覺さんばくらうの、此處も稻荷の神社。佛神水波のしるしとて、甍竝べし新御靈に、拜みおさまるさしもぐさ。草のはす花世にまじり、三十三に御身をかえ、色で導き情で教へ、戀を菩提の橋となし、渡して救ふ觀世音。誓ひは妙に三重有難し。立迷ふ浮名を餘所に漏さじと、包む心の内本町。焦るる胸の平野屋に、春を重ねし雛男。一ツなる口桃の酒、柳の髪もとく/\と、呼れて粹の名取川。今は手代と埋木の、生醤油の袖したたるき、戀の奴に荷はせて、得意を廻り生玉の、社にこそは著にけれ。出茶屋の床より女の聲、