Title: Gosen wakashu [Book 2]
Author: Anonymous
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Note: We consulted Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) for reference.
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About the original source:
Title: Kokka taikan
Author: Anonymous
Publisher: Tokyo: Kadokawa Shoten, 1951



後撰和歌集卷第二
春歌中

藤原扶幹朝臣

年老いて後梅の花植ゑてあくる年の春おもふところありて


植ゑし時花見むとしも思はぬに咲散るみれだよはひ老に鳬




藤原伊衡朝臣

閨の前に竹のある所に宿り侍りて


竹近くよどこ寐はせじ鶯の鳴くこゑきけば朝いせられず




僧正遍昭

大和のふるの山をまかるとて


いそのかみふるの山べの櫻花うゑけむ時をしる人ぞなき




素性法師

花山にて道俗酒たうべける折に


山守はいはゞいはなむ高砂のをのへの櫻をりてかざゝむ




讀人しらず

面白き櫻を折りて友だちのつかはしたりければ


櫻ばな色はひとしき枝なれどかたみに見れば慰まなくに




伊勢

返し


見ぬ人の形見がてらは折らざりき身に准へる花にし非ねば




讀人しらず

櫻の花をよめる


吹く風をならしの山の櫻花長閑くぞ見るちらじと思へば




坂上是則

前栽に竹の中に櫻の咲たるを見て


櫻ばなけふよく見てむ呉竹の一よの程にちりもこそすれ




讀人しらず

題しらず


櫻ばな匂ふともなく春くればなどか歎きの繁りのみする




河原左大臣

貞觀の御時弓のわざつかうまつりけるに


けふ櫻雫に我がみいざぬれむ香ごめに誘ふ風のこぬまに




菅原右大臣

家より遠き所にまかる時前栽の櫻の花にゆひつけ侍りける


櫻ばな主を忘れぬものならばふきこむ風にことづてはせよ




伊勢

春のこゝろを


青柳の絲よりはへておるはたをいづれのやまの鶯かきる




凡河内躬恒

花のちるを見て


相思はで移ろふ色をみる物を花にしられぬ眺めするかな




讀人しらず

歸る雁をきゝて


歸るかり雲路にまどふ聲すなり霞ふきとけこのめ春かぜ




大將御息所

朱雀院の櫻の面白き事と延光朝臣のかたり侍りければ見るやうもあらまし物をなど昔を思ひ出でゝ


さきさかず我になつげそ櫻花人傳にやはきかむと思ひし




讀人しらず

題しらず


春くれば木隱れ多き夕づく夜覺束なくもはなかげにして





たち渡る霞のみかは山たかみ見ゆる櫻のいろもひとつを





大空におほふばかりの袖もがな春さくはなを風に任せじ




やよひのついたちごろに女に遣はしける


歎きさへ春をしるこそ侘しけれもゆとは人に見えぬ物から




春雨のふらばおもひのきえもせでいとゞなげきのめをもやすらむといふ古歌の心ばへを女にいひ遣はしたりければ


もえ渡る歎きは春のさがなれば大方にこそ哀れともみれ




藤原師尹朝臣

女のもとにつかはしける


柳のいとつれなくも成行くかいかなる筋に思寄らまし




衛門の御やす所の家うづまさに侍りけるにそこの花面白かなりとて折りにつかはしたりければきこえたりける


山里にちりなましかば櫻ばな匂ふ盛りもしられざらまし




御かへし


匂ひこき花の香もてぞしられける植ゑてみるらむ人の心は




藤原朝忠朝臣

小貳につかはしける


時しもあれ花の盛につらければ思はぬ山に入やしなまし




かへし


我ために思はぬ山のおとにのみ花盛りゆく春をうらみむ




宮道高風

題しらず


春の池の玉藻に遊ぶにほ鳥の足のいとなき戀もするかな




藤原興風

寛平の御時花の色霞にこめて見せずといふ心をよみて奉れとおほせられければ


やま風のはなの香かどふ麓には春の霞ぞほだしなりける




讀人しらず

題しらず


春雨のよにふりにたる心にもなほ新しくはなをこそ思へ




京極の御やす所におくり侍りける


春霞たちてくもゐになりゆくは雁の心のかはるなるべし




題しらず


ねられぬを強ひて我ぬる春の夜の夢を現になす由もがな




忍びたりける男の許に春行幸あるべしと聞きて裝束一くだりてうじて遣はすとて櫻色の下襲に添へて侍りける


我宿の櫻の色はうすくともはなの盛りはきてもをらなむ




兼覽王

忘れ侍りにける人の家に花をこふとて


年をへて花の便りにこととはゞ最ど仇なる名をや立ちなむ




春道列樹

呼子鳥を聞きて隣の家におくり侍りける


わが宿の花にな鳴きそ呼子鳥よぶかひありて君もこなくに




紀貫之

壬生忠岑が左近のつかひのをさにて文おこせて侍りけるついでに身を恨みて侍りける返事に


ふりぬとていたくな侘そ春雨の唯にやむべき物ならなくに