坂上つねかげ
ある所にあふみといふ人をいと志のびて語らひ侍りけるを夜あけてかへりけるを人見てさゝやぎければその女の許につかはしける
鏡山あけてきつれば秋霧のけさや立つらむ近江てふ名は
平まれよの朝臣希世
あひ志りて侍る女の人にあだ名たち侍りけるに遣はしける
枝もなく人にをらるゝ女郎花ねをだに殘せ植ゑし我が爲
藤原成國
人の許にまかりて侍るに呼び入れねばすのこにふしあかしてつかはしける
秋の田の假初めぶしも志てけるか徒いねを何につまゝし
中務
平かねきがやう/\かれがたになりにければつかはしける
秋風の吹くにつけても訪ぬ哉荻の葉ならば音は志てまし
讀人志らず
とし月をへてせをそこしはべりける人につかはしける
君見ずていくよ經ぬらむ年月のふると共にもおつる涙か
女につかはしける
中々に思ひ懸けては唐衣身になれぬをぞうらむべらなる
かへし
恨む共かけて社みめ唐衣身に馴れぬればふりぬとかきく
人につかはしける
歎け共かひなかりけり世の中に何に悔しく思ひそめけむ
承香殿中納言
忘れがたになり侍りける男に遣はしける
こぬ人を松のえに降る白雪の消えこそ返れくゆる思ひに
讀人志らず
忘れ侍りにける女に遣はしける
菊の花うつる心をおく霜にかへりぬべくも思ほゆるかな
かへし
今はとて移り果てにし菊の花かへる色をば誰かみるべき
人の娘にいと忍びて通ひ侍りけるにけしきを見て親のまもりければ五月なが雨の頃つかはしける
眺してもりも侘びぬる人め哉いつか雲まのあらむとす覽
まだあはず侍りける女の許に志ぬべしといへりければ返事に早や死ねかしといへりければ又遣はしける
同じくば君とならびの池に社身を投げつとも人に聞せめ
女につかはしける
陽炎の仄めきつれば夕暮のゆめかとのみぞ身を辿りつる
かへし
仄見てもめ馴れに鳬と聞くからに臥返り社志なま欲けれ
源よしの朝臣善
せをそこ志ば/\遣は志けるを父母侍りてせいし侍りければえあひ侍らで
近江てふ方の知邊もえてしがなみるめなきこと行て恨みむ
春澄善繩朝臣女
かへし
逢坂の關とめらるゝ我なれば近江てふらむ方も知られず
よしの朝臣
女のもとに遣はしける
足引の山した水のこがくれてたぎつ心をせきぞかねつる
讀人志らず
かへし
木隱れてたぎつ山水孰れかはめにしもみゆる音に社きけ
貫之
人の許より歸りて遣はしける
曉のなからましかば白露のおきてわびしき別れせましや
讀人志らず
かへし
おきてゆく人の心を白露の我れこそまづは思ひきえぬれ
女の許に男かくしつゝよをやつくさむ高砂のといふことをいひ遣はしたりければ
高砂の松といひつゝ年をへて變らぬ色ときかばたのまむ
貫之
人のむすめのもとに忍びつゝ通ひ侍りけるを親聞きつけていといたくいひければかへりてつかはしける
風を痛みくゆる煙の立ちいでゝ猶こりずまの浦ぞ戀しき
讀人志らず
はじめて女の許に遣はしける
いはねども我が限りなき心をば雲居に遠き人も知らなむ
題志らず
君がねにくらぶの山の時鳥何れあだなるこゑまさるらむ
消息通はしける女おろかなるさまに見えはべりければ
戀ひてぬる夢路に通ふ魂のなるゝかひなくうとき君かな
女につかはしける
篝り火にあらぬ思のいかなれば涙の川にうきてもゆらむ
人のもとにまかりて朝につかはしける
待暮す日は菅の根に思ほえて逢夜しもなど玉の緒ならむ
大江千里まかり通ひける女を思ひかれがたになりて遠き所にまかりわたるといはせて久しうまからずなりにけり。此女思ひわびてねたる夜の夢にまうできたりと見えければうたがひにつかはしける
儚かる夢のしるしにはかられて現にまくる身とや成りなむ
かくて遣はしたりければ千里見侍りて誠にをとゝひなむ歸りまうでこしかど心地のなやましくてなむありつるとばかりいひ送りて侍りければかさねて遣はしける
思寢の夢といひてもやみなまし中々何にありとしりけむ
忠房朝臣
大和の守に侍りける時かの國の介藤原清秀がむすめをむかへむと契りておほやけごとによりてあからさまに京に上りたりける程に此むすめ眞延法師に迎へられてまかりにければ國に歸りてたづねてつかはしける
早晩のねに鳴き歸りこしか共野べの淺茅は色付きにけり
せをそこ遣はしける女の返事にまめやかにしもあらじなどいひて侍りければ
引き繭のかく蓋籠りせまほしみ桑こき垂て泣を見せばや
讀人志らず
ある人のむすめあまたありけるを姉よりはじめていひ侍りけれどきかざりければ三にあたる女に遣はしける
關山の峯の杉村過ぎ行けどあふみは猶ぞはるけかりける
あさたゞの朝臣久しう音もせで文おこせて侍りければ
思ひ出でゝおとづれしける山彦の答へにこりぬ心何なり
いと忍びてまかりありきて
睡ろまぬ物からうたて志かすがに現にもあらぬ心地のみする
かへし
現にもあらぬ心は夢なれや見てもはかなきものを思へば
小野道風朝臣
うづまさわたりに大輔が侍りけるに遣はしける
限りなく思ひ入日のともにのみ西の山べを眺めやるかな
忠房朝臣
女五のみこに
君が名の立つに咎なき身
なりせば大凡人になしてみましや
女五のみこ
かへし
絶ぬると見ればあひぬる白雲のいと大凡に思ばずもがな
敦忠朝臣
みくしげ殿にはじめて遣はしける
今日そへに暮れざらめやはと思へ共堪へぬは人の心
なり鳬
大輔
道風忍びてまうできけるに親きゝつけてせいしければつかはしける
いと斯てやみぬるよりは稻妻の光のまにも君を見てしが
朝忠朝臣
大輔が許にまうできたりけるに侍らざりければ歸りて又のあしたに遣はしける
徒らに立ちかへりにし白浪のなごりに袖のひる時もなし
大輔
かへし
何にかは袖のぬるらむ白浪のなごりありげも見えぬ心を
藏内侍
好古の朝臣に更にあはじとちかごとをして又のあしたにつかはしける
誓ひても猶思ふにはまけにけりたが爲惜しき命ならねば
道風
忍びてまかりけれどあはざりければ
難波女にみつとはなしに芦のねのよの短くて明る侘しさ
物いわむとてまかりたりけれどさきだちてむねもちが侍りければ早歸りねといひ出して侍りければ
かへるべき方も覺えず涙川いづれか渡るあさ瀬なるらむ
大輔
かへし
涙川いかなるせより歸り劍み馴るゝみをも怪しかりしを
敦忠朝臣
大輔がもとに遣はしける
池水の云出る事の難ければみごもりながら年ぞへにける