甘輝
オヽ、御不審な尤も。全く某無法にあらず、狂氣にも候はず。昨日韃靼王より某を召して、この頃日本より和藤内といふえせ者、下劣の身を以て、智謀軍術逞しく、韃靼王を傾け、大明の世に飜さんとこの土に渡る。彼れが討手誰れならんと、數千人の諸侯のうちより、この甘輝を選り出され、散騎將軍の官に任じ、十萬騎の大將を賜はる。然るに和藤内は我が妻の弟なりと夢にも知らず、彼奴日本に傳へ聞く、楠とやらんが肝膽を出で、朝比奈辨慶とやらんが勇力あるとも、我れ又孔明が脹に分け入り、樊
項羽が骨隨を借つて、一戰に退つて退ひまくり、和藤内が月代首提げて來らんと、廣言を吐きし某が。