三婦
ハテ、人の大事な娘、誘拐したと云はれては、磯之丞どの男が立たぬ。首を縊つた傳八めに、何も彼もなすり附けて、金の事までさらりと濟まし、仲買の彌市を殺した事は、彼の書置でしてやつたと思つたところが、嫌な風説があるて。コレ、お二人も聞かつしやりませ。その書置の手が、傳八の手蹟で無いと、一家一門が云ひ出して、御詮議を願ふとの噂ゆゑ磯之丞さまを大坂の地には置かれまいと、九郎兵衞も氣が附き、おれもさう思へども、差當つて立退かうと云ふ當途もなくやられもせまい。ハテ、どこぞよい處がありさうなものだ。イヤ、さうして端近へ出て、人に顏を見られては惡い、殊に琴浦どのなどは、目がける者があれば猶の事。女房どもも女房どもだ。なぜ此やうに店先へ。