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Sotoba Komachi
Kan'ami

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University of Virginia Library.
Charlottesville, Va.

Japanese, KanSoto

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1997

Japanese Text Initiative

Produced by the Japanese Text Initiative at the University of Virginia and the University of Pittsburgh.
About the print version
Takasago
Yokyoku hyoshaku, volume 4
Kan'ami
Editor Tateki Owada


Hakubunkan
Tokyo
1907-1908
Print copy consulted: OCLC # 15420640

Prepared for the University of Virginia Library Electronic Text Center.


Revisions to the electronic version
September 1997 corrector Catherine Tousignant, Electronic Text Center
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卒都婆小町

觀阿彌



小町ものの一つにて。天下の美人なりし小野小町も。年老いて世に見捨 てられて零落し て物乞ひ歩く樣を。玉造といふ書に本づきて作れり。まづ卒都婆に腰か けたるより。僧 と佛法の問答を起こして僧をさへに敬服せしめ。戯れの歌などよみて驕 慢の心いにしへ に立ち歸りたりしに。忽ち少将の靈に附かれて物狂 なり。少将が死  しめたるを悔ゆ る心が菩提の種となりて。遂に佛果を得るといふ趣向なり。小町の事を 作れるもの。他 に通小町もあり。草子洗小町もあり。鸚鵡小町もあれば關寺小町もある をもて。區別し て卒都婆小町と名づく。深草少将の事は。「通小町」の處にいへるを見 るべし。


ワキ
高野山の僧
ワキツレ
同伴僧:
シテ
小野小町

地は

山城

季は





ワキ次第
   「きにれがの。山は 淺きに隠れがの。きやなるらん。






      「これは高野山 よりでたる にてこのたび にのぼらばやと





サシ
     「それ前佛 り。 後佛はいまだでず。





ワキ、ツレ
  「中間て。ふ べ き。たまたま人身け。如來佛教 。これぞりのなると。





下歌
     「思ふ もひとへなる。をなし て。





上歌
     「れぬ さきのれば。生 れぬさきの身を知れば。むべき もなし。のなければために。むるもなし。千里くもからず。の。 これぞのすみかなる。これぞ誠のすみかなる。





シテ次第
   「浮草をさそふ。身は 浮草をさそふ水。なきこそしかりけ れ。





サシ
     「あはれやげにいにしへは。 驕慢もつともしう。翡翠のかんざしは婀娜とたを やかにして。楊柳になびくがし。 また鶯舌りは。 める糸萩の。かごとばかりに りそむる。よりもなほめづらしや。 民間賤 にさへなまれ。諸人をさらし。うれし からぬ月日身つ て。百年りて





下歌
     「人目つつましや。もしもそれとか まぐれ。





上歌
     「も ろともにでて く。月もろともに出でて行く。雲井百敷 や。大内山山守 も。かかる はよもめじ。がくれてよし なや。鳥羽戀塚秋 河 瀬舟ぎゆくやらん。漕ぎゆく人は誰やらん。





シテ詞
    「あまりにしう候ふほどに。これなる 朽木けてまばやと思ひ





ワキ詞
    「なふはや日 れて候ふ 急がうず るにて。や。これなる乞食 かけたるは。しく卒都婆にて教化してのけうずるにて 。いかにこれなる乞丐人 。お かけたるは。かたじけなくも佛體色性 卒都婆にてはきか。そ こたちのきて候へ





シテ
     「佛體色性 のかたじけなきとは宣へども。 ほどに文字 えず。めるもなし。ただ朽木とこそ えたれ。





ワキ
     「たとひ深山 朽木なりとも。花 咲きしはかくれもなし。 いはんや佛體める 。などかしるしのなかるべき。





シテ
     「しき埋 木なれど も。のまだ れば。手向になど かならざらん。さて佛體たるべき 如何 に。





ワキツレ
   「それ卒都婆 金剛薩た。かりに 出假して三摩耶形 行ひ給ふ





シテ
     「行ひ なせる如何に。





ワキ
     「地水火風空





シテ
     「五體五輪 しにあるべき ぞ。





ワキ、ツレ
  「は それに違はずとも。心功徳は かはるべし。





シテ
     「さて卒都婆 功徳如何 に。





ワキ
     「一見卒都婆永 離三惡道。





シテ
     「一年發起菩提 心。それも如何でかるべき。





ツレ
     「菩提心 あらばなど浮世をばはぬぞ。





シテ
     「姿をも厭 はばこそ。 こそへ。





ワキ
     「な きなればこそ。佛體 をばらざるらめ。





シテ
     「佛體ればこそ卒都婆 にはづきたれ。





ツレ
     「さらばなどをばさで きたるぞ。





シテ
     「とてもしたる此卒都婆むはし いか。





ワキ
     「それは順縁 にはづれたり。





シテ
     「逆縁 なりとぶべし。





ツレ
     「堤婆惡も。





シテ
     「觀音慈悲





ワキ
     「槃特愚癡も。





シテ
     「文珠知惠





ツレ
     「云ふも。





シテ
     「な り。





ワキ
     「煩惱といふ も。





シテ
     「菩提 なり。





ツレ
     「菩提 もと。





シテ
     「植木 にあらず。





ワキ
     「明鏡 また。





シテ
     「し。






      「げに本來一物 なきは。衆生なし。も とより愚癡凡夫 を。救はめの 方便の。誓ひなれば。 逆縁なりとかぶ べしと。ねんごろにせば。れる非人なりとて。につけて。 三度禮給へば。





シテ
     「此時力。なほ れのをよむ。 極樂ならばこそ しからめ。かはしかるべ き。






      「むつかしの教化や。むつかしの僧の教 化や。





ワキ詞
    「さて御事 如何なる御 名のり候へ





シテ詞
    「はづかしながらの り候ふべし。これは出羽郡司小野良實がむ すめ。小野小町れる果 にてさぶらふ なり。





ワキ、ツレ
  「いたはしやな 小町は。さもいにしへは優女 にて。のかたちかかやき。黛青うして。白粉えさず。羅綾衣多うして。桂殿りしぞか し。





シテ
     「を よみり。






      「を すすむるは。漢月袖 なり。まことなる有樣の。いつほどにきかへて。には霜蓬をいただき。 嬋妍たりし兩 鬢も。 にかじけてみ だれ。艶々たりし雙蛾 も。遠山失ふ百年 一年足らぬつくもかる思ひ有明 の。はづかしき我身かな。





ロンギ地
   「けたるには。 如何なるれたるぞ。





シテ
     「今日らねども。 明日ゑをけんと。粟豆 を。れてちたるよ。






      「うしろにへるには。





シテ
     「垢膩つけるあり。






      「に かけたるあじかには。白黒田烏子あり。






      「





シテ
     「やぶれ






      「ば かりもさねば。





シテ
     「まして霜雪雨 露






      「なみだをだにも抑ふべき。もあらばこそ。路頭乞ひ乞ひ 惡心。また狂 亂つきて。聲 かはりけし からず。





シテ
     「なふ物給べな ふ御僧なふ





ワキ詞
    「何事 ぞ。





シテ詞
    「小町 がもとへ通はうよなふ





ワキ
     「おことこそ小 町よ。とてなきをば すぞ。





シテ
     「いや小町 いふ人は。あまりにう て。あなたの 玉章こなたの。か きくれて五月雨 の。空言なりとも一度 返事もなうて。いき 百年るがうて。あら人戀しや。 あら人こひしや。





ワキ
     「人こひ しいとは。さておには 如何なる者のつ きそひてあ るぞ。





シテ
     「小町けしにも。深草 四位少將 の。






      「み ののめぐりて。 のしじに通はん。 何時 夕暮こそ通路 の。關守はありとも。まる まじやた ん。





シテ
     「淨衣かいとつて。






      「淨衣かいとつて。立烏帽子 風折り。狩衣 をうちかついで。人目しのぶの通 路の。 にもにもく。も。時雨雪深し。





シテ
     「玉水とくとくと。






      「行きてはかへ りかへりてはき。 一夜二夜三夜四夜七夜八夜九夜 節會にも。逢は でぞかよふ 庭鳥の。時をもかへ ずの。 のはしがき。百夜までと 通ひゐて。九十九夜になり たり。





シテ
     「あら目まひや。






      「く るしやとしみて。一夜 たでし たりし。深草少將 の。その怨念添ひて。かやうにには狂はするぞや。






  「これにつけてもを。 願ふなりける。ねて。黄金 こまやかに。手向 けつつ。りのらうよ。悟りの道に入らうよ。