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Nonomiya
Zeami

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ZeaNono

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1997

Japanese Text Initiative

Produced by the Japanese Text Initiative at the University of Virginia and the University of Pittsburgh.
About the print version
Nonomiya
Yokyoku hyoshaku, volume 4
Zeami
Editor Tateki Owada


Hakubunkan
Tokyo
1907-1908
Print copy consulted: OCLC # 15420640

Prepared for the University of Virginia Library Electronic Text Center.


Revisions to the electronic version
September 1997 corrector Catherine Tousignant, Electronic Text Center
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野宮

世阿彌



源氏物の一つにて。六條の御息所の事を作れる謠なり。御息所は。 何がし東宮の御 息所なりしが。東宮早世し給ひて後。京の六條京極といふ處に住み給ひ しをもて。六條 の御息所と呼ばれ給ひ。忘れ形見の姫宮一人持ち給へり。いつよりの事 にか光源氏の 君。忍び忍びに通ひ給ひて。御息所と深き御中にならせ給ひしに。それ もやうやう疎々 しくなり行きたる頃。本より源氏の君には葵上と申す御本妻ありて。左 大臣の娘にて勢 も強かりしが。ある年加茂祭見に出でたりし時。同じく御息所も出で給 ひし其御車を。 葵上の車も同じ所に立てんとするより。事起りて。その下人共。轅も打 ち折りなどしつ つ。さんざんに恥見せ參らせたる事あり。兼ねての嫉妬心の上に。此恨 みまで加はり て。御息所の生靈は懐妊したる葵上を惱まし遂に取り殺しぬ。源氏は餘 りの事に覺へ て。御息所を疎んじ。いよいよ御中枯れがれになりて。頼み少なく見え しかば。其頃姫 宮の齋宮に立ちて伊勢の國に下らんとし給ふに。御身もつきそひ行かん とて。姫宮の御 身を清めゐ給ふ野の宮に。御母御息所も籠りゐ給ひしを。源氏の君の訪 れ給ひしは。九 月七日の事なりき。此一段の物語は榊巻にあり。


ワキ
旅僧
シテ
貴女

ワキ
前に同じ。
シテ
六條御息所

地は

京都

季は

九月




ワキ詞
   「諸國一見にて 我 此ほどは 候 ひ て。洛陽名所舊 跡殘りなく一見仕りて 又秋 になり候 へば。 嵯峨野ゆか しく候ふあひだちこえ一見せばやと思ひなるねて候へば。舊跡 とかや候ふ ほどに。 逆縁ながら一見 せばやと思ひ 。われ此森見れば。黒 木鳥居小柴垣昔にかはらぬ 有樣なり。こはそも何といひたるやら ん。よしよしかかる時節參りあひて。すぞありがたき。






     「伊勢神垣隔てなく。教へすぐに。ここにねて 宮所。こころもめる べかな。こころも澄める夕べかな。





シテ次第
  「の。花に馴れ來し 野の宮の。より如何ならん。





サシ
    「をりしもあれのさびしき秋暮れて。 しをりゆくくなるまぐれ。 はおのづ から。千草花にうつ ろひて。衰ふ 身のならひかな。





下歌
    「こ そらね今日ごと に。り。





上歌
    「の。木枯秋ふけて。森の木枯秋ふけて。にしむ消えかへり思へ古へを。ぶの草衣てしもあらぬに。るこそみなれ。行き歸るこそ恨みなれ。





ワキ詞
   「われ此森 古へ思ひますをりふ し。いとなまめける女性一人忽然給ふ は。いかなる にてましますぞ。





シテ詞
   「いかなるぞと問は給ふ 。そなたをこそ問ひらすべけれ。古へ齋 宮たせ給ひ の。りますなり。れども 其後此事たえ ぬれども。長月七日 今日思ふ年々 に。こそらねどころをめ。御神事をなすに。行方 らぬ御事 なるが。 給ふははば かりあり。とくとく給へとよ。





ワキ
    「いやいやしからぬ。行末もさだめなき。 捨人 なるべし。さてさてここはりにし今日 毎に。思ひ 給ふいはれは いかなる事やらん。





シテ
    「源氏この給ひしは。 長月七日けふ日 れり。其時 いささか 給ひを。いがきのにさし 給へ ば。御息所とりあへず。神垣 はしるしの杉もなきを。いかにまがへて折 れるぞと。よみ給ひ しも今日ぞかし。





ワキ
    「げに面白 の。今持給ふ も。昔にかはらぬ色よ なふ





シテ
    「昔にかは らぬぞとは。のみこそ常磐の。





ワキ
    「下道秋暮れて。





シテ
    「紅葉 かつり。





ワキ
    「淺茅 も。






     「うらがれの。草葉るるの。草葉に荒 るる野の宮の。なつかしきここ にしも。其長月七 日も。今日 にめぐり にけり。ものはかなしや小柴垣。いとかりそめの御 住居火 燒屋のかすかなる。我思ひにある。 えつらん。あらさびし宮所。あらさびしみやどころ。





ワキ
    「猶々御息 所のいはれ 御物語候へ





地クリ
   「そもそも 此御息所すは。桐壷御弟前坊 りしが。めく色香まで。妹脊あさからざりしに。





シテサシ
  「會者定離 のならひもとよりも。






     「 くべしや と。ほどなくおくれ給ひけり。





シテ
    「さてしもあらぬの。






     「源氏のわりなくも。びにふ。





シテ
    「のなどやらん。






     「また絶々 になりしに。





クセ
    「つらきには。さすがに給は ず。けきに。給ふ 御心。いと物あはれ なりけりや。みな衰 へて。 もかれ がれに。松吹きまでも。さびしき すがら。しみもな し。かくてここに。でさせ給ひつ つ。けをかけて 樣々の。言葉色々 の。御心内 ぞあはれ なる。





シテ
    「其後桂 御祓






     「白木綿 かけて河波の。浮草のよるべなき。 誘はれて。ゆくへも鈴鹿川 八十瀬にぬれぬれず。伊勢まで 思は んの。 添ひゆく も。ためしなきの。多 氣都路におもむきし。 こそみなりけ れ。





ロンギ他
  「げにやいはれをくからに。唯人な らぬ御氣色其名 のり給へ や。





シテ
    「 のりても。かひなき身とてはづか しの。りてやよそにら れまし。よしさらば其名も。なき ぞとはせ給へや。






     「なきけば不思議 やな。さては此世をはかな くも。





シテ
    「 りてしきの。






     「御息所 は。





シテ
    「 なりと。






     「夕暮 れの夕月夜 かすかなるの。黒 木鳥居二 柱に。ちかくれて せにけり。跡立 ちかくれせにけり。(中入)





ワキ歌
   「かたしくや。木陰苔衣 。森の木陰の苔衣。なるむしろ。思ひべてもすがら。彼御跡弔ふとかや。彼御跡を弔ふとかや。





後ジテ
   「の。千草花車 。われも にめぐりにけ り。





ワキ
    「ふしぎやなのひかりもかなる。 づくを。れば網代 すだれ。思 ひかけざ る有様なり。いかさま 疑ふもなく。 御息所にてましますか。さもあれ如何なる やらん。





シテ詞
   「いかなる問は給へ ば。でたり其昔加茂 祭の車あらそひとも 白露の。





ワキ
    「せ きまでてならぶる。





シテ
    「物見車 のさまざまに。めくの。





ワキ
    「御車 とてひ。 ちさわぎたる なかに。





シテ
    「小車も。なしとへて きたる。





ワキ
   「前後に。





シテ
    「ばつとりて。






     「人々轅 きつつ。人だまひしやられて。 物見車もな き。のほどぞ思ひ られたる。よしや へば何 事も。 いのによ もれじ。猶牛小車 の。めぐりめぐりていつまでぞ。 妄執らし給へや。妄執を晴らし給へや。





シテ
    「思ふ






     「 にと氣色か な。(序の舞)





シテ
    「の。ふらん。






     「影淋 しくも下露 。杜の下露。





シテ
    「あはれ昔の。






     「 のたたずまひ。





シテ
    「よそにぞかはる。





     「氣色 なる。





シテ
    「小柴垣






     「 うちはらひ。訪はれし其人も。唯 夢とふりゆくなるに。誰松虫はりんりんとして。 風茫々たるすがら。な つかしや。(破の舞)ここはもとよりくも。 神風や。伊勢内外の。鳥居 る。姿生死 を。けずや思 ふらんと。またにうち りて。火宅をやでぬ らん。火宅