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Semimaru
Zeami

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Charlottesville, Va.

ZeaSemi

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1997

Japanese Text Initiative

Produced by the Japanese Text Initiative at the University of Virginia and the University of Pittsburgh.
About the print version
Semimaru
Yokyoku hyoshaku, volume 9
Zeami
Editor Tateki Owada


Hakubunkan
Tokyo
1907-1908
Print copy consulted: OCLC # 15420640

Prepared for the University of Virginia Library Electronic Text Center.


Revisions to the electronic version
September 1997 corrector Catherine Tousignant, Electronic Text Center
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蝉丸

世阿彌



逢坂山の盲人蝉丸は琵琶の秘曲を傳へたれば。いかで之を聽かばやと思ひ。三年の間。 夜々しのびしのびに通ひて。つひに其志を遂げたる事。今昔物語などに見ゆ。之を翻案 して。逆髪といふ狂女の姉宮に訪はれたる事の。あはれなる物語に作りかへたるなるべ し。彼物語には。蝉丸を宇多天皇の皇子。式部卿敦實親王の宮の雑色とし。平家物語源 平盛衰記などには延喜の皇子とせり。曰く。「ここは昔し。延喜第四の皇子蝉丸の。關 の嵐に心を澄まし。琵琶を弾き給ひしに。博雅の三位といひし人。風の吹く日も吹かぬ 日も。雨の降る夜も降らぬ夜も。三年が間歩みを運び。立ち聞きて。彼三曲を傳へけ ん。藁屋の床の古へも。思ひやられてあはれなり。」と。


ワキ
官人
ツレ
蝉丸の宮
シテ(女)
逆髪の宮

地は

近江

季は




Keene


ワキ次第
  「めなき 中々に。定めなき 世の中々に。みなるらん。





ワキ
    「延喜第四御子蝉丸宮にておはします。 にや何事りける浮世かな。前世戒行いみじくて。今皇子 とは給へども。 襁襁よりなどや らん。兩眼盲ひましまして。蒼天月日りなく。闇夜燈暗うして。五更なし。かしらさせ給ふに。帝如何なる叡慮やらん。具足り。逢坂山し。御髪をおろしれとの。 綸言出でてらね ば。御痛はしさは りなけれども。勅諚なればなく。





下歌
    「足弱車忍路 を。雲井のよそにらして。





上歌
    「東雲の。 名殘都路を。空も名殘の都路を。今日出 めてい つか。らん片糸の。よるべなき行方。さなきだには。浮木 て。盲龜闇路たどりく。迷ひちのぼる。逢坂山きにけり。逢坂山に着きにけり。





蝉丸詞
   「如何清貫





ワキ詞
   「御前





蝉丸
    「さてを ば此山くべきか。





ワキ
    「さん候宣旨 にて候ふ に。までは御供申し て候へども。くに すべきやらん。さるにても我君 は。堯舜より此方 れむ御事なるに。かやうの叡廬 し たる御事やらん。かかるひもよらぬ候は じ。





蝉丸詞
   「あら清貫言ひやな。より盲目るる前世戒行拙なり。されば父帝も。 山野てさせ 給ふ御情なきにはたれど も。此世にて過去業障し。けんとの御謀こそ慈悲よ。あらくまじの勅諚やな。




Keene


ワキ詞
   「宣旨に て候ふに。御髪をおろし





蝉丸詞
   「云ひたるぞ。





ワキ
    「御出家とめでたき御事 にてらせ給ひ





蝉丸
    「にや かうくわん髻 り。だんにす と。のせいしが しけるも。かやうの姿にてりけるぞや。





ワキ
    「此御有樣 にては。中々盜人れもるべければ。御衣賜はつて云ふものをらせ





蝉丸
    「による田簑とよみきつる。 云ふか。





ワキ
    「又雨露御爲めなれば。 じくらする。





蝉丸
    「御侍御笠せとよ みきつる。云ふ物よなふ





ワキ詞
   「又此杖御道しるべ。御手たせ給ふべし。





蝉丸
    「くからに。千年をもえなんと。彼遍昭がよみしか。




Keene


ワキ
    「それは千年 坂行





蝉丸
    「ここは逢坂山の。





ワキ
    「ざしの藁屋の。





蝉丸
    「杖柱と もみつる。





ワキ
    「父帝に は。





蝉丸
 「てられ て。






     「かかる逢坂 の。るもらぬも 是見よや。延喜皇子の。てぞしき。行人征馬數々りの旅衣をしをりて村雨の。 名殘かな。振り捨 て難き名殘かな。さりとては。いつをりに有明の。きぬさえつつ。早歸るさにりぬれ ば。皇子唯獨り。御身添ふのとては。 琵琶きて ち。びてぞ給ふ。臥し轉びて ぞ泣き給ふ。





シテサシ
  「延喜段四御子逆髪とは我事なり。 我皇子とはるれど も。いつの因果 やらん。より より狂亂して。邊土遠卿 狂人つて。さまに生ひ つて。づれどもらず。 如何にあれなる童部どもは笑ふぞ。何我髪さまなるが をかしいとや。さまなるはをかしいよな。さては我髪よりも。汝等にて笑ふこそさまなれ。面白面白し。是等皆人間目前境界 なり。もつて千林り。にかかつて萬水む。 是等をば皆何れか 見逆なりと 謂はん。皇子なれども庶人り。身上より生ひ つて星霜 く。是皆順逆 つなり。面白 や。をもるに。






     「にも かれず。





シテ
    「にも けられず。




Keene



     「かなぐりつるみての





シテ
    「拔頭かやあさましや。






     「でて。花の都を立ち出でて。く か鴨河や。末白河り。粟田口にもきしか ば。をか 松坂や。此方思ひしに。 になるや音羽山 の。名殘惜しの や。松虫鈴虫きりぎりすの。くや夕陰山科の。里人むなよ。狂女なれど は。清瀧川るべし。 





シテ
    「逢坂 の。清水影見えて。






     「くらん望月の。 づくか。走井影見れば。ながらあさましや。はおどろをき。みて。逆髪 うつる。夕波 の。なの我姿 や。





蝉丸
    「第一第二 索々 としてつて竦韻落つ。第三第四は。我蝉丸調べもつの。 折柄なりける村雨 かな。あら心凄すがらやな。はとにもかくにもりぬべし。藁屋てしければ。





シテ
    「不思議 やななる藁屋よりも。撥音けた かき琵琶音聞ゆ。 そも是程にも。かかる調 べのりけるよと。思ふ につけてなどやらん。になつかしき心地して。藁屋足音もせで。ひそ かにちよりたり。





蝉丸
    「そや 此藁屋外面するは。此程をり をりとぶらはれつる。博雅三位にてましますか。





シテ詞
   「づき をよくよくけ ば。なりけり。なふ逆髪こ そりたれ。蝉丸にましますか。





蝉丸
    「何逆髪 とは姉宮かと。藁屋くれば。




Keene


シテ
屬気