晴れやらぬ 峰のうす雲
立ち去りて 後の光と
思はずや君
施頭歌 その他
左一がみまかりし頃
この里に行き來の人はさはにあれどもさす竹の君しまさねばさびしかりけり
友がきの身まかりし又の年若菜つむとて
あづさゆみ春野に出でて若菜つめどもさす竹の君しまさねばたのしくもなし
子を失へる親に代りてよめる
春くれば木々のこずゑに花は咲けどももみぢばのすぎにし子等は歸らざりけり
くがみ山なる何がしの大徳のいほりに宿りてさ夜ふけて「しきみつむ軒ばの峰に月はおちぬ松のとさびしいざまゐらせん」。つとめてまかり出でんとするに、あるじ良寛禪師。 (藤原光枝「越路の紀行」)
山かげの杉の板屋に雨も降りこねさす竹の君がしばしとたちとまるべく
とありしすなはちこたへけるうた「わすれめや杉の板屋にひとよ見し月ひさがたのをちなき影のしづけかりしを」。 時に享保の初の年葉月云々 (同上)
渡部なる祝の家に宿りて
この宮の宮のみ阪に我が立てばひさがたのみ雪ふりけりいつかしが上に
秋の野
秋のぬの千草おしなみ行くは誰が子ぞ白露に赤裳のすそのぬれまくもをし
やまたつ
山たつのむかひの岡にさを鹿たてり神な月時雨の雨にぬれつつたてり
はちのこ
鉢の子を我がわするれど取る人はなしとる人はなし鉢の子あはれ
○(定珍との贈答歌ならん)
あしびきの西の山べに關もあらぬかもぬば玉の今宵の月をとどめてあらん
○
墨染の我が衣手のひろくありせば世の中の貧しき人をおほはましものを
墨染の我が衣手のひろくありせばあしびきの山のもみぢばおほはましものを
白雪はいく重もつもれ積らねばとてたまぼこの道ふみわけて君が來なくに
春といへば天つみ空は霞みそめけり山のはの殘れる雪も花とこそ見め
岩室の田中に立てる一つ松の木今朝見れば時雨の雨にぬれつつ立てり
我が宿の葉びろ芭蕉を見に來ませ秋風に破れば惜しけん葉びろのばせを
さすたけの君と語りし秋の夕べはあらたまの年はふれどもわすられなくに
草のべの螢となりて千年をもまたんいもが手ゆ黄金の水をたまふといはば
山かげのまきの板屋に音はせねどもひさがたの雪の降る夜は空にしるけれ
○
人はいつはるとも僞はらじ爭ふとも爭はじ僞爭すてて常に心はのどかなれ
あはれさは人まつ蟲の音づれにふり出でて鳴く鈴蟲の野べの千草の露にぬれてん
あしびきの國上の山の冬ごもり岩根もり來る苔水のかすかに世をすみ渡るなり
我が庵は國上山もと神無月しぐれの雨はひめもすに降りみふらずみ乙宮の森
一つ松人にありせば笠かさましを簑きせましをひとつ松あはれ
おく山の春がねしぬぎふる雪のふるとはすれどつむとはなしに降る雪の
ぬばだまの夜はすがらに糞まり明かしあからひく晝はかはやに走りあへなくに
にひむろの新室の新室のほぎ酒に我れ醉ひにけりそのほぎ酒に
ふる里をはる%\へだてここに隅田川みやこ鳥にこととはん君はありやなしやと
あづさ弓春の野にでて若菜つめどもさす竹の君しなければたのしくもなし
あづさ弓春の野にでて若菜つめどもさす竹の君とつまねばこにみたなくに(由之の日記)
短歌
春
いざさらば我れもこれより乞食せん借宅庵に君は御座あれ
山田杜皐老の「初とれの鰯のやうな良法師やれ來たといふ子等が聲々」といひしに
大めしを食うて眠りし報にやいわしの身とぞなりにけるかな
岩室の酒禪君の許にまかりけるに酒ばかりすすめらるるを
さけ/\と花にあるじをまかせられ今日もさけ/\あすもさけ/\
「秋の夜人々の蟲の音を聞かんとて出でたりけるに雨の降り來りければ良寛法師の庵に入りて
かぼちやなど食べ物語したりける時讀み給ひけるとなん」百木園主人榮重記
蟲の音も今宵
かぼちやとなりにけり薯の鰻となるもことわり