釈阿、和哥所にて九十賀し侍りしおり、屏風に、山にさくらさきたるところを

さくらさくとを山どりのしだりおのながながし日もあかぬ色かな

千五百番哥合に、春哥

いくとせの春に心をつくしきぬあはれとおもへみよしのゝ花

百首哥に

はかなくてすぎにしかたをかぞふれば花にものおもふ春ぞへにける

内大臣に侍ける時、望山花といへるこゝろをよみ侍ける

白雲のたなびく山のやま桜いづれを花とゆきておらまし

祐子内親王家にて、人々、花哥よみ侍けるに

はなの色にあまぎるかすみたちまよひそらさへにほふ山桜かな

題しらず

もゝしきの大宮人はいとまあれやさくらかざしてけふもくらしつ

花にあかぬなげきはいつもせしかどもけふのこよひにゝる時はなし

いもやすくねられざりけり春の夜は花のちるのみ夢に見えつゝ＼

山ざくらちりてみゆきにまがひなばいづれか花と春にとはなん＼

わがやどのものなりながら桜ばなちるをばえこそとゞめざりけれ＼

寛平御時きさいの宮の哥合に

かすみたつ春の山べにさくらばなあかずちるとや鶯のなく

題しらず

春雨はいたくなふりそ桜花まだ見ぬ人にちらまくもおし

[承元四年九月止之]

ふるさとに花はちりつゝみよしのゝ山のさくらはまださかずけり

花のかにころもはふかくなりにけりこのしたかげの風のまにまにまに

千五百番哥合に

風かよふねざめの袖の花のかにかほるまくらの春のよの夢＼

守覚法親王、五十首哥よませ侍ける時

このほどはしるもしらぬもたまぼこのゆきかふ袖は花のかぞする＼

摂政太政大臣家に五首哥よみ侍けるに

またや見んかたのゝみのゝ桜がり花の雪ちる春のあけぼの

花哥よみ侍けるに

ちりちらずおぼつかなきは春がすみたなびく山の桜なりけり

山ざとにまかりてよみ侍ける

やまざとの春のゆふぐれきてみればいりあひのかねに花ぞちりける

題しらず

さくらちる春の山べはうかりけりよをのがれにとこしかひもなく

花見侍ける人にさそはれてよみ侍ける

山ざくら花のした風ふきにけりこのもとごとの雪のむらぎえ

題しらず

はるさめのそほふるそらのをやみせずおつる涙に花ぞちりける

かりがねのかへるは風やさそふらんすぎゆく峰の花ものこらぬ

百首哥めしゝ時、春哥

時しもあれたのむのかりのわかれさへ花ちるころのみよしのゝさと

見山花といへる心を

山ふかみすぎのむらだちみえぬまでおのへの風に花のちるかな

堀河院御時百首哥たてまつりけるに、花哥

このしたのこけのみどりもみえぬまでやへちりしける山桜かな

花十首哥よみ侍けるに

ふもとまでおのへの桜ちりこずはたなびく雲とみてやすぎまし

花落客稀といふことを

はなちればとふ人まれになりはてゝいとひし風のをとのみぞする

題しらず

ながむとて花にもいたくなれぬればちるわかれこそかなしかりけれ

山ざとのにはよりほかのみちもがな花ちりぬやと人もこそとへ＼

五十首哥たてまつりし中に、湖上花を

花さそふひらの山風ふきにけりこぎゆくふねのあとみゆるまで

関路花を

あふさかやこずゑのはなをふくからにあらしぞかすむせきのすぎ村＼

百首哥たてまつりし、春哥

山たかみ峰のあらしにちる花の月にあまぎるあけがたのそら

百首哥めしける時、春哥

やまたかみいはねの桜ちるときはあまのはごろもなづるとぞみる

春日社哥合とて、人々、哥よみ侍けるに

ちりまがふはなのよそめはよしの山あらしにさはぐみねの白雲

最勝四天王院の障子に、よしの山かきたる所

みよしのゝたかねの桜ちりにけりあらしもしろき春のあけぼの＼

千五百番哥合に

さくら色の庭のはる風あともなしとはゞぞ人の雪とだにみん

ひとゝせしのびて大内の花見にまかりて侍しに、にはにちりて侍しはなをすゞりのふたにいれて、摂政のもとにつかはし侍し

けふだにも庭をさかりとうつる花きえずはありとも雪かともみよ＼

返し

さそはれぬ人のためとやのこりけんあすよりさきの花の白雪＼

家のやへざくらをおらせて、惟明親王のもとにつかはしける

やへにほふのきばのさくらうつろひぬ風よりさきにとふ人もがな

返し

つらきかなうつろふまでにやへざくらとへともいはですぐる心は

五十首哥たてまつりし時

さくら花夢かうつゝか白雲のたえてつねなきみねの春風

題しらず

うらみずやうきよを花のいとひつゝさそふ風あらばとおもひけるをば

はかなさをほかにもいはじ桜花さきてはちりぬあはれよの中

入道前関白太政大臣家に、百首哥よませ侍ける時

ながむべきのこりの春をかぞふれば花とゝもにもちる涙かな

花哥とてよめる

花もまたわかれん春はおもひいでよさきちるたびの心づくしを

千五百番哥合に

ちる花のわすれがたみのみねの雲そをだにのこせ春の山風＼

落花といふことを

はなさそふなごりを雲にふきとめてしばしはにほへ春の山かぜ

題しらず

おしめどもちりはてぬれば桜花いまはこずゑをながむばかりぞ＼

太神宮に百首哥たてまつり侍し中に

いかにせんよにふるながめしばのとにうつろふ花の春のくれがた

残春のこゝろを

よしの山はなのふるさとあとたえてむなしきえだに春風ぞふく

題しらず

ふるさとのはなのさかりはすぎぬれどおもかげさらぬ春のそらかな

百首哥中に

花はちりその色となくながむればむなしきそらに春雨ぞふる

小野宮のおほきおほいまうちぎみ、月輪寺花見侍ける日よめる

たがたにかあすはのこさん山ざくらこぼれてにほへけふのかたみに＼

曲水宴をよめる

から人のふねをうかべてあそぶてふけふぞわがせこ花かづらせよ

紀貫之、曲水宴し侍ける時、月入花灘暗といふことをよみ侍ける

花ながすせをもみるべきみか月のわれていりぬる山のをちかた＼

雲林院のさくら見にまかりけるに、みなちりはてゝ、わづかにかたえだにのこりて侍ければ

たづねつるはなもわが身もおとろへてのちの春ともえこそちぎらね

千五百番哥合に

おもひたつとりはふるすもたのむらんなれぬる花のあとのゆふぐれ

ちりにけりあはれうらみのたれなれば花のあとゝふ春の山風＼

春ふかくたづねいるさの山のはにほの見し雲の色ぞのこれる＼

百首哥たてまつりし時

はつせ山うつろふ花に春くれてまがひし雲ぞみねにのこれる

よしのがはきしの山ぶきさきにけりみねのさくらはちりはてぬらん

こまとめてなを水かはんやまぶきの花のつゆそふ井での玉河

堀河院御時、百首哥たてまつりける時

いはねこすきよたき河のはやければなみおりかくるきしの山ぶき

題しらず

かはづなくかみなびがはにかげみえていまかさくらん山ぶきの花

延喜十三年、亭子院哥合哥

あしびきの山ぶきの花ちりにけり井でのかはづはいまやなくらん＼

飛香舎にて藤花宴侍けるに

かくてこそ見まくほしけれよろづよをかけてにほへるふぢなみの花

天暦四年三月十四日、ふぢつぼにわたらせたまひて、花おしませたまひけるに

まとゐして見れどもあかぬふぢなみのたゝまくおしきけふにもあるかな＼

清慎公家屏風に

くれぬとはおもふものからふぢなみのさけるやどには春ぞひさしき

ふぢのまつにかゝれるをよめる

みどりなる松にかゝれるふぢなれどをのがころとぞ花はさきける＼

はるのくれつかた、実方朝臣のもとにつかはしける

ちりのこる花もやあるとうちむれてみ山がくれをたづねてしかな

修業し侍けるころ、春のくれによみける

このもとのすみかもいまはあれぬべし春しくれなばたれかとひこん

五十首哥たてまつりし時

くれてゆく春のみなとはしらねどもかすみにおつるうぢのしばぶね

山家三月尽をよみ侍ける

こぬまでも花ゆへ人のまたれつる春もくれぬるみ山辺のさと

題しらず

いその神ふるのわさだをうちかへしうらみかねたる春のくれかな

寛平御時きさいの宮の哥合哥

まてといふにとまらぬものとしりながらしひてぞおしき春のわかれは

山家暮春といへるこゝろを

しばのとにさすや日かげのなごりなく春くれかゝる山のはの雲

百首哥たてまつりし時

あすよりはしがの花ぞのまれにだにたれかはとはん春のふるさと