紀貫之
みちのくにゝくだり侍ける人に、さうぞくをくるとて、よみ侍ける
たまぼこのみちの山風さむからばかたみがてらにきなんとぞおもふ
伊勢
題しらず
わすれなん世にもこしぢのかへる山いつはた人にあはむとすらん
紫式部
あさからずちぎりける人の、ゆきわかれ侍けるに
きたへゆく雁のつばさにことつてよ雲のうはがきかきたえずして
大中臣能宣朝臣
ゐなかへまかりける人に、たびごろもつかはすとて
秋ぎりのたつたびごろもをきて見よつゆばかりなるかたみなりとも
貫之
みちのくにゝくだり侍ける人に
見てだにもあかぬ心をたまぼこのみちのおくまで人のゆくらん
中納言兼輔
あふさかのせきのちかきわたりにすみ侍けるに、とをき所にまかりける人に餞し侍るとて
あふさかの関にわがやどなかりせばわかるゝ人はたのまざらまし
読人しらず
寂昭上人入唐し侍りけるに、装束をくりけるに、たちけるをしらで、をひてつかはしける
きならせと思しものをたびごろもたつ日をしらずなりにける哉
寂昭法師
返し
これやさは雲のはたてにをるときくたつことしらぬあまのは衣
源重之
題しらず
衣河見なれし人のわかれにはたもとまでこそ浪はたちけれ
高階経重朝臣
みちのくにのすけにてまかりける時、範永朝臣のもとにつかはしける
ゆくすゑにあぶくま河のなかりせばいかにかせましけふのわかれを
藤原範永朝臣
返し
君に又あぶくま河をまつべきにのこりすくなきわれぞかなしき
枇杷皇太后宮
大宰帥隆家くだりけるに、あふぎたまふとて
すゞしさはいきの松ばらまさるともそふるあふぎの風なわすれそ
一条右大臣恒佐
亭子院、みやたき御らんじにおはしましける御ともに、素性法師めしぐせられてまいれりけるを、住吉のこほりにていとまたまはせて、やまとにつかはしけるに、よみ侍ける
神な月まれのみゆきにさそはれてけふわかれなばいつかあひみん\
大江千里
題しらず
わかれてのゝちもあひみんとおもへどもこれをいづれの時とかはしる\
成尋法師入唐し侍りけるに、母のよみ侍ける
もろこしもあめのしたにぞありときくてる日のもとをわすれざらなん
道命法師
修行にいでたつとて、人のもとにつかはしける
わかれぢはこれやかぎりのたびならんさらにいくべき心ちこそせね\
加賀左衛門
おいたるおやの、七月七日つくしへくだりけるに、はるかにはなれぬることをおもひて、八日あか月、をひてふねにのるところにつかはしける
あまのがはそらにきえにしふなでにはわれぞまさりてけさはかなしき
中納言隆家
実方朝臣みちのくにへくだり侍けるに、餞すとてよみ侍ける
わかれぢはいつもなげきのたえせぬにいとゞかなしき秋のゆふぐれ
実方朝臣
返し
とゞまらんことは心にかなへどもいかにかせまし秋のさそふを
前中納言匡房
七月許、みまさかへくだるとて、みやこの人につかはしける
宮こをば秋とゝもにぞたちそめしよどの河ぎりいくよへだてつ\
後三条院御哥
みこの宮と申ける時、大宰大弐実政、学士にて侍ける、甲斐守にてくだり侍けるに、餞たまはすとて
思いでばおなじそらとは月をみよほどは雲井にめぐりあふまで
基俊
みちのくにのかみもとよりの朝臣、ひさしくあひみぬよし申て、いつのぼるべしともいはず侍ければ
かへりこんほどおもふにもたけくまのまつわが身こそいたくおいぬれ
大僧正行尊
修行にいで侍けるによめる
おもへどもさだめなきよのはかなさにいつをまてともえこそたのめね
読人しらず
にはかに宮こをはなれて、とをくまかりにけるに、女につかはしける
契をくことこそさらになかりしかかねて思しわかれならねば
俊恵法師
わかれの心をよめる
かりそめのわかれとけふをおもへどもいさやまことのたびにもあるらん
登蓮法師
かへりこんほどをや人にちぎらまししのばれぬべきわが身なりせば\
藤原隆信朝臣
守覚法親王、五十首哥よませ侍りける時
たれとしもしらぬわかれのかなしきはまつらのおきをいづるふな人
俊恵法師
登蓮法師、つくしへまかりけるに
はるばると君がわくべきしらなみをあやしやとまる袖にかけつる
西行法師
みちのくにへまかりける人、餞し侍けるに
君いなば月まつとてもながめやらんあづまのかたのゆふぐれの空
とをき所に修行せんとていでたち侍けるに、人々わかれおしみて、よみ侍ける
たのめをかん君もこゝろやなぐさむとかへらん事はいつとなくとも
さりともとなをあふことをたのむかなしでの山ぢをこえぬわかれは
道因法師
とをき所へまかりける時、師光餞し侍けるによめる
かへりこんほどをちぎらむとおもへどもおいぬる身こそさだめがたけれ
皇太后宮大夫俊成
題しらず
かりそめのたびのわかれとしのぶれどおいは涙もえこそとゞめね
祝部成仲
わかれにし人はまたもやみわの山すぎにしかたを今になさばや\
定家朝臣
わするなよやどるたもとはかはるともかたみにしぼるよはの月かげ
惟明親王
みやこのほかへまかりける人によみてをくりける
なごりおもふたもとにかねてしられけりわかるゝたびのゆくすゑのつゆ\
読人しらず
つくしへまかりける女に、月いだしたるあふぎをつかはすとて
宮こをば心をそらにいでぬとも月みんたびに思をこせよ\
大蔵卿行宗
とをきくにへまかりける人につかはしける
わかれぢは雲井のよそになりぬともそなたの風のたよりすぐすな\
藤原顕綱朝臣
人のくにへまかりける人に、かり衣つかはすとてよめる
いろふかくそめたるたびのかり衣かへらんまでのかたみともみよ
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