Title: Shui wakashu [Book 7]
Author: Anonymous
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Note: We consulted Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) for reference.
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©2000 by the Rector and Visitors of the University of Virginia

About the original source:
Title: Kokka taikan
Author: Anonymous
Publisher: Tokyo: Kadokawa Shoten, 1951



拾遺和歌集卷第七
物名

よみ人志らず

紅梅


鶯の巣作る枝を折りつればこをばいかでか生まむとす覽




さくら


花の色を顯はにめでばあだめきぬいざ暗闇に成て簪さむ




藤原すけみ

いはやなぎ


旅のいは屋なきとこにもねられ鳬草の枕に露はおけども




さるとりの花


鳴く聲はあまたすれ共鶯にまさる鳥のはなく社ありけれ




伊勢

かにひのはな


渡つ海の沖中に日の離れ出てもゆとみゆるは蜑の漁りか




よみ人志らず

かいつばた


こき色かいつはた薄く移ろはむ花に心もつけざらむかも




如覺法師

さくなんさ


紫の色にはさくなむさしのゝ草のゆかりと人もこそしれ




よみ人志らず

しもつけ


植ゑて見る君だにしらぬ花のなを我しもつけむことの怪さ




りうたん


川上に今よりうたむ網代にはまづ紅葉や寄らむとすらむ




きちかう


あだ人のまがきちかうな花うゑそ匂もあへず折盡しけり




あさがほ


我宿の花のはにのみぬる蝶のいかなる朝か他よりはくる




けにごし


忘れにし人の更にも戀しきかむげにこじとは思ふ物から




らに


秋の野に花てふ花を折つれば侘しらにこそ虫も鳴きけれ




忠岑

かるかや


白露の懸るかやがて消えざらば草葉ぞ玉の櫛笥ならまし




はぎのはな


山川はきのはながれず淺きせをせけば淵とぞ秋はなる覽




松むし


瀧つせのなかに玉つむ白波は流るゝ水を緒にぞぬきける




ひぐらし


今こむといひて別れし朝より思ひ暮しの音をのみぞなく




貫之


杣人は宮木ひくらしあし引の山のやま彦こゑとよむなり





松のねは秋の調べに聞ゆ也高くせめあげて風ぞひくらし




すけみ

ひともとぎく


あだ也と人もときくる物しもそ花の當りを過がてにする




すはうごけ


鶯のすはうごけどもぬしもなし風に任せて何地いぬらむ




やまと


ふる道にわれやまどはむ古の野中の草は茂り合ひにけり




いなみの


住吉の岡の松がささしつれば雨は降る共いなみのは着じ




くるすの


白波の打ちかくる洲の乾かぬにわが袂こそ劣らざりけれ




木のしまに尼のまうでたりけるを見て


水もなく舟も通はぬ此島に爭でか海士のながめかるらむ




在原元方

よど川


植ていにし人もみなくに秋萩の誰見よとかは花の咲く覽




貫之


足引の山邊にをれば白雲のいかにせよとかはるゝ時なき




在原業平朝臣

をがはのはし


筑紫よりこゝ迄くれど苞もなし瀧のを川の橋のみぞある




よみ人志らず

くまのくらといふ山寺に賀縁法師のやりて侍りけるに住持し侍りける法師に歌よめといひければよめる

身を捨てゝ山に入にし我なれば熊のくらはむことも覺えず




いぬかひの御湯


鳥の子はまだ雛乍ら立ちていぬかひのみゆるは巣守 なり


すけみ

あらふねのみやしろ


くきも葉もみな緑なる深芹はあらふ根のみや白くみゆ覽




重之

なとりの郡


仇なりな鳥の氷におりゐるは下よりとくる事はしらぬか




兼盛

名取のみゆ


覺束な雲の通路見てしがな鳥のみ行けばあとはかもなし




よみ人志らず

さはこのみゆ


あかずして別るゝ人の住む里はさは此みゆる山のあなたか




紀輔時

つゝみの嶽抄つゝのみたけ


篝火の所定めず見えつるは流れつゝのみたけばなりけり




高向草春

むろの木


神なびの三室のきしやくづるらむ立田の川の水の濁れる




すけみ

きさの木


怒猪の石をくゝみて噛來しは象のきにこそ劣らざりけれ




仙慶法師

はなかんし


五月雨にならぬ限は時鳥なにかは鳴かむしのぶばかりに




すけみ

もゝ


心ざし深き時には底のもゝ潜き出でぬる物にぞありける




よみ人志らず

はしばみ


面影にしばしばみゆる君なれど戀しき事ぞ時ぞともなき




すけみ

ねりがき


古はおごれりしかど侘びぬれば舍人が衣も今はきつべし




をはり米


池をはりこためる水の多かればいひの口より餘るなるべし




まつだけ


足引の山下みづにぬれにけりその火まづたけ衣あぶらむ





厭へ共つらき形見を見る時はまづ猛からぬね社なかるれ




くゝだち


山高み花の色をも見るべきににくゝ立ちぬるはる霞かな




こにやく


野をみれば春めきに鳬青葛籠こにやくまゝし若菜摘べく




高岳相如

そやしまめ


漁りせし蜑の教へしいづくぞや島廻る迚ありといひしは




すけみ

雉のをとり


河岸のをどりをるべき所あらば憂に死せぬ身は投つべし




やまがらめ


紅葉に衣の色はしみにけりあきの山からめぐりこしまに




かやぐき


何とかやくきの姿は思ほえであやしく花の名こそ忘るれ




大伴黒主

つぐみ


わが心怪しく仇に春くればはなにつくみと爭でなりけむ





咲く花に思付くみの味氣なさ身に疾病のいるもしらずて




すけみ

つばくらめ


難波津はくらめにのみぞ舟はつく朝の風の定めなければ




元輔

はらか


み吉野も若菜つむらむ卷もくのひ原霞みて日數へぬれば




祐見

さけかゝみ


あし衣ばさけかゞみてぞ人はきるひろや絶ぬと思ふ成べし




ひぼしのあゆ


雲迷ひ星のあゆくと見えつるは螢の空に飛ぶにぞ有ける




おしあゆ


箸鷹のをぎゑにせむと搆たるおしあゆがすな鼠とるべく




つゝみ燒


わぎもこが身を捨てしより猿澤の池の堤やきみは戀しき




重之

うるかいり


此家はうるかいりてもみてしがな主乍もかはむとぞ思ふ




よみ人志らず

したゞみ


吾妻にて養はれたる人の子は舌だみてこそ物はいひけれ




さはやけ


春かぜのけさはやければ鶯のはなの衣もほころびにけり




まがり


霞わけいまかり歸る物ならば秋くるまでは戀やわたらむ




すけみ

とち、ところ、たちばな


思ふどち所もかへずすみへなむ立離れなば戀しかるべし




くちばいろのをしき


足引の山の木のはの落ちぐちは色のをしきぞ哀なりける




あしがなへ


津國の難波渡りにつくる田は芦かなへかとえ社みわかね




むなぐるま


鷹飼のまだもこなくに繋犬の離れていかむなくるまつ程




躬恒

いかるが、にけ


事ぞ共聞きだにわかずわり無も人の怒るか逃やしなまし




すけみ

鼠の琴の腹にこをうみたるを


年をへて君をのみ社寢住みつれ異の腹にやこをばうむべき




月のきぬをきて侍りけるに


久方の月の衣をばきたれども光はそはぬわが身なりけり




きさのきのはこ


夜とともに汐やく蜑の絶せねば渚の木の葉焦れてぞ散る




ながむしろ


鶯のなかむしろにはわれぞなく花の匂やしばしとまると




へうのかは


底へ鵜の川波分けて入りぬるか待つ程過て見えずもある哉




かの皮のむかはぎ


かの川のむかはぎすぎて深からば渡らで唯にかへる計ぞ




かのえさる


かの江さる舟にて暫しこととはむ沖の白波まだ立たぬまに




惠慶法師

かのとゝいふことを


小男鹿の友まどはせる聲すなり妻やこひしき秋の山邊に




よみ人志らず

ね、うし、とら、たつ、み


一よねてうしとら社は思けめ憂名たつみぞ侘しかりける




うま、ひつじ、さる、とり、いぬ、ゐ


うまれよりひつじ作れば山にさる獨いぬるに人ゐて在せ




すけみ

四十九日


秋風の四方の山より己かじゝふくにちりぬる紅葉悲しな