藤原長能
稻荷にまうでゝけさうし始めて侍りける女のこと人に逢ひ侍りければ
我といへば稻荷の神もつらき哉人の爲とは祈らざりしを
よみ人志らず
稻荷のほくらに女の手にて書き付けて侍りける
瀧の水歸りてすまば稻荷山なぬか上れるしるしと思はむ
元良のみこ久しくまからざりける女のもとに紅葉をおこせて侍りければ
思ひ出てとふにはあらず秋はつる色の限をみする
なりけり
女のもとに扇を遣はしたりければいひ遣はしける
ゆゝし迚いむ共今はかひも有じ憂をば風につけて止みなむ
貫之
題志らず
獨して世をしつくさば高砂の松の常盤もかひなかりけり
三條の右大臣の屏風に
玉もかるあまのゆきがたさす竿の長くや人を恨み渡らむ
年のをはりに人まち侍りける人のよみ侍りける
頼めつゝ別れし人を待つ程に年さへせめて恨めしきかな