女の許にはじめて遣はしける

人をみて思ふ思もある物を空にこふるぞはかなかりける

獨のみ思ふはくるしいかにして同じ心にひとををしへむ

我心いつならひてか見ぬ人を思ひやりつゝ戀しかるらむ

まだ年若かりける女につかはしける

葉をわかみほにこそいでね花薄したの心に結ばざらめや

人をいひはじむとて

足引の山下志げくはふ葛の尋ねてこふるわれと知らずや

隱れぬに忍び侘びぬる我身哉ゐでの蛙となりや志なまし

女のざうしによる／＼立ちよりつゝ物などいひてのち

阿武隈の霧とはなしに終夜立ち渡りつゝよをもふるかな

文遣はせども返事もせざりける女のもとに遣はしける

怪しくも厭ふにはゆる心哉いかにしてかは思ひやむべき

くにもちが音もせざりければ遣はしける

とも斯もいふ言の葉のみえぬ哉いづらは露のかゝり所は

題志らず

侘人のそぼつてふなる涙川おりたちてこそぬれ渡りけれ

かへし

淵瀬とも心もしらず涙川おりやたつべきそでのぬるゝに

又

心見に猶おりたゝむ涙川うれしきせにも流れあふやと

わざとにはあらで時々物いひふれ侍りける女の、心にもあらで人に誘はれてまかりにければとのゐ物にかきつけて遣はしける

かゝりける人の心を白露のおけるものとも頼みけるかな

あひしりて侍りける女を久しうとはず侍りければいといたうなむわび侍ると人のつげ侍りければ

鶯の雲居にわびて鳴く聲を春のさがとぞわれはきゝつる

文通はしける女のこと人にあひぬと聞きてつかはしける

かく許り常なき世とはしりながら人を遙に何頼みけむ

男のこざりければ遣はしける

我門の一むら薄かりかはむ君が手なれのこまもこぬかな

題志らず

よを海の沫と消ぬる身にしあれば恨むる事ぞ數なかりける

かへし

綿つみと頼めしこともあせぬれば我ぞ我身のうらは恨むる

人のもとに遣はしける

東路の佐野の船橋かけてのみ思ひ渡るをしる人のなき

人につかはしける

ふしてぬる夢路にだにもあはぬ身は猶淺ましき現とぞ思ふ

女につかはしける

天の戸をあけぬ／＼と云做して空鳴きしつる鳥の聲かな

よもすがらぬれてわびつる唐衣あふ坂山に道まどひして

男に遣はしける

思へども綾なしとのみいはるれば夜の錦の心地こそすれ

女の許に遣はしける

音にのみ聞來し三輪の山よりも杉の數をば我ぞ見えにし

おのれを思ひ隔てたる心ありといへる女の返事に遣はしける

難波潟かりつむ葦のあしづゝのひとへも君を我や隔つる

遠き所にまかりける道よりやむことなき事によりて京へ人つかはしけるついでに文のはしにかきつけて侍りける

我ごとや君もこふらむ白露のおきてもねても袖ぞ乾かぬ

あひしりて侍りける人の許より久しくとはずしていかにぞやまだいきたるやとたはぶれて侍りければ

つらく共有らむとぞ思ふよそにても人やけぬるときかまほしさに

人のもとにしば／＼まかりけれどあひ難く侍りければ物にかきつけ侍りける

暮れぬ迚ねて行くべくもあらなくに辿る％＼も歸る勝れり

をとこ侍る女をいとせちにいはせ侍りけるを女いとわりなしといはせければ

わりなしと云ふ社且は嬉しけれ愚ならずと見えぬと思へば

女の許より心ざしの程をなむえしらぬといへりければ

我戀をしらむと思はゞたごの浦に立つ覽浪の數を數へよ

いひかはしける女の許よりなほざりにいふにこそあめれといへりければ

色ならば移る計りもそめてまし思ふ心をえやはみせける

物のたうびける女の許に文遣はしたりけるに心地あしとて返事もせざりければ又つかはしける

足引のやまひはすとも踏通ふ跡をもみぬは苦しき物を

おほつぶねに物のたうびつかはしけるを更にきゝ入れざりければ遣はしける

大方はなぞやわが名の惜しからむ昔のつまと人に語らむ

かへし

人はいさ我は無名の惜ければ昔も今もしらずとをいはむ

返事せざりける女の文をからうじてえて

跡見れば心なぐさの濱千鳥いまは聲こそきかまほしけれ

同じ所にて見かはしながら得あはざりける女に

かはとみて渡らぬ内に流るゝはいはで物思ふ涙なりけり

心ざしありける女に遣はしける

天雲に鳴き行く雁の音にのみきゝ渡りつゝ逢ふ由もがな

住の江の波にはあらねどよと共に君によせ渡るかな

兵衞に遣はしける

見ぬ程に年の變れば逢ふことのいやはる％＼と思ほゆる哉

まかり出て御文遣したりければ

今日過ぎばしなまし物を夢にても何處をはかと君がとはまし

御かへし

現にぞとふべかりける夢とのみ惑ひし程や遙けかりけむ

題志らず

流れてはゆく方もなし涙川我身のうらやかぎりなるらむ

我戀の數にしとらば白妙のはまの眞砂もつきぬべらなり

涙にも思ひのきゆる物ならばいとかく胸は焦さゞらまし

驗なき思やなぞと芦たづの音になくまでにあはず侘しき

年久しく通はし侍りける人に遣はしける

玉の緒のたえて短き命もてとし月ながきこひもするかな

題志らず

我のみや燃てきえなむ世と共に思もならぬ富士のねのごと

かへし

ふじのねの燃渡る共いかゞせむけち社志らね水ならぬ身は

心ざせる女の家のあたりにまかりていひいれ侍りける

侘び渡る我が身は露を同じくば君が垣根の草にきえなむ

題志らず

みるめかる渚やいづこあふごなみ立寄る方もしらぬ我身は

東宮になるとゝいふ戸のもとに女と物いひけるに親の戸をさしてゐて入りにければ又のあしたに遣はしける

鳴門よりさし出されし舟よりも我ぞ寄邊もなき心地せし

題志らず

高砂の峯の志ら雲かゝりける人のこゝろを頼みけるかな

長唄のみこの母の更衣さとに侍りけるにつかはしける

よそにのみ待つは儚き住江の行きてさへ社見まく欲けれ

題志らず

陽炎に見しばかりにや濱千鳥行くへも志らぬ戀に惑はむ

ある所は志りながらえあふまじかりける人につかはしける

綿津海のそこの在所は知り乍潜きていらむ浪のまぞなき

女のもとに遣はしける

つらしとも思ひぞはてぬ涙川流れてひとをたのむ心は

かへし

流れてと何頼むらむ涙川かげ見ゆべくもおもほえなくに

人をいひわづらひて遣はしける

何事を今はたのまむ千早ぶる神もたすけぬ我身なりけり

かへし

千早ぶる神も耳こそなれぬらし樣々祷るとしもへぬれば

女の許にまかりたりけるをたゞにてかへし侍りければいひいれ侍りける

うらみても身こそつらけれ唐衣きて徒らに返すと思へば

あひ志りて侍りける人を久しうとはずしてまかりたりければ門より返し遣しけるに

住の江のまつに立寄る白浪の返る折にやねはなかるらむ

をとこの許より今はこと人あんなればといへりければ女にかはりて

思はむと頼めし事もある物をなき名をたてゞ唯に忘れね

かへし

春日野の飛火の野守みし物をなきなといはゞ罪も社うれ