後撰和歌集

Gosen wakashū

作者複数 Various

後撰和歌集卷第九
戀歌一

508

源宗于朝臣

からうじてあひ志りて侍りける人につゝむ事ありて又あひがたく侍りければ

東路のさやの中山なか/\にあひみて後ぞ侘しかりける
509

貫之

忍びたりける人に物語し侍りけるを人の騒がしく侍りければ罷り歸りて遣はしける

曉と何かいひけむ別るればよひもいとこそ侘しかりけれ
510

するが

源おほきが通ひ侍りけるを後々はまからずなり侍りにければ隣の壁のあなよりおほきをはつかに見て遣はしける

まどろまぬ壁にも人を見つる哉正しからなむ春の夜の夢
511

元良のみこ

あひ志りて侍りける人の許に返事見むとて遣はしける

くや/\と待つ夕暮と今はとて歸るあしたと何れ勝れる
512

藤原かつみ

かへし

夕暮はまつにもかゝる白露のおくる朝や消えははつらむ
513

讀人志らず

大和にあひ志りて侍りける人のもとにつかはしける

打返し君ぞ戀しきやまとなるふるのわさ田の思ひ出つゝ
514

かへし

秋の田の稻てふことをかけしかば思出づるが嬉しげもなし
515

女につかはしける

人戀ふる心計りはそれ乍ら我はわれにもあらぬなりけり
516

伊勢

まかる所志らせず侍りける頃又あひしりて侍りける男のもとより日頃尋ね侘びてうせにたるとなむ思ひつるといへりければ

思川たえず流るゝ水の泡のうたかた人にあはで消えめや
517

三統公忠

題志らず

思ひやる心は常に通へどもあふ坂の關こえずもあるかな
518

讀人志らず

女につかはしける

消え果てゝやみぬ計りか年をへて君を思ひの驗なければ
519

かへし

思ひだに驗なしてふ我身にぞあはぬ歎きの數はもえける
520

題志らず

ほしがてにぬれぬべきかな唐衣乾く袂のよゝになければ
521

よと共に阿武隈川の遠ければ底なる影を見ぬぞわびしき
522

わが如くあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり
523

いつしかと我まつ山に今はとてこゆなる波にぬるゝ袖哉
524

女のもとにつかはしける

人ごとは誠なりけり下紐のとけぬに志るき心とおもへば
525

結び置きし我下紐の今迄にとけぬは人のこひぬなりけり
526

女の人の許に遣はしける

外の瀬は深くなるらし飛鳥川昨日の淵ぞ我が身なりける
527

かへし

淵瀬ともいさや白浪立ち騒ぐ我が身一つはよる方もなし
528

題志らず

光まつ露に心をおける身はきえ返りつゝ世をぞうらむる
529

貫之

ある所にあふみといひける人のもとにつかはしける

汐みたぬ海ときけばやよと共にみるめなくして年のへぬ覽
530

桂のみこ

あつよしの親王まうできたりけれど逢はずしてかへして又のあしたに遣はしける

唐衣きて歸りにしさ夜すがら哀れと思ふを恨むらむはた
531

紀のめのと

あひ待ちける人の久しう消息なかりければ遣はしける

影だにも見えず成行く山の井は淺きより又水やたえにし
532

平定文

かへし

淺してふことをゆゝしみ山の井はほりし濁に影はみえぬぞ
533

讀人志らず

題志らず

幾度かいく田の浦に立ちかへる浪に我身を打ち濡すらむ
534

かへし

立歸りぬれてはひぬる汐なれば生田の浦のさがと社みれ
535

女の許に

逢ふことはいとゞ雲居の大空に立つ名のみしてやみぬ計か
536

かへし

よそ乍やまむともせず逢ふ事は今こそ雲の絶間なるらめ
537

又をとこ

今のみと頼むなれ共白雲の絶間はいつかあらむとすらむ
538

かへし

をやみせず雨さへふれば澤水の増るらむ共思ほゆるかな
539

題志らず

夢にだに見る事ぞなき年を經て心長閑にぬる夜なければ
540

見そめずてあらまし物を唐衣立つ名のみしてきるよ無哉
541

女のもとに遣はしける

枯果つる花の心はつらからで時過ぎにける身をぞ恨むる
542

かへし

あだにこそちると見るらめ君に皆移ろひにたる花の心を
543

其程にかへりこむとて物にまかりける人の、程を過ぐしてこざりければ遣はしける

こむと云ひし月日を過す姨捨の山端つらき物にぞ有ける
544

かへし

月日をも數へける哉君こふる數をもしらぬ我身なりけり
545

女に年をへて心ざしある由をのたまひわたりける。女猶今年をだに待ちくらせとたのめけるをその年もくれてあくる春までいとつれなく侍りければ

このめはる春の山田を打返し思ひやみにし人ぞこひしき
546

贈太政大臣

心ざしありながらえあはず侍りける女のもとにつかはしける

ころをへてあひみぬときは白玉の涙も春は色まさりけり
547

伊勢

かへし

人こふる涙は春ぞぬるみけるたえぬ思のわかすなるべし
548

源たのむがむすめ

男のこゝかしこに通ひすむ所多くて常にしもとはざりければ女も又いろごのみなる名立ちけるを恨み侍りける返事に

つらしともいかゞ恨みむ時鳥我が宿ちかく鳴く聲はせで
549

あつよしのみこ

かへし

里毎になきこそわたれ郭公住みかさだめぬ君たづぬとて
550

春道列樹

えがたかるべき女を思ひかけてつかはしける

數ならぬみ山がくれの郭公人しれぬ音をなきつゝぞふる
551

これたゞのみこ

いと忍びたる女にあひ語らひて後人めにつゝみて又あひ難く侍りければ

あふ事の片絲ぞとはしりながら玉の緒計り何によりけむ
552

讀人志らず

女のもとより忘草に文をつけておこせて侍りければ

思ふとはいふ物からにともすれば忘るゝ草の花にやは非ぬ
553

たいふのごといふ人

かへし

植ゑてみる我は忘れで仇人に先忘らるゝ花にぞありける
554

土左

平定文が許より難波の方へなむまかるといひおくりて侍りければ

浦分かずみるめかるてふ蜑の身は何か難波の方へしもゆく
555

定文

かへし

君を思ふ深さに比べに津の國の堀江みに行く我にやは非ぬ
556

伊勢

つらくなりにける人に遣はしける

いかでかく心一を二しへにうくもつらくもなしてみす覽
557

讀人志らず

題志らず

ともすれば玉に比べします鏡人のたからと見るぞ悲しき
558

忍びたる人につかはしける

磐瀬山たにの下水うちしのび人のみぬまは流れてぞふる
559

人をあひしりて後久しう消息もつかはさゞりければ

嬉げに君が頼めし言の葉はかたみに汲める水にぞ有ける
560

題志らず

ゆきやらぬ夢路に惑ふ袂には天津空なき露ぞおきける
561

身は早く奈良の都と成にしを戀しき事のまだもふりぬか
562

住吉の岸の白浪よる/\は海士のよそめに見るぞ悲しき
563

君こふとぬれにし袖の乾かぬは思ひの外にあれば也けり
564

あはざりし時いかなりし物とてか唯今のまも見ねば戀き
565

世の中に忍ぶる戀の侘しきはあひての後のあはぬなり鳬
566

戀をのみ常に駿河の山なれば富士のねにのみ泣かぬ日はなし
567

君により我身ぞつらき玉垂の[1]みずば4戀しと思はましやは
568

男のはじめて女の許にまかりてあしたに雨のふるに歸りてつかはしける

今ぞしるあかぬわかれの曉は君を戀路にぬるゝものとは
569

かへし

よそにふる雨とこそきけ覺束な何をか人の戀路といふ覽
570

つらかりける男に

たえはつるものとはみつゝ笹がにの糸を頼める心細さよ
571

かへし

打ち渡し長き心はやつ橋のくもでに思ふことはたえせじ
572

思ふ人侍りける女に物のたうびけれどつれなかりければ遣はしける

思ふ人おもはぬ人の思ふ人思はざらなむおもひしるべく
573

かへし

木枯しの森の下草風はやみ人のなげきはおひそひにけり
574

男のこと女迎ふるを見て親の家にまかり歸るとて

別れをば悲しき物ときゝしかど後やすくも思ほゆるかな
575

題志らず

なきたむる袂こほれるけさ見れば心とけても君を思はず
576

身を分けてあらまほしくぞ思ほゆる人は苦しと云ける物を
577

雲居にて人を戀しと思ふかな我は葦べのたづならなくに
578

源ひとしの朝臣

人につかはしける

あさぢふの小野の篠原忍ぶれど餘りてなどか人の戀しき
579

兼盛

雨やまぬ軒の玉水數しらず戀しきことのまさるころかな
580

讀人志らず

心短きやうに聞ゆる人なりといひければ

伊勢の海にはへても餘るたく繩の長き心は我ぞまされる
581

人につかはしける

色に出て戀すてふ名ぞ立ぬべき涙に染むる袖のこければ
582

斯戀る物と知せば夜はおきて明れば消ゆる露ならましを
583

逢もみず歎もそめずありし時思ふことこそ身になかりしか
584

戀のごとわりなき物はなかり鳬且むつれつゝ且ぞ戀しき
585

女のもとに遣はしける

わたつ海に深き心のなかりせば何かは君を恨みしもせむ
586

みな神に祈るかひなく涙川うきても人をよそに見るかな
587

かへし

祈りける水神さへぞ恨めしきけふより外に影のみえねば
588

右大臣

大輔につかはしける

色深くそめし袂のいとゞしく涙にさへもこさまさるかな
589

讀人志らず

題志らず

見る時は事ぞともなくみぬ時はことあり顏に戀しきやなぞ
590

男のこむとてこざりければ

山里の槇の板戸もさゝざりき頼めし人を待ちしよひより
591

はじめて女のもとに遣はしける

行く方もなくせかれたる山水のいはまほしくも思はゆる哉
592

女につかはしける

人の上のこととしいへばしらぬ哉君も戀する折もこそあれ
593

かへし

つらからば同じ心につらからむ強面き人を戀ひむ共せず
594

女につかはしける

人しれず思ふ心はおほしまのなるとはなしに嘆くころ哉
595

中務

男のもとに遣はしける

儚なくて同じ心になりにしを思ふがごとは思ふらむやぞ
596

源信明

かへし

わびしさを同じ心ときくからに我身をすてゝ君ぞ悲しき
597

まからずなりにける女の人に名たちければ遣はしける

定めなく仇に散りぬる花よりは常盤の松の色をやはみぬ
598

讀人志らず

かへし

住吉の我が身なりせば年ふとも松より外の色をみましや
599

をとこにつかはしける

現にもはかなき事の怪しきはねなくに夢の見ゆる也けり
600

女のあはず侍りけるに

白浪のよる/\岸に立ちよりてねも見し物を住吉のまつ
601

男に遣はしける

長らへてあらぬ迄にも言の葉の深きはいかに哀れ也けり
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Thursday, January 09, 2014
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia