後撰和歌集

Gosen wakashū

作者複数 Various

後撰和歌集卷第十一
戀歌三

701

三條右大臣

女のもとにつかはしける

名にしおはゞ逢坂山のさね蔓人に志られでくる由もがな
702

在原元方

戀しとは更にもいはじ下紐のとけむを人は其と志らなむ
703

讀人志らず

かへし

下紐の印とするも解けなくに語るがごとはあらずも有る哉
704

女のいと思ひ離れていふに遣はしける

現にも儚なきことの侘しきはねなくに夢と思ふなりけり
705

貫之

宮仕する女の逢ひ難く侍りけるに

手向せぬ別れする身の侘しきは人めを旅と思ふなりけり
706

女

かりそめなる所にはべりける女に心かはりにける男のこゝにてはかくびんなき所なれば心ざしはありながらなむえ立よらぬといへりければ所をかへて待ちけるに見えざりければ

宿かへて待つにも見えず成ぬればつらき所の多くもある哉
707

讀人志らず

題志らず

思はむと頼めし人は變らじをとはれぬ我やあらぬなる覽
708

中務

源さねあきら頼む事なくば死ぬべしといへりければ

徒に度々死ぬといふめれば逢ふには何をかへむとすらむ
709

源信明

かへし

志ぬ/\と聞く/\だにも逢見ねば命をいつの世にか殘さむ
710

本院侍從

時々みえける男のゐる所のさうじに鳥のかたをかきつけて侍りければあたりにおしつけ侍りける

繪にかける鳥とも人を見てしがな同じ所を常にとぶべく
711

平定文

大納言國經朝臣の家に侍りける女に平定文いと忍びて語らひ侍りて行末まで契り侍りける頃此女俄に贈太政大臣に迎へられてわたり侍りにければ文だにも通はす方なくなりにければかの女の子のいつゝばかりなるが本院の西の對に遊びありきけるを呼びよせて母に見せ奉れとてかひなに書き付け侍りける

昔せし我がかね言の悲しきはいかに契りし名殘なるらむ
712

讀人志らず

かへし

現にてたれ契りけむ定めなき夢路にまよふ我はわれかは
713

清原諸實

おほやけづかひにて東の方へまかりける程にはじめてあひ志りて侍る女にかくやむことなき道なれば心にもあらずまかりぬるなど申して下り侍りけるを後に改め定めらるゝ事ありてめしかへされければ此女聞きて喜びながらとひにつかはしたりければ道にて人の心ざし送りてはべりけるくれはとりといふ綾を二むら包みて遣しける

呉服部あやに戀しく有りしかば二村山も越えずなりにき
714

讀人志らず

かへし

から衣たつを惜みし心こそふたむら山のせきとなりけめ
715

清成が女

人のもとに遣はしける

夢かとも思べけれど覺束なねぬに見しかばわきぞ兼つる
716

もとの女

少將眞忠通ひ侍りける所をさりてこと女につきてそれより春日の便に出で立ちてまかりければ

空しらぬ雨にもぬるゝ我身哉三笠の山をよそにきゝつゝ
717

讀人志らず

朝顏の花まへにありけるざうしより男のあけて出で侍りけるに

諸共にをるともなしに打解けて見えにけるかな朝顏の花
718

女

内にまゐりて久しう音せざりける男に

百敷は斧の柄くたす山なれや入りにし人の音づれもせぬ
719

伊尹朝臣

女の許にきぬをぬぎ置きてとりに遣はすとて

鈴鹿山伊勢をの海士のすて衣汐馴れたりと人やみるらむ
720

貫之

題志らず

いかで我人にもとはむ曉のあかぬ別れやなにゝ似たりと
721

在原業平朝臣

戀しきに消え返りつゝ朝露のけさは起居む心地こそせね
722

讀人志らず

東雲にあかで別れし袂をぞ露やわけしと人やとがむる
723

平中興

こひしきも思込めつゝある物を人に志らるゝ涙なになり
724

兼輔朝臣

からうじてあへりける女につゝむ事侍りて又えあはず侍りければ遣はしける

逢坂の木の下つゆにぬれしよりわが衣手はいまも乾かず
725

躬恒

題志らず

君を思ふ心を人にこゆるぎの磯の玉藻やいまもからまし
726

讀人志らず

親ある女に忍びて通ひけるを男も志ばしは人に志られじといひ侍りければ

無名ぞと人にはいひて有ぬべし心のとはゞいかゞ答へむ
727

伊勢

なき名たちける頃

清けれど玉ならぬ身の侘しきは磨ける物にいはぬ也けり
728

敦忠朝臣

忍びてすみ侍りける女につかはしける

逢ふことをいざほに出なむ篠薄忍び果つべき物ならなくに
729

讀人志らず

あひ語らひける人これもかれも包む事ありて離れぬべく侍りければ遣はしける

逢見ても別るゝ事のなかりせばかつ/\物は思はざらまし
730

閑院左大臣

人のもとより曉かへりて

いつのまに戀しかるらむ唐衣濡れにし袖のひるま計りに
731

貫之

別れつる程もへなくに白浪の立返りても見まくほしきに
732

これまさの朝臣

女のもとにつかはしける

人しれぬ身は急げども年をへてなどこえ難きあふ阪の關
733

小野好古朝臣女

かへし

東路に行きかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ逢坂の關
734

藤原清正

女のもとに遣はしける

つれもなき人に負じとせし程に我も仇名は立ぞ志にける
735

小野遠興がむすめ

かれ方になりにける男の許に裝束調じて送れりけるにかゝるから疎き心地なむするといへりければ

つらからぬ中にある社疎しといへ隔果てゝし衣にやはあらぬ
736

もろまさの朝臣

五節の所にて閑院のおほい君につかはしける

常盤なる日かげの蔓今日しこそ心の色にふかく見えけれ
737

かへし

誰となく斯るおほみに深からむ色を常盤にいかゞ頼まむ
738

清正

藤壷の人々月夜にありきけるを見て一人がもとに遣はしける

たれとなく朧に見えし月影にわける心をおもひしらなむ
739

本院兵衞

左兵衞督師尹朝臣に遣はしける

春をだにまたで鳴きぬる鶯はふるす計のこゝろなりけり
740

兼茂朝臣女

題志らず

夕されば我身のみこそ悲しけれ何れのかたに枕さだめむ
741

在原元方

夢にだにまだ見えなくに戀しきはいづち習へる心なる覽
742

壬生忠岑

思ふてふ事をぞ妬く舊しける君にのみ社云ふべかりけれ
743

戒仙法師

あな戀し行きてやみまし津の國の今もありてふ浦の初島
744

貫之

やむことなきことによりて遠き所にまかりてたゞむ月ばかりになむまかり歸るべきといひてまかりくだりて道よりつかはしける

月かへて君をば見むと云しかど日だに隔てず戀しき物を
745

躬恒

同じ所に宮づかへし侍りて常に見ならしける女に遣はしける

伊勢の海に汐やく蜑の藤衣なるとはすれどあはぬ君かな
746

是則

題志らず

わたの底かづきて志らむ君が爲思ふこゝろの深さ較べに
747

右近季繩女

人のをとこにて侍る人をあひ志りてつかはしける

唐衣かけて頼まぬ時ぞなき人のつまとはおもふものから
748

藤原守正兼輔男

人の許にまかれりけるにすのとにすゑて物いひけるをすを引きあげゝればいたく騒ぎければまかりかへりて又のあしたに遣はしける

荒かりし浪の心はつらけれど簾越によせし聲ぞこひしき
749

藤原後蔭朝臣

あひ志りて侍りける女の心ならぬやうに見え侍りければつかはしける

何方に立ち隱れつゝ見よとてか思ひくまなく人の成行く
750

土左

男の心やう/\かれがたに見えゆきければ

つらきをも憂をもよそに見しか共我身に近きよに社有けれ
751

在原元方

女に心ざしあるよしをいひつかはしたりければよの中の人の心定めなければ頼み難き由をいひて侍りければ

淵は瀬に成り變るてふ飛鳥川渡り見て社しるべかりけれ
752

伊勢

題しらず

厭はるゝ身をうれはしみ早晩と飛鳥川をも頼むべらなり
753

贈太政大臣

かへし

飛鳥川せきて留むる物ならば淵瀬になると何かいはせむ
754

右大臣九條

女四のみこにおくりける

芦たづの澤べに年はへぬれども心はくもの上にのみこそ
755

かへし

芦鶴の雲居に懸る心あらばよをへて澤に住まずぞあらまし
756

贈太政大臣

せをそこ遣はしける女の又こと人に文つかはすと聞きて今は思ひたえねといひ送りて侍りける返事に

松山につらきながらも浪こさむことは流石に悲しき物を
757

枇杷左大臣

宮づかへし侍りける女程久しくありて物いはむといひ侍りけるに遲くまかりければ

よひのまに早なぐさめよ石の上ふりにし床も打拂ふべく
758

伊勢

かへし

渡津海とあれにし床を今更に拂はゞ袖や泡とうきなむ
759

長谷雄朝臣

心ざしありていひかはしける女のもとより人數ならぬやうにいひ侍りければ

汐のまにあさりする蜑も己がよゝかひありと社思ふべらなれ
760

贈太政大臣

題志らず

あぢきなくなどか松山浪こさむことをば更に思ひ離るゝ
761

伊勢

かへし

岸もなく汐しみちなば松山を下にて浪はこさむとぞ思ふ
762

これひら朝臣の女いまき

まもりをおきて侍りける男の心かはりにければ其守りを返し遣るとて

よと共に歎こりつむ身にしあればなぞ山守の有るかひもなき
763

讀人志らず

人の心つらくなりにければ袖といふ人をつかひにて

人しれぬ我物思の涙をばそでにつけてぞみすべかりける
764

藤原眞忠が妹

文などおこする男ほかざまになりぬべしときゝて

山のはに斯る思のたえざらば雲居ながらも哀れと思はむ
765

もろうぢの朝臣

町尻の君に文つかはしたりける返事にみつとのみありければつかはしける

なき流す涙のいとゞそひぬればはかなき水も袖は濡しけり
766

源たのむ

題志らず

夢のごと儚き物はなかりけり何とて人に逢ふとみつらむ
767

讀人志らず

心ざし侍りける女のつれなきに

思ひねのよな/\夢にあふことをたゞ片時の現ともがな
768

かへし

時のまの現をしのぶ心こそはかなき夢にまさらざりけれ
769

黒主

題志らず

玉津しま深き入江をこぐ舟のうきたる戀も我はするかな
770

紀内親王

津の國の難波たゝまく惜み社すく藻焚く火の下に焦るれ
771

讀人志らず

人の許にまかりていれざりければ簀子にふしあかして歸るとていひいれ侍りける

夢路にも宿かす人のあらませば寐覺に露は拂はざらまし
772

かへし

涙川ながす寢覺もあるものを拂ふばかりのつゆや何なり
773

心ざしはありながらえあはざりける人につかはしける

梅松かる方ぞ近江になしと聞く玉藻をさへや蜑は潜かぬ
774

かへし

名のみして逢事なみの繁きまにいつか玉藻を蜑は潜かむ
775

心ざしありて人にいひかはし侍りけるをつれなかりければいひわづらひてやみにけるを思ひ出でゝ志きりにいひ送りける返事に心ならぬさまなりといへりければ

葛城やくめぢの橋にあらばこそ思ふこゝろを中空にせめ
776

右大臣

人のもとにつかはしける

隱沼に住む鴛鴦鳥の聲たえずなけどかひなき物にぞ有ける
777

陽成院御製

釣殿のみこに遣はしける

筑波ねの峯より落つるみなの川戀ぞ積りて淵となりける
778

讀人志らず

相志りて侍りける人のまうでこずなりて後心にもあらず聲をのみきくばかりにて又音もせず侍りければ遣はしける

雁がねの雲居遙に聞えしは今はかぎりの聲にぞありける
779

兼覽王

かへし

今はとて行返りぬる聲ならばおひ風にても聞えましやは
780

小町

をとこのけしきやう/\つらげにみえければ

心からうきたる舟に乘初めて一日も浪にぬれぬ日ぞなき
781

讀人志らず

男の心つらく思ひかれにけるを女なほざりになどか音もせぬと云ひ遣したりければ

忘れなむと思ふ心の易からばつれなき人を恨みましやは
782

藤原滋幹

宵に女にあひて必後にあはむとちかごとをたてさせてあしたに遣はしける

千早振神引かけて誓ひてしこともゆゝしくあらがふなゆめ
783

右大臣

院のやまとに扇遣はすとて

思ひには我こそ入りて惑はるれ綾なく君や凉しかるべき
784

元平親王の女

兼通朝臣かれがたになりて年こえてとぶらひて侍りければ

あら玉の年もこえぬる松山のなみの心はいかゞなるらむ
785

讀人志らず

もとのめにかへりすむときゝて男のもとに遣はしける

我爲はいとゞ淺くやなりぬらむ野中の清水深さまされば
786

源中正

女のもとに遣はしける

近江路を知邊なくても見てしがな關の此方は侘しかり鳬
787

下野

かへし

道志らでやみやは志なぬ逢坂の關の此方はうみといふなり
788

讀人志らず

女の許にまかりたるにはや歸りねとのみいひければ

つれなきを思ひ忍ぶのさね蔓はてはくるをも厭ふなり鳬
789

左大臣

あつよしの親王の家にやまとゝいふ人につかはしける

今更に思ひ出でじと忍ぶるを戀しきにこそ忘れ侘びぬれ
790

長谷雄朝臣

いひかはしける女の今は思ひ忘れねといひ侍りければ

我爲は見るかひもなし忘草忘るばかりの戀にしあらねば
791

藤原有好

忍びて通ひける人に

逢見ても包む思の侘しきは人まにのみぞねはなかれける
792

讀人志らず

物いひ侍りける男言ひ煩ひていかゞはせむいなともいひ放ちてよといひ侍りければ

小山田の苗代みづはたえぬとも心のいけのいひは放たじ
793

方たがへに人の家に人を具してまかりて歸りて遣はしける

千代へむと契置きてし姫松のねざしとめてし宿は忘れじ
794

源重光朝臣

物いひける女に蝉のもぬけを包みてつかはすとて

是をみよ人もすさめぬ戀すとて音を泣く虫のなれる姿を
795

坂上是則

人のもとより歸りまできて遣はしける

逢ひ見ては慰むやとぞ思ひしに名殘しも社戀しかりけれ
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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