群書類従卷第三百七

物語部一

伊勢物語朱雀院塗籠御本

【八十三】

昔男津の国むはらのこほりあしやの里にしるよしありていきてすみけりむかしのうたに

あしのやのなたの塩焼いとまなみつけのをくしもさゝてきにけり

とよめるはこの里をよめるなりこゝをなんあし屋のなたとはいひけり此男なま宮つかへしけれはそれをたよりゑふのすけともあつまりきにけりこの男のあにもゑふのかみなりけりその家の海のほとりにあそひありきていさこの山のうへにありといふぬのひきのたき見にのほらんといひてのほりてみるにそのたき物よりことなりたかさ廿丈はかりひろさ五丈余はかりある石のおもてにしろきゝぬにいしをつゝみたらんやうになん有けるさる滝のかみにわらふたはかりにてさし出たるいしありその石のうへにはしりかゝる水せうかうしはかりのおほきさにてこほれおつそこなる人にうたよますこのゑふのかみまつよむ

我世をはけふかあすかとまつかひの涙の滝といつれまされり

つきにあるしよむ

ぬきみたる人こそ有らめしら玉のまなくもちるか袖のせはきに

とよめりけれはかたへの人わらふにや有けむこの歌をよみてやみけりかへりくるみちとをくてうせにし宮内卿もとよしか家のまへすくるに日くれぬやとりのかたを見やれはあまのいさりする火おほくみるにこのあるしのおとこよむ

はるゝ夜の星か河辺の蛍かも我すむかたの蜑の焼火か

とよみてみなかへりきぬそのよみなみの風ふきてなこりのなみいとたかしつとめてその家のめのこともいてゝうきみるの浪によせられたるをひろひていゑにもとてきぬ女かたよりそのみるをたかつきにもりてかしはおほひて出したりそのかしはにかくかけり

わたつ海のかさしにさすといはふもゝ君か為にはおしまさりけり

ゐなかの人の歌にてはあまれりやたらすや

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Last Modified:Thursday, February 13, 2025
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