群書類従卷第三百七
検校保己一集
物語部一
伊勢物語朱雀院塗籠御本
【一】
むかしおとこありけりうゐかふりしてならの京かすかの里にしるよししてかりにいきけり其さとにいともなまめきたる女はらすみけりかのおとこかいま見てけりおもほえすふるさとにいともはしたなくありけれは心ちまとひにけり男きたりけるかりきぬのすそをきりてうたをかきてやるそのおとこしのふすりのかりきぬをなんきたりける
となんをいつきてやれりける[となんいひつきてやれりける]おもしろきことゝや
といふうたのこゝろはへなりむかし人はかくいちはやきみやひをなんしける
【二】
昔男ありけりみやこのはしまりける時ならの京ははなれ此京は人の家いまたさたまらさりける時西京に女有けり其女世の人にはまさりたりけりかたちよりは心なんまされりける人所のみもあらさりけらしそれをかのまめ男うち物かたらひてかへりきていかゝ思ひけん時は弥生の朔日雨うちそほふりけるにやりける
【三】
昔男ありけりけさうしける女のもとにひしきといふものをやるとて
五条の后のいまたみかとにもつかうまつらてたゝ人にておはしけるときのことなり
【四】
昔東五条におほきさいの宮のおはしましける西の対にすむ人ありけりそれをほいにはあらてゆきとふらふ人こゝろさしふかゝりけるをむ月の十日あまりほかにかくれにけりありところはきけと人のいきよるへきところにもあらさりけれはなをうしとおもひつゝなんありける又のとしのむ月に梅花さかりなるにこそを思ひてかのにしのたいにいきて見れとこそにゝるへうもあらすあはらなるいたしきに月のかたむくまてふせりてこそをこひて読る
とよみてほの/\とあくるになく/\かへりにけり
【五】
昔男有けりひんかしの五条わたりにいとしのひいきけりしのふ所なれはかとよりもいらてついちのくすれよりかよひけり人たかしくもあらねとたひかさなりけれはあるしきゝつけてそのかよひちに夜ことに人をすへてまもらせけれはかのおとこえあはてかへりにけりさてつかはしける
とよみけるをきゝていといたうえんしけるあるしゆるしてけり
【六】
昔男有けり女のえあふましかりけるを年をへていひわたりけるにからうして女のこゝろあはせてぬすみて出にけりあくた河といふ河をゐていきけれは草のうへにをきたる露をかれはなにそとなん男にとひけるゆくさきはいとゝほく夜も更けれはおにある所ともしらて雨いたうふり神さへいといみしうなりけれはあはらなるくらの有けるに女をはおくにおしいれて男は弓やなくひをおひてとくちにはや夜もあけなむとおもひつゝゐたりけるほとに鬼はや女をはひとくちにくひてけりあゝやといひけれと神のなるさはきにえきかさりけりやう/\夜の明行を見れはゐてこし女なしあしすりしてなけとかひなし
これは二条の后の御いとこの女御のもとにつかうまつり人のやうにてゐ給へりけるをかたちのいとめてたうおはしけれはぬすみていてたりけるを御せうとのほり河の大将もとつねのくにつねの大納言なとのいまたけらうにて内へまいり給ふにいみしうなく人のあるを聞つけてとりかへしたまひてけりそれをかくおにとはいへる也いまたいとわかうてたゝにきさひのおはしけるときとや
【七】
むかしおとこ有けり女をぬすみてゐてゆく道にて水のまんとゝふにうなすきけれはつきなんともくせねは手にむすひてのますさてゐてのほりにけり女はかなくなりにけれはもとの所へゆく道にかのし水飲し所にて
といひてきえかゑりあはれ/\といへとかひなし
【八】
昔男ありけり京にありわひてあすまへゆきけるに伊勢おはりのあはひの海すらをゆくになみのいとしろくたちかへるを見ておもふ事なきならねはおとこ
【九】
むかし男ありけりそのおとこ身はようなきものに思ひなして京にはをらしあすまのかたにすむへき所もとめにとてゆきけりしなのゝくにあさまのたけにけふりたつを見て
もとよりともする人ひとりふたりしてもろともにゆきけりみちしれる人もなくてまとひゆきけりみかはのくにやつはしといふ所にいたりぬそこやつはしといふことは水のくもてになかれわかれて木八わたせるによりてなむ八橋とはいへるその沢のほとりに木かけにおりゐてかれいひくひけりその沢にかきつはたいとおもしろくさきたりそれを見て都いとこひしくおほえけりさりけれはある人かきつはたといふいつもしをくのかしらにすへてたひの心よめといひけれはひとの人よめり
と読りけれはみな人かれいひのうへに涙落してほとひにけりゆき/\てするかの国にいたりぬうつの山にいたりてわかゆくすゑのみちはいとくらくほそきにつたかつらはしけりてもの心ほそうすゝろなるめを見ることゝおもふにす行者あひたりかゝるみちにはいかてかおはするといふに見れは見し人なりけり京にその人のもとにとて文かきてつく
冨士の山を見れはさ月つこもり雪いとしろくふりたり
この山は上はひろくしもはせはくて大笠のやうになん有ける高さはひえの山をはたちはかりかさねあけたらんやうになん有けるなをゆき/\てむさしの国としもつふさの国とふたつかなかにいとおほきなる河ありその河の名をはすみた川となんいひけるその河のほとりにむれゐておもひやれはかきりなくとをくもきにけるかなとわひをれはわたしもりはや船にのれ日もくれぬといふにのりてわたらんとするにみな人物わひしくて京に思ふ人なきにしもあらすさるおりにしろき鳥のはしとあしとあかきかしきのおほきさなる水のうへにあそひつゝいをゝくふ京には見えぬとりなれは人々みしらすわたしもりにとへはこれなむ都鳥と申といふをきゝて
とよめりけれは船人こそりてなきにけりその河渡り過て都に見しあひて物かたりしてことつてやあるといひけれは
【十】
むかし男むさしの国まとひありきけりその国なる女をよはひけり父はこと人にあはせんといひけるに母なんあてなる人に心つけたりける父はたゝ人にて母なん藤原なりけるさてなんあてなる人にとはおもひける此むこかねによみてをこせたるすむさとはむさしのくにいるまのこほりみよしのゝ里なり
かへしむこかねかへし
人の国にてもかゝることはたえすそありける
【十一】
昔男有けり東へゆきけるに友たちに道よりをこせける
【十二】
むかしおとこありけり女をぬすみてむさしの国へ行ほとにぬす人成けれはくにのつかさからめけれは女をは草むらの中にをきてにけにけりみちゆく人此野はぬす人ありとて火をつけんとするに女わひて
とよみけるを聞てこの女をはとりてともにゆきにけり
【十三】
昔武蔵なる男京なる女のもとにきこゆれははつしきこねはくるしとかきてうはかきにむさしあふみとのみ書てのちをともせすなりにけれは京より女
とあるを見てなんたへかたきこゝちしけり
【十四】
むかし男みちのくにゝすゝろにいたりにけりそこなる女京の人をはめつらやかにかおもひけんせちにおもへるけしきなん見えけるさてかの女
うたさへそひかめりけるさすかにあはれとやおもひけんいきてねにけり夜ふかく出にけれは女
といひけりおとこ京へなんまかるとて
といへりけれはよろこひて思ひけり/\とそいひける
【十五】
昔男みちの国へありきけるになてうことなき人のむすめにかよひけるにあやしくさやうにてあるへき女にはあらす見えけれは
女かきりなくめてたしとおもへとさるさかなきえひす所にてはいかゝはせん
【十六】
昔みちのくにゝおとこすみけりみやこへいなんとするに女いとかなしと思ひてむまのはなむけをたにせんとておきのゐみやこつしまといふ所にてさけのませんとしてよめる
とよめりけるにめてゝとまりにけり
【十七】
むかしきのありつねといふ人有けりみよのみかとにつかへてときにあひたりけれとのちには世かはり時うつりにけれはよのつね時うしなへる人になりにけり人からは心うつくしうあてなることをこのみてこと人にもにすよのわたらひ心もなくまつしくて猶むかしよかりし時の心なからありわたりけるによのつねのこともしらすとしころありなれたるめもやう/\とこはなれてつゐにあまになりてあねのさきたちてあまになりにけるかもとへゆくおとこまことにむつましき事こそなかりけれいまはとてゆくをいと哀とはおもひけれとまつしけれはするわさもなかりけり思ひわひてねんころにかたらひけるともたちにかう/\今はとてまかるを何事もいさゝかの事もせてつかはすことゝかきておくに
このともたちこれを見ていとあはれとおもひて女のさうそくを一具をくるとて
かくいひたりけれはよろこひにそゑて
よろこひにたへかねて又
【十八】
昔年比音信さりける人の桜見に来たりけれはあるし
返し
【十九】
むかしなま心ある女ありけり男とかういひけり女歌よむ人なりけれはこゝろみんとてむめを折てやる
おとこしらすよみによみけり
【二十】
昔男みやすかへしける女こたちなりける人をあひしれりけりほともなくかれにけりおなしところなりけれはさすかに女のめには見ゆるものから男はあるものにもおもひたらねはをんな
とよめりけれはおとこ
とよめるはあまた男ある女になむありける
【二十一】
昔おとこやまとにある女をよはひてあひにけりさてほとへて宮すかへしける人なりけれはかへりけるみちにやよひはかりに山にかえてのもみしのいとおもしろきをおりてすみし女のもとにみちより
とてやりたりけれは返事は京にいきつきてなんもてきたりける
【二十二】
昔男女いとかしこう思ひかはしてことこゝろなかりけるをいかなることか有けむはかなきことにことつけてよの中をうしと思ひていてゝいなんとてかゝる歌なん物にかきつけゝり
とよみてをきて出ていにけりこの男かくかきをきたるをみて心うかるへきこともおほえぬを何によりてならむいといたうゝちなきていつ方にもとめゆかんとかとに出てとみかうみ見けれといとこをはかともおほえさりけれはかへり入て
といひてなかめをりこの女いとひさしくありてねんしかねてにやあらんかくいひをこしたり
返しおとこ
また/\ありしよりけにいひかはしておとこ
かへし
とはいひけれとをのか世々になりにけれはうとく成にけり
【二十三】
むかしはかなくてたえにける中をかわすれさりけん女のもとより
といひけれはされはよと思ひて
とはいひけれとその夜いにけりいにしへゆくさきの事ともそおもふ
返し
いにしへよりも哀にてなむかよひける
【二十四】
むかしいなかわたらひしける人の子とも井のもとにいてゝあそひけるをおとなになりにけれはおとこも女もはちかはしてありけれは男はこの女をこそえめをんなはこの男をと思ひつゝおやのあはすることもきかてなんありけるさてこのとなりのおとこのもとよりなん
返し
かくいひてほいのことくあひにけりさて年ころふるほとに女のおやなくなりてたよりなかりけれはかくてあらんやはとてかうちのくにたかやすのこほりにいきかよふ所いてきにけりさりけれとこのもとの女あしとおもへるけしきもなくくるれはいたしたてゝやりけれは男こと心ありてかゝるにやあらんとおもひうたかひてせんさいのなかにかくれゐてかの河内へいぬるかほにて見れはこの女いとようけさうしてうちなかめて
とよめりけるをきゝて限なくかなしと思ひて河内へもおさ/\かよはすなりにけりさてまれ/\かのたかやすのこほりにいきて見れははしめこそこゝろにくもつくりけれいまはうちとけて髪をかしらに巻あけておもなかやかなる女のてつらいひかいをとりてけこのうつはものにもりてゐたりけるをみて心うかりていかすなりにけりさりけれはかの女やまとのかたを見やりて
といひて見いたすにからうしてやまと人こむといへりよろこひてまつにたひ/\過ぬれは
といへりけれとおとこすますなりにけり
【二十五】
昔男かたいなかにすみけりおとこ宮つかへしにとてわかれおしみてゆきにけるまゝにみとせこさりけれはまちわたりけるにいとねんころにいひける人にこよひあはんとちきりたりけるにこの男きたりけりこの戸あけたまへとたゝきけれはあけてなんうたをよみていたしたりける
といひいたしたりけれはおとこ
といひていなんとすれはうらみて女
といひけれと男かへりにけり女いとかなしうてしりにたちてをひけれとえをひつかてし水のある所にふしにけりそこなる岩にをよひのちしてかきつけゝり
とかきていたつらになりにけり
【二十六】
昔おとこありけりあはしともいはさりける女のさすかなりけるかもとにいひやりける
色このみなりける女返し
【二十七】
昔男人のむすめのもとに一夜はかりいきてまたもいかすなりにけれは女のおやはらたちて手あらふ所にぬきすをとりてなけすてけれはたらひの水になくかけのみえけるをみつから
とよめりけるをこのこさりけるおとこきゝて
【二十八】
昔いろこのみなりける女いてゝいにけれはいひかひなくて男
【二十九】
二条后の春宮のみやす所と申ける時の御かたの花の宴にめしあけられたりけるに肥後のすけなりける人
とよみてたてまつれり
【三十】
むかしおとこはつかなりける女に
【三十一】
むかしおとこ宮のうちにてあるこたちのつほねのまへをわたるになにをあたとかおもひけんよしや草葉のならんさか見んといひけれは男
といふをねたう女も思ひけり
【三十二】
昔男津のくにむはらのこほりにすみける女にかよひける此たひかへりなは又はよもこしと思へるけしきをみて女のうらみけれは
女返し
いなかの人のことにてはいかゝ
【三十三】
むかしおとこつれなかりける人のもとに
おもひ/\ていへるなるへし
【三十四】
むかし男心にもあらてたえにける女のもとに
【三十五】
昔忘ぬなめりととひことしける女のもとに
女かへし
【三十六】
むかしおとこいろこのみなりける人をかたらひてうしろめたなしとやおもひけん
女かへし
【三十七】
むかしきのありつね物にいきてひさしうかへらさりけりにいひやる
返し
【三十八】
昔わかき男けしうあらぬ人を思ひけりさかしらするおやありておもひもつくとてこのをんなをほかへならんといふ人の子なれはまた心こゝろのいきをひなくてえとゝめす女もいやしけれはすまふちからなしさこそいへまたえやらすなるあひたに思ひはいやまさりにまさるおやこの女ををひいつ男ちのなみたをおとせともとゝむるちからなしつひにいぬれ女かへし人につけて
おとこなく/\よめる
とよみてたえいりにけりおやあはてにけりなをさりに思ひてこそいひしかいとかくしもあらしとおもふにまことにたえいりたれはまとひて願なとたてけりけふのいりあひはかりにたえいりて又の日のいぬの時はかりになんからうしていきいてたりけるむかしのわか男はかゝるすける物思ひなんしける今のおきなまさにしなんやは
【三十九】
昔女はらからふたり有けりひとりはいやしき男のまつしきひとりはあてなる男のとくあるもちたりけりそのいやしきおとこもちたるしはすのつこもりにうへのきぬをあらひて手つからはりけり心さしはいたしけれともいまたさるわさもならはさりけれはうへのきぬのかたをはりさきてけりせんかたもなくてなきにのみなきけりこれをかのあてなる男きゝていと心くるしかりけれはいときよけなる四位のうへのきぬたゝかた時に見いてゝ
むさし野の心なるへし
【四十】
昔男色このみとしる/\女をあひしれりにくゝもあらさりけれとなをいとうたかひうしろめたなしうへにいとたゝにはあらさりけりふつかはかりいかてかくなん
ものうたかはしさによめるなりけり
【四十一】
昔かやのみこと申すみこおはしまりけり其みこ女をいとかしこうめしつかひたまひけりいとなまめきて有けるをわかき人はゆるさゝりけり我のみと思ひけるを又人きゝつけて文やる郭公のかたをつくりて
といへりけりこの女けしきをとりて
時はさ月になんありけれは男又返し
【四十二】
昔あかたへゆく人に馬のはなむけせんとてよひたりけるにうとき人にしあらさりけれはいへとうしゝてさかつきさゝせなとして女のさうそくかつくあるしの男うたをよみてものこしにゆひつけさす
【四十三】
むかし宮つかへしける男すゝろなるけからひにあひて家にこもりゐたりけり時はみな月のつこもりなり夕暮に風すゝしく吹蛍なと飛ちかふをまほりふせりて
【四十四】
昔すき者の心はえありあてやかなりける人のむすめのかしすくをいかて物いはんと思ふ男有けりこゝろよはくいひいてんことやかたかりけん物やみになりてしぬへきときかくこそおもひしかといふにおやきゝつけたりけりまとひきたるほとにしにゝけれは家にこもりてつれ/\となかめて
【四十五】
むかしおとこねんころにいかてと思ふ女ありけりされとこの男あたなりときゝてつれなさのまさりて
返し
【四十六】
むかしおとこ有けりものへ行人にむまのはなむけせんとてひと日まちけるにこさりけれは
【四十七】
昔男いもうとのおかしけなるを見て
ときこえけれは返し
【四十八】
むかし男有けり人をうらみて
といへりけれはをんな
又おとこ
又返し女
又おとこ
あたにてたかひにしのひありきすることをいふなるへし
【四十九】
むかしおとこ人の前栽うへけるに
【五十】
むかしおとこありけり人のもとよりかさりちまきをこせたる返事に
とてきしをなんやりける
【五十一】
むかしおとこありかたかりける女に物かたりなとするほとにとりのなきけれは
【五十二】
むかしおとこつれなかりける女にいひやりけり
【五十三】
昔男ふして思ひおきておもひあまりて
【五十四】
昔人しれぬ物おもひける男つれなき女のもとに
【五十五】
昔心つきなま色このみなる男なか岡といふ所に家つくりてをりけりそこのとなりなりける宮はらにこともなき女ともありけりゐなかなりけれは田からすとて此男見をりけるにいみしのすきものゝしわさやとてあつまりいりきけれは此男おくににけいりにけり女かく
といひてあつまりきけれは男
といひてなむ出したりける此女ともほひろはんといひけれは
【五十六】
昔男有けり宮つかへもいそかしくて心もまめならさりけれは家とうしとしまめに思はんといひける人につきて人の国へいにけりこの男うさの使にていきけるにある国のしそうの官人のめになんあると聞て女あるしにかはらけとらせよさらはのまんといひけれはかはらけとらせていたしたりけるにさかななりけるたち花をとりて
といへりけるにそ思ひ出てあまになりて山には入にける
【五十七】
昔つくしまていきたりける男有けりこれはいろこのむなるすきものそとすたれのうちなる人のいひけるをきゝて男
女返し
【五十八】
昔年ころをとろへさりける女心かしこくやあらさりけんはかなき人のことにつきて人の国なりける人につかはれてもとみし人のまへにいてきて物くはせなとしありきけり長きかみをきぬのふくろに入て遠山すりのなかきあをゝそきたりけるよさりこのありつる人たまへとあるしにいひけれはをこせたりけり男われをはしらすやとて
といふをいとはつかしとおもひていらへもせてゐたるをなといらへもせぬといへは涙のなかるゝにめもみえすものもいはれすといへはおとこ
といひてきぬゝきてとらせけれとすてゝにけにけりいつこにいぬらんともしらす
【五十九】
むかし世こゝろある女いかてこのなさけある男をかたらひてしかなと思へともいひいてんにもたよりなけれはまことならぬ夢かたりをむす子三たりをよひあつめてかたりけりふたりの子はなさけなくいらへてやみぬさふらふなりけるなんよき御おとこそいてこむとあはするにこの女けしきいとよしこと人はいとなさけなしいかてこの在五中将にあはせてしかなとおもふ心ありけりかりしありきける道にゆきあひにけり馬のくちをとりてやう/\なんおもふといひけれはあはれかりてひとよねにけりさてのちをさ/\こねは女おとこの家にいきてかいま見けるを男ほのかにま見て
といひて馬にくらおかせていてたつけしきを見てむはらからたちともしらすはしりまとひて家にきてふせり男この女のせしやうにしのひてたてりて見けれは女うちなきてぬとて
とよみけるをあはれとみてその夜はねにけり世中のれいとして思ひおもはぬ人有をこの人はそのけちめ見せぬこゝろなんありける
【六十】
むかし男女をみそかにかたらふわさもせさりけれはいつこなりけむあやしさによめる
返し女
とてやみにけり
【六十一】
昔みかとの時めきつかはせ給ふ女色ゆるされたる有けりおほみやす所とていまそかりけるか御いとこなりけり殿上につかはせ給ひけるありはらなりける男女かたゆるされたりけれは女のある所にいきてむかひをりけれは女いとかたはなり身もほろひなんかくなせそといひけれは
といひてさうしにおりたまへはいとゝさうしには人の見るをもしのはてのほりゐけれは此女思ひわひてさとへゆきけれはなにのよきことゝおもひてゆきかよふにみな人きゝてわらひけりつとめてとのもつかさの見るにくつはとりておくになけいれてのほりゐてかくかたはにしつゝありわたるよ身もいたすらになりぬへけれはつゐにほろひぬへしとてこの男いかにせんわかゝる心やめ給へとほとけ神にも申けれといやまさりつゝおほえつゝなをわりなくこひしきことのみおほえけれはかんなきをんやうしゝてこひせしといふみそきのくしてなんいきけるはらへけるまゝにいとゝかなしきことのみかすまさりてありしよりけに恋しくのみおほえけれは
といひてなんきにける
このみかとは御かほかたちよくおはしまして暁には仏の御名を心にいれて御声はいとたうとくて申給ふを聞て此女はいたうなけきけりかゝる君につかうまつらてすくせつたなうかなしきこと此男にほたされてと思ひてなんなきけるかゝるほとにみかときこしめしつけて此男なかしつかはしけれはあの女をはいとこの宮す所まかてさせてとのゝくらにこめてしほり給ひけれはくらにこもりてなく/\
となきをれは此男は人の国より夜ことにきつゝ笛いとおもしろくふきて声はいとおかしくてうたをそうたひける此女くらにこもりなからそこにそあなりとはきゝけれと逢見るへきにもあらてかくなん
とおもひをりおとこは女しあはねはかくしありきつゝうたふ
水のおの御時の事なるへしおほみやす所とはそめとのゝ后なり
【六十二】
むかし男つのくにゝしるところありけりあにをとゝともたちなんとひきゐてなにはのかたにいきけりなきさをうち見けれは船とものあるを
これをあはれかりて人々かへりにけり
【六十三】
昔男いつみの国にいきけりつの国住よしのこほりすみよしの里のはまゆくにいとおもしろけれはおりゐつゝある人すみよしのはまとよめといふに
とよめりけれはみな人よますなりにけり
【六十四】
昔男有けりその男伊勢の国にかりのつかひにいきけるをかの伊勢の斎宮なりける人のおやつねの使よりは此人よくいたはれといひやりけりおやのいふことなりけれはいとねんころにいたはりけりあしたにはかりにいたしたてゝやりゆふさりはこゝにかへりこさせけりかくてねんころにいたはりけるほとにいひつきにけり二日といふ夜われてあはむといふ女はたいとあはしとも思へらすされと人めしけゝれはえあはすつかひさねとある人なれはとをくもやとさすねやちかくなん有ける女人をしつめてねひとつはかりに男のもとにきにけり男はたねられさりけれはとのかたを見いたしてふせるに月のおほろなるに人のかけするを見れはちいさきわらはをさきにたてゝ人たてりおとこいとうれしくてわかぬる所にゐていりてねひとつよりうしみつまて物かたらひけりいまたなにこともかたらひあへぬほとに女かへりにけれは男いとかなしくてねす成にけりつとめてゆかしけれと我人をやるへきにしあらねは心もとなくてまちみれはあけはなれてしはしあるほとに女の許より詞はなくて
男いたううちなきて
とてかりにいてぬ野にありきけれと心はそらにていつしか日もくれなんとおもふほとに国のかみのいつきの宮のかみかけたりけれはかりの使ありときゝて夜ひとよさけのみしけれはもはらあひこともせてあけはおはりの国へたちぬへけれは男もをんなもなみたをなかせともあふよしもなし夜やう/\あけなんとするほとに女のかたよりいたすさかつきのうらに
とかきてすゑはなしそのさかつきのうらについまつのすみしてかきつく
あくれはおはりへこえにけり
【六十五】
むかし男かりの使よりかへりけるにおほよとのわたりにやとりていつきのみやのわらゑにいひかけゝる
【六十六】
昔男伊勢の斉宮に内の御使にてまいれりけれはかの宮にすてこといひける女わたくしことにて
おとこかへし
【六十七】
むかしそこにありときゝけれとせうそこをたにいふへくもあらぬ女のあたりをありきて男のおもひける
【六十八】
むかし女をいたううらみて
【六十九】
むかし男伊勢の国なりける女に又もえあはてうらみけれは女
といひてましてつれなかりけれは
女
又おとこ
とのみいひて世にあふことかたきことになん
【七十】
むかし男伊勢国なりける女をまたはえあはてとなりの国へいくとて恨けれは女
【七十一】
昔二条の后の春宮のみやす所と申けるころ氏神にまうて給けるにつかうまつれりけるこのゑつかさなりける翁人々のろく給はりけるつゐてに御車より給はりてよみて奉る
【七十二】
昔きたのみこと申すみこいまそかりけり田村の御門のみこにおはしますそのみこうせ給ひてなゝ七日のみわさ安祥寺にてしけり右大将藤原のつねゆきといふ人其みわさにまいり給ひてかへさに山しなのせんしのみこの御もとにまいり給ふにその山科の宮滝おとし水はしらせなとしておもしろく作れりまうて給ふて年比よそにはつかうまつれとまたかくはまいらすこよひはこゝにさふらはんと申給ふをみこよろこひ給ひよるのおまし所まうけさせ給ふこの大将いてゝ人にたはかり給ふやう宮つかへのはしめにたゝにやは有へき三条にみゆき有し時きのくにの千里の浜にありけるいとおもしろき石奉れりきみゆきの後奉れりしかはあるみさうしのまへのみそにすへたりしをこのみ[このみ]給ふものなりかの石をたてまつらんとのたまひてとりにつかはすいくはくもなくてもてきぬこの石きくよりは見るまさりたりこれをたゝにたてまつらはすゝろなるへしとて人々に歌よませ給ふむまのかみなりける人よめり
この石はあをきこけをきさみてまきゑをしたらむやうにそありける
【七十三】
昔氏の中にみこうまれ給へりけり御うふやにみな人々歌よみけり御おほちのかたなりけるおきなのよめる
これはさたかすのみこ中納言ゆきひらのむすめのはらなる清和の親王なり時の人中将の子となんいひける
【七十四】
むかしおとろへたる家に藤の花うへたる人ありけりいとおもしろうさけりけりやよひのつこもり雨のそほふるに人のもとにおりてたてまつるとて
【七十五】
昔左のおほゐまうち君いまそかりけるかも河のほとりに六条をいとおもしろくつくりてすみ給ひけり神な月のつこもりかたに菊の花うつろひて木くさのいろちくさなるころみこたちおはしまさせてさけのみあそひて夜あけゆくまゝにこのとののおもしろきよしほむるうたよむにそこなりけるかたいおきなみな人によませはてゝいたしきのしたをはひありきてよめる
とよめるはみちのくにゝいきたりけるにあやしうおもしろき所々おほかりけりわかみかと六十余国のうちにしほかまといふ所ににたる所なかりけりされはなんかのおきなもめてゝしかはよめるなりしほかまうきしまのかたをつくりけるとなん
【七十六】
昔ふか草のみかとのせり川のみゆきし給けるになまおきなのいまはさることにけなく思ひけれともとつきにけることなれはおほかたのたかゝひにてさふらひ給ひけるをすりかりきぬの袂に鶴のかたをつくりてかきつけゝる
おほやけの御きそくもあしかりけりをのかよはひ思けれとわかゝらぬ人きゝとかめけり
【七十七】
昔これたかときこゆるみこおはしけり山さきのあなたに水無瀬といふ所に宮ありけり年ことの桜の花さかりにかしこへなんかよひ給ひけるその時むまのかみなりける人まいりつかうまつりけれは御供におくらかし給はてつねにゐておはしましけりなきさの院の桜ことにおもしろくさけり木のもとにおりゐて枝をおりてかさしにさしてみな人歌をよむにうまのかみなりける人のよめり
また人
【七十八】
むかしおなしみこ交野に狩しありき給けるに馬かみなりける人をかならす御供にゐてありき給ひけりれいのことありき給ふにこの人かめにさけをいれて野にもていてたりのまんとてきよき所もとめゆくにあまの河といふところにいたりぬむまのかみおほみきまいるみこののたまひけるかた野をかりてあまの河原にいたるを題にてうたよみてさかつきさせとの給ひけれはよみてたてまつれり
ときこえけれは此うたをみこかへす/\詠たまうて返しえし給はすきのありつね御ともにつかうまつりたりけるかかへし
帰りて宮にいらせ給ぬ夜ふくるまて酒のみ物語してあるしのみこゑひていり給ひなんとす十日あまりの月かくれなんとすそれにかのむまのかみなりける人のよめる
みこにかはりてきのありつね
【七十九】
昔みなせにかよひ給ふこれたかのみこれいのかりしありき給ひにけり御ともにうまのかみなりけるおきなつかうまつれり日比へて宮にかへり給ひにけり御をくりしてとくいなんとおもふにおほみき給ひろく給はせんとてつかはさゝりけれはこゝろもとなくて
とよみけれはやよひのつこもりなりけりみこおほとのこもらてあかし給ひけりかくしつゝまいりつかうまつりけるを思ひのほかに御くしおろさせ給ひて小野といふ所にすみ給ひけりむ月におかみたてまつらんとてまうてたるにひえの山のふもとなれは雪いとたかししゐてみむろにまうてゝおかみ奉るにつれ/\といと物かなしうておはしましけれはやゝ久しく侍らひていにしへの事なと思ひ出て聞えさせけりさてもさふらひてしかなとおもへともおほやけこともあれはえさふらはて暮にかへるとてよめる
とよみてなんなく/\かへりにける
【八十】
昔男有けり身はいやしなからはゝみこなりけりその母なか岡といふ所にすみ給ひけり子は京に宮つかへしけれはまうつとしけれとしは/\もえまうてすひとり子にさへ有けれはいとかなしうし給けりさるほとにしはすはかりにとみのことゝて御ふみあり驚て見れはことことはなくて
となん有ける是を見て馬にものりあへすまいるとて道すからおもひける
【八十一】
昔おとこ有けりわらはよりつかうまつりける君御くしおろし給ふてけりもとの心うしなはしとてむ月にはかならすまうてけりおほやけの宮つかへしけれはしは/\もえまいらさりけれと心さしはかりはかはらさりけれはまうてたるにまた昔つかうまつりし人のそくなるほうしなるまいりあつまりてむ月なれはことたへとておほにふきたまひけり雪こほすかことくふりて日ねもすにやますみな人ゑひて雪にふりこめられたるを題にて歌よまんといふに
とよめりけれはみこいといたう哀かりて御そぬきて給へりけり
【八十二】
むかしいとわかきおとこわかき女をあひいへりけりをの/\おや有けれはつゝみていひさしてけり年ころへて女のかたより猶このこととけんといへりけれは男うたをよみてやれりけりいかゝおもひけん
といひてやみにけり男女あひはなれぬみやつかへになんいてたちける
【八十三】
昔男津の国むはらのこほりあしやの里にしるよしありていきてすみけりむかしのうたに
とよめるはこの里をよめるなりこゝをなんあし屋のなたとはいひけり此男なま宮つかへしけれはそれをたよりゑふのすけともあつまりきにけりこの男のあにもゑふのかみなりけりその家の海のほとりにあそひありきていさこの山のうへにありといふぬのひきのたき見にのほらんといひてのほりてみるにそのたき物よりことなりたかさ廿丈はかりひろさ五丈余はかりある石のおもてにしろきゝぬにいしをつゝみたらんやうになん有けるさる滝のかみにわらふたはかりにてさし出たるいしありその石のうへにはしりかゝる水せうかうしはかりのおほきさにてこほれおつそこなる人にうたよますこのゑふのかみまつよむ
つきにあるしよむ
とよめりけれはかたへの人わらふにや有けむこの歌をよみてやみけりかへりくるみちとをくてうせにし宮内卿もとよしか家のまへすくるに日くれぬやとりのかたを見やれはあまのいさりする火おほくみるにこのあるしのおとこよむ
とよみてみなかへりきぬそのよみなみの風ふきてなこりのなみいとたかしつとめてその家のめのこともいてゝうきみるの浪によせられたるをひろひていゑにもとてきぬ女かたよりそのみるをたかつきにもりてかしはおほひて出したりそのかしはにかくかけり
ゐなかの人の歌にてはあまれりやたらすや
【八十四】
むかしいやしからぬ男我よりはまさりたる人を思ひかけて年へにけり
【八十五】
昔つれなき人をいかてと思ひ恋わたりけれは哀とや思ひけんさらはあす物こしにてものはかりをいはんといへりけるをかきりなくうれしなからまたうたかはしかりけれは面白かりける桜につけて
といふ心はへあるらし
【八十六】
昔月日のゆくさへなけく男やよひの晦日に
【八十七】
むかし恋しさにきつゝかへれと女にせうそこもたせてよめる
【八十八】
昔おとこ身はいやしなからふたつなき人を思ひかけたりけりすこしたのみぬへきさまにやありけんふしておもひおきて思ひ/\てよめる
むかしもかゝることありけり世のことはりにや有けん
【八十九】
昔二条の后宮につかうまつる男有けり女のつかうまつれりけるを見かはしてよはひわたりけりいかて物こしにたいめしておもひつめたることすこしはるけんといひけれは女いとしのひて物こしに逢にけりものかたりなとしておとこ
これををかしとやおもひけんあひにけり
【九十】
昔おとこ有けり女をとかういふこと月日へにけり女岩木ならねはいとほしうやおもひけんやう/\思つきにけりその比みな月のつこもりはかりなりけれは女かさもひとつふたつ身にいてたりけれはいひをこせたるいまはなにのこゝちもなし身にかさもひとつふたついてきにけり時もいとあつしすこし秋風たてゝあはんといへりけりさて秋まつほとに女のちゝその人のもとにいくへかなりときゝていひのゝしりてくせてきにけりさりけれは此女のせうとにはかにむかへにきたりけれは女かえてのはつもみしをひろひてかきをく
とみせてかしこより人をこせたらはこれをやれといひをきていぬさて後つゐによくてやあるらんあしくてやあるらむいく所もしらてやみぬ此おとこいみしうあまのさかてをうちてなんのろひをるなるむくつけきこと人のおもひはをふ物にやあらん今こそ見めとそいひける
【九十一】
昔ほり川のおほいまうちきみと申いまそかりけり四十の賀九てうの家にてせられける屏風に中将なりけるおきな
【九十二】
むかしをきをとゝときこゆるおはしけりつかうまつるおとこなか月はかりにさくらのつくりたるえたにきしをつけて奉るとて
とよみてたてまつりたりけれはいとかしこかり給て使にろくたまへり
【九十三】
昔右近のむまはのひをりの日むかひにたてたりける車に女のかほのしたすたれよりほのかに見ゆれは中将なる人のよみてやる
かへしをんな
【九十四】
むかし男弘徽殿のはさまをわたりたりけれはあるやむことなき人の御つほねよりわすれ草をしのふくさとやいふとてさしいたさせ給へりけれはたまはりて
【九十五】
むかしおとこみこたちのせうえうし給ふ所にまうてゝたつた河のほとりにて
【九十六】
昔なまあてなる男のもとにこたち有けりそれを内記なる藤原のとしゆきといふ人よはひけり此女かほかたちはよけれといまたわかかりけれはにやふみもおさおさしからすことはもいひしらすいはむやうたはよまさりけれはこのあるしなりける人ふみのあむをかきて女にかきうつさすさてかへりことはしけりことはいかゝ有けむめてまとひて男のよめりける
返しれいのおとこ女にかはりて
といへりけれは男いたうめてゝふみはこにいれてもてありくとそいふなるおなし男あひてのちふみをこせたりまうてこんとするに雨のふるになん見わつらひぬ身さいはひあらはこの雨ふらしといへりけれはれいの男女にかはりて
とてやりたりけれはみのかさもとりあへてしとゝにぬれてまとひきけり
【九十七】
むかし女ひとの心をうらみて
とつねのことくさにいひけるを聞をよひける男
【九十八】
むかし男有けり歌はたよまさりけれと世中をおもひしりたりけるあてなる女のあまになりて世中を思ひくわむして京にもあらすはるかなる山さとにすみけりもとしたしかりけれはよみてやりける
【九十九】
昔男ありけり深草のみかとにつかうまつりけりそのおとこあたなる心なかりけりこゝろあやまりやしたりけんみこたちのめしつかひ給ける人をあひしりにけりさて朝にいひやる
【百】
昔ことなる事なくてあまになれる人有けりかたちをやつしたれとも物ゆかしかりけんかものまつり見に出たるを男よみてやる
【百一】
昔男かくてはしぬへしといひやりたりけれは女
といへりけれはねたしと思ひけれとこゝろさしはいやまさりけり
【百二】
むかし男友たちの人をうしなへるか許にいひやりけり
【百三】
昔男しのひてかよふ女有けりそれかもとよりこよひなん夢に見えつるといへりけれはおとこ
【百四】
むかし男やんことなき女になくなれりける人をとふらふやうにていひやれる
をんな返し
【百五】
昔男ねんころにいひちきれる女のことさまに成にけるを
【百六】
むかしおとこやもめにてゐて
【百七】
昔男久しくをともせてわするゝ心もなしまいらんといへりけれは女
【百八】
昔女あたなる男のかたみとてをきたる物ともをみて
【百九】
むかしいとわかき人にはあらぬこれかれともたちともの月を見けるそれか中にひとり
【百十】
昔男女のいまた世にへすとおほえたるか人のもとにしのひてものきこえてのちほとへて
【百十一】
昔男梅つほより雨につれて人のまかつるを見て
【百十二】
昔おとこちきれることあやまれる人に
かういへといらへす
【百十三】
むかし男ありけりふかくさにすみける女をやう/\あきかたにや思ひけんものへいてたちて
女かへし
とよめりけるにいてゝゆかんとおもふ心うせにけり
【百十四】
昔男いかなる事を思ひけるおりにやありけん
【百十五】
昔男みやこをいかゝ思ひけんひんかし山にすまんとおもひいきて
なんとよみをりけるに物いたうやみてしに入たりけれはおもてに水そゝきなとしいきいてゝ
といひてそいき出たりけるまことにかきりになりける時
とてなむたえいりにけり
此本者高二位本朱雀院のぬりこめにをさまれりとそ
伊勢物語 可秘々々
這伊勢物語者京極黄門定家卿息女民部卿局之真翰無疑者也
寛文四甲辰初冬 冷泉 左中将為清
右朱雀院塗籠御本伊勢物語一卷以森山孝盛所蔵民部卿局真跡本書写一校而雖仮名遣不一様誤字脱文亦不少不輙改之一依原本但衍文処々加爪印畢
群書類従卷第三百七



