千載和歌集

Senzai wakashū

作者複数 Various

千載和歌集卷第十四
戀歌四

839

和泉式部

題志らず

いかにしてよるの心を慰めむ畫はながめにさても暮しつ
840

これもみなさぞな昔の契ぞと思ふ物からあさましきかな
841

花山院御製

昔御らむじける人の近き程にわたりける由きかせ給うてつかはしける

よそにては中々偖もありにしをうたて物思ふ昨日今日哉
842

小式部

久しくまうでこざりける人のおとづれたりける返事に遣はしける

思ひ出も誰をか人のたづねまし憂にたへたる命ならずは
843

和泉式部

太宰帥敦道のみこ中たえ侍りける比秋つかた思ひ出でゝものして侍りけるによみ侍りける

まつとてもか計こそはあらましか思ひもかけぬ秋の夕暮
844

題志らず

程ふれば人は忘れてやみぬらむ契りしことを猶頼むかな
845

藤原實方朝臣

をんなのもとより夜ふかく歸りてつかはしける

竹の葉に玉ぬく露に非ね共まだよをこめておきにける哉
846

藤原基俊

堀川院の御時百首の歌奉りける時戀の心をよめる

木間より領巾振袖をよそに見て如何はすべき松浦さよ姫
847

藤原仲實朝臣

まぶしさす賤をの身にも堪兼ねて鳩ふく秋の聲たてつなり
848

源雅光

法性寺入道前太政大臣内大臣に侍りけるときの家にて寄花戀といへる心をよめる

ふく風にたへぬ梢の花よりもとゞめがたきは涙なりけり
849

大納言成通

逢不逢戀といへる心をよみ侍りける

逢見むと云ひ渡りしは行末の物思ふ事の端にぞありける
850

伊與三位藤原敦兼朝臣母

權中納言俊忠中將に侍りける時歌合志侍りけるに戀の歌とてよめる

こひわびて哀とばかり打歎くことよりほかの慰めぞなき
851

權中納言師時

おなじ家に十首の戀の歌よみ侍りける時來不留戀といへる心をよみ侍りける

立返る人をもなにか恨みまし戀しさをだに留めざりせば
852

藤原道經

鶉なく志づやにおふる玉小菅かりにのみきて歸る君かな
853

久我内大臣

たえて後のかたみといへる心をよみ侍りける

別れては形見なりける玉章を慰むばかりかきもおかせで
854

上西門院兵衛

崇徳院に百首の歌奉りける時戀の歌とてよめる

わが袖の泪や鳰の海ならむかりにも人をみるめなければ
855

前參議親隆

東屋のをがやの軒のしのぶ草志のびもあへず志げる思に
856

皇太后宮大夫俊成

戀をのみ飾磨の市にたつ民もたえぬ思に身をやかへてむ
857

待賢門院安藝

戀をのみ菅田の池に水草ゐてすまでやみなむ名社惜けれ
858

藤原清輔朝臣

逢事は引佐細江のみをつくし深き志るしもなき世なりけり
859

顯昭法師

百首の歌よみける時戀の歌とてよめる

人傳はさしもやはとも思ふらむ見せばや君になれる姿を
860

平實重

女のかよふ人のあまたきこゆるに遣はしける

淺ましやさのみはいかに信濃なる木曾路の橋の懸渡る覽
861

題志らず

人の上と思はゞいかにもどかましつらきも知ず戀る心を
862

參議爲通

契りけることたがひにけるをんなに遣はしける

契りしも諸共にこそ契しか忘ればわれもわすれましかば
863

從三位季行

忍びて物いひける女の常に心ざしなしとゑんじければ遣しける

君にのみ志たの思はかは島のみづの心はあさからなくに
864

院御製

うへのをのこども老後戀といへる心をつかうまつりけるによませ給うける

思ひきや年のつもるは忘られて戀に命のたえむものとは
865

藤原季通朝臣

題志らず

歎きあまり憂身ぞ今はなつかしき君故物を思ふと思へば
866

從三位頼政

水莖は是を限とかきつめてせきあへぬものは泪なりけり
867

二條院御製

睦月のついたちごろ忍びたる所につかはしける

誰もよもまだきゝそめじ鶯の君にのみこそ音しはじむれ
868

讀人志らず

御返事

鶯はなべて都になれぬらむ古巣に音をばわれのみぞなく
869

寄源氏物語戀と云ふ心をよみ侍りける

見せばやな露のゆかりの玉葛心にかけてしのぶけしきを
870

逢坂の名を忘れにし中なれどせきやられぬは涙なりけり
871

刑部卿範兼

二條院の御時うへのをのこども百首の歌奉りける時忍戀の心をよめる

月まつと人にはいひてながむれば慰めがたき夕暮のそら
872

藤原爲實

題志らず

蘆の屋の假初ぶしは津の國の長らへゆけど忘れざりけり
873

圓位法師

志らざりき雲居のよそに見し月の影を袂に宿すべしとは
874

逢ふと見し其夜の夢の覺であれな長き眠はうかるべけれど
875

空人法師

秋風の憂人よりもつらき哉戀せよとてはふかざらめども
876

源仲綱

心さへ我にもあらずなりにけり戀は姿のかはるのみかは
877

二條院内侍參河

寄浦戀といへる心をよみはべりける

待兼ねてさ夜もふけひの浦風に頼めぬ浪の音のみぞする
878

讃岐

戀の歌とてよめる

一夜とて夜がれし床の狹筵にやがても塵の積りぬるかな
879

攝政前右大臣

百首の歌よませ侍りける時遇不逢戀の心をよみ侍りける

長らへて變る心を見るよりはあふに命をかへてましかば
880

前中納言雅頼

在所不言戀といへる心をよみ侍りける

あふ事のありし處し變らずば心をだにもやらましものを
881

權中納言經房

移香増戀といへる心をよみはべりける

移香に何志みにけむさ夜衣忘れぬつまとなりけるものを
882

右近中將忠良

明暮の空をともに詠めけるをんな、またあふまでのかたみにみむと申しける後遣しける

忘れぬや忍ぶやいかに逢はぬ間の形見ときゝし明暮の空
883

俊惠法師

歌合し侍りけるとき戀の歌とてよめる

思兼ねなほ戀路にぞかへりぬる恨は末もとほらざりけり
884

殷富門院大輔

見せばやな小島の蜑の袖だにもぬれにぞ濡し色は變らず
885

從三位頼政

隔川戀といへる心をよめる

山城のみつのゝ里に妹をおきて幾度よどに船よばふらむ
886

藤原隆信朝臣

絶久戀といへる心をよみ侍りける

人志れず結びそめてし若草の花の盛りもすぎやしぬらむ
887

藤原顯家朝臣

希會不絶戀

いかなれば流はたえぬ中川に逢瀬の數のすくなかるらむ
888

源仲綱

攝政右大臣の時百首の歌よませ侍りける時遇不逢戀をよめる

すみなれしさのゝ中川瀬だえして流れ變るは泪なりけり
889

二條院讃岐

初疎後思戀といへる心をよめる

今更に戀しといふもたのまれずこれも心の變ると思へば
890

太皇太后宮小侍從

戀の歌とてよめる

戀初めし心の色のなになれば思ひかへすに返らざるらむ
891

道因法師

伊勢島や一志の浦の蜑だにもかづかぬ袖は濡るゝ物かは
892

俊惠法師

遇不逢戀といへる心をよめる

思きやうかりし夜半の鷄の音をまつ事にして明すべしとは
893

夏夜戀といへる心をよめる

唐衣かへしてはねじ夏の夜は夢にもあかでひと別れけり
894

法印靜賢

戀の歌とてよみ侍りける

身のうさを思知でや止みなまし逢見ぬ先のつらさなりせば
895

皇太后宮大夫俊成

攝政、右大臣の時家の歌合に戀の心をよめる

逢事は身をかへて共待つべきによゝを隔てむ程ぞ悲しき
896

攝政家丹後

おもひねの夢に慰む戀なればあはねど暮の空ぞまたるゝ
897

民部卿成範

題志らず

戀侘て打寢る宵の夢にだに逢ふとは人の見えば社あらめ
898

權大納言實家

忍びて物申し侍りける女のせをそこをだにかよはしがたく侍りけるをからの枕のしたに師子つくりたるが口のうちにふかくかくして遣はし侍りける

わびつゝは汝だに君が床なれよ交さぬ夜半の枕なりとも
899

讀人志らず

かへし

歎きつゝかはさぬ夜半の積るには枕も疎くならぬ物かは
900

右近中將忠良

題志らず

是は皆思ひし事ぞなれしより哀れ名殘をいかにせむとは
901

權中納言通親

死ぬとても心をわくる物ならば君に殘して猶やこひまし
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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