千載和歌集

Senzai wakashū

作者複数 Various

千載和歌集卷第六
冬歌

386

大納言公實

堀川院の御時百首の歌奉りける時初冬の心をよみ侍りける

昨日こそ秋はくれしかいつの間に岩まの水の薄氷るらむ
387

源俊頼朝臣

いかばかり秋の名殘を眺めましけさは木葉に嵐ふかずば
388

藤原仲實朝臣

いづみ川水のみわだのふしづけに岩間の氷る冬はきに鳬
389

崇徳院御製

百首の歌めしける時初冬の心をよませ給うける

ひまもなくちる紅葉に埋もれて庭の景色も冬ごもりけり
390

大炊御門右大臣

樣々の草葉も今は霜がれぬ野べより冬は立ちて來つらむ
391

大納言隆季

澄むみづを心なしとは誰かいふ氷ぞ冬のはじめをも志る
392

前參議教長

秋の内は哀志らせし風の音の烈しさ添ふる冬は來にけり
393

花薗左大臣家小大進

我せこが上裳の裾の水波にけさこそ冬は立ちはじめけれ
394

藤原孝善

山家初冬をよめる

いつのまに筧の水のこほるらむさこそ嵐の音のかはらめ
395

和泉式部

題志らず

外山ふく嵐の風の音きけばまだきに冬のおくぞ志らるゝ
396

大炊御門右大臣

百首の歌奉りける時初冬の歌によみ侍りける

初霜やおきはじむらむ曉の鐘のおとこそほのきこゆなれ
397

前中納言匡房

堀川院の御時百首の歌奉りける時よめる

高砂の尾上の鐘の音すなりあかつきかけて霜やおくらむ
398

藤原基俊

楸生る小野の淺茅におく霜の白きをみればよや更けぬ覽
399

藤原定家

冬の始の歌とて

冬來ては一夜ふたよをたま笹の葉わけの霜の處せきまで
400

藤原もとゝし

題志らず

霜さえて枯行く小野の岡べなる楢の廣葉に時雨ふるなり
401

馬内侍

寐覺して誰かきくらむこの頃の木葉に變る夜半の時雨を
402

源定信

法性寺入道前太政大臣、内大臣に侍りける時家の歌合に時雨をよめる

音にさへ袂をぬらす時雨かな眞木の板屋の夜半の寐覺に
403

皇太后宮大夫俊成

崇徳院に百首の歌奉りける時落葉の歌とてよめる

まばらなる槇の板屋に音はしてもらぬ時雨や木葉なる覽
404

仁和寺後入道法親王

時雨の歌とてよめる

木葉ちると計り聞きてやみなましもらで時雨の山廻せば
405

攝政前右大臣

曉更時雨といへる心をよみ侍りける

獨ねの泪やそらにかよふらむ時雨にくもるありあけの月
406

藤原隆信朝臣

うたゝねの夢や現に通ふらむ覺めても同じ時雨をぞ聞く
407

從三位攝政

時雨の歌とてよめる

やま廻る雲の下にやなりぬらむ裾野の原に時雨すぐなり
408

源師光

志ぐれゆく遠の外山の峯續き移りもあへず雲かゝるらむ
409

道因法師

嵐ふく比良の高嶺のねわたしに哀れ志ぐるゝ神無月かな
410

中納言國信

堀川院の御時百首の歌奉りける時の時雨の歌

深山べの志ぐれてわたる數毎にかごとがましき玉柏かな
411

源俊頼朝臣

木葉のみちると思ひし時雨には涙もたへぬ物にぞ有ける
412

ニ條太皇太后宮肥後

振りはへて人も訪來ぬ山里は時雨計りぞ過ぎがてにする
413

藤原定家

圓位法師人々にすゝめて百首の歌よませ侍りけるとき時雨の歌とて

志ぐれつる山の軒端の程なきに頓てさしいる月の影かな
414

讀人志らず

玉章に涙のかゝる心地して志ぐるゝそらに雁のなくなり
415

源仲頼

山家時雨といへる心を

峯ごえに楢の葉傳ひ音づれて頓て軒端に志ぐれ來にけり
416

紀康宗

題志らず

曉のねざめに過ぐる時雨こそもらでも人の袖ぬらしけれ
417

藤原盛雅

落葉の心をよめる

ちりはてゝ後さへ風を厭ふかな紅葉をふけるみ山べの里
418

中納言定頼女

中納言定頼世をのがれて後山里に侍りける頃遣し侍りける

都だにさびしさまさる木枯に峰の松かぜおもひこそやれ
419

中納言定頼

宇治にまかりて侍りける時よめる

朝ぼらけ宇治の川ぎり絶々にあらはれ渡る瀬々の網代木
420

藤原仲實朝臣

堀川院の御時百首の歌奉りける時鷹狩をよめる

矢形尾のましろの鷹を引据ゑて宇陀の鳥立を狩暮しつる
421

隆源法師

ふる雪に行方も見えずはし鷹の尾房の鈴の音ばかりして
422

源俊頼朝臣

夕まぐれ山かたつきて立つ鳥の羽音に鷹をあはせつる哉
423

藤原ながたふ

傳大納言道綱の家の歌合に千鳥を

妹許と佐保の川べを分行けばさ夜か更けぬる千鳥鳴く也
424

皇太后宮大夫俊成

千鳥をよめる

須磨の關有明の空になく千鳥かたぶく月やなれも悲しき
425

道因法師

岩こゆるあら磯なみにたつ千鳥心ならずや浦づたふらむ
426

右大臣

曉になりや志ぬらむ月影のきよきかはらに千鳥なくなり
427

法印靜賢

霜さへて小夜も長居の浦寒み明遣らずとや千鳥なくらむ
428

賀茂成保

霜枯の難波のあしのほの%\とあくる湊に千鳥鳴くなり
429

源親房

水鳥をよめる

形見にや上毛の霜を拂ふらむともねの鴛のもろ聲になく
430

紫式部

題志らず

水鳥を水の上とやよそに見む我もうきたる世を過しつゝ
431

前中納言匡房

堀川院の御時百首の歌奉りける時よめる

水鳥のたま藻のとこのうき枕ふかき思はたれかまされる
432

崇徳院御製

百首の歌めしける時よませ給うける

このごろのをしのうきねぞ哀なる上毛の志もよ下の氷よ
433

左京大夫顯輔

難波潟入江をめぐるあしがもの玉藻の床の浮寐すらしも
434

權中納言經房

氷初結といへることを

鴛鳥の浮寐の床やあれぬらむつらゝゐにけるこやの池水
435

道因法師

水鳥の歌とてよめる

鴨のゐる入江の葦は霜がれておのれのみこそ青ばなりけれ
436

賀茂重保

おく雲を拂兼ねてや萎れふすかつみが下に鴛のなくらむ
437

前左衛門督公光

月前水鳥といへる心をよめる

芦がものすだく入江の月かげは氷ぞ波のかずにくだくる
438

平實重

冬月といへる心をよめる

夜をかさね結ぶ氷の志たにさへ心ふかくもすめる月かな
439

左大辨親宗

氷の歌とてよめる

いづくにか月は光をとゞむらむやどりし水も氷ゐにけり
440

藤原成家朝臣

冬くればゆくてに人はくまねども氷ぞむすぶ山の井の水
441

道因法師

月のすむ空には雲もなかりけりうつりし水は氷へだてゝ
442

崇徳院御製

百首の歌めしける時氷の歌とてよませ給うける

氷柱ゐてみがける影の見ゆるかなまことに今や玉川の水
443

皇太后宮大夫俊成

月さゆる氷のうへに霰ふりこゝろくだくるたまがはの里
444

左近中將良經

閑居聞霰といへる心をよみ侍りける

さゆる夜の眞木のいたやの獨ねに心くだけと霰ふるなり
445

大納言經信

山家雪朝といへる心をよめる

朝戸あけて見るぞ寂しき片岡のならの廣葉にふれる白雪
446

崇徳院御製

百首の歌の中に雪の歌とてよませ給うける

夜をこめて谷の戸ぼそに風寒みかねてぞ志るき嶺の初雪
447

藤原季通朝臣

さえ渡る夜半の景色に深山べの雪の深さを空に志るかな
448

藤原清輔

きゆるをや都の人はをしむらむけさ山ざとにはらふ白雪
449

藤原資隆朝臣

雪の歌とてよめる

霜がれの籬のうちの雪見れば菊よりのちの花もありけり
450

仁和寺後入道法親王

題志らず

たとへてもいはむかたなし月影に薄雲かけてふれる白雪
451

前參議教長

み山路はかつちる雪に埋れていかでか駒のあとを尋ねむ
452

治部卿通俊

京極前太政大臣の高陽院の家の歌合に雪の歌とてよめる

おしなべて山の白雪積れども志るきは越の高嶺なりけり
453

藤原顯綱朝臣

外山には柴の下葉もちりはてゝ遠の高ねに雪降りにけり
454

源俊頼朝臣

ふる雪に谷のかけはしうづもれて梢ぞ冬の山路なりける
455

二條院御製

うへのをのこども百首の歌奉りける時雪の歌とてよませ給うける

雪つもる嶺にふゞきや渡るらむ越のみ空にまよふ志ら雲
456

二品法親王

遍照寺にて池邊雪といへる心をよみ侍りける

浪かけば汀の雪もきえなましこゝろありても氷る池かな
457

右のおほいまうち君

雪の歌とてよみ侍りける

山里の垣ねは雪に埋れて野べとひとつになりにけるかな
458

右近大將實房

跡もたえ志をりも雪に埋れてかへる山路に迷ひぬるかな
459

從三位頼政

越兼ねて今ぞ越路へ歸る山雪ふる時の名にこそありけれ
460

顯昭法師

浪間より見えしけしきぞ變りぬる雪ふりにけり松が浦島
461

藤原良清

攝政、右大臣に侍りける時百首の歌よませ侍りける時雪の歌とてよめる

ふゞきする長柄の山を見渡せば尾上をこゆる志賀の浦波
462

讀人志らず

醍醐の清瀧のやしろに歌合志侍りける時よめる

ふる雪に軒ばの竹もうづもれて友こそなけれ冬の山ざと
463

西住法師

行路雪といへる心をよめる

駒の跡はかつふる雪に埋れておくるゝ人や道まどふらむ
464

坂上明兼

題志らず

呉竹の折れふす音のなかりせばよ深き雪を爭で志らまし
465

藤原爲季

雪の歌とてよめる

眞柴かる小野の細道跡たえて深くも雪のなりにけるかな
466

俊惠法師

雪ふれば木々の梢も咲初むる枝よりほかの花もちりけり
467

内大臣

關路滿雪といへる心をよみ侍りける

ふる儘に跡たえぬれば鈴鹿山雪こそ關のとざしなりけれ
468

天臺座主明快

年の内に梅の花の咲けるを見て詠み侍りける

山里の垣ねの梅はさきにけりかばかりこそは春も匂はめ
469

前大納言實長

雪中歳暮といへる心をよみ侍りける

かき暮し越路も見えずふる雪に爭でか年の歸りゆくらむ
470

前左衞門公光

籠居て侍りける年の暮によめる

さりともと歎き/\て過しつる年も今宵に暮果てにけり
471

相模

年の暮の心をよめる

哀にも暮れゆく年の日數かな歸らむ事は夜のまと思ふに
472

惟宗廣言

歳暮述懷のこゝろをよめる

數ならぬ身には積らぬ年ならば今日の暮をも歎ざらまし
473

源光行

をしめども儚く暮れてゆく年の忍ぶ昔にかへらましかば
474

前律師俊宗

歳暮の心をよみ侍りける

一年は儚き夢の心地して暮れぬるけふぞおどろかれぬる
475

民部卿親範

かしらおろして後大原に籠りゐて侍りけるに閑中歳暮といへる心を上人どもよみ侍りけるによみ侍りける

都にて送り迎ふと急ぎしを志りてや年の今日は暮るらむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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