千載和歌集

Senzai wakashū

作者複数 Various

千載和歌集卷第八
覊旅歌

497

藤原範永朝臣

題志らず

有明の月も清水にやどりけりこよひはこえじ逢坂のせき
498

中納言師俊

法性寺入道太政大臣、内大臣に侍りける時、關路月といへる心をよみ侍りける

播磨路や須磨のせき屋の板廂月もれとてや踈らなるらむ
499

藤原基俊

月前旅宿といへる心をよめる

あたら夜を伊勢の濱萩をり志きて妹戀しらに見つる月哉
500

中納言國信

堀川院の御時百首の歌奉りける時旅の歌とてよめる

浪の上に有明の月を見ましやは須磨の關屋に宿らざりせば
501

八條前太政大臣

行路雪といへる心をよみ侍りける

よな/\の旅ねの床に風さえてはつ雪ふれるさやの中山
502

和泉式部

海づらに船ながらあかしてよみ侍りける

水の上に浮寐をしてぞ思知る斯れば鴛は鳴くにぞ有ける
503

赤染衛門

丹後國にまかりける時よめる

思ふことなくてや見ましよさの海の天の橋立都なりせば
504

能因法師

攝津國に住み侍りけるを美濃國にくだる事ありてあづさの山にてよみ侍りける

宮木引くあづさの杣をかきわけて難波の浦を遠かりぬる
505

津守有基

大隅の任はてゝ上らむと志けるを大貳さたすることまだしとて留めければよめる

住のえのまつらむとのみ歎きつゝ心づくしに年をふる哉
506

齋宮甲斐

天仁元年齋宮の群行の時忘井といふ所にてよめる

別れゆく都のかたの戀しきにいざむすび見む忘井のみづ
507

源雅光

法性寺入道内、大臣の時の歌合に旅宿雁といへる心を

さ夜ふかき雲ゐに雁もおとすなりわれ獨やは旅の空なる
508

崇徳院御製

百首の歌めしける時旅の歌とてよませ給うける

かりごろも袖の涙に宿る夜は月も旅ねのこゝちこそすれ
509

松が根の枕も何かあだならむたまの床とて常のとこかは
510

大炊御門右大臣

花咲きし野べの景色も霜がれぬ是にてぞ志る旅の日數を
511

藤原季通朝臣

さらしなや姨捨山に月みむと都にたれかわれを志るらむ
512

待賢門院堀川

みちすがら心も空にながめやる都の山のくもがくれぬる
513

同院安藝

さゝの葉をゆふ露ながら折り志けば玉ちる旅の草枕かな
514

皇太后宮大夫俊成

浦づたふ磯のとまやの楫枕きゝもならはぬ波のおとかな
515

圓位法師

世をそむきて後修行志侍りけるに海路にて月を見てよめる

わたのはら遙に波をへだて來て都にいでし月を見るかな
516

高野法親王覺法

高野にまうで侍りける道にてよみ侍りける

定なき憂世の中と志りぬればいづくも旅の心地こそすれ
517

前中納言師仲

下野國にまかりける時尾張國なるみといふ所にてよみ侍りける

覺束ないかに鳴海のはてならむ行方も志らぬ旅の悲しさ
518

左京大夫脩範

あづまの方にまかりける時ゆくさき遙におぼえ侍りければ

日をへつゝゆくに遙けき道なれど末を都と思はましかば
519

讀人志らず

海邊時雨といへる心をよみ侍りける

かくまでは哀ならじを志ぐるとも磯の松が根枕ならずば
520

道因法師

尾張國に志るよしありて志ばし侍りける頃人の許より都の事は忘れぬるといひて侍りければつかはしける

月見れば先都こそ戀しけれまつらむと思ふ人はなけれど
521

祝部成仲

夜逢坂の關を過るとてよめる

逢坂の關には人もなかりけり岩間の水のもるにまかせて
522

大納言定房

中院右大臣の家にて獨行關路といへる心をよみ侍りける

こえてゆく友やなからむ逢坂の關の清水の影はなれなば
523

前大僧正覺忠

客衣露重といへる心をよみ侍りける

旅衣朝だつ小野の露しげみ志ぼりもあへず忍ぶもぢずり
524

右近大將實房

住吉のやしろの歌合とて人々よみ侍りける時旅宿時雨といへる心をよみ侍りける

風の音にわきぞかねまし松が根の枕にもらぬ時雨也せば
525

俊惠法師

もしほ草敷津の浦の寐覺には時雨にのみや袖はぬれける
526

源仲綱

玉藻ふく磯屋が志たにもる時雨旅寐の袖も汐垂れよとや
527

太皇太后宮小侍從

草枕おなじ旅ねの袖にまた夜半の時雨もやどはかりけり
528

攝政前右大臣

家に百首の歌よませ侍りける時旅の歌とてよみ侍りける

はる%\と津守の沖をこぎゆけば峯の松風遠ざかるなり
529

刑部卿頼輔

わたの原志ほぢ遙に見わたせば雲と波とは一つなりけり
530

皇太后宮大夫俊成

哀なる野島がさきの庵かな露おくそでになみもかけゝり
531

二品親王

旅宿の心をよみ侍りける

よしさらば磯の苫屋に旅ねせむ波懸ぬとてぬれぬ袖かは
532

法印慈圓

旅の歌とてよみ侍りける

旅の世にまた旅寐して草枕夢のなかにもゆめをみるかな
533

右兵衛督隆房

草枕かりねの夢にいくたびかなれし都にゆきかへるらむ
534

法眼兼覺

關路曉月といへる心をよめる

いつもかく有明の月のあけ方は物やかなしき須磨の關守
535

藤原家隆

百首の歌よみ侍りける時旅の歌とてよめる

旅ねする須磨の浦路のさよ千鳥聲こそ袖の波はかけけれ
536

圓玄法師

修行にまかりありきけるに野中に宿して侍りける夜旅の枕の露けく侍りけるによめる

かくしつゝつひにとまらむ蓬生の思ひ志らるゝ草枕かな
537

權律師覺辨

旅の歌とてよめる

旅ねする木の下露の袖にまたしぐれふるなりさやの中山
538

藤原資忠

攝政、右大臣の時家の歌合に旅の歌とてよめる

旅ねする庵をすぐる村時雨なごりまでこそ袖はぬれけれ
539

大中臣親宗

旅の歌とてよめる

霰もる不破の關屋に旅ねして夢をもえこそ通さゞりけれ
540

平康頼

心のほかなることありて志らぬ國に侍りける時よめる

かくばかり憂身の程も忘られてなほ戀しきは都なりけり
541

薩摩がた沖の小島に我はありと親にはつげよ八重の潮風
542

僧都印性

覊中歳暮といへる心をよめる

東路も年も末にやなりぬらむ雪ふりにける志らかはの關
543

寂蓮法師

圓位法師がよませける百首の歌の中に旅の歌とてよめる

岩ねふみ峰の椎志ばをり志きて雪にやどかる夕ぐれの空
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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