詞花和歌集

Shika wakashū

作者複数 Various

詞花和歌集卷第十
雜下

347

源俊頼朝臣

みやこに住みわびてあふみにたながみといふ所にまかりてよめる

芦火たくまやの栖處は世中をあくがれ出づる門出なり鳬
348

女どもの澤に若菜摘むを見てよめる

賤のめが[1]ゑぐ摘澤むの6薄氷いつまでふべき我身なるらむ
349

藤原公重朝臣

四位して殿上おりて侍りける比鶴鳴皐といふことをよめる

昔見し雲居をこひて芦たづの澤邊になくや我身なるらむ
350

右近中將教長

新院六條殿におはしましける時月あかくはべりける夜御舟にめして月前言志といふ事をよませ給ひけるに[2]よみ侍りる7

三日月の又有明になりぬるやうきよをめぐる例なるらむ
351

藤原實方朝臣

櫻の花のちるを見てよめる

散る花に又もやあはむ覺束な其春までと知らぬ身なれば
352

増基法師

世のなか騒がしくきこえける頃よめる

朝な/\鹿の柵む萩がえのすゑ葉の露のありがたのよや
353

源親元

秋の野をすぎまかりけるに尾花の風になびくを見てよめる

花薄招かばこゝに留りなむ何れの野邊もつひのすみかぞ
354

四條中宮

心ちれいならずおぼされける頃よみ給ひける

よそに見し尾花が末の白露はあるかなきかの我身なり鳬
355

花山院御製

世の中はかなくおぼえさせ給ひける頃よませたまひける

斯しつゝ今はとならむ時に社悔しき事のかひもなからめ
356

和泉式部

いりあひの鐘の聲をきゝてよめる

夕暮は物ぞ悲しき鐘の音をあすも聞べき身とし志らねば
357

藤原教良母

大納言忠教身まかりける後の春鶯のなくを聞きてよめる

鶯のなくに涙のおつるかなまたもや春にあはむと思へば
358

法橋清昭

はかなき事のみ多く聞えける頃よめる

皆人の昔語になりゆくをいつまでよそにきかむとすらむ
359

神祇伯顯仲

夏の夜はしに出でゐてすゞみ侍りけるに夕闇のいとくらくなりければよめる

此よだに月まつほどは苦しきに哀いかなる闇にまどはむ
360

良暹法師

病おもくなり侍りけるころ雪のふるを見てよめる

覺束なまだ見ぬ道を志での山雪踏分けて越えむとすらむ
361

赤染衛門

大江擧周の朝臣おもくわづらひて限に見えはべりければよめる

かはらむと祈る命は惜からでさても別れむことぞ悲しき
362

大僧正行尊

病重くなり侍りければ三井寺へまかりて京の坊にうゑおきて侍りける八重紅梅を、今は花咲きぬらむみばやといひ侍りければをりに遣はして見せければよめる

此世には又も見るまじ梅の花ちり%\ならむ事ぞ悲しき

其の後程なく身まかりにけるとぞ。

363

讀人志らず

人の椎をとらせて侍りければ

此身をば空しき物と知ぬれば罪えむ事もあらじとぞ思ふ
364

増基法師

題志らず

我思ふ事の繁きにくらぶれば志のだの森の千枝は數かは
365

大江以言

網代には沈む水屑もなかり鳬宇治の渡りに我やすまゝし
366

良暹法師

大原に住みはじめけるころ俊綱の朝臣のもとへいひ遣はしける

大原やまだすみがまもならはねば我宿のみぞ烟たえける
367

賢智法師

題志らず

泪川その水上を尋ぬればよのうきめよりいづるなりけり
368

太政大臣

この集撰ぶとて家集こひて侍りければよめる

思ひやれ心の水の淺ければかきながすべき言の葉もなし
369

大藏卿匡房

周防の内侍あまになりぬときゝていひ遣しける

かりそめの浮世の闇をかき分けて羨ましくも出づる月哉
370

沙彌蓮寂

法師になりてのち左京大夫顯輔が家にて歸雁をよめる

歸る雁西へゆきせば玉章に思ふことをばかきつけてまし
371

讀人志らず

題志らず

身をすつる人は誠にすつるかは捨てぬ人社すつる也けれ
372

太皇太后宮肥後

藤原實宗常陸介に侍りける時大藏省のつかひども嚴しくせめければ匡房にいひて侍りければ遠江にきりかへて侍りければいひ遣しける

筑波山ふかく嬉しと思ふかな濱名の橋にわたすこゝろを
373

大中臣能宣朝臣

下臈にこえられて堀川の關白の許に侍りける人のもとへおとゞにも見せよとおぼしくて遣はしける

年をへて星を戴く黒髮のひとよりしもになりにけるかな
374

津守國基

白河院位におはしましける時修理大夫顯季につけて申さする事侍りけるを宣旨のおそく下りければその冬ごろいひ遣はしける

雲の上は月こそさやにさえ渡れまた滯るものやなになる
375

修理大夫顯季

かへし

とゞこほる事はなけれど住吉のまつ心にや久しかるらむ
376

大納言成通

新院位におはしましける時うへのをのこどもをめして述懷の歌よませ給ひけるに白川院の御事忘るゝ時なくおぼえ侍りければ

白川の流れをたのむ心をばたれかは空にくみて知るべき
377

大藏卿匡房

堀河院の御時百首の歌奉りける中に

百年の花に宿りてすぐしてき此世は蝶の夢にぞ有りける
378

源義國妻

むすめのさうしかゝせける奥にかきつけゝる

木のもとにかき集めたる言の葉を柞の杜の形見とは見よ
379

關白前太政大臣

左京大夫顯輔近江守に侍りける時とほきこほりにまかりけるに便につけていひ遣はしける

思ひかねそなたの空を眺むればたゞ山の端にかゝる白雲
380

新院位におはしましゝ時海上遠望といふことをよませ給ひけるによめる

わたの原こぎ出でゝみれば久方の雲居にまがふ沖つ白波
381

藤原家經朝臣

後冷泉院の御時大甞會の主基方の御屏風に備中國たかくら山にあまたの人花摘みたるかた書きたる所によめる

打ちむれて高倉山につむ物はあらたなき世のとみ草の花
382

左京大夫顯輔

今上の大甞會の悠紀方の御屏風に、近江國いたくらの山田にいねをおほくかりつめり。これを人見たるかたかきたる所をよめる

板くらの山田につめる稻をみて治れる世の程をしるかな
383

曾禰好忠

圓融院の御時堀河院に二たび行幸せさせ給ひけるによめる

水上のさだめてければ君が代にふたゝびすめる堀川の水
384

宇治前太政大臣

有馬の湯に罷たりけるによめる

いさや又つゞきもしらぬ高嶺にて先くる人に都をぞ問ふ
384a

道明法師

熊野へまうでけるみちにて月をみてよめる

都にて眺めし月をもろともに旅の空にも出でにけるかな
385

帥前内大臣

播磨に侍りける時月をみてよめる

都にてながめし月をみる時は旅の空ともおぼえざりけり
386

藤原家經朝臣

信濃守にてくだりけるに風越のみねにてよめる

かざごしの峯の上にて見る時は雲は麓の物にぞありける
387

藤原隆經朝臣

藤原頼任の朝臣美濃守にて下り侍りける供にまかりてその後年月をへてかの國の守になりてくだり侍りて垂井といふ泉を見てよめる

昔見し垂井の水は[3]かはらぬど8うつれる影ぞ年をへにける
388

大江正言

帥前内大臣はりまへまかりけるともにて川じりをいづる日よみ侍りける

思ひ出もなきふる里の山なれど隱れ行くはた哀なりけり
389

前大納言公任

三條太政大臣身まかりて後月をみてよめる

いにしへをこふる泪にくらされて朧に見ゆる秋の夜の月
390

堀川右大臣

むすめにおくれて歎き侍りける人に月のあかゝりける夜いひつかはしける

其事と思はぬだにもある物を何ごゝちして月を觀るらむ
391

藤原相如

あはだの右大臣身まかりける頃よめる

夢ならで又も逢べき君ならば寐られぬいをも歎ざらまし
392

圓融院御製

堀川の中宮かくれ給ひてわざの事はてゝのあしたによませ給ひける

思ひかね眺めしかども鳥部山はては烟もみえずなりにき
393

少將義孝

一條攝政身まかりにけるころよめる

夕まぐれこ茂き庭を眺めつゝ木の葉とともにおつる泪か
394

待賢門院安藝

子のおもひに侍りけるころ人のとひて侍りければよめる

人志れず物思ふ折もありしかど子の事計り悲しきはなし
395

清原元輔

兼盛子におくれて歎くときゝていひ遣はしける

生ひ立たで枯れぬと聞きしこの本の爭で歎の森となる覽
396

天暦のみかどかくれおはしまして七月七日御忌果てゝちり%\にまかり出でけるに女房の中におくり侍りける

今日よりは天の河霧たち別れいかなる空にあはむとす覽
397

讀人志らず

かへし

七夕は後のけふをも頼むらむ心ぼそきはわが身なりけり
398

神祇伯顯仲

むすめにおくれて服着侍るとてよめる

あさましや君にきすべき墨染の衣の袖をわれぬらすかな
399

赤染衛門

大江匡衡身まかりて又の年の春花を見てよめる

こぞの春ちりにし花も咲きに鳬哀れ別のかゝらましかば
400

藤原有信朝臣

後冷泉院の御時藏人にて侍りけるに御門かくれおはしましにければよめる

泪のみ袂にかゝる世中に身さへくちぬることぞかなしき
401

讀人志らず

男におくれてよめる

折々のつらさを何に歎きけむ頓てなきよもあればあり鳬
402

人の四十九日の誦經文にかきつけゝる

人をとふ鐘の聲こそ哀なれいつか我身にならむとすらむ
403

四條中宮

にひまゐりして侍りける女のまへゆるされて後程なく身まかりにければ

悔しくも見初めける哉なべて世の哀と計きかましものを
404

讀人志らず

稻荷のとりゐにかきつけて侍りける

かくてのみよに有明の月ならば雲隱してよあまくだる神
405

おやの所分をゆゑなく人におしとられけるを此の事ことわり給へといなりにこもりて祈り申しける法師の夢に社の中よりいひ出し給ひける歌

長きよのくるしき事を思へかし何歎くらむかりの宿りを
406

選子内親王

加茂のいつきときこえける時に西にむかひてよめる

思へ共忌む迚いはぬ事なれば其方に向て音をのみぞなく
407

神祇伯顯仲

信解品周流諸國五十餘年といふ心をよめる

あくがるゝ身の儚さは百年の半過ぎてぞおもひ志らるゝ
408

讀人志らず

即身成佛といふ事をよめる

露の身のきえて佛になることは勤めて後ぞ知るべかりける
409

關白前太政大臣

舍利講のついでに願成佛道の心を人々によませ侍りけるによめる

よそになど佛の道を尋ぬらむわが心こそ志るべなりけれ
410

左京大夫顯輔

いかでわが心の月をあらはして闇に惑へる人をてらさむ
411

登蓮法師

常在靈鷲山の心をよめる

世の中の人のこゝろの浮雲に空がくれするありあけの月
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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