新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第三
夏歌

163

前中納言定家

正治二年百首の歌奉りける時

脱ぎかへてかたみとまらぬ夏衣さてしも花の面影ぞ立つ
164

嘉陽門院越前

千五百番歌合に

夏衣いそぎかへつるかひもなく立ちかさねたる花の面影
165

深守法親王

百首の歌奉りし時、更衣

今日と云へば早ぬぎかへぬ花衣散りて幾かの形見なりけむ
166

後西園寺前内大臣女

遲櫻の咲きて侍りけるを見て詠める

何をかは春のかたみと尋ねまし心ありける遲ざくらかな
167

藤原爲冬朝臣

元弘三年、立后の屏風に、新樹を

青葉にも暫し殘ると見し花の散りてさながら茂る頃かな
168

贈從三位爲子

百首の歌詠み侍りける時に

袖にこそ移らざりけれ卯の花の垣根ばかりの夜はの月影
169

法印淨辨

夕卯花と云ふ事を

卯の花の垣根ばかりの夕月夜をちかたびとの道や迷はむ
170

常磐井入道前太政大臣

弘長元年百首の歌奉りける時

布晒す宇治のわたりの垣根より珍しげなく咲ける卯の花
171

前右兵衛督教定

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

神祭る今日は葵のもろかづら八十氏人のかざしにぞさす
172

讀人志らず

藤原爲道朝臣二たび賀茂の祭の使勤めて侍りけるにいひ遣しける

君が代に二たびかざす葵草神のめぐみもかさねてぞ知る
173

藤原爲道朝臣

かへし

君が代に又たちかへり葵草かけてぞ神のめぐみをば知る
174

前中納言匡房

堀川院に百首の歌奉りけるとき、葵を

大空のひかりに靡く神山の今日のあふひや日影なるらむ
175

花山院御製

夏の御歌の歌の中に

春を今はいたくも戀ひじ足びきの山郭公うらみもぞする
176

侍從爲親

法印長舜すゝめ侍りける八幡の社の歌に

つれなさや變らざるらむ人毎に待つとのみ聞く時鳥かな
177

前中納言實任

文保三年百首の歌奉りける時

まだ聞かぬ恨もあらじ郭公鳴きぬと告ぐる人なかりせば
178

忠岑

題志らず

郭公おのが初音を心から鳴かでやひとにうらみらるらむ
179

[2]A2子内親王

出でなばと頼めも置かぬ山の端の月に待たるゝ郭公かな
180

後二絛院御製

鳴きぬべき頃と思へば時鳥寐覺にまたぬあかつきぞなき
181

後京極攝政前太政大臣

正治二年百首の歌奉りける時

今こむとたのめやはせじ郭公ふけぬよはを何恨むらむ
182

御製

人々に百首の歌召されしついでに

つらき名の立つをば知らで時鳥鳴く音計りと何忍ぶらむ
183

前大納言爲氏

時鳥の歌とて詠める

遂に聞く物ゆゑなどて郭公まづいそがるゝ初音なるらむ
184

源義將朝臣

左大臣の家にて人々三首の歌詠み侍りし時、待時鳥の心を

山ざとに去年まで聞きし郭公都に待つといかで知らせむ
185

前大納言經繼

嘉元の百首の歌奉りける時、同じ心を

待ち侘ぶる心にまけよ郭公しのぶならひの初音なりとも
186

衣笠前内大臣

弘長元年百首の歌奉りける時

忍び音を誰れに知らせて時鳥稀なる頃に待たれそめけむ
187

寳篋院贈左大臣

延文の百首の歌奉りける時

心をも我こそ儘せほとゝぎす誰がため惜む初音なるらむ
188

中宮大夫公宗母

時鳥を

わきてまづ我に語らへ郭公待つらむ里はあまたありとも
189

前内大臣實

延文の百首の歌に

郭公人傳にのみ聞きふりてうき身よそなる音こそつらけれ
190

前大僧正慈鎭

題志らず

千枝にこそかたらはずとも時鳥信太の森のひと聲もがな
191

正三位知家

名所の百首の歌奉りけるに

郭公今やみやこへいづみなる志のだの杜のあけがたの聲
192

後嵯峨院御製

五十首の御歌の中に

是ぞげに初音なるらむ聞く人も待ちあへぬ間の郭公かな
193

西行法師

題志らず

郭公思ひも分かぬ一こゑを聞きつといかで人にかたらむ
194

平氏村

曙郭公

明くるをぞ待つべかりける横雲の嶺より出づる郭公かな
195

權中納言爲重

里郭公と云ふ事を

山路をば今朝越えぬとや時鳥やがて音羽の里に鳴くらむ
196

後光明峯寺攝政左大臣

山里にて郭公を聞きて

この里もなほつれなくば時鳥いづくの山の奧をたづねむ
197

赤人

題志らず

宵の間もおぼつかなきを時鳥鳴くなる聲のほどの遙けき
198

野宮入道前内大臣

知らせばやたゞ一こゑの郭公待ちしにまさる心づくしを
199

前中納言爲秀

貞和の百首の歌奉りける時

なべて世に難面きよりも時鳥里わく頃の音こそつらけれ
200

從三位宣子

百首の歌奉りし時

時ははや知りぬるころの郭公この里人も聞きやふりなむ
201

左大臣

上のをのこども時鳥數聲と云ふ事を仕うまつりけるに

いく聲とかぞへむ物を時鳥鳴きつとばかりなに思ひけむ
202

家にて人々三首の歌詠み侍りしに、菖蒲を

菖蒲草今日はかけよと長き根を袖より見する時は來に鳬
203

枇杷皇太后宮

五月五日藥玉をおくるとて

ながき世の例に引けば菖蒲草同じ淀野もわかれざりけり
204

法成寺入道前攝政太政大臣

返し

おりたちて引ける菖蒲の根を見てぞ今日より長き例ともしる
205

前關白太閤

百首の歌奉りし時、菖蒲

菖蒲草今日刈る跡に殘れるや淀野に生ふる眞菰なるらむ
206

前關白近衛

引き結ぶあやめの草の枕をば旅とやいはむ一夜寐にけり
207

中宮大夫公宗

夏の歌の中に

長き根を引くに任せて沼水の深さ知らるゝあやめ草かな
208

一品法親王寛尊

隱沼に生ひて根深きあやめぐさ心も知らず誰かひくらむ
209

後光嚴院御製

百首のうためされしついでに、五月雨

五月雨はあやめの草の志づくより猶落ちまさる軒の玉水
210

前中納言匡房

夏の歌とて

五月雨はやどにつくまの菖蒲草軒の雫に枯れじとぞ思ふ
211

寂蓮法師

題志らず

小山田に水引き侘ぶる賤の男が心や晴るゝさみだれの空
212

皇太后宮大夫俊成

百首の歌よみ侍りける中に

種蒔しわさ田の早苗植ゑて鳬いつ秋風の吹かむとすらむ
213

民部卿爲藤

題志らず

小山田に板井の清水くみためて我が門去らず取る早苗哉
214

進子内親王

杉立てる外面の谷に水おちて早苗すゞしき山のしたかげ
215

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りけるに

早苗取る同じ田面も山かげの暮るゝかたよりかへる里人
216

前關白九絛

百首の歌奉りし時、橘

匂ひ來る花たちばなの夕風は誰がむかしをか驚かすらむ
217

左大臣

右大將に任じ侍りて後内裏にて三十首の歌講ぜられし時、簷橘を

ためしある御階の右にうつるより猶袖ふれて匂ふたち花
218

中納言家持

夏の歌の中に

我が宿の花たちばなに郭公夜ふかく鳴けば戀まさりけり
219

前關白近衛

鳴く音をや忍び果てまし時鳥己が五月のなき世なりせば
220

藤原清正

夏の夜の月待つ程は郭公我がやどばかり過ぎがてに鳴け
221

山階入道前左大臣

をち返り鳴きふるせども郭公猶あかなくに今日は暮しつ
222

藤原爲尹朝臣

百首の歌奉りし時、郭公遍を

をちこちにはや鳴きふるす郭公今は聞きても誰に語らむ
223

後鳥羽院御製

題志らず

夏の夜の夢路に來鳴く子規覺めても聲はなほのこりつゝ
224

皇太后宮大夫俊成女

名所の百首の歌奉りける時

五月雨のをやむ晴間の日影にもなほ雲深しあまの香具山
225

權中納言爲重

百首の歌奉りし時、五月雨雲

暮れぬとて出づべき月も待ち侘びぬ雲に峰なき梅雨の頃
226

津守國量

いとゞ猶八重立つ雲の五月雨に横川の水もさぞ増るらむ
227

順徳院兵衛内侍

建保の百首の歌奉りし時

五月雨に小笹が原を見渡せば猪名野につゞくこやの池水
228

順徳院御製

眞菰生ふる伊香保の沼のいか計り浪越えぬらむ梅雨の頃
229

後西園寺入道前太政大臣

文保三年百首の歌奉りける時

日を經れば元の道さへ忘れ水野澤となれるさみだれの頃
230

從二位家隆

題志らず

庭の面に任せし水も岩越えてよそにせきやる五月雨の頃
231

寳篋院贈左大臣

延文の百首の歌奉りけるに

五月雨の水かさを見れば飛鳥川昨日の淵も淺瀬なりけり
232

關白前左大臣

百首の歌奉りし時、河五月雨

飛鳥川明日さへ降らば淵は瀬に戀るも知らじ五月雨の頃
233

御製

同じ心を詠ませ給うける

三吉野や川音たかき五月雨に岩もと見せぬ瀧のしらあわ
234

前右大臣

百首の歌奉りし時、五月雨

庭清くなりぞしぬらし五月雨に藻くづ流るゝ山河のみづ
235

頓阿法師

題志らず

名のみして山は朝日の影も見ず八十うぢ川の五月雨の頃
236

前中納言爲相

嘉元の百首の歌奉りけるに

湊川うは波早くかつ越えてしほまでにごる五月雨のころ
237

津守國道

夏の歌の中に

いとゞ猶入海とほくなりにけり濱名の橋の五月雨のころ
238

前大納言爲定

前大僧正慈勝人々に詠ませ侍りし千首の歌の中に

五月雨に落ちそふ瀧の白玉や頓てふり行く日數なるらむ
239

太政大臣

延文二年百首の歌奉りけるに、五月雨

しばしほす波の間もなし蜑衣田簑の志まの五月雨のころ
240

津守國夏

同じ心を

伊勢のあまの鹽やき衣此の程やすつとは云はむ梅雨の頃
241

從三位行能

名所の百首の歌奉りけるに

難波潟こやの八重ぶき洩りかねて芦間に宿る夏の夜の月
242

左兵衛督基氏

題志らず

忘れては春かとぞ思ふ蚊遣火の烟にかすむ夏の夜のつき
243

權大納言爲遠

百首の歌奉りし時、夏月

更けてこそ置くべき霜を宵の間に暫し見せたる庭の月影
244

前大僧正隆辨

同じ心を

見る程もなくて明行く夏の夜の月もや人の老となるらむ
245

從二位嚴子

待ち出づる山の端ながら明けにけり月に短き夏の夜の空
246

和泉式部

照射を詠める

夏の夜は照射の鹿のめをだにも合せぬ程に明けぞしにける
247

權中納言爲重

五月闇ともす火串の松山に待つとて鹿のよらぬ夜もなし
248

前大納言爲世

文保三年百首の歌奉りけるに

大井川山もと遠く漕ぎつれてひろ瀬にならぶ篝火のかげ
249

惟宗光吉朝臣

二品親王の家の五十首の歌に、鵜川の心を詠み侍りける

鵜飼舟のぼりもやらぬ同じ瀬に友待ちそふる篝火のかげ
250

權大納言時光

延文二年百首の歌奉りける時

鵜飼舟くだす早瀬の河波に流れて消えぬかゞり火のかげ
251

前參議忠定

名所の百首の歌奉りける時

夏草はしげりにけりな大江山越えて生野の道もなきまで
252

從二位家隆

春ぞ見しみつの御牧にあれし駒ありもやすらむ草隠れつゝ
253

後京極攝政前太政大臣

正治の百首の歌の中に

吾妹子が宿のさゆりの花かづら長き日暮しかけて凉まむ
254

太政大臣

延文の百首の歌奉りけるに、螢

穗に出でぬ尾花がもとの草の名もかつ顕れて飛ぶ螢かな
255

式子内親王

正治の百首の歌に

水暗き岩間にまよふ夏虫のともし消たでも夜を明すかな
256

按察使資康

百首の歌奉りし時

掬ぶ手のあかぬ志づくも影見えて石井の水に飛ぶ螢かな
257

後鳥羽院御製

千五百番歌合に

風をいたみ蓮のうき葉に宿占めて凉しき玉に蛙なくなり
258

前大納言實教

題志らず

風通ふ池のはちす葉なみかけてかたぶく方につたふ白玉
259

光嚴院御製

貞和の百首の歌召しけるついでに

夕立の降りくる池の蓮葉にくだけてもろき露の志らたま
260

後深草院辨内侍

寶治の百首の歌奉りけるとき、夕立

おのづからかたへの雲や晴れぬらむ山の端遠き夕立の空
261

祝部成茂

夏山の木の葉の色は染めねども時雨に似たる夕立のそら
262

前參議能清

夏の歌の中に

一むらはやがて過ぎぬる夕立の猶くも殘る空ぞすゞしき
263

僧正果守

夕立の一むら薄つゆ散りて虫の音添はぬあきかぜぞ吹く
264

前大納言爲定

延文二年百首の歌奉りけるに

鳴る神の音ばかりかと聞くほどに山風烈しゆふだちの空
265

前大納言公蔭

稻妻の光の間ともいふばかりはやくぞ晴るゝ夕立のそら
266

前大納言爲世

嘉元の百首の歌奉りける時

夕立のかつ%\晴るゝ雲間より雨をわけてもさす日影哉
267

後宇多院御製

過ぎにけり軒の雫は殘れども雲におくれぬ夕だちのあめ
268

讀人志らず

題志らず

行く末は露だにおかじ夕立の雲にあまれるむさし野の原
269

前大納言實教

蝉を

村雨の名殘の露はかつ落ちて本末にとまる蝉のもろごゑ
270

前大納言俊光女

雨晴るゝ夕かげ山に鳴く蝉の聲より落つる木々の下つゆ
271

後山本前左大臣

文保の百首の歌奉りける時

わけ過ぐる山志た道の追風にはるかに送る蝉のもろごゑ
272

前中納言定家

名所の百首の歌奉りける頃

蝉の羽の衣に秋をまつら潟ひれふる山のくれぞすゞしき
273

太政大臣

延文二年百首のうた奉りけるに、納凉

涼しさはいづれともなし松風の聲のうちなる山の瀧つ瀬
274

源頼之朝臣

同じ心を

靜かなる心の中や松かげのみづよりも猶すゞしかるらむ
275

前中納言雅孝

山もとのならの木蔭の夕すゞみ岩もるみづに秋風ぞ吹く
276

後醍醐院御製

凉しくば行きても汲まむ水草ゐる板井の清水里遠くとも
277

後京極攝政前太政大臣

和歌所にて六首の歌奉りける時

松立てる與謝の湊の夕すゞみ今も吹かなむ沖つ志ほかぜ
278

好忠

題志らず

芦の葉に隱れて住めば難波女のこやは夏こそ凉しかりけれ
279

等持院贈左大臣

貞和二年百首の歌奉りける時

難波人御祓すらしも夏かりの芦の一夜にあきをへだてゝ
280

權大納言爲遠

百首の歌奉りし時、六月祓

みたらしや誰が御祓とも白木綿の知らず流るゝ夏の暮哉
281

入道二品親王尊道

みたらしや引く手も今日は大幣の幾瀬に流す御祓なる覽
282

前大納言資名

夏の歌の中に

御祓川年も今宵の中空に更くるをあきとかぜぞすゞしき
283

入道二品親王覺譽

延文の百首の歌奉りける時、夏祓

御祓してかへさ夜深き河波の秋にかゝれる音のすゞしさ
284

左京大夫顯輔

同じ心を

河の瀬に生ふる玉藻の行く水になびきてもする夏禊かな
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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