「洋燈の火でさえ、大概度胆を抜かれたのが、頼みに思った豪傑は負傷するし、今の話でまた変な気になる時分が、夜も深々と更けたでしょう。
どんな事で、どこから抛り投げまいものでもない。何か、対手の方も斟酌をするか、それとも誰も殺すほどの罪もないか、命に別条はまず無かろうが、怪我は今までにも随分ある。
さあ、捜す、となると、五人の天窓へ燭台が一ツです。蝋の継ぎ足しはあるにして、一時に燃すと翌方までの便がないので、手分けをするわけには行きません。
もうそうなりますとね、一人じゃ先へ立つのも厭がりますから、そこで私が案内する、と背後からぞろぞろ。その晩は、鶴谷の檀那寺の納所だ、という悟った禅坊さんが一人。変化出でよ、一喝で、という宵の内の意気組で居たんです。ちっとお差合いですね、」
「いえ、宗旨違いでございます、」
と吃驚したように莞爾する。
「坊さんまじりその人数で。これが向うの曲角から、突当りのはばかりへ、廻縁になっています。ぐるりとその両側、雨戸を開けて、沓脱のまわり、縁の下を覗いて、念のため引返して、また便所の中まで探したが、光るものは火屋の欠も落ちてはいません。
じゃあ次の室を……」
と振返って、その大なる襖を指した。
「と皆が云うから、私は留めました。
ここを借りて、一室だけでも広過ぎるから、来てからまだ一度も次の室は覗いて見ない。こういう時開けては不可ません。廊下から、厠までは、宵から通った人もある。転倒している最中、どんな拍子で我知らず持って立って、落して来ないとも限らんから、念のため捜したものの、誰も開けない次の室へ行ってるようでは、何かが秘したんだろうから、よし有ったにした処で、先方にもしその気があれば、怪我もさせよう、傷もつけよう。さて無い、となると、やっぱり気が済まんのは同一道理。押入も覗け、棚も見ろ、天井も捜せ、根太板をはがせ、となっては、何十人でかかった処で、とてもこの構えうち隅々まで隈なく見尽される訳のものではない。人足の通った、ありそうな処だけで切上げたが可いでしょう――
それもそうか、いよいよ魔隠しに隠したものなら、山だか川だか、知れたものではない。
まあ、人間業で叶わん事に、断念めは着きましたが、危険な事には変わりはないので。いつ切尖が降って来ようも知れません。ちっとでも楯になるものをと、皆が同一心です。言合わせたように順々に……前へ御免を被りますつもりで、私が釣っておいた蚊帳へ、総勢六人で、小さくなって屈みました。
変におしおきでも待ってるようでなお不気味でした。そうか、と云って、夜夜中、外へ遁出すことは思いも寄らず、で、がたがた震える、突伏す、一人で寝てしまったのがあります、これが一番可いのです。坊様は口の裏で、頻にぶつぶつと念じています。
その舌の縺れたような、便のない声を、蚊の唸る中に聞きながら、私がうとうとしかけました時でした。密と一人が揺ぶり起して、
(聞えますか、)
と言います。
(ココだ、ココだ、と云う声が、)と、耳へ口をつけて囁くんです。それから、それへ段々、また耳移しに。
(失物はココにある、というお知らせだろう、)
(どうか、)と言う、ひそひそ相談。
耳を澄ますと、蚊帳越の障子のようでもあり、廊下の雨戸のようでもあり、次の間と隔ての襖際……また柱の根かとも思われて、カタカタ、カタカタと響く――あの茶立虫とも聞えれば、壁の中で蝙蝠が鳴くようでもあるし、縁の下で、蟇が、コトコトと云うとも考えられる。それが貴僧、気の持ちようで、ココ、ココ、ココヨとも、ココト、とも云うようなんです。
自分のだけに、手を繃帯した水兵の方が、一番に蚊帳を出ました。
返す気で、在所をおっしゃるからは仔細はない、と坊さんがまた這出して、畳に擦附けるように、耳を澄ます。と水兵の方は、真中で耳を傾けて、腕組をして立ってなすったっけ。見当がついたと見えて、目で知らせ合って、上下で頷いて、その、貴僧の背後になってます、」
「え!」
と肩越に淵を差覗くがごとく、座をずらして見返りながら、
「成程。」
「北へ四枚目の隅の障子を開けますとね。溝へ柄を、その柱へ、切尖を立掛けてあったろうではありませんか。」









