「それッきり、危うございますから、刃物は一切厳禁にしたんです。
遊びに来て下さるも可し、夜伽とおっしゃるも難有し、ついでに狐狸の類なら、退治しようも至極ごもっともだけれども、刀、小刀、出刃庖丁、刃物と言わず、槍、鉄砲、――およそそういうものは断りました。
私も長い旅行です。随分どんな処でも歩行き廻ります考えで。いざ、と言や、投出して手を支くまでも、短刀を一口持っています――母の記念で、峠を越えます日の暮なんぞ、随分それがために気丈夫なんですが、謹のために桐油に包んで、風呂敷の結び目へ、しっかり封をつけておくのですが、」
「やはり、おのずから、その、抜出すでございますか。」
「いいえ、これには別条ありません。盗人でも封印のついたものは切らんと言います。もっとも、怪物退治に持って見えます刃物だって、自分で抜かなければ別条はないように思われますね。それに貴僧、騒動の起居に、一番気がかりなのは洋燈ですから、宰八爺さんにそう云って、こうやって行燈に取替えました。」
「で、行燈は何事も、」
「これだって上ります。」
「あの上りますか。宙へ?」
時に、明の、行燈のその皿あたりへ、仕切って、うつむけに伏せた手が白かった。
「すう、とこう、畳を離れて、」
「ははあ、」
とばかり、僧は明の手のかげで、燈が暗くなりはしないか、と危んだ目色である。
「それも手をかけて、圧えたり、据えようとしますと、そのはずみに、油をこぼしたり、台ごとひっくりかえしたりします。障らないで、熟と柔順くしてさえいれば、元の通りに据直って、夜が明けます。一度なんざ行燈が天井へ附着きました。」
「天……井へ、」
「下に蚊帳が釣ってありますから、私も存じながら、寝ていたのを慌てて起上って、蚊帳越にふらふら釣り下った、行燈の台を押えようと、うっかり手をかけると、誰か取って引上げるように鴨居を越して天井裏へするりと入ると、裏へちゃんと乗っかりました。もう堆い、鼠の塚か、と思う煤のかたまりも見えれば、遥に屋根裏へ組上げた、柱の形も見える。
可訝いな、屋根裏が見えるくらいじゃ、天井の板がどこか外れた筈だが、とふと気がつくと、桟が弛んでさえおりますまい。
板を抜けたものか知らん、余り変だ、と貴僧。
ここで心が定まりますと、何の事もない。行燈は蚊帳の外の、宵から置いた処にちゃんとあって、薄ぼんやり紙が白けたのは、もう雨戸の外が明方であったんです。」
「その晩は、お一人で、」
「一人です、しかも一昨晩。」
「一昨晩?」
と、思わずまたぎょっとする。
「で、何でございますか、その夜伽連は、もうそれ以来懲りて来なくなったんでございますかな。」
「お待ち下さい、トあの、西瓜で騒いだ夜は、たしかその後でしたっけ。
何、こりゃ詰らない事ですけれども、弱ったには弱りましたよ。……
確か三人づれで、若い衆が見えました。やっぱり酒を御持参で。大分お支度があったと見えて、するめの足を噛りながら、冷酒を茶碗で煽るようなんじゃありません。
竹の皮包みから、この陽気じゃ魚の宵越しは出来ん、と云って、焼蒲鉾なんか出して。
旨うございましたよ、私もお相伴しましたっけ、」
と悠々と迫らぬ調子で、
「宵には何事もありませんでした。可い塩梅な酔心地で、四方山の話をしながら、螽一ツ飛んじゃ来ない。そう言や一体蚊も居らんが、大方その怪物が餌食にするだろう。それにしちゃ吝な食物だ――何々、海の中でも親方となるとかえって小さい物を餌にする。鯨を見ろ、しこ鰯だ、なぞと大口を利いて元気でしたが、やがて酒はお積りになる、夜が更けたんです。
ここでお茶と云う処だけれど、茶じゃ理に落ちて魔物が憑け込む。酔醒にいいもの、と縁側から転がし出したのは西瓜です。聞くと、途中で畑盗人をして来たんだそうで――それじゃかえって、憑込もうではありませんか。」









