「青葉の影の射す処、白瀬戸の小鉢も結構な青磁の菓子器に装ったようで、志の美しさ。
箸を取ると、その重った茄子が、あの、薄皮の腹のあたりで、グッ、グッ。
一ツ音を出すと、また一つグッ、もう一つのもググ、ググと声を立てるんですものね。
変な顔をして、宰八が、
(お客様、聞えるかね。)
(ああ鳴くとも。)
(ちんじちょうようだ、此奴、)
と爺様が鉈豆のような指の尖で、ちょいと押すと、その圧されたのがグググ、手をかえるとまた他のがググ。
心あって鳴くようで、何だか上になった、あの蔕の取手まで、小さな角らしく押立ったんです。
また飛出さない内に、と思って、私は一ツ噛ったですよ。」
「召食ったか。」
と、僧は怪訝顔で、
「それは、お豪い。」
「何聞く方の耳が鳴るんでしょうから、何事もありません、茄子の鳴くわけは無いのですから。
それでも爺さんは苦切って、少い時にゃ、随分悪物食をしたものだで、葬い料で酒ェ買って、犬の死骸なら今でも食うが、茄子の鳴くのは厭だ、と言います。
もっとも変なことは変ですが、同じ気味の悪い中でも、対手が茄子だけに、こりゃおかしくって可かったですよ。」
「茄子ならば、でございますが、ものは茄子でも、対手は別にございましょう。」
明は俯向いて莞爾した、別に意味のない笑だった。
「で、そりゃ昼間の事でございますな。」
「昨日の午後でした。」
「昼間からは容易でない。」
と半ば呟くがごとくに云って、
「では、昨夜あたりはさぞ……」
と聞く方が眉を顰める。
「ええ、酷うございました、どうせ、夜が寝られはしないんですから、」
「それでお窶れなさるのじゃ、貴下、お顔の色がとんだ悪い!……
茶店の婆さんが申したも、その事でございます。
唯今お話を伺いました。そんなこんなで村の者も行かなくなり、爺様も夜は恐がって参りませんから、貴下の御容子が分らないに因って、家つきの仏を回向かたがた、お見舞申してはくれまいか、と云うに就いて、推参したのでございますが、いや、何とも驚きました。
いずれ御厄介に相成らねばなりませんが、私もどうか唯今のその茄子の鳴くぐらいな処で、御容赦が願いたい。
どこと云って三界宿なし、一泊御報謝に預る気で参ったわけで。なかなか家つきの幽霊、祟、物怪を済度しようなどという道徳思いも寄らず。実は入道名さえ持ちません。手前勝手、申訳のないお詫びに剃ったような坊主。念仏さえ碌に真心からは唱えられんでございまして、御祈祷僧などと思われましては、第一、貴下の前へもお恥かしゅうございますが、いかがでございましょう。お宿を願いましても差支えはないでございましょうか。いくらか覚悟はして参りましたが、目のあたりお話を伺いましては、ちと二の足でございますが。」
「一人でも客がありますと、それだけ鶴谷では喜びますそうです。持主の本宅が喜びますものを、誰に御遠慮が入りますものですか。私もお連があって、どんなに嬉しいか知れません。」
「そりゃ、鶴谷殿はじめ、貴下の思召しはさように難有うございましても、別にその……ええ、まず、持主が鶴谷としますと、この空屋敷の御支配でございますな、――その何とも異様な、あの、その、」
「それは私も御同然です。人の住むのが気に入らないので荒れるのだろうと思いますが。
そこなんです、貴僧。逆いさえしませんければ、畳も行燈も何事もないのですもの。戸障子に不意に火が附いてそこいらめらめら燃えあがる事がありましても、慌てて消す処は破れ、水を掛けた処は濡れますが、それなりの処は、後で見ますと濡れた様子もないのですから。
座敷だっていくらもあります、貴僧、」
とふと心づいたように、
「御一所でお煩ければ、隣のお座敷へいらっしゃい。何か正体を見届けようなぞと云っては不可ませんが、鶴谷が許したお客僧が、何も御遠慮には及びません。
ただすらりと開かないで、何かが圧えてでもいるようでしたら、お見合せなさいまし。逆うと悪いんですから。」









