人魚の祠
泉 鏡太郎
一
「いまの、あの婦人( ふじん ) が抱( だ ) いて居( ゐ ) た嬰兒( あかんぼ ) ですが、鯉( こひ ) か、鼈( すつぽん ) ででも有( あ ) りさうでならないんですがね。」
「…………」
私( わたし ) は、默( だま ) つて工學士( こうがくし ) の其( そ ) の顏( かほ ) を視( み ) た。
「まさかとは思( おも ) ひますが。」
赤坂( あかさか ) の見附( みつけ ) に近( ちか ) い、唯( と ) ある珈琲店( コオヒイてん ) の端近( はしぢか ) な卓子( テエブル ) で、工學士( こうがくし ) は麥酒( ビイル ) の硝子杯( コツプ ) を控( ひか ) へて云( い ) つた。
私( わたし ) は卷莨( まきたばこ ) を點( つ ) けながら、
「あゝ、結構( けつこう ) 。私( わたし ) は、それが石地藏( いしぢざう ) で、今( いま ) のが姑護鳥( うぶめ ) でも構( かま ) ひません。けれども、それぢや、貴方( あなた ) が世間( せけん ) へ濟( す ) まないでせう。」
六月( ぐわつ ) の末( すゑ ) であつた。府下( ふか ) 澁谷( しぶや ) 邊( へん ) に或( ある ) 茶話會( さわくわい ) があつて、斯( こ ) の工學士( こうがくし ) が其( そ ) の席( せき ) に臨( のぞ ) むのに、私( わたし ) は誘( さそ ) はれて一日( あるひ ) 出向( でむ ) いた。
談話( はなし ) の聽人( きゝて ) は皆( みな ) 婦人( ふじん ) で、綺麗( きれい ) な人( ひと ) が大分( だいぶ ) 見( み ) えた、と云( い ) ふ質( たち ) のであるから、羊羹( やうかん ) 、苺( いちご ) 、念入( ねんいり ) に紫( むらさき ) 袱紗( ふくさ ) で薄茶( うすちや ) の饗應( もてなし ) まであつたが――辛抱( しんばう ) をなさい――酒( さけ ) と云( い ) ふものは全然( まるで ) ない。が、豫( かね ) ての覺悟( かくご ) である。それがために意地汚( いぢきたな ) く、歸途( かへり ) に恁( か ) うした場所( ばしよ ) へ立寄( たちよ ) つた次第( しだい ) ではない。
本來( ほんらい ) なら其( そ ) の席( せき ) で、工學士( こうがくし ) が話( はな ) した或種( あるしゆ ) の講述( かうじゆつ ) を、こゝに筆記( ひつき ) でもした方( はう ) が、讀( よ ) まるゝ方々( かた/″\ ) の利益( りえき ) なのであらうけれども、それは殊更( ことさら ) に御海容( ごかいよう ) を願( ねが ) ふとして置( お ) く。
實( じつ ) は往路( いき ) にも同伴立( つれだ ) つた。
指( さ ) す方( かた ) へ、煉瓦塀( れんぐわべい ) 板塀( いたべい ) 續( つゞ ) きの細( ほそ ) い路( みち ) を通( とほ ) る、とやがて其( そ ) の會場( くわいぢやう ) に當( あた ) る家( いへ ) の生垣( いけがき ) で、其處( そこ ) で三( み ) つの外圍( そとがこひ ) が三方( さんぱう ) へ岐( わか ) れて三辻( みつつじ ) に成( な ) る……曲角( まがりかど ) の窪地( くぼち ) で、日蔭( ひかげ ) の泥濘( ぬかるみ ) の處( ところ ) が――空( そら ) は曇( くも ) つて居( ゐ ) た――殘( のこ ) ンの雪( ゆき ) かと思( おも ) ふ、散敷( ちりし ) いた花( はな ) で眞白( まつしろ ) であつた。
下( した ) へ行( ゆ ) くと學士( がくし ) の背廣( せびろ ) が明( あかる ) いくらゐ、今( いま ) を盛( さかり ) と空( そら ) に咲( さ ) く。枝( えだ ) も梢( こずゑ ) も撓( たわゝ ) に滿( み ) ちて、仰向( あをむ ) いて見上( みあ ) げると屋根( やね ) よりは丈( たけ ) 伸( の ) びた樹( き ) が、對( つゐ ) に並( なら ) んで二株( ふたかぶ ) あつた。李( すもゝ ) の時節( じせつ ) でなし、卯木( うつぎ ) に非( あら ) ず。そして、木犀( もくせい ) のやうな甘( あま ) い匂( にほひ ) が、燻( いぶ ) したやうに薫( かを ) る。楕圓形( だゑんけい ) の葉( は ) は、羽状複葉( うじやうふくえふ ) と云( い ) ふのが眞蒼( まつさを ) に上( うへ ) から可愛( かはい ) い花( はな ) をはら/\と包( つゝ ) んで、鷺( さぎ ) が緑( みどり ) なす蓑( みの ) を被( かつ ) いで、彳( たゝず ) みつゝ、颯( さつ ) と開( ひら ) いて、雙方( さうはう ) から翼( つばさ ) を交( かは ) した、比翼連理( ひよくれんり ) の風情( ふぜい ) がある。
私( わたし ) は固( もと ) よりである。……學士( がくし ) にも、此( こ ) の香木( かうぼく ) の名( な ) が分( わか ) らなかつた。
當日( たうじつ ) 、席( せき ) でも聞合( きゝあは ) せたが、居合( ゐあ ) はせた婦人連( ふじんれん ) が亦( また ) 誰( たれ ) も知( し ) らぬ。其( そ ) の癖( くせ ) 、佳薫( いゝかをり ) のする花( はな ) だと云( い ) つて、小( ちひ ) さな枝( えだ ) ながら硝子杯( コツプ ) に插( さ ) して居( ゐ ) たのがあつた。九州( きうしう ) の猿( さる ) が狙( ねら ) ふやうな褄( つま ) の媚( なまめ ) かしい姿( すがた ) をしても、下枝( したえだ ) までも屆( とゞ ) くまい。小鳥( ことり ) の啄( ついば ) んで落( おと ) したのを通( とほ ) りがかりに拾( ひろ ) つて來( き ) たものであらう。
「お乳( ちゝ ) のやうですわ。」
一人( ひとり ) の處女( しよぢよ ) が然( さ ) う云( い ) つた。
成程( なるほど ) 、近々( ちか/″\ ) と見( み ) ると、白( しろ ) い小( ちひ ) さな花( はな ) の、薄( うつす ) りと色着( いろづ ) いたのが一( ひと ) ツ一( ひと ) ツ、美( うつくし ) い乳首( ちゝくび ) のやうな形( かたち ) に見( み ) えた。
却説( さて ) 、日( ひ ) が暮( く ) れて、其( そ ) の歸途( かへり ) である。
私( わたし ) たちは七丁目( なゝちやうめ ) の終點( しうてん ) から乘( の ) つて赤坂( あかさか ) の方( はう ) へ歸( かへ ) つて來( き ) た……あの間( あひだ ) の電車( でんしや ) は然( さ ) して込合( こみあ ) ふ程( ほど ) では無( な ) いのに、空( そら ) 怪( あや ) しく雲脚( くもあし ) が低( ひく ) く下( さが ) つて、今( いま ) にも一降( ひとふり ) 來( き ) さうだつたので、人通( ひとどほ ) りが慌( あわたゞ ) しく、一町場( ひとちやうば ) 二町場( ふたちやうば ) 、近處( きんじよ ) へ用( よう ) たしの分( ぶん ) も便( たよ ) つたらしい、停留場( ていりうぢやう ) 毎( ごと ) に乘人( のりて ) の數( かず ) が多( おほ ) かつた。
で、何時( いつ ) 何處( どこ ) から乘組( のりく ) んだか、つい、それは知( し ) らなかつたが、丁( ちやう ) ど私( わたし ) たちの並( なら ) んで掛( か ) けた向( むか ) う側( がは ) ――墓地( ぼち ) とは反對( はんたい ) ――の處( ところ ) に、二十三四の色( いろ ) の白( しろ ) い婦人( ふじん ) が居( ゐ ) る……
先( ま ) づ、色( いろ ) の白( しろ ) い婦( をんな ) と云( い ) はう、が、雪( ゆき ) なす白( しろ ) さ、冷( つめた ) さではない。薄櫻( うすざくら ) の影( かげ ) がさす、朧( おぼろ ) に香( にほ ) ふ裝( よそほひ ) である。……こんなのこそ、膚( はだへ ) と云( い ) ふより、不躾( ぶしつけ ) ながら肉( にく ) と言( い ) はう。其( その ) 胸( むね ) は、合歡( ねむ ) の花( はな ) が雫( しづく ) しさうにほんのりと露( あらは ) である。
藍地( あゐぢ ) に紺( こん ) の立絞( たてしぼり ) の浴衣( ゆかた ) を唯( たゞ ) 一重( ひとへ ) 、絲( いと ) ばかりの紅( くれなゐ ) も見( み ) せず素膚( すはだ ) に着( き ) た。襟( えり ) をなぞへに膨( ふつく ) りと乳( ちゝ ) を劃( くぎ ) つて、衣( きぬ ) が青( あを ) い。青( あを ) いのが葉( は ) に見( み ) えて、先刻( さつき ) の白( しろ ) い花( はな ) が俤立( おもかげだ ) つ……撫肩( なでがた ) をたゆげに落( おと ) して、すらりと長( なが ) く膝( ひざ ) の上( うへ ) へ、和々( やは/\ ) と重量( おもみ ) を持( も ) たして、二( に ) の腕( うで ) を撓( しな ) やかに抱( だ ) いたのが、其( それ ) が嬰兒( あかんぼ ) で、仰向( あをむ ) けに寢( ね ) た顏( かほ ) へ、白( しろ ) い帽子( ばうし ) を掛( か ) けてある。寢顏( ねがほ ) に電燈( でんとう ) を厭( いと ) つたものであらう。嬰兒( あかんぼ ) の顏( かほ ) は見( み ) えなかつた、だけ其( それ ) だけ、懸念( けねん ) と云( い ) へば懸念( けねん ) なので、工學士( こうがくし ) が――鯉( こひ ) か鼈( すつぽん ) か、と云( い ) つたのは此( これ ) であるが……
此( こ ) の媚( なま ) めいた胸( むね ) のぬしは、顏立( かほだ ) ちも際立( きはだ ) つて美( うつく ) しかつた。鼻筋( はなすぢ ) の象牙彫( ざうげぼり ) のやうにつんとしたのが難( なん ) を言( い ) へば強過( つよす ) ぎる……かはりには目( め ) を恍惚( うつとり ) と、何( なに ) か物思( ものおも ) ふ體( てい ) に仰向( あをむ ) いた、細面( ほそおも ) が引緊( ひきしま ) つて、口許( くちもと ) とともに人品( じんぴん ) を崩( くづ ) さないで且( か ) つ威( ゐ ) がある……其( そ ) の顏( かほ ) だちが帶( おび ) よりも、きりゝと細腰( ほそごし ) を緊( し ) めて居( ゐ ) た。面( おもて ) で緊( し ) めた姿( すがた ) である。皓齒( しらは ) の一( ひと ) つも莞爾( につこり ) と綻( ほころ ) びたら、はらりと解( と ) けて、帶( おび ) も浴衣( ゆかた ) も其( そ ) のまゝ消( き ) えて、膚( はだ ) の白( しろ ) い色( いろ ) が颯( さつ ) と簇( むらが ) つて咲( さ ) かう。霞( かすみ ) は花( はな ) を包( つゝ ) むと云( い ) ふが、此( こ ) の婦( をんな ) は花( はな ) が霞( かすみ ) を包( つゝ ) むのである。膚( はだへ ) が衣( きぬ ) を消( け ) すばかり、其( そ ) の浴衣( ゆかた ) の青( あを ) いのにも、胸襟( むねえり ) のほのめく色( いろ ) はうつろはぬ、然( しか ) も湯上( ゆあが ) りかと思( おも ) ふ温( あたゝか ) さを全身( ぜんしん ) に漲( みなぎ ) らして、髮( かみ ) の艶( つや ) さへ滴( したゝ ) るばかり濡々( ぬれ/\ ) として、其( それ ) がそよいで、硝子窓( がらすまど ) の風( かぜ ) に額( ひたひ ) に絡( まつ ) はる、汗( あせ ) ばんでさへ居( ゐ ) たらしい。
ふと明( あ ) いた窓( まど ) へ横向( よこむ ) きに成( な ) つて、ほつれ毛( げ ) を白々( しろ/″\ ) とした指( ゆび ) で掻( か ) くと、あの花( はな ) の香( か ) が強( つよ ) く薫( かを ) つた、と思( おも ) ふと緑( みどり ) の黒髮( くろかみ ) に、同( おな ) じ白( しろ ) い花( はな ) の小枝( こえだ ) を活( い ) きたる蕚( うてな ) 、湧立( わきた ) つ蕊( しべ ) を搖( ゆる ) がして、鬢( びんづら ) に插( さ ) して居( ゐ ) たのである。
唯( と ) 、見( み ) た時( とき ) 、工學士( こうがくし ) の手( て ) が、確( しか ) と私( わたし ) の手( て ) を握( にぎ ) つた。
「下( お ) りませう。是非( ぜひ ) 、談話( はなし ) があります。」
立( た ) つて見送( みおく ) れば、其( そ ) の婦( をんな ) を乘( の ) せた電車( でんしや ) は、見附( みつけ ) の谷( たに ) の窪( くぼ ) んだ廣場( ひろば ) へ、すら/\と降( お ) りて、一度( いちど ) 暗( くら ) く成( な ) つて停( と ) まつたが、忽( たちま ) ち風( かぜ ) に乘( の ) つたやうに地盤( ぢばん ) を空( そら ) ざまに颯( さつ ) と坂( さか ) へ辷( すべ ) つて、青( あを ) い火花( ひばな ) がちらちらと、櫻( さくら ) の街樹( なみき ) に搦( から ) んだなり、暗夜( くらがり ) の梢( こずゑ ) に消( き ) えた。
小雨( こさめ ) がしと/\と町( まち ) へかゝつた。
其處( そこ ) で珈琲店( コオヒイてん ) へ連立( つれだ ) つて入( はひ ) つたのである。
こゝに、一寸( ちよつと ) 斷( ことわ ) つておくのは、工學士( こうがくし ) は嘗( かつ ) て苦學生( くがくせい ) で、其( その ) 當時( たうじ ) は、近縣( きんけん ) に賣藥( ばいやく ) の行商( ぎやうしやう ) をした事( こと ) である。
二
「利根川( とねがは ) の流( ながれ ) が汎濫( はんらん ) して、田( た ) に、畠( はたけ ) に、村里( むらざと ) に、其( そ ) の水( みづ ) が引殘( ひきのこ ) つて、月( つき ) を經( へ ) 、年( とし ) を過( す ) ぎても涸( か ) れないで、其( そ ) のまゝ溜水( たまりみづ ) に成( な ) つたのがあります。……
小( ちひ ) さなのは、河骨( かうほね ) の點々( ぽつ/\ ) 黄色( きいろ ) に咲( さ ) いた花( はな ) の中( なか ) を、小兒( こども ) が徒( いたづら ) に猫( ねこ ) を乘( の ) せて盥( たらひ ) を漕( こ ) いで居( ゐ ) る。大( おほ ) きなのは汀( みぎは ) の蘆( あし ) を積( つ ) んだ船( ふね ) が、棹( さを ) さして波( なみ ) を分( わ ) けるのがある。千葉( ちば ) 、埼玉( さいたま ) 、あの大河( たいが ) の流域( りうゐき ) を辿( たど ) る旅人( たびびと ) は、時々( とき/″\ ) 、否( いや ) 、毎日( まいにち ) 一( ひと ) ツ二( ふた ) ツは度々( たび/″\ ) 此( こ ) の水( みづ ) に出會( でつくは ) します。此( これ ) を利根( とね ) の忘( わす ) れ沼( ぬま ) 、忘( わす ) れ水( みづ ) と呼( よ ) んで居( ゐ ) る。
中( なか ) には又( また ) 、あの流( ながれ ) を邸内( ていない ) へ引( ひ ) いて、用水( ようすゐ ) ぐるみ庭( には ) の池( いけ ) にして、筑波( つくば ) の影( かげ ) を矜( ほこ ) りとする、豪農( がうのう ) 、大百姓( おほびやくしやう ) などがあるのです。
唯今( たゞいま ) お話( はなし ) をする、……私( わたし ) が出會( であ ) ひましたのは、何( ど ) うも庭( には ) に造( つく ) つた大池( おほいけ ) で有( あ ) つたらしい。尤( もつと ) も、居周圍( ゐまはり ) に柱( はしら ) の跡( あと ) らしい礎( いしずゑ ) も見當( みあた ) りません。が、其( それ ) とても埋( うも ) れたのかも知( し ) れません。一面( いちめん ) に草( くさ ) が茂( しげ ) つて、曠野( あらの ) と云( い ) つた場所( ばしよ ) で、何故( なぜ ) に一度( いちど ) は人家( じんか ) の庭( には ) だつたか、と思( おも ) はれたと云( い ) ふのに、其( そ ) の沼( ぬま ) の眞中( まんなか ) に拵( こしら ) へたやうな中島( なかじま ) の洲( す ) が一( ひと ) つ有( あ ) つたからです。
で、此( こ ) の沼( ぬま ) は、話( はなし ) を聞( き ) いて、お考( かんが ) へに成( な ) るほど大( おほき ) なものではないのです。然( さ ) うかと云( い ) つて、向( むか ) う岸( ぎし ) とさし向( むか ) つて聲( こゑ ) が屆( とゞ ) くほどは小( ちひ ) さくない。それぢや餘程( よほど ) 廣( ひろ ) いのか、と云( い ) ふのに、又( また ) 然( さ ) うでもない、ものの十四五分( ふん ) も歩行( ある ) いたら、容易( たやす ) く一周( ひとまは ) り出來( でき ) さうなんです。但( たゞ ) し十四五分( ふん ) で一周( ひとまはり ) と云( い ) つて、すぐに思( おも ) ふほど、狹( せま ) いのでもないのです。
と、恁( か ) う言( い ) ひます内( うち ) にも、其( そ ) の沼( ぬま ) が伸( の ) びたり縮( ちゞ ) んだり、すぼまつたり、擴( ひろ ) がつたり、動( うご ) いて居( ゐ ) るやうでせう。――居( ゐ ) ますか、結構( けつこう ) です――其( そ ) のつもりでお聞( き ) き下( くだ ) さい。
一體( いつたい ) 、水( みづ ) と云( い ) ふものは、一雫( ひとしづく ) の中( なか ) にも河童( かつぱ ) が一個( ひとつ ) 居( ゐ ) て住( す ) むと云( い ) ふ國( くに ) が有( あ ) りますくらゐ、氣心( きごころ ) の知( し ) れないものです。分( わ ) けて底( そこ ) 澄( ず ) んで少( すこ ) し白味( しろみ ) を帶( お ) びて、とろ/\と然( しか ) も岸( きし ) とすれ/″\に滿々( まん/\ ) と湛( たゝ ) へた古沼( ふるぬま ) ですもの。丁( ちやう ) ど、其( そ ) の日( ひ ) の空模樣( そらもやう ) 、雲( くも ) と同一( おなじ ) に淀( どんよ ) りとして、雲( くも ) の動( うご ) く方( はう ) へ、一所( いつしよ ) に動( うご ) いて、時々( とき/″\ ) 、てら/\と天( てん ) に薄日( うすび ) が映( さ ) すと、其( そ ) の光( ひかり ) を受( う ) けて、晃々( きら/\ ) と光( ひか ) るのが、沼( ぬま ) の面( おもて ) に眼( まなこ ) があつて、薄目( うすめ ) に白( しろ ) く人( ひと ) を窺( うかゞ ) ふやうでした。
此( これ ) では、其( そ ) の沼( ぬま ) が、何( なん ) だか不氣味( ぶきみ ) なやうですが、何( なに ) 、一寸( ちよつと ) の間( ま ) の事( こと ) で、――四時( じ ) 下( さが ) り、五時( じ ) 前( まへ ) と云( い ) ふ時刻( じこく ) ――暑( あつ ) い日( ひ ) で、大層( たいそう ) 疲( つか ) れて、汀( みぎは ) にぐつたりと成( な ) つて一息( ひといき ) 吐( つ ) いて居( ゐ ) る中( うち ) には、雲( くも ) が、なだらかに流( なが ) れて、薄( うす ) いけれども平( たひら ) に日( ひ ) を包( つゝ ) むと、沼( ぬま ) の水( みづ ) は靜( しづか ) に成( な ) つて、そして、少( すこ ) し薄暗( うすぐら ) い影( かげ ) が渡( わた ) りました。
風( かぜ ) はそよりともない。が、濡( ぬ ) れない袖( そで ) も何( なん ) となく冷( つめた ) いのです。
風情( ふぜい ) は一段( いちだん ) で、汀( みぎは ) には、所々( ところ/″\ ) 、丈( たけ ) の低( ひく ) い燕子花( かきつばた ) の、紫( むらさき ) の花( はな ) に交( まじ ) つて、あち此方( こち ) に又( また ) 一輪( りん ) づゝ、言交( いひか ) はしたやうに、白( しろ ) い花( はな ) が交( まじ ) つて咲( さ ) く……
あの中島( なかじま ) は、簇( むらが ) つた卯( う ) の花( はな ) で雪( ゆき ) を被( かつ ) いで居( ゐ ) るのです。岸( きし ) に、葉( は ) と花( はな ) の影( かげ ) の映( うつ ) る處( ところ ) は、松葉( まつば ) が流( なが ) れるやうに、ちら/\と水( みづ ) が搖( ゆ ) れます。小魚( こうを ) が泳( およ ) ぐのでせう。
差渡( さしわた ) し、池( いけ ) の最( もつと ) も廣( ひろ ) い、向( むか ) うの汀( みぎは ) に、こんもりと一本( ぽん ) の柳( やなぎ ) が茂( しげ ) つて、其( そ ) の緑( みどり ) の色( いろ ) を際立( きはだ ) てて、背後( うしろ ) に一叢( ひとむら ) の森( もり ) がある、中( なか ) へ横雲( よこぐも ) を白( しろ ) くたなびかせて、もう一叢( ひとむら ) 、一段( いちだん ) 高( たか ) く森( もり ) が見( み ) える。うしろは、遠里( とほざと ) の淡( あは ) い靄( もや ) を曳( ひ ) いた、なだらかな山( やま ) なんです。――柳( やなぎ ) の奧( おく ) に、葉( は ) を掛( か ) けて、小( ちひ ) さな葭簀張( よしずばり ) の茶店( ちやみせ ) が見( み ) えて、横( よこ ) が街道( かいだう ) 、すぐに水田( みづた ) で、水田( みづた ) のへりの流( ながれ ) にも、はら/\燕子花( かきつばた ) が咲( さ ) いて居( ゐ ) ます。此( こ ) の方( はう ) は、薄碧( うすあを ) い、眉毛( まゆげ ) のやうな遠山( とほやま ) でした。
唯( と ) 、沼( ぬま ) が呼吸( いき ) を吐( つ ) くやうに、柳( やなぎ ) の根( ね ) から森( もり ) の裾( すそ ) 、紫( むらさき ) の花( はな ) の上( うへ ) かけて、霞( かすみ ) の如( ごと ) き夕靄( ゆふもや ) がまはりへ一面( いちめん ) に白( しろ ) く渡( わた ) つて來( く ) ると、同( おな ) じ雲( くも ) が空( そら ) から捲( ま ) き下( おろ ) して、汀( みぎは ) に濃( こ ) く、梢( こずゑ ) に淡( あは ) く、中( なか ) ほどの枝( えだ ) を透( す ) かして靡( なび ) きました。
私( わたし ) の居( ゐ ) た、草( くさ ) にも、しつとりと其( そ ) の靄( もや ) が這( は ) ふやうでしたが、袖( そで ) には掛( かゝ ) らず、肩( かた ) にも卷( ま ) かず、目( め ) なんぞは水晶( すゐしやう ) を透( とほ ) して見( み ) るやうに透明( とうめい ) で。詰( つま ) り、上下( うへした ) が白( しろ ) く曇( くも ) つて、五六尺( しやく ) 水( みづ ) の上( うへ ) が、却( かへ ) つて透通( すきとほ ) る程( ほど ) なので……
あゝ、あの柳( やなぎ ) に、美( うつくし ) い虹( にじ ) が渡( わた ) る、と見( み ) ると、薄靄( うすもや ) に、中( なか ) が分( わか ) れて、三( みつ ) つに切( き ) れて、友染( いうぜん ) に、鹿( か ) の子( こ ) 絞( しぼり ) の菖蒲( あやめ ) を被( か ) けた、派手( はで ) に涼( すゞ ) しい裝( よそほひ ) の婦( をんな ) が三人( にん ) 。
白( しろ ) い手( て ) が、ちら/\と動( うご ) いた、と思( おも ) ふと、鉛( なまり ) を曳( ひ ) いた絲( いと ) が三條( みすぢ ) 、三處( みところ ) へ棹( さを ) が下( お ) りた。
(あゝ、鯉( こひ ) が居( ゐ ) る……)
一尺( しやく ) 、金鱗( きんりん ) を重( おも ) く輝( かゞや ) かして、水( みづ ) の上( うへ ) へ飜然( ひらり ) と飛( と ) ぶ。」
三
「それよりも、見事( みごと ) なのは、釣竿( つりざを ) の上下( あげおろし ) に、縺( もつ ) るゝ袂( たもと ) 、飜( ひるがへ ) る袖( そで ) で、翡翠( かはせみ ) が六( むつ ) つ、十二の翼( つばさ ) を飜( ひるがへ ) すやうなんです。
唯( と ) 、其( そ ) の白( しろ ) い手( て ) も見( み ) える、莞爾( につこり ) 笑( わら ) ふ面影( おもかげ ) さへ、俯向( うつむ ) くのも、仰( あふ ) ぐのも、手( て ) に手( て ) を重( かさ ) ねるのも其( そ ) の微笑( ほゝゑ ) む時( とき ) 、一人( ひとり ) の肩( かた ) をたゝくのも……莟( つぼみ ) がひら/\開( ひら ) くやうに見( み ) えながら、厚( あつ ) い硝子窓( がらすまど ) を隔( へだ ) てたやうに、まるつ切( きり ) 、聲( こゑ ) が……否( いや ) 、四邊( あたり ) は寂然( ひつそり ) して、ものの音( おと ) も聞( きこ ) えない。
向( むか ) つて左( ひだり ) の端( はし ) に居( ゐ ) た、中( なか ) でも小柄( こがら ) なのが下( おろ ) して居( ゐ ) る、棹( さを ) が滿月( まんげつ ) の如( ごと ) くに撓( しな ) つた、と思( おも ) ふと、上( うへ ) へ絞( しぼ ) つた絲( いと ) が眞直( まつすぐ ) に伸( の ) びて、するりと水( みづ ) の空( そら ) へ掛( かゝ ) つた鯉( こひ ) が――」
――理學士( りがくし ) は言掛( いひか ) けて、私( わたし ) の顏( かほ ) を視( み ) て、而( そ ) して四邊( あたり ) を見( み ) た。恁( か ) うした店( みせ ) の端近( はしぢか ) は、奧( おく ) より、二階( にかい ) より、却( かへ ) つて椅子( いす ) は閑( しづか ) であつた――
「鯉( こひ ) は、其( それ ) は鯉( こひ ) でせう。が、玉( たま ) のやうな眞白( まつしろ ) な、あの森( もり ) を背景( はいけい ) にして、宙( ちう ) に浮( う ) いたのが、すつと合( あは ) せた白脛( しろはぎ ) を流( なが ) す……凡( およ ) そ人形( にんぎやう ) ぐらゐな白身( はくしん ) の女子( ぢよし ) の姿( すがた ) です。釣( つ ) られたのぢやありません。釣針( つりばり ) をね、恁( か ) う、兩手( りやうて ) で抱( だ ) いた形( かたち ) 。
御覽( ごらん ) なさい。釣濟( つりす ) ました當( たう ) の美人( びじん ) が、釣棹( つりざを ) を突離( つきはな ) して、柳( やなぎ ) の根( ね ) へ靄( もや ) を枕( まくら ) に横倒( よこだふ ) しに成( な ) つたが疾( はや ) いか、起( おき ) るが否( いな ) や、三人( にん ) ともに手鞠( てまり ) のやうに衝( つ ) と遁( に ) げた。が、遁( に ) げるのが、其( そ ) の靄( もや ) を踏( ふ ) むのです。鈍( どん ) な、はずみの無( な ) い、崩( くづ ) れる綿( わた ) を踏越( ふみこ ) し踏越( ふみこ ) しするやうに、褄( つま ) が縺( もつ ) れる、裳( もすそ ) が亂( みだ ) れる……其( それ ) が、やゝ少時( しばらく ) の間( あひだ ) 見( み ) えました。
其( そ ) の後( あと ) から、茶店( ちやみせ ) の婆( ばあ ) さんが手( て ) を泳( およ ) がせて、此( これ ) も走( はし ) る……
一體( いつたい ) あの邊( へん ) には、自動車( じどうしや ) か何( なに ) かで、美人( びじん ) が一日( いちにち ) がけと云( い ) ふ遊山宿( ゆさんやど ) 、乃至( ないし ) 、温泉( をんせん ) のやうなものでも有( あ ) るのか、何( ど ) うか、其( そ ) の後( ご ) まだ尋( たづ ) ねて見( み ) ません。其( それ ) が有( あ ) ればですが、それにした處( ところ ) で、近所( きんじよ ) の遊山宿( ゆさんやど ) へ來( き ) て居( ゐ ) たのが、此( こ ) の沼( ぬま ) へ來( き ) て釣( つり ) をしたのか、それとも、何( なん ) の國( くに ) 、何( なん ) の里( さと ) 、何( なん ) の池( いけ ) で釣( つ ) つたのが、一種( いつしゆ ) の蜃氣樓( しんきろう ) の如( ごと ) き作用( さよう ) で此處( こゝ ) へ映( うつ ) つたのかも分( わか ) りません。餘( あま ) り靜( しづか ) な、もの音( おと ) のしない樣子( やうす ) が、夢( ゆめ ) と云( い ) ふよりか其( そ ) の海市( かいし ) に似( に ) て居( ゐ ) ました。
沼( ぬま ) の色( いろ ) は、やゝ蒼味( あをみ ) を帶( お ) びた。
けれども、其( そ ) の茶店( ちやみせ ) の婆( ばあ ) さんは正( しやう ) のものです。現( げん ) に、私( わたし ) が通( とほ ) り掛( がか ) りに沼( ぬま ) の汀( みぎは ) の祠( ほこら ) をさして、(あれは何樣( なにさま ) の社( やしろ ) でせう。)と尋( たづ ) ねた時( とき ) に、(賽( さい ) の神樣( かみさま ) だ。)と云( い ) つて教( をし ) へたものです。今( いま ) 其( そ ) の祠( ほこら ) は沼( ぬま ) に向( むか ) つて草( くさ ) に憩( いこ ) つた背後( うしろ ) に、なぞへに道芝( みちしば ) の小高( こだか ) く成( な ) つた小( ちひ ) さな森( もり ) の前( まへ ) にある。鳥居( とりゐ ) が一基( いつき ) 、其( そ ) の傍( そば ) に大( おほき ) な棕櫚( しゆろ ) の樹( き ) が、五株( かぶ ) まで、一列( れつ ) に並( なら ) んで、蓬々( おどろ/\ ) とした形( かたち ) で居( ゐ ) る。……さあ、此( これ ) も邸( やしき ) あとと思( おも ) はれる一條( ひとつ ) で、其( そ ) の小高( こだか ) いのは、大( おほ ) きな築山( つきやま ) だつたかも知( し ) れません。
處( ところ ) で、一錢( せん ) たりとも茶代( ちやだい ) を置( お ) いてなんぞ、憩( やす ) む餘裕( よゆう ) の無( な ) かつた私( わたし ) ですが、……然( さ ) うやつて賣藥( ばいやく ) の行商( ぎやうしやう ) に歩行( ある ) きます時分( じぶん ) は、世( よ ) に無( な ) い兩親( りやうしん ) へせめてもの供養( くやう ) のため、と思( おも ) つて、殊勝( しゆしよう ) らしく聞( きこ ) えて如何( いかゞ ) ですけれども、道中( だうちう ) 、宮( みや ) 、社( やしろ ) 、祠( ほこら ) のある處( ところ ) へは、屹( きつ ) と持合( もちあは ) せた藥( くすり ) の中( なか ) の、何種( なにしゆ ) のか、一包( ひとつゝみ ) づゝを備( そな ) へました。――詣( まう ) づる人( ひと ) があつて神佛( しんぶつ ) から授( さづ ) かつたものと思( おも ) へば、屹( きつ ) と病氣( びやうき ) が治( なほ ) りませう。私( わたし ) も幸福( かうふく ) なんです。
丁度( ちやうど ) 私( わたし ) の居( ゐ ) た汀( みぎは ) に、朽木( くちき ) のやうに成( な ) つて、沼( ぬま ) に沈( しづ ) んで、裂目( さけめ ) に燕子花( かきつばた ) の影( かげ ) が映( さ ) し、破( やぶ ) れた底( そこ ) を中空( なかぞら ) の雲( くも ) の往來( ゆきき ) する小舟( こぶね ) の形( かたち ) が見( み ) えました。
其( それ ) を見棄( みす ) てて、御堂( おだう ) に向( むか ) つて起( た ) ちました。
談話( はなし ) の要領( えうりやう ) をお急( いそ ) ぎでせう。
早( はや ) く申( まを ) しませう。……其( そ ) の狐格子( きつねがうし ) を開( あ ) けますとね、何( ど ) うです……
(まあ、此( これ ) は珍( めづら ) しい。)
几帳( きちやう ) とも、垂幕( さげまく ) とも言( い ) ひたいのに、然( さ ) うではない、萌黄( もえぎ ) と青( あを ) と段染( だんだら ) に成( な ) つた綸子( りんず ) か何( なん ) ぞ、唐繪( からゑ ) の浮模樣( うきもやう ) を織込( おりこ ) んだのが窓帷( カアテン ) と云( い ) つた工合( ぐあひ ) に、格天井( がうてんじやう ) から床( ゆか ) へ引( ひ ) いて蔽( おほ ) うてある。此( これ ) に蔽( おほ ) はれて、其( そ ) の中( なか ) は見( み ) えません。
此( これ ) が、もつと奧( おく ) へ詰( つ ) めて張( は ) つてあれば、絹一重( きぬひとへ ) の裡( うち ) は、すぐに、御廚子( みづし ) 、神棚( かみだな ) と云( い ) ふのでせうから、誓( ちか ) つて、私( わたし ) は、覗( のぞ ) くのではなかつたのです。が、堂( だう ) の内( うち ) の、寧( むし ) ろ格子( かうし ) へ寄( よ ) つた方( はう ) に掛( かゝ ) つて居( ゐ ) ました。
何心( なにごころ ) なく、端( はし ) を、キリ/\と、手許( てもと ) へ、絞( しぼ ) ると、蜘蛛( くも ) の巣( す ) のかはりに幻( まぼろし ) の綾( あや ) を織( お ) つて、脈々( みやく/\ ) として、顏( かほ ) を撫( な ) でたのは、薔薇( ばら ) か菫( すみれ ) かと思( おも ) ふ、いや、それよりも、唯今( たゞいま ) 思( おも ) へば、先刻( さつき ) の花( はな ) の匂( にほひ ) です、何( なん ) とも言( い ) へない、甘( あま ) い、媚( なまめ ) いた薫( かをり ) が、芬( ぷん ) と薫( かを ) つた。」
――學士( がくし ) は手巾( ハンケチ ) で、口( くち ) を蔽( おほ ) うて、一寸( ちよつと ) 額( ひたひ ) を壓( おさ ) へた――
「――其處( そこ ) が閨( ねや ) で、洋式( やうしき ) の寢臺( ねだい ) があります。二人寢( ふたりね ) の寛( ゆつた ) りとした立派( りつぱ ) なもので、一面( いちめん ) に、光( ひかり ) を持( も ) つた、滑( なめ ) らかに艶々( つや/\ ) した、絖( ぬめ ) か、羽二重( はぶたへ ) か、と思( おも ) ふ淡( あは ) い朱鷺色( ときいろ ) なのを敷詰( しきつ ) めた、聊( いさゝ ) か古( ふる ) びては見( み ) えました。が、それは空( そら ) が曇( くも ) つて居( ゐ ) た所爲( せゐ ) でせう。同( おな ) じ色( いろ ) の薄掻卷( うすかいまき ) を掛( か ) けたのが、すんなりとした寢姿( ねすがた ) の、少( すこ ) し肉附( にくづき ) を肥( よ ) くして見( み ) せるくらゐ。膚( はだ ) を蔽( おほ ) うたとも見( み ) えないで、美( うつくし ) い女( をんな ) の顏( かほ ) がはらはらと黒髮( くろかみ ) を、矢張( やつぱ ) り、同( おな ) じ絹( きぬ ) の枕( まくら ) にひつたりと着( つ ) けて、此方( こちら ) むきに少( すこ ) し仰向( あをむ ) けに成( な ) つて寢( ね ) て居( ゐ ) ます。のですが、其( それ ) が、黒目勝( くろめがち ) な雙( さう ) の瞳( ひとみ ) をぱつちりと開( あ ) けて居( ゐ ) る……此( こ ) の目( め ) に、此處( こゝ ) で殺( ころ ) されるのだらう、と餘( あま ) りの事( こと ) に然( さ ) う思( おも ) ひましたから、此方( こつち ) も熟( じつ ) と凝視( みつめ ) ました。
少( すこ ) し高過( たかす ) ぎるくらゐに鼻筋( はなすぢ ) がツンとして、彫刻( てうこく ) か、練( ねり ) ものか、眉( まゆ ) 、口許( くちもと ) 、はつきりした輪郭( りんくわく ) と云( い ) ひ、第一( だいいち ) 櫻色( さくらいろ ) の、あの、色艶( いろつや ) が、――其( それ ) が――今( いま ) の、あの電車( でんしや ) の婦人( ふじん ) に瓜二( うりふた ) つと言( い ) つても可( い ) い。
時( とき ) に、毛( け ) 一筋( ひとすぢ ) でも動( うご ) いたら、其( そ ) の、枕( まくら ) 、蒲團( ふとん ) 、掻卷( かいまき ) の朱鷺色( ときいろ ) にも紛( まが ) ふ莟( つぼみ ) とも云( い ) つた顏( かほ ) の女( をんな ) は、芳香( はうかう ) を放( はな ) つて、乳房( ちぶさ ) から蕊( しべ ) を湧( わ ) かせて、爛漫( らんまん ) として咲( さ ) くだらうと思( おも ) はれた。」
四
「私( わたし ) の目( め ) か眩( くら ) んだんでせうか、婦( をんな ) は瞬( またゝき ) をしません。五分( ふん ) か一時( いつとき ) と、此方( こつち ) が呼吸( いき ) をも詰( つ ) めて見( み ) ます間( あひだ ) ――で、餘( あま ) り調( そろ ) つた顏容( かほだち ) といひ、果( はた ) して此( これ ) は白像彩塑( はくざうさいそ ) で、何( ど ) う云( い ) ふ事( こと ) か、仔細( しさい ) あつて、此( こ ) の廟( べう ) の本尊( ほんぞん ) なのであらう、と思( おも ) つたのです。
床( ゆか ) の下( した ) ……板縁( いたえん ) の裏( うら ) の處( ところ ) で、がさ/\がさ/\と音( おと ) が發出( しだ ) した……彼方( あつち ) へ、此方( こつち ) へ、鼠( ねずみ ) が、ものでも引摺( ひきず ) るやうで、床( ゆか ) へ響( ひゞ ) く、と其( そ ) の音( おと ) が、變( へん ) に、恁( か ) う上( うへ ) に立( た ) つてる私( わたし ) の足( あし ) の裏( うら ) を擽( くすぐ ) ると云( い ) つた形( かたち ) で、むづ痒( がゆ ) くつて堪( たま ) らないので、もさ/\身體( からだ ) を搖( ゆす ) りました。――本尊( ほんぞん ) は、まだ瞬( またゝき ) もしなかつた。――其( そ ) の内( うち ) に、右( みぎ ) の音( おと ) が、壁( かべ ) でも攀( よ ) ぢるか、這上( はひあが ) つたらしく思( おも ) ふと、寢臺( ねだい ) の脚( あし ) の片隅( かたすみ ) に羽目( はめ ) の破( やぶ ) れた處( ところ ) がある。其( そ ) の透間( すきま ) へ鼬( いたち ) がちよろりと覗( のぞ ) くやうに、茶色( ちやいろ ) の偏平( ひらつた ) い顏( つら ) を出( だ ) したと窺( うかゞ ) はれるのが、もぞり、がさりと少( すこ ) しづゝ入( はひ ) つて、ばさ/\と出( で ) る、と大( おほ ) きさやがて三俵法師( さんだらぼふし ) 、形( かたち ) も似( に ) たもの、毛( け ) だらけの凝團( かたまり ) 、足( あし ) も、顏( かほ ) も有( あ ) るのぢやない。成程( なるほど ) 、鼠( ねずみ ) でも中( なか ) に潛( もぐ ) つて居( ゐ ) るのでせう。
其奴( そいつ ) が、がさ/\と寢臺( ねだい ) の下( した ) へ入( はひ ) つて、床( ゆか ) の上( うへ ) をずる/\と引摺( ひきず ) つたと見( み ) ると、婦( をんな ) が掻卷( かいまき ) から二( に ) の腕( うで ) を白( しろ ) く拔( ぬ ) いて、私( わたし ) の居( ゐ ) る方( はう ) へぐたりと投( な ) げた。寢亂( ねみだ ) れて乳( ちゝ ) も見( み ) える。其( それ ) を片手( かたて ) で祕( かく ) したけれども、足( あし ) のあたりを震( ふる ) はすと、あゝ、と云( い ) つて其( そ ) の手( て ) も兩方( りやうはう ) 、空( くう ) を掴( つか ) むと裙( すそ ) を上( あ ) げて、弓形( ゆみなり ) に身( み ) を反( そ ) らして、掻卷( かいまき ) を蹴( け ) て、轉( ころ ) がるやうに衾( ふすま ) を拔( ぬ ) けた。……
私( わたし ) は飛出( とびだ ) した……
壇( だん ) を落( お ) ちるやうに下( お ) りた時( とき ) 、黒( くろ ) い狐格子( きつねがうし ) を背後( うしろ ) にして、婦( をんな ) は斜違( はすつかひ ) に其處( そこ ) に立( た ) つたが、呀( あ ) 、足許( あしもと ) に、早( は ) やあの毛( け ) むくぢやらの三俵法師( さんだらぼふし ) だ。
白( しろ ) い踵( くびす ) を揚( あ ) げました、階段( かいだん ) を辷( すべ ) り下( お ) りる、と、後( あと ) から、ころ/\と轉( ころ ) げて附着( くツつ ) く。さあ、それからは、宛然( さながら ) 人魂( ひとだま ) の憑( つき ) ものがしたやうに、毛( け ) が赫( かつ ) と赤( あか ) く成( な ) つて、草( くさ ) の中( なか ) を彼方( あつち ) へ、此方( こつち ) へ、たゞ、伊達卷( だてまき ) で身( み ) についたばかりのしどけない媚( なまめ ) かしい寢着( ねまき ) の婦( をんな ) を追※( おひまは ) [1] 1 す。婦( をんな ) はあとびつしやりをする、脊筋( せすぢ ) を捩( よぢ ) らす。三俵法師( さんだらぼふし ) は、裳( もすそ ) にまつはる、踵( かゝと ) を嘗( な ) める、刎上( はねあが ) る、身震( みぶるひ ) する。
やがて、沼( ぬま ) の縁( ふち ) へ追迫( おひせま ) られる、と足( あし ) の甲( かふ ) へ這上( はひあが ) る三俵法師( さんだらぼふし ) に、わな/\身悶( みもだえ ) する白( しろ ) い足( あし ) が、あの、釣竿( つりざを ) を持( も ) つた三人( にん ) の手( て ) のやうに、ちら/\と宙( ちう ) に浮( う ) いたが、するりと音( おと ) して、帶( おび ) が辷( すべ ) ると、衣( き ) ものが脱( ぬ ) げて草( くさ ) に落( お ) ちた。
「沈( しづ ) んだ船( ふね ) ――」と、思( おも ) はず私( わたし ) が聲( こゑ ) を掛( か ) けた。隙( ひま ) も無( な ) しに、陰氣( いんき ) な水音( みづおと ) が、だぶん、と響( ひゞ ) いた……
しかし、綺麗( きれい ) に泳( およ ) いで行( ゆ ) く。美( うつくし ) い肉( にく ) の脊筋( せすぢ ) を掛( か ) けて左右( さいう ) へ開( ひら ) く水( みづ ) の姿( すがた ) は、輕( かる ) い羅( うすもの ) を捌( さば ) くやうです。其( そ ) の膚( はだ ) の白( しろ ) い事( こと ) 、あの合歡花( ねむのはな ) をぼかした色( いろ ) なのは、豫( かね ) て此( こ ) の時( とき ) のために用意( ようい ) されたのかと思( おも ) ふほどでした。
動止( うごきや ) んだ赤茶( あかちや ) けた三俵法師( さんだらぼふし ) が、私( わたし ) の目( め ) の前( まへ ) に、惰力( だりよく ) で、毛筋( けすぢ ) を、ざわ/\とざわつかせて、うツぷうツぷ喘( あへ ) いで居( ゐ ) る。
見( み ) ると驚( おどろ ) いた。ものは棕櫚( しゆろ ) の毛( け ) を引束( ひツつか ) ねたに相違( さうゐ ) はありません。が、人( ひと ) が寄( よ ) る途端( とたん ) に、ぱちぱち豆( まめ ) を燒( や ) く音( おと ) がして、ばら/\と飛着( とびつ ) いた、棕櫚( しゆろ ) の赤( あか ) いのは、幾千萬( いくせんまん ) とも數( かず ) の知( し ) れない蚤( のみ ) の集團( かたまり ) であつたのです。
早( は ) や、兩脚( りやうあし ) が、むづ/\、脊筋( せすぢ ) がぴち/\、頸首( えりくび ) へぴちんと來( く ) る、私( わたし ) は七顛八倒( しつてんはつたう ) して身體( からだ ) を振( ふ ) つて振飛( ふりと ) ばした。
唯( と ) 、何( なん ) と、其( そ ) の棕櫚( しゆろ ) の毛( け ) の蚤( のみ ) の巣( す ) の處( ところ ) に、一人( ひとり ) 、頭( づ ) の小( ちひ ) さい、眦( めじり ) と頬( ほゝ ) の垂下( たれさが ) つた、青膨( あをぶく ) れの、土袋( どぶつ ) で、肥張( でつぷり ) な五十( ごじふ ) 恰好( かつかう ) の、頤鬚( あごひげ ) を生( はや ) した、漢( をとこ ) が立( た ) つて居( ゐ ) るぢやありませんか。何( なに ) ものとも知( し ) れない。越中褌( ゑつちうふんどし ) と云( い ) ふ……あいつ一( ひと ) つで、眞裸( まつぱだか ) で汚( きたな ) い尻( けつ ) です。
婦( をんな ) は沼( ぬま ) の洲( す ) へ泳( およ ) ぎ着( つ ) いて、卯( う ) の花( はな ) の茂( しげり ) にかくれました。
が、其( そ ) の姿( すがた ) が、水( みづ ) に流( なが ) れて、柳( やなぎ ) を翠( みどり ) の姿見( すがたみ ) にして、ぽつと映( うつ ) つたやうに、人( ひと ) の影( かげ ) らしいものが、水( みづ ) の向( むか ) うに、岸( きし ) の其( そ ) の柳( やなぎ ) の根( ね ) に薄墨色( うすずみいろ ) に立( た ) つて居( ゐ ) る……或( あるひ ) は又( また ) ……此處( こゝ ) の土袋( どぶつ ) と同一( おなじ ) やうな男( をとこ ) が、其處( そこ ) へも出( で ) て來( き ) て、白身( はくしん ) の婦人( をんな ) を見( み ) て居( ゐ ) るのかも知( し ) れません。
私( わたし ) も其( そ ) の一人( ひとり ) でせうね……
(や、待( ま ) てい。)
青膨( あをぶく ) れが、痰( たん ) の搦( から ) んだ、ぶやけた聲( こゑ ) して、早( は ) や行掛( ゆきかゝ ) つた私( わたし ) を留( と ) めた……
(見( み ) て貰( もれ ) えたいものがあるで、最( も ) う直( ぢき ) ぢやぞ。)と、首( くび ) をぐたりと遣( や ) りながら、横柄( わうへい ) に言( い ) ふ。……何( なん ) と、其( そ ) の兩足( りやうあし ) から、下腹( したばら ) へ掛( か ) けて、棕櫚( しゆろ ) の毛( け ) の蚤( のみ ) が、うよ/\ぞろ/\……赤蟻( あかあり ) の列( れつ ) を造( つく ) つてる……私( わたし ) は立窘( たちすく ) みました。
ひら/\、と夕空( ゆふぞら ) の雲( くも ) を泳( およ ) ぐやうに柳( やなぎ ) の根( ね ) から舞上( まひあが ) つた、あゝ、其( それ ) は五位鷺( ごゐさぎ ) です。中島( なかじま ) の上( うへ ) へ舞上( まひあが ) つた、と見( み ) ると輪( わ ) を掛( か ) けて颯( さつ ) と落( おと ) した。
(ひい。)と引( ひ ) く婦( をんな ) の聲( こゑ ) 。鷺( さぎ ) は舞上( まひあが ) りました。翼( つばさ ) の風( かぜ ) に、卯( う ) の花( はな ) のさら/\と亂( みだ ) るゝのが、婦( をんな ) が手足( てあし ) を畝( うね ) らして、身( み ) を※( もが ) [2] 2 くに宛然( さながら ) である。
今( いま ) 考( かんが ) へると、それが矢張( やつぱ ) り、あの先刻( さつき ) の樹( き ) だつたかも知( し ) れません。同( おな ) じ薫( かをり ) が風( かぜ ) のやうに吹亂( ふきみだ ) れた花( はな ) の中( なか ) へ、雪( ゆき ) の姿( すがた ) が素直( まつすぐ ) に立( た ) つた。が、滑( なめら ) かな胸( むね ) の衝( つ ) と張( は ) る乳( ちゝ ) の下( した ) に、星( ほし ) の血( ち ) なるが如( ごと ) き一雫( ひとしづく ) の鮮紅( からくれなゐ ) 。絲( いと ) を亂( みだ ) して、卯( う ) の花( はな ) が眞赤( まつか ) に散( ち ) る、と其( そ ) の淡紅( うすべに ) の波( なみ ) の中( なか ) へ、白( しろ ) く眞倒( まつさかさま ) に成( な ) つて沼( ぬま ) に沈( しづ ) んだ。汀( みぎは ) を廣( ひろ ) くするらしい寂( しづ ) かな水( みづ ) の輪( わ ) が浮( う ) いて、血汐( ちしほ ) の綿( わた ) がすら/\と碧( みどり ) を曳( ひ ) いて漾( たゞよ ) ひ流( なが ) れる……
(あれを見( み ) い、血( ち ) の形( かたち ) が字( じ ) ぢやらうが、何( なん ) と讀( よ ) むかい。)
――私( わたし ) が息( いき ) を切( き ) つて、頭( かぶり ) を掉( ふ ) ると、
(分( わか ) らんかい、白痴( たはけ ) めが。)と、ドンと胸( むね ) を突( つ ) いて、突倒( つきたふ ) す。重( おも ) い力( ちから ) は、磐石( ばんじやく ) であつた。
(又( また ) ……遣直( やりなほ ) しぢや。)と呟( つぶや ) きながら、其( そ ) の蚤( のみ ) の巣( す ) をぶら下( さ ) げると、私( わたし ) が茫然( ばうぜん ) とした間( あひだ ) に、のそのそ、と越中褌( ゑつちうふんどし ) の灸( きう ) のあとの有( あ ) る尻( しり ) を見( み ) せて、そして、やがて、及腰( およびごし ) の祠( ほこら ) の狐格子( きつねがうし ) を覗( のぞ ) くのが見( み ) えた。
(奧( おく ) さんや、奧( おく ) さんや――蚤( のみ ) が、蚤( のみ ) が――)
と腹( はら ) をだぶ/\、身悶( みもだ ) えをしつゝ、後退( あとじさ ) りに成( な ) つた。唯( と ) 、どしん、と尻餅( しりもち ) をついた。が、其( そ ) の頭( あたま ) へ、棕櫚( しゆろ ) の毛( け ) をずぼりと被( かぶ ) る、と梟( ふくろふ ) が化( ば ) けたやうな形( かたち ) に成( な ) つて、其( そ ) のまゝ、べた/\と草( くさ ) を這( は ) つて、縁( えん ) の下( した ) へ這込( はひこ ) んだ。――
蝙蝠傘( かうもりがさ ) を杖( つゑ ) にして、私( わたし ) がひよろ/\として立去( たちさ ) る時( とき ) 、沼( ぬま ) は暗( くら ) うございました。そして生( なま ) ぬるい雨( あめ ) が降出( ふりだ ) した……
(奧( おく ) さんや、奧( おく ) さんや。)
と云( い ) つたが、其( そ ) の土袋( どぶつ ) の細君( さいくん ) ださうです。土地( とち ) の豪農( がうのう ) 何某( なにがし ) が、内證( ないしよう ) の逼迫( ひつぱく ) した華族( くわぞく ) の令孃( れいぢやう ) を金子( かね ) にかへて娶( めと ) つたと言( い ) ひます。御殿( ごてん ) づくりでかしづいた、が、其( そ ) の姫君( ひめぎみ ) は可恐( おそろし ) い蚤( のみ ) 嫌( ぎら ) ひで、唯( たゞ ) 一匹( ぴき ) にも、夜( よる ) も晝( ひる ) も悲鳴( ひめい ) を上( あ ) げる。其( そ ) の悲( かな ) しさに、別室( べつしつ ) の閨( ねや ) を造( つく ) つて防( ふせ ) いだけれども、防( ふせ ) ぎ切( き ) れない。で、果( はて ) は亭主( ていしゆ ) が、蚤( のみ ) を除( よ ) けるための蚤( のみ ) の巣( す ) に成( な ) つて、棕櫚( しゆろ ) の毛( け ) を全身( ぜんしん ) に纏( まと ) つて、素裸( すつぱだか ) で、寢室( しんしつ ) の縁( えん ) の下( した ) へ潛( もぐ ) り潛( もぐ ) り、一夏( ひとなつ ) のうちに狂死( くるひじに ) をした。――
(まだ、迷( まよ ) つて居( ゐ ) さつしやるかなう、二人( ふたり ) とも――旅( たび ) の人( ひと ) がの、あの忘( わす ) れ沼( ぬま ) では、同( おな ) じ事( こと ) を度々( たび/\ ) 見( み ) ます。)
旅籠屋( はたごや ) での談話( はなし ) であつた。」
工學士( こうがくし ) は附( つ ) けたして、
「……祠( ほこら ) の其( そ ) の縁( えん ) の下( した ) を見( み ) ましたがね、……御存( ごぞん ) じですか……異類( いるゐ ) 異形( いぎやう ) な石( いし ) がね。」
日( ひ ) を經( へ ) て工學士( こうがくし ) から音信( おとづれ ) して、あれは、乳香( にうかう ) の樹( き ) であらうと言( い ) ふ。
1 [1] 「※」の部分はJIS外漢字です。第4水準2-12-11
2 [2] 「※」の部分はJIS外漢字です。第3水準1-92-36
底本:「鏡花全集 巻十六」岩波書店
1942(昭和17)年4月20日第1刷発行
1987(昭和62)年12月3日第3刷発行
入力:馬野哲一
校正:鈴木厚司
ファイル作成:鈴木厚司
2000年12月13日公開
2001年10月26日修正
青空文庫作成ファイル:このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
本文中の/\は二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)。
濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」。
本文中の※は、底本ではJIS外字が使われている。