おらが春

Ora ga haru

小林一茶 Kobayashi Issa

是爲白井一之老人所藏、小林一茶翁手書之俳諧巻、可愛玩者昔者鄭板橋、手書其集、鏤而公於世、翁之集亦己梓、可謂板橋以後第一人也、書之還之

戊寅二月菱陀生

世々の變風元禄に至りて正雅やゝ定まりしよりこのかた、諸家の風調おの/\その得失によりて風姿極りなしといへども、かの向上の一路は踏たがふ事なく、ひばりのくちさかしく、蚯蚓の鈍くおかしげなる、又は蓬の直よかに、蕀のくねれるも、みな自然の風骨を具して、しかも正雅にもとらざるは、天の妙といふべし。其一妙を得たるしなぬの一茶、一期の風雅言行ともに洒落にして、焔王も腮をとき、獄卒も臍をかゝゆべし。しかはあれど、毛頭れいの向上の本意を失はず、實に近世獨歩の俳道人とせむか。こたび同國の一之、家に傳へし坊が遺稿をその儘上木して、追慕のこころざしを盡す。予も亦舊知己をわすれず、坊が命終の年、柏原の舊里を訪ひて往事をかたるに、あるひは泣、あるひはわらひてわかれぬ。其俤まぼろしに見へて、扨こそこの集の序者にたてるも、これ又因縁によれるべらし。

嘉永壬子春涅槃日
東都瓢隱居逸淵

おらが春

昔たんごの國普甲寺といふ所に、深く淨土を願ふ上人ありけり。としの始は世間祝ひ事してざゞめけば、我もせん迚、大卅日の夜、ひとりつかふ小法師に手紙したゝめ渡して、翌の曉にしか%\せよと、きといひをしへて、本堂へとまりにやりぬ。小法師は元日の旦、いまだ隅々は小闇きに、初鳥の聲とおなじくがばと起て、教へのごとく表門を丁々と敲けば、内よりいづこよりと問ふ時、西方彌陀佛より年始の使僧に候と答ふるよりはやく、上人裸足にておどり出て、門の扉を左右へさつと開て、小法師を上坐に稱して、きのふの手紙をとりて、うや/\しくいたゞきて讀でいはく、其世界は衆苦充滿に候間はやく吾國に來たるべし、聖衆出むかひしてまち入候とよみ終りて、おゝ/\と泣れけるとかや。此上人みづから工み拵へたる悲しみに、みづからなげきつゝ、初春の淨衣を絞りて、したゝる泪を見て祝ふとは、物に狂ふさまながら、俗人に對して無情を演るを禮とすると聞からに、佛門においては、いはひの骨張なるべけれ。それとはいさゝか替りて、おのれらは俗塵に埋れて世渡る境界ながら、鶴龜にたぐへての祝盡しも、厄拂ひの口上めきてそら%\しく思ふからに、から風の吹けばとぶ屑家は、くづ屋のあるべきやうに、門松立てず、煤はかず、雪の山路の曲り形りに、ことしの春もあなた任せになんむかへける

目出度さもちう位也おらが春一茶

こぞの五月生れたる娘に一人前の雜煮膳を居へて

這へ笑へ二ツになるぞけさからは

文政二年正月一日
とし男つとむべき僕といふものもあらざれば

名代にわか水浴る烏かな一茶

水江春色

すつぽんも時や作らん春の月ゝ
山の月花盗を1てらし給ふゝ

善光寺堂前

灰猫のやうな柳もお花哉ゝ
さくら/\と唄はれし老木哉ゝ
櫻へと見えてじん%\端折哉ゝ

初午

花の世を無官の狐鳴にけりゝ
かくれ家や猫にもすへる二日灸ゝ
葎からあんな胡蝶の生れけりゝ

上野遠望

白壁の誹れながらかすみけりゝ
苗代は菴のかざりに青みけりゝ
花の陰あかの他人はなかりけりゝ

二月十五日

小うるさい花が咲とて寐釋迦かなゝ
み佛や寐ておはしても花と錢ゝ
猫の子や秤にかゝりつゝじやれる一茶

玉川

さらし布霞の足しに添(に)けりゝ

妙裏寺のあこ法師たか丸とて、ことし十一に成りけるが、三月七日の天うら/\とかすめるにめでゝ、くはんりうといふ、太くたくましき荒法師を供して、荒井坂といふ所にまかりて、芹薺など摘みて遊ぶ折から、飯綱おろしの雪解水黒けぶり立てゝ、動々と鳴りわたりて押し來たりしに、いかゞしたりけん、橋をふみはづして、だふりと落たり。や、あれ觀了たのむ/\と呼はりて、爰に頭出づると見れば、かしこに手を出しつゝ、たちまち其聲も蚊のなくやうに遠ざかると見るを、此世の名殘として、いたましいかな、逆巻く波にまきこまれて、かげも容も見へざりけり。あはやと村の人々打群りて、炬をかゝげてあちこち捜しけるに、一里ばかり川下の岩にはさまりてありけるをとり上て、さま%\介抱しけるに、むなしき袂より、蕗の薹三ツ四ツこぼれ出たるを見る(に)つけても、いつものごとくいそ/\かへりて、家内へのみやげのれうにとりしものならんと思ひやられて、鬼をひしぐ山人も皆々袖をぞ絞りける。とみに駕にのせて、初夜過ぐるころ寺にかき入れぬ。ちゝ母は今やおそしとかけ寄りて、一目見るよりよゝ/\と人目も耻ず大聲に泣ころびぬ。日ごろ人に無常をすゝむる境界も、其身に成りては、さすが恩愛のきづなに心のむすび目ほどけぬはことはりなりけり。旦には笑ひはやして門出したるを、夕には物いはぬ屍と成りてもどる、目もあてら(れ)ぬありさまにぞありける、しかるに九日野送なれば、おのれも棺の供につらなりぬ。

思ひきや下萌いそぐ若草を
野邊のけぶりになして見んとは一茶

長々の月日雪の下にしのびたる蕗、蒲公(英)のたぐひ、やをら春吹風の時を得て、雪間/\をうれしげに首さしのべて、此世の明り見るやいなや、ほつりとつみ切らるゝ草の身になりなば、鷹丸法師の親のごとくかなしまざらめや、草木國土悉皆成佛とかや、かれらも佛生得たるものになん。

獨坐

おれとしてにらみくらする蛙哉一茶
梅の花爰を盗めとさす月かゝ
松島の小隅は暮て鳴く雲雀ゝ
大猫の尻尾でなぶる小蝶かなゝ

三月十七日ほしな詣

花ちるやとある木陰も小開帳ゝ
通りぬけせよと垣から柳かなゝ
餅腹をこなしがてらのつぎ穂哉ゝ

正月元日の夜の丑刻より始りて、打つゞき八日目/\に、天に音樂あると云ふこと、誰といふともなく云觸らして、いつ/\の夜そんぜうそこにてしかときゝしと人もあり、又吹風の迹なし事とけなすものもあり。其噂東西南北にはつと弘りぬ。つら/\思ふに、全く有りと信じがたく、又ひたすらなしとかたつけがたし、天地ふしぎのなせるわざにて、いにしへ甘露を降らせ、乙女の天下りて舞しためしなきにしもあらず、今此天下泰平に感じて、天上の人も腹鼓うち、俳優してたのしむならめ、それを聞得ざるは其身の罪の程によるべし。何にまれあしからぬとりさたなりと、三月十九日夕過より、誰かれ我菴につどひつゝ、おの/\息をこらして今や/\と待うち、夜はしらしら明て、窓の梅の木に一聲有り、

今の世も鳥はほけ經鳴にけりゝ一茶
鶯の馳走に掃しかきねかなゝ
馬までもはたご泊や春の雨ゝ
雀の子そこのけ/\御馬が通るゝ
かすむ日やしんかんとして大座敷ゝ
横乘の馬のつゞくや夕雲雀ゝ

京島原

入口のあいそになびく柳かなゝ
藪村やまぐれあたりも梅の花ゝ
正月や夜はよる迚うめの月ゝ
茶屋むらの一夜にわきし櫻かなゝ
翌/\と待たるゝうちが櫻かな白飛
なぐさみにわらを打也夏の月一茶

卯月八日

長の日をかはく間もなし誕生佛ゝ
五月雨も中休みかよ今日はゝ

病後

ちりの身とともにふは/\紙帳哉ゝ
五月雨も仕廻のはらり/\かなゝ
小座頭の天窓にかぶる扇かなゝ
竹の子と品よく遊べ雀の子ゝ
入梅晴や二軒並んで煤拂ひゝ

谷藤橋

這わたる橋の下よりほとゝぎすゝ
はつ瓜を引とらまへて寐た子哉ゝ

人形町

人形に茶を運ばせて門凉みゝ
今迄は罰もあたらず晝寐蚊屋ゝ
蚊がちらりほらり是から老が世ぞゝ
世がよくばも一ツ泊れ飯の蠅ゝ
卯の花に一人きりの社かなゝ

幽栖

蟲にまで尺とられけり此はしらゝ

身一つすぐす迚山家のやもめの哀さは

おの(が)里仕舞てどこへ田植笠ゝ
あつぱれの大わか竹ぞ見ぬうちにゝ
花つむや扇をちよいとぼんのくぼゝ
としよりと見るや鳴蚊の耳のそばゝ

戸隱山

居風呂へ流し込たる清水かなゝ
此入りはどなたの菴ぞ苔清水一茶
一つ蚊のだまつてしくり/\かなゝ
その門に天窓用心ころもがえゝ
かくれ家の柱で麥を打れけりゝ

越後女旅かけて商ひする哀さを

麥秋や子を負ひながらいはし賣ゝ
笋や人の子なくば花咲んゝ
芝でした休み所や夏木立ゝ
山苔も花さく世話はもちにけりゝ
孑孑の天上したり三ケの月ゝ

獨樂坊

寐所見る程は卯の花明りかなゝ
法の山や蛇もうき世を捨衣ゝ

今年みちのくの方修行せんと、乞食袋首かけて、小風呂敷せなかに負たれば影法師はさながら西行らしく見えて殊勝なるに、心は雪と墨染の袖と思へば/\入梅晴のそらはづかしきに、今更すがた替へるもむつかしく、卯の花月十六日といふ日、久しく寐馴れたる菴をうしろになして、二三里も歩みしころ、細杖をつく/\思ふに、おのれすでに六十の坂登りつめたれば、一期の月も西山にかたぶく命、又ながらへて歸らんことも、白川の關をはる%\越える身なれば、十府の菅菰の十に一ツもおぼつかなしと、案じつゞくる程に、ほとんど心細くて、家々の鶏の時を告る聲もとつてかへせとよぶやうに聞へ、畠々の麥に風のそよ吹くも、誰ぞまねくごとく覺へて、行道もしきりにすゝまざれば、とある木陰に休らひて、痩脛さすりつゝ詠るに、柏原はあの山の外、雲のかゝれる下あたりなどおしはかられて、何となく名殘りおしさに

思ふまじ見まじとすれど我家かな一茶

おなし心を

故郷に花もあらねどふむ足の
迹へ心を引くかすみかなゝ
あまひらをおどろかさじと青麥に
ほどよき風の吹すぐるかな[note]2

日々懈怠不惜寸陰

けふの日も棒ふり蟲よ翌も又一茶

無限欲有限命

此風に不足いふなり夏坐敷ゝ
起/\の欲目引張る青田哉ゝ

心に思ふことを

故郷は蠅まで人をさしにけりゝ
直き世や小錢程でも蓮の花ゝ
松陰や寐蓙一ツの夏坐敷ゝ

題童唄

三度掻て蜻蛉とまるや夏座敷希杖
片息に成て逃入る螢かな一茶
夕顏の花で涕かむおばゞかなゝ
あついとてつらで手習した子哉ゝ
大螢ゆらり/\と通りけりゝ

田中川原如意湯に晝浴みして

なを暑し今來た山を寐て見ればゝ
なむあみだ佛の方より鳴蚊かなゝ
とべよ蚤同し事なら蓮の上ゝ
かくれ家は蠅も小勢でくらしけりゝ
ひいき鵜は又もから身で浮みけりゝ
松の蝉どこまで鳴て晝になるゝ
今迄は罰もあたらず晝寐蚊屋ゝ
はなれ鵜が子のなく舟に戻りけりゝ

わが友魚淵といふ人の所に、天が下にたぐひなき牡丹咲きたりとて、いひつぎきゝ傳へて、界隈はさらなり、よそ國の人も足を勞して、わざ/\見に來るもの、日々多かりき。おのれもけふ通りがけに立より侍りけるに、五間ばかりに花園をしつらひ、雨覆ひの蔀など今樣めかしてりゝしく、しろ紅ゐ紫花のさま透間もなく開き揃ひたり、其中に黒と黄なるはいひしに違はず目をおどろかす程めづらしく妙なるが、心をしづめてふたゝび花のありさまを思ふに、ばさ/\として、何となく見すぼらしく、外の花にたくらぶれば、今を盛りのたをやめの側に、むなしき屍を粧ひ立て竝べおきたるやうにて、さら/\色つやなし。是主人のわざくれに紙もて作りて、葉がくれにくゝりつけて、人を化すにぞありける、されど腰かけ臺の價をむさぼるためにもあらで、たゞ日々の群集に酒茶つひやしてたのしむ主の心おもひやられて、しきりにをかしくなん。

紙屑もぼたん顏ぞよ葉がくれに一茶

蛙の野邊

爰らの子どもの戯に蛙を生ながら土に埋めて諷ふていはく、ひきどのゝお死なつた、おんばくもつてとぶらひに/\/\と、口々にはやして〓苡の葉を、彼うづめたる上に打かぶせて歸りぬ。しかるに本草綱目、車前草の異名を蝦蟇衣といふ、此國の俗がいろつ葉とよぶ、おのづからに和漢心をおなじくすといふべし、むかしはかばかりのざれごとさへいはれあるにや

卯の花もほろり/\や蟇の塚一茶

此もの、諸越の仙人に飛行自在の術ををしへ、我朝天王寺には大たゝかひにゆゝしき武名を殘しき。それは昔々のことにして、今此治れる御代に隨ひ、ともに和らぎつゝ、夏の夕暮せどに莚を廣げて、福よ/\と呼べば、やがて隅の藪よりのさ/\這ひよりて、人と同じく凉む、其つら魂ひ一句いひたげにぞありける、さる物から長嘯子の蟲合に、歌の判者にゑらまれしは汝が生涯のほまれなるべし

ゆうぜんとして山を見る蛙哉一茶
鶯にまかり出たよ引蟾其角
思ふことだまつて居るか蟾曲翠
一雫天窓なでけり引かへる一茶
そんじよそこ爰と青田のひいき哉ゝ
閨の蚊のぶんとばかりに燒れけりゝ
鵜の眞似は鵜より上手な子ども哉ゝ
寐竝んで遠夕立の評義かなゝ
留守中も釣り放しなる紙帳かなゝ
山番の爺が祈りし清水かなゝ
蓮の葉に此世の露は曲りけりゝ
狗に爰へ來よとや蝉の聲ゝ

五月二十八日

とらが雨など輕んじて濡れにけりゝ

信濃の國墨坂といふ所に、中村なにがしといふ醫師ありけり、その父のわざくれに蛇のつるみたるを打殺したりけるが、其夜かくれ所のものづき/\痛み出して、つひにくされてころりとおちて死けるとかや。其子、親の業をつぎて三哲といふ。並み/\より勝れてふとくたくましき松茸のやうなるものもちたりけり、しかるに妻を迎へて、始て交りせんとする時、棒を立たるやうなるもの、たゞちにめそ/\と小さく、燈心に等しくふは/\として、今さらにふつと用立ぬものから、耻しくもどかしくいま/\しく、婦人を替たらましかば又幸あらんと、百人ばかりもとり替へ引かえ、妾をかゝえぬれど、みな/\前の通りなれば、狂氣の如くたゞいらちにいらちて、今は獨身にてくらしけり。かゝる事うぢ拾遺物語其外昔双紙などにばかりと思ひ捨侍りけるを、今目の前に見んとは、是かの蛇の執念に、其家血筋たやすならんと、人々ひそかに噂きけり、されば生とし活るもの、蚤虱にいたるまで、命おしきは人に同じからん、ましてつるみたるを殺すは罪深きわざなるべし。

魚どもや桶ともしらで門凉み一茶
とくかすめとく/\かすめ放ち鳥ゝ
彼岸の蚊釋迦のまねして喰れけり
大江丸
光俊卿
水ふねにうきてひれふる生け鯉の
命まつ間もせはしなの世や俊頼卿
ふしつけしおどろが下に住むはへの
心おさなき身をいかにせん

淺間山

晝顏やぽつぽと燃る石ころへ一茶

俳諧宗雲水に送る

鬼茨も添て見よ/\一凉みゝ

古之爲關也將以禦暴今之爲關也將以爲暴

關守りの灸點はやる梅の花一茶
人聲に子を引かくす女鹿かなゝ
はつ螢其手はくはぬとびぶりやゝ
蓮の花少曲るもうき世かなゝ
隈界のなまけ所や木下闇ゝ

大沼

萍の花からのらんあの雲へゝ

越後>

柿崎やしぶ/\鳴の閑古鳥ゝ

江戸住居

青草も錢だけそよぐ門凉ゝ
なでしこに二文が水を浴せけりゝ

小金原

母馬が番して呑す清水かなゝ
風あるをもつて尊とし雲の峯ゝ
疫病神蚤も負せて流しけりゝ

茂林寺

蝶々のふはりと飛んだ茶釜かなゝ
櫻までわるくいはする藪蚊かなゝ
蟻の道雲の峰よりつゞきけんゝ

高井郡六川郷六かはの里山の神の森にて、栗三ツ拾ひ來りて庭の小隅に埋め置たりしに、つや/\と芽を出して嬉しげなりけるを、東隣にて家に家をつくり足しぬるからに、月日の惠みとゞかず、雨露の潤ひうとければ、其としやをら一尺ばかり伸びけり、しかるを此國のならひ、冬に成れば東より西より南より北より、家の大雪をひたおとしに落しこむからに、恰も越の白山一夜に兀と涌出たるにひとしく、其山に薪水を運ぶ道を作るに、愛宕山の石壇のぼるがごとし、漸く二三月ごろ、おしなべて長閑なるに、隣々の脊戸畠は草木青みわたりて、花もまれ/\咲けるに、彼山はいまだ眞白妙に風冴えて、嚴寒を欺くけしきにて、やゝ卯月八日髪さけ蟲の歌を厠に張るころ、山鶯の折しり顏になけば、雪の消え口より見るに、哀なるかな、栗の木末は根際よりほきりと折れて仕まひぬ、人ならば直に無常の烟と立昇るべきを、古根よりそろ/\青葉吹て、かろうして一尺ばかり伸びけるを、又前のごとく、家の雪を落し込れて、ほきりと折れ、年々折れ/\て、ことし七年の星霜を累ぬれど、花咲き實入るちからなく、されど此世の縁盡ざれば、枯も果ずして、生涯一尺程にて生て居るといふばかりなるべし。我又さの通り、梅の魁に生れながら、茨の遲生へに地をせばめられつゝ、鬼ばゝ山の山おろしに吹折れ/\て、晴れ/\しき世界に芽を出す日は一日もなく、ことし五十七年、露の玉の緒の今まで切れざるもふしぎなり。しかるにおのれが不運を科なき草木に及すことの不便なりけり。

なでしこやまゝはゝ木々の日陰花一茶

さるべき因縁ならんと思へば苦しみも平生とは成りぬ

朝夕に覆かぶさりし目の上の
辛夷も花の盛りなりけり一茶

其引

子ばかりの布團に蘆の穗綿かな山崎宗鑑
竹の雪はらふは風のまゝ子哉正勝
うつくしきまゝ子の顏の蠅打ん江雪
なげゝとて蚊さへ寐させぬまゝ子哉未達

貞享四年卯歌仙
葛の繩目をゆるされし文

まゝ子をもいたはる嫁の名をとけて芭蕉

祇園拾遺
下部ひそかに首理めける

繼母の又口はしる夜の雨未達

おく五歌仙

山木かくれて草に血をぬる芭蕉
わづかなる世をまゝ母に僞られ風流

小さき土鍋のありけるを我腹の子にとらせて、とらせざりければ、鶯の鳴をきゝてよめるとなん

鶯よなどさはなきそちやほしき
小鍋やほしき母や戀しき貫之娘

親のない子はどこでも知れる爪を咥へて門に立、と子どもらに唄はるゝも心細く、大かたの人交りもせずして、うらの畠に木萱など積たる片陰に跼りて、長の日をくらしぬ、我身ながらも哀なりけり

我と來て遊べや親のない雀六才彌太郎

昔、大和國立田村にむくつけき女ありて、まゝ子の咽を十日程ほしてより、飯を一椀見せびらかしていふやう、是をあの石地藏のたべたらんには、汝にもとらせんとあるに、まゝ子はひだるさたへがたく、石佛の袖にすがりて、しか%\ねがひけるに、ふしぎやな、石佛大口明て、むし/\喰ひ給ふに、さすがのまゝ母の角もほつきり折て、それより我うめる子とへだてなく、はごくみけるとなん、其地藏ぼさち今にありて、折々の供物たへざりけり

ぼた餅や藪の佛も春の風一茶

こぞの夏、竹植る日のころ、うき節茂きうき世に生れたる娘、おろかにしてものにさとかれどて名をさとゝよぶ。ことし誕生日祝ふころほひより、てうち/\あはゝ、天窓てん/\、かぶり/\ふりながら、おなじ子どもの風車といふものをもてるをしきりにほしがりてむづかれば、とみにとらせけるを、やがてむしや/\しやぶつて捨て、露程の執念なく、直に外の物に心うつりて、そこらにある茶碗を打破りつゝ、それもたゞちに倦て、障子のうす紙をめり/\むしるに、よくした/\とほむれば、誠と思ひきやら/\と笑ひて、ひたむしりにむしりぬ。心のうち一點の塵もなく、名月のきら/\しく清く見ゆれば、迹なき俳優見るやうに、なか/\心の皺を伸しぬ。又人の來りてわん/\はどこにといへば、犬に指し、かあ/\はと問へば、鳥にゆびさすさま、口もとより爪先まで、愛敬こぼれてあひらしく、いはゞ春の初草に胡蝶の戲るゝよりもやさしくなん覺え侍る。このおさな佛の守し給ひけん、〓夜の夕暮に持佛堂に蝋燭てらして、〓打ならせば、どこに居てもいそがはしく這ひよりて、さわらびのちいさき手を合せて、なんむ/\と唱ふ聲、しほらしくゆかしくなつかしく殊勝なり、それにつけてもおのれかしらにはいくらの霜をいたゞき、額にはしば/\波の寄せ來る齡にて、彌陀たのむすべもしらで、うか/\月日を費すこそ、二ツ子の手前もはづかしけれと思ふも、其坐を退けばはや地獄の種を蒔て、膝にむらがる蠅をにくみ、膳を巡る蚊をそしりつゝ、剩へ佛のいましめし酒を呑む。折から門に月さしていと凉しく、外にわらはべの踊の聲のすれば、たゞちに小椀投げ捨て、片いざりにいざり出て、聲を上げ手眞似してうれしげなるを見るにつけつゝ、いつしかかれをも振分髪のたけになしておどらせて見たらんには、廿五菩薩の管絃よりもはるかまさりて興あるわざならんと、我身につもる老を忘れてうさをなんはらしける。かく日すがら、をしかの角のつかの間も、手足をうごかさずといふことなくて、遊びつかれる物から、朝は日のたけるまで眠る、其内ばかり母は正月と思ひ、飯焚、そこら掃きかたづけて、團扇ひら/\汗をさまして、閨に泣聲のするを目の覺る相圖とさだめ、手かしこく抱き起して、うらの畠に尿やりて、乳房あてがへば、すは/\吸ひながら、むな板のあたりをうちたゝきて、にこ/\笑ひ顏をつくるに、母は長々胎内のくるしびも、日々襁褓の穢らしきもほと/\忘れて、衣のうらの玉を得たるやうになでさすりて、一入よろこぶありさまなりけらし。

蚤の跡かぞへながらに添乳かな一茶

より/\思ひ寄せたる小兒をも遊び連にもと爰に集ぬ

柳からももんぐあゝあと出る子哉ゝ
蓬莱になんむ/\といふ子哉ゝ
年問へば片手出す子や更衣一茶

小兒の行末を祝して

たのもしやてんつるてんの初袷ゝ
名月を取てくれろとなく子哉ゝ
子寶がきやら/\笑ふ榾火哉ゝ
あこが餅/\とて並べけりゝ
妹が子の脊負ふた形りや配餅ゝ
餅花の木陰にてうちあはゝ哉ゝ
凉風の吹く木へ縛る我子かなゝ
わんぱくや縛られながらよぶ螢ゝ

其引

あゝ立たひとり立たることし哉貞徳
子にあくと申人には花もなし芭蕉
袴着や子の草履とる親心子堂
花といへも一ツいへやちいさい子羅香
春雨や格子より出す童の手東來
早乙女や子のなく方へ植てゆく葉捨
折とても花の木の間のせがれ哉其角

はしとり初たる日

鵙鳴や赤子の頬をすふ時に同

男にきらはれて親のもとに住みけるに、おのが子の初節句見たくも晝は人目茂ければ

去られたる門を夜見る幟かなよみ女しらず

子を思ふ實情さもと聞へて哀なり。猛きものゝふの心を和らぐるとはかゝる眞心をいふなるべし。いかなる鬼男なりとも、風の便りにもきゝなば、いかでかふたゝび呼び歸さざらめや。

所有畜類是レ世々ノ親族ナリとなん、親をしたひ子を慈む情、何ぞへだてのあるべきや。

人の親の鳥追けり雀の子鬼貫
夏山や子にあらはれて鹿の鳴五明
負て出て子にも鳴かする蛙哉東陽
鹿の親笹吹く風にもどりけり一茶
小夜しぐれなくは子のない鹿にがなゝ
子をかくす藪の廻りや鳴雲雀ゝ

樂しみ極りて愁ひ起るはうき世のならひなれど、いまだたのしびも半ばならざる、千代の小松の二葉ばかりの笑ひ盛なる緑り子を、ね耳に水のおし來るごときあら/\しき痘の神に見込れつゝ、いま水膿のさなかなれば、やをら咲ける初花の泥雨にしほれたるに等しく、側に見る目さへくるしげにぞありける。是も二三日經たれば痘はかせぐちにて、雪解の峽土のほろ/\落るやうに瘡蓋といふもの取れば、祝ひはやして、さん俵法師といふを作りて、笹湯浴せる眞似かたして、神は送り出したれど、益々よはりて、きのふよりけふは頼みすくなく、終に六月二十一日の蕣の花と共に、此世をしぼみぬ。母は死顏にすがりてよゝ/\と泣もむべなるかな。この期に及んでは、行水のふたゝび歸らず、散る花の梢にもどらぬくひ事などゝ、あきらめ顏しても、思ひ切がたきは恩愛のきづななりけり。

露の世はつゆの世ながらさりながら一茶

去四月十六日、みちのくにまからんと、善光寺まで歩みけるを、さはる事ありて止みぬるも、かゝる不幸あらんとて道祖神のとゞめ給ふならん

其引
子におくれたるころ

似た顏もあらば出て見ん一踊落梧

母におくれたる子の哀さに

おさな子やひとり飯くふ秋の暮尚白

娘を葬りける夜

夜の鶴土に蒲團も着せられず其角

孫娘におくれて三月三日野外に遊ぶ

宿を出て雛忘れば桃の花猿雖

娘身まかりけるに

十六夜や我身にしれと月の欠杉風

猶子母に放れしころ

柄をなめて母尋るやぬり團扇來山

愛子をうしなひて

春の夢氣の違はぬがうらめしいゝ

子をうしなひて

蜻蛉釣りけふはどこまで行た事かかゞ千代

やんごとなき人々の歌も心に浮ぶまゝにふとしるし侍りぬ

讀人知らず
哀なり夜半に捨子の泣聲は
母に添寢の夢や見つらん
爲家卿
捨て行く親したふ子の片いざり
世に立かねて音こそなかるれ
兼輔卿
人の親の心は闇にあらねども
子を思ふ道に迷ひぬるかな

頌曰
未擧歩時先己到未動舌時先説了
直饒著々在機先更須知有向‐上竅

貰ふよりはやくうしなふ扇かな一茶
俄川とんで見せけり鹿の親ゝ
大寺や扇でしれし小僧の名ゝ

曲者隱れてうかゞふ圖

あはれ蚊のついと古井に忍びけりゝ

大山詣

四五間の木太刀をかつぐ袷かなゝ
太郎冠者まがひに通る扇かなゝ

紫の里近きあたり、とある門に炭團程なる黒き巣鳥をとりて、籠伏せして有けるに、其夜親鳥らしく、夜すがら其家の上に鳴ける哀さに

子を思ふ闇やかはゆい/\と
聲を鳥の鳴あかすらん一茶

盗人おのが古郷に隱れて縛れしに

業の鳥罠を巡るやむら時雨ゝ

御成り場所に、鳥どもの餌蒔をしたふ不便さに

人眤き鶴よどちらに箭があたるゝ
箭の下に母の乳を呑む鹿子かな立志

さすがのさつ男も髻切りしは斯る折になんありける。

おのれ住る郷は、おく信濃黒姫山のたら/\下りの小隅なれば、雪は夏きへて霜は秋降る物から、橘のからたちとなるのみならで、萬木千草上々國よりうつし植るに、こと%\く變じざるはなかりけり。

九輪草四五りん草で仕廻けり一茶

鎮西八郎爲朝人礫うつ所に

時鳥蠅蟲めらもよつく聞けゝ
鹿の子や横にくはへし萩の花一茶

老翁岩に腰かけて一軸をさづくる圖に

我汝を待こと久しほとゝぎすゝ

幽栖

我家に恰好鳥の鳴にけりゝ
二三遍人をきよくつて行螢ゝ
飛螢其手はくはぬくはぬとやゝ

成蹊子こぞの冬つひに不言人と成りしとなん。鶯笠のもとより此ころ申おこせたりしを

つの國の何を申も枯木立ゝ
白笠を少しさますや木下陰ゝ
まかり出たるは此藪の蟇にて候ゝ
雲を吐く口つきしたり引蟇ゝ
赤い葉の榮耀にちるや夏木立ゝ
稻妻や一切づゝに世が直るゝ
石川はくはらり稻妻さらり哉ゝ
夕霧や馬の覺えし橋の穴ゝ
秋風に歩て迯る螢かなゝ

二番休

乳呑子の風よけに立かゝし哉ゝ

連にはぐれて

一人通ると壁に書く秋の暮ゝ

七月七日墓詣

一念佛申だけしく芒かなゝ
木啄のやめて聞かよ夕木魚ゝ
木つゝきが目利して居る菴かなゝ

經堂

蟲の屁を指して笑ひ佛かなゝ
得手ものゝ片足立や小田の雁ゝ
山寺や椽3の上なる鹿の聲ゝ
下手笛によつくきけとやしかの聲一茶
茸狩のから手でもどる騒かなゝ

さと女三十五日墓

秋風やむしりたがりし赤い花ゝ
さをしかの喰こぼしけり萩の花ゝ
我やうにどつさり寐たよ菊の花ゝ
のらくらが遊びかげんの夜寒哉ゝ
露の玉つまんで見たるわらは哉ゝ

立よらば大木の下とて、大家には貧しき者の腰をかゞめておはむきいふもことはりになん。爰の諏訪宮に大きさ牛をかくす栗の古木ありて、うち見たる所は菓一ツもあらざりけるに、其下をゆきゝする人、日々とり得ざるはなかりけり

十五夜は高井野梨本氏にありて

古郷の留守居も一人月見かな一茶

月蝕皆既亥七刻右方ヨリ缺、子六刻甚ク丑ノ五刻左終

人數は月より先へ缺にけり一茶
人の世は月もなやませ給ひけりゝ
潜上に月の缺るを目利かなゝ
酒盡てしんの坐につく月見かなゝ

おのが味噌のみそ嗅を知らず

蕎麥國のたんを切つゝ月見かなゝ

九月十六日正風院菊會

鍬さげて神農顏や菊の花ゝ
菊園や歩きながらの小盃ゝ
杖先で畫解するなりきくの花ゝ
入道の大鉢巻できくの花ゝ
下戸菴が疵なりこんな菊の花ゝ

さと女笑顔して夢に見へけるまゝを

頬ぺたにあてなどしたる眞瓜かなゝ
どう追れても人里を渡り鳥ゝ
山雀の輪拔しながらわたりけりゝ
鵙の聲かんにん袋きれたりなゝ
蟷螂や五分の魂是見よとゝ

高井野の高みに上りて

秋風や磁石にあてる古郷山ゝ
行灯を松に釣して小夜砧ゝ
行な雁往ばどつちも秋の暮ゝ

若僧の扇面に

影法師に耻よ夜寒のむだ歩きゝ
こんな村なんとの行か渡り鳥白飛
藪陰やことし酒屋のことし酒土英

老樂

子どもらを心でおがむ夜寒かな一茶
こほろぎのとぶや唐箕のほこり先一茶
小菊なら繩目の耻はなかるべしゝ

戸迷ひせし折からに

小便所爰と馬よぶ夜寒かなゝ
喧嘩すなあひみたがひの渡り鳥ゝ
さをしかやゑひしてなめるけさの霜ゝ
狼は糞ばかりでも寒かなゝ
一つかみ塗樽拭ふ紅葉かなゝ
むら千鳥そつと申せばばつと立ゝ
炭の火や朝の祝儀の咳ばらひゝ
三介が敲く木魚もしぐれけりゝ
木がらしやから呼されし按摩坊ゝ

善光寺門前憐乞食

重箱の錢四五文や夕時雨ゝ
大根引拍子にころり小僧かなゝ
はつ雪の降り捨てある家尻哉ゝ
木からしや折介歸る寒さ橋ゝ
菜畠を通してくれる十夜哉ゝ
雪ちるやおどけもいへぬしなの空ゝ
能なしは罪も又なし冬籠ゝ

強盗はやりければ

張番に菴とられけり夜の霜ゝ
彼是といふも當坐ぞ雪佛ゝ
お袋がお福手ちぎる指南哉ゝ
餅搗が隣へ來たといふ子かなゝ

餅花

かまけるな柳の枝にもちがなるゝ
子のまねを親もするなり節季候ゝ

東に下らんとして中途迄出たるに

椋鳥と人に呼るゝ寒かなゝ

護持院原

木がらしや廿四文の遊女小屋一茶

兩國橋

寒垢離にせなかの龍の披露かなゝ

かも川をわたらじとちかひし人さへあるにひと度籠りし深山を下りてしら髪つむりを吹れつゝ名利の地に交る

恥かしやまかり出てとる江戸のとしゝ
其迹は子どもの聲や鬼やらひゝ

小人閑居成不善

冬籠り惡く物喰を習けりゝ

廿一日節分

一聲に此世の鬼は迯るよなゝ
けふからは正月分ンぞ麥の色ゝ

札納

梅の木や御祓箱を負ながらゝ

二十七日晴

坊守り朝とく起て飯を焚ける折から、東隣の園右衞門といふ者の餅搗なれば、例の通り來たるべし、冷てはあしかりなん、ほか/\湯けぶりのたつうち賞翫せよといふからに、今や/\と待にまちて、飯は氷りのごとく冷えて、餅はつひに來ずなりぬ

我門へ來さうにしたり配餅一茶

他力信心/\と一向に他力にちからを入れて頼み込み候輩は、つひに他力繩に縛れて、自力地獄の炎の中へほたんとおち入候、其次に、かゝるきたなき土凡夫をうつくしき黄金の膚になしくだされと、阿彌陀佛におし誂へに誂ばなしにしておいて、はや五體は佛染み成りたるやうに惡るすましなるも、自力の張本人たるべく候。問ていはく、いか樣に心得たらんには、御流儀に叶ひ侍りなん。答ていはく、別に小むづかしき子細は不存候、たゞ自力他力何のかのいふ芥もくたを、さらりとちくらが沖へ流して、さて後生の一大事は、其身を如來の御前に投出して、地獄なりとも、極樂なりとも、あなたさまの御はからひ次第あそばされくださりませと、御頼み申ばかりなり。如斯決定しての上には、なむあみだ佛といふ口の下より、慾の網をはるの野に、手長蜘の行ひして、人の目を霞め、世渡る雁のかりそめにも、我田へ水を引く盗み心をゆめ/\持べからず、しかる時は、あながち作り聲して念佛申に不及、ねがはずとも佛は守り玉ふべし、是則、當流の安心とは申なり、穴かしこ
五十七齡

ともかくもあなた任せのとしのくれ一茶

文政二年十二月廿九日

此一巻や、しなのゝ俳諧寺一茶なるものゝ草稿にして、風調洒々落々と杜をなす。こや寸毫も洒落にあらず、しかもよく佛籬祖室をうかがひ、さる法師がつれ/\もあやからず、一休白隱は猶しかなり、手ぶりはおのれが手ぶりにして、あが翁の細みをたどり、敢て世塵を厭ず、人情はたやるかたなし、惡我此外に何をかいはむ。

嘉永四辛の亥春彼岸仲日瓢界四山人しるす

かの岸もさくら咲日となりにけり

惟然坊は元禄の一畸人にして、一茶坊は今世の一奇人なり。そが發句のをかしみは、人々の口碑に殘りて、世のかたり草になるといへども、たゞに俳諧の皮肉にして此坊が本旨にはあらざるべし、中野のさと一之が家に秘めおける一巻物や、ざれ言に淋しみをふくみ、可笑みにあはれを盡して、人情世態無常觀想殘す處なし、もし百六十年のむかしに在て祖翁の過眼を得むには、惟然の兄とやのたまはんか、弟とや申し玉はむか

惺庵西馬

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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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