陽子が、すっかり荷物を持って鎌倉へ立ったのは、雪が降った次の日であった。春らしい柔かい雪が細い別荘の裏通りを埋め、
「勝手に始末しても悪かろうと思って――私が持って行って上げましょう」
縞の着物を着、小柄で、顔など女のように肉のついた爺は、夜具包みや、本、食品などつめた木箱を、六畳の方へ運び入れてくれた。夫婦揃ったところを見ると、陽子は
始めての経験である間借りの生活に興味を覚えつつ、陽子は部屋を居心地よく
「御免下さい」
婆さんが襖をあけた。
「何にもありませんですがお仕度が出来ました、持って上ってようございますか」
陽子は気をとられていたので、いきなりぼんやりした。
「え?」
「御飯に致しましょうか」
「ああ。どうぞ」
婆さんは引かえして何か持って来た。相当空腹であったが、陽子は何だか婆さんが食事を運んで来る、それを見ておられなかった。一人ぼっちで、食事の時もその部屋を出られず、貧弱そうな食物を運んで貰う――異様に生活の縮小した感じで、陽子は落付きを失った。
「ここへ置きますから、どうぞ上って下さい」
「ええ、ありがと」
婆さんが出てから振返って見ると、朱塗りの丸盆の上に椀と飯茶碗と香物がのせられ、箱火鉢の傍の畳に
陽子はコーンビーフの罐を切りかけた、罐がかたく容易に開かない、木箱の上にのせたり畳の上に下したり、力を入れ己れの食いものの為に骨を折っているうちに陽子は悲しく自分が哀れで涙が出そうになって来た、家庭を失った人間の心の寂寥があたりの夜から迫って来た、陽子は手を止め、今にもふき子のところへ出かけそうになった。が、彼女は、自分を制して到頭罐をあけた。下宿している女学生の夕飯は皆この通りではないか、意気地なし! 三畳から婆さんが、
「いかがです
と声をかけてよこした。陽子は膳の飯を辛うじて流し込んだ。









