ゴルバートフ「降伏なき民」



 最近のソヴェト文学をよみたくて読めなかった日本の読者に、ゴルバートフの「降伏なき民」はうれしいおくりものであった。今年の初め、シーモノフ、アガーポフ、クドレワートウィフ等と一緒にゴルバートフも暫く東京に来ていた。ゆたかな声量と生粋のソヴェト人の歌好きのこころで「前線通信員」の活気横溢する歌をうたう、ゴルバートフ。一九一七年以後に成長して、社会主義建設の中で青年となった新しい気質のソヴェト作家が、あらゆる人々とともにナチスに侵略された自分たちの建設祖国を、どんなに愛し、護り、そのために献身したか、まざまざと伝えられる情熱をもって「降伏なき民」はかかれている。

 小説の背景は、最もナチスの惨虐にさらされたウクライナ地方である。けれども、この作品は、全ソヴェトの人民がナチス侵略にあって「彼等の一番大事なもの」は何であったかを発見し、その自由と建設の防衛のためにあらゆる「偉大な人間情熱」を展開させた世紀の物語なのである。トルストイ、チェホフ、ゴーリキイ、そしてフールマノフ(赤色親衛隊)、ファデェーエフ(壊滅)と辿られるロシアの社会進展とその文学の流れは、すべての人民が、自分たちの創造物としての「我等の土地」を防衛し「人民は不滅である」ことを立証した最近の文学作品において、はっきり一つの新時代を画した。文体と様式にも著しい変化がもたらされているのである。この複雑雄大なテーマと素材を、その隅々まで描写しつくしたらば、作品は現在あるより少くとも倍の長篇になるべきであった。才能と精力ゆたかな新人間ゴルバートフが十分の時間をもたなかったのは、くれぐれも残念だと思う。

〔一九四六年九月〕

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Last Modified:Thursday, February 13, 2025
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