山家和歌集
卷上
春
立春の朝よみける
家々に春を翫ぶといふことを
元日子日にて侍りけるに
山里に春立つといふことを
難波わたりに年越に侍りけるに春立つ心をよみける
春になりけるかたたがへに志賀のさとへまかりける人にぐしてまかりけるに逢坂山のかすみたりけるを見て
春きて猶雪
題しらず
海邊の霞といふことを
おなじ心を伊勢の二見といふ所にて
子日
若菜に初子のあひたりければ人の許へ申しつかはしける
雪中若菜
若菜
雨中若菜
若菜によせてふるきを思ふといふ事を
老人の若菜といへることを
寄若菜述懷といふことを
鶯によせて思を述べけるに
閑中鶯といふことを
雨中鶯
住みける谷に鶯の聲せずなりにければ
きゞすを
梅を
山里の梅といふ事を
嵯峨に住みけるに道をへだてゝ坊の侍りけるより梅の風にちりけるを
庵の前なりける梅を見てよめる
伊勢のにしふく山と申す所に侍りけるに庵の梅かぐはしく匂ひけるを
梅に鶯の鳴きけるを
旅のとまりの梅
ふるき砌の梅
山里の春雨といふ事を大原にて人々よみけるに
霞中歸雁といふことを
歸雁
山家呼子鳥
苗代
霞に月のくもれるを見て
山里の柳
柳風にみだる
雨中柳
水邊柳
待花忘他といふ事を
獨山の花を尋ぬといふ事を
花を待つ心を
花の歌あまた詠みけるに
閑ならむと思ひける頃花見に人々のまうで來ければ
かき絶えこととはずなりにける人の花見に山里へ詣で來たりと聞きて詠みける
花の下にて月を見て詠みける
春のあけぼの花見けるに鶯の鳴きければ
春は花を友といふ事をせか院のさい院にて人々詠みけるに
老見花といふことを
老木の櫻のところ%\に咲きたるを見て
屏風の繪を人々よみけるに春の宮人むれて花見ける所によそなる人の見やりてたてけるを
山寺の花さかりなりけるに昔を思ひ出でて
修行し侍るに花おもしろかりける所にて
熊野へまゐりけるにやがみの王子の花おもしろかりければ社にかきつけける
せか院の花盛なりける頃としたゞがいひ送りける
かへし
上西門院女房法勝寺の花見られけるに雨のふりて暮れにければ歸られにけり又の日兵衞の局のもとへ花の御幸思ひ出でさせ給ふらんと覺えてかくなむ申さまほしかりしとてつかはしける
かへし
若き人々ばかりなむ老いにける身は風の煩しさにいとはるゝ事にてと有りけるなむやさしくきこえける雨のふりけるに花の下に車を立てゝながめける人に
世をのがれて東山に侍る頃白川の花盛に人さそひければまかり歸りけるに昔思ひ出でて
山路落花
落花の歌あまた詠みけるに
庭の花波に似たりといふ事を詠みけるに
白川の花庭面白かりけるを見て
高野に籠りたりける頃草の庵に花のちりつみければ
夢中落花といふことを前齋院にて人々よみけるに
風の前の落花といふ事を
雨中落花
遠山殘花
花の歌十五首よみけるに
散りて後花を思ふといふ事を
菫
さわらび
かきつばた
山路のつゝじ
つゝじ山のひかりたりといふことを
やまぶき
蛙
春のうちに郭公をきくといふ事を
伊勢にまかりたりけるにみつと申す所にて海邊の春の暮といふことを神主ども詠みけるに
三月一日たらで暮れけるに詠みける
三月の晦日に
夏
夏の歌よみけるに
水邊卯花
夜卯花
社頭卯花
無言なりける頃郭公の初聲を聞きて
不尋聞子規といふ事を賀茂社にて人々よみけるに
夕暮郭公といふことを
郭公
人にかはりて
時鳥を待ちて明けぬといふ事を
時鳥の歌五首よみけるに
時鳥を
雨の中に郭公を待つといふことを詠みけるに
雨中郭公
山寺の郭公といふことを人々よみけるに
五月の晦日に山里にまかりて立ち歸りにけるを時鳥もすげなく聞き捨てゝ歸りし事など人の申し遣しける返事に
題しらず
さることありて人の申し遣しける返事に五日
高野に中院と申す所に菖蒲ふきたる坊の侍りけるに櫻の散りけるがめづらしくおぼえて詠みける
五月五日山寺へ人の今日いる物なればとて菖蒲をつかはしける返事に
五月雨
ある所にて五月雨の歌十五首よみ侍りし人にかはりて
隣の泉
水邊納涼とい事を北白川にて詠みける
深山水
なりけり題しらず
撫子
雨中撫子といふことを
夏野の草をよみける
旅行草深といふ事を
行路夏といふことを
ともし
題しらず
海邊夏月
泉にむかひて月を見るといふ事を
夏の月の歌よみけるに
池上夏月といふことを
蓮池に滿てりといふ事を
雨中夏月
涼風如秋
松風如秋といふ事を北白川なる所にて人々よみしに又水聲秋ありといふ事をかさねけるに
山家待秋といふことを
六月祓
秋
山里のはじめの秋といふ事を
山居のはじめの秋といふ事を
常磐の里にて初秋月といふ事をよみけるに
初秋の頃鳴尾と申す所にて松風の音を聞きて
七夕
蜘のいかきたるを見て
草花道を遮るといふ事を
野徑秋風
草花時を得たりといふことを
行路草花
露中草花
終日野の花を見るといふことを
萩野に滿てり
萩野の家にみてりといふことを
野萩似錦といふことを
草花を詠みける
薄道にあたりてしげしといふことを
古籬苅萱
女郎花
草花露重
女郎花帶露といふことを
水邊女郎花といふことを
女郎花水に近しといふことを
荻
題しらず
荻の風露を拂ふ
隣の夕の荻の風
秋の歌よみける中に
野の家の秋の夜
秋の歌に露をよむとて
山里に人々まかりて秋の歌よみけるに
人々秋の歌十首よみけるに
月
閑に月を待つといふことを
海邊月
池上月といふことを
同じ心を遍照寺にて人々よみけるに
月池の水に似たりといふことを
名所の月といふことを
海邊明月
月前に遠く望むといふ事を
終夜月を見る
八月十五夜
くもれる十五夜を
月歌あまた詠みるけに
九月十三夜
後九月月をもてあそぶといふ事を
月瀧を照すといふことを
久しく月を待つといふ事を
雲間に月を待つといふ事を
月前薄
月前荻
月照野花といふ事を
月前野花
月前草花
月前女郎花
月前蟲
深夜聞蛬
田家月
月前鹿
月前紅葉
霧月をへだつといふ事を
月前にいにしへを懷ふ
月によせて思を述べけるに
春日に參りたりけるに常よりも月明く哀なりければ
月寺のほとりにあきらかなり
人々住吉にまゐりて月を翫びけるに
旅まかりけるにとまりて
旅宿の月をおもふといふ事を
月前に友に逢ふといふことを
心ざすことありて安藝の一の宮へ詣でけるに高富の浦と申す所に風に吹きとめられて程經けり苫ふきたる庵より月のもるを見て
詣でつきて月いと明くて哀に覺えければ詠ける
旅宿の月といへる心をよめる
船中初雁
朝に初雁を聞く
夜に入りて雁を聞く
雁聲遠きを
霧中雁
霧上雁
霧
霧行客をへだつ
山家霧
鹿
小倉の麓にすみ侍りけるに鹿の鳴きけるを聞きて
曉の鹿
夕暮に鹿を聞く
幽居に鹿を聞く
田庵の鹿
人を尋ねて小野にまかりけるに鹿のなきければ
獨聞擣衣
隔里擣衣
年頃申されたる人の伏見に住むと聞きて尋ねまかりたりけるに庭の道も見えずしげりて蟲なきければ
蟲の歌よみ侍りけるに
獨聞蟲
故郷蟲
雨中蟲
田家に蟲をきく
夕の道の蟲といふ事を
田家秋夕
京極太政大臣中納言と申しける折菊をおびたゞしき程にしたてゝ鳥羽院にまゐらせ給ひたりける鳥羽の南殿の東面のつぼに所なきほどにうゑさせたまひけり公重少將人々をすゝめて菊もてなさせけるにくはゝるべきよしあれば
菊
月前菊
秋ものへまかりける道にて
嵯峨に住みける比隣の坊に申すべき事ありてまかりけるに道もなく葎の茂りければ
題しらず
紅葉未遍といふことを
山家紅葉
秋の末に松蟲のなくを聞きて
寂蓮高野に詣でて深き山の紅葉といふ事を詠みける
紅葉色深しといふ事を
霧中紅葉
賤しかりける家に蔦の紅葉面白かりけるを見て
寄紅葉戀
東へまかりけるにしのぶの奧に侍りける社の紅葉を
草花野路落葉
秋の末に法輪にこもりて詠める
終夜秋を惜む
冬
長樂寺にて夜紅葉を思ふといふ事を人々よみけるに
題しらず
十月のはじめつかた山里にまかりたりけるに蛬の聲のわづかにしければ詠みける
山家落葉
曉落葉
水上落葉
落葉
月前落葉
瀧上落葉
山家時雨
閑中時雨といふ事を
時雨の歌よみけるに
落葉網代にとゞまる
山家枯草といふ事を覺雅僧都の坊にて人々よみけるに
野のわたりの枯れさる草といふ事を双林寺にて詠みけるに
枯野の草をよめる
冬の歌よみけるに
水邊寒草
山里の冬といを事を人々よみけるに
寒夜旅宿
山家冬月
月枯れたる草を照す
しづかなる夜の冬月
庭上冬月といふ事を
鷹狩
雪中鷹狩
夜初雪
庭雪似月
雪の朝靈山と申す所にて眺望を人々よみけるに
枯野に雪の降りたるを
雪の歌よみけるに
雪道を埋む
秋の頃高野へまゐるべきよし頼めてまゐらざりける人のもとへ雪ふりて後申しつかはしける
雪朝待人といふ事を
雪に庵うづもれてせむかたなく面白かりけり今も來たらばと詠みけむことを思ひ出でて見けるほどに鹿の分けてとほりけるを見て
雪朝會友といふ事を
雪埋竹といふことを
賀茂の臨時の祭歸り立の御神樂土御門内裏にて侍りけるに竹のつぼに雪のふりたりけるを見て
社頭雪
雪の歌ども詠みけるに
船中霰
深山霰
櫻の木に霰のたばしるを見て
月前炭竈といへる事を
千鳥
題しらず
氷留山水
瀧上氷
氷筏をとづといふ事を
冬の歌十首よみけるに
題しらず
山里に冬深しといふ事を
山居雪といふ事を
世を遁れて鞍馬の奧に侍りけるにかけひのこほりて水までこざりけるに春になるまではかく侍るなりと申しけるを聞きてよめる
陸奧國にて年の暮によめる
山家歳暮
東山にて人々年の暮に思を述べけるに
年の暮に縣より都なる人の許へ申し遣しける
歳暮に人のもとへ遣しける
常なき事をよせて
戀
名を聞きて尋ぬる戀
自門歸戀
涙顯戀
夢會戀
後朝
後朝郭公
後朝花橘
後朝霧
歸るあしたの時雨
逢ひてあはぬ戀
恨
ふたゝび絶ゆる戀
寄絲戀
寄梅戀
寄花戀
寄殘花戀
寄歸雁戀
寄草花戀
寄鹿戀
寄苅萱戀
寄霧戀
寄紅葉戀
寄落葉戀
寄氷戀
寄水鳥戀
賀茂の方にさゝきと申す里に冬深く侍りけるに人々まうで來て山里の戀といふことを
商人に文をつくる戀といふことを
海路戀
九月ふたつありける年閏月を忌む戀といふことを人々よみけるに
みあれの頃賀茂にまゐりたりけるに精進にはゞかる戀といふことを人々よみけるに
同社にて神に祈る戀といふことを神主どもよみけるに
月
戀



