水無月の虚空に涼し時鳥
木をつみて夜の明やすき小窓かな
一重づゝ一重つゝ散れ八重櫻
名月の出るやゆらめく花薄
ちる花にもつるゝ鳥の翼かな
麥蒔やたばねあげたる桑の枝
松杉や枯野の中の不動堂
すゝしさや神と佛の隣同士
御佛に尻むけ居れば月涼し
見下せば月にすゞしや四千軒
月涼し蛙の聲のわきあがる
すゞしさや瀧ほとばしる家のあひ
春風に尾をひろげたる孔雀かな
柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
稻の花道灌山の日和かな
稻刈るや燒場の烟たゝぬ日に
古庭や月に湯婆の湯をこぼす
庭前
鷄頭の十四五本もありぬべし
いくたびも雪の深さを尋ねけり
雪ふるよ障子の穴を見てあれば
雪の家に寢て居ると思ふばかりにて
障子明けよ上野の雪を一目見ん
春雨や傘さして見る繪草紙屋
榎の實散る此頃うとし鄰の子
しぐるゝや蒟蒻冷えて臍の上
鬚剃るや上野の鐘の霞む日に
臥病十年
首あげて折々見るや庭の萩
餘命いくばくかある夜短し
こころみに君の御歌を吟ずれば堪へずや鬼の泣く聲聞ゆ
とばり垂れて君いまだ覺めずくれなゐの牡丹の花に朝日さすなり
楊貴妃の寐起顏なる牡丹哉
縁先に玉卷く芭蕉玉解けて五尺のみどり手水鉢を掩ふ
病中對鏡
昔見し面影もあらずおとろへて鏡の人のほろほろと泣く
金州從軍中作
春寒み矛を枕に寐る夜半を古里の妹ぞ夢に見えつる
里を見て歸りし夜半の枕上菜の花咲く野目に見ゆるかも
うれしくも登りし不盡の頂に足わなゝきて夢さめんとす
うたゝ寐のうたゝ苦しき夢さめて汗ふき居れば薔薇の花散る
一桶の水うちやめばほろほろと露のたま散る秋草の花
久方のアメリカ人のはじめにしベールボールは見れど飽かぬかも
上野山夕越え來れば森暗みけだもの吠ゆるけだものの園
松の葉の細き葉毎におく露の千露もゆらに玉もこぼれず
松の葉の葉さきを細み置く露のたまりもあへず白玉散るも
松の葉の葉毎にむすぶ白露のおきてはこぼれこぼれてはおく
冬ごもる病の床のガラス戸の曇りぬぐへば足袋干せる見ゆ
五月七日(體温三十八度五分)
はしきやし少女に似たるくれなゐのボタンの蔭にうつうつ眠る
藤の花長うして雨ふらんとす
黒きまでに紫深き葡萄かな
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる
病み臥せるわが枕邊に運びくる鉢の牡丹の花ゆれやまず
病牀の我に露ちる思ひあり
病む我をなぐさめがほに開きたる牡丹の花を見れば悲しも
まくらべに友なき時は鉢植の梅に向ひてひとり伏し居り
紅梅の散りぬ淋しき枕元
紅梅の落花をつまむ疊哉
瓶にさす藤の花房みじかければたたみの上にとどかざりけり
佐保神の別れかなしも來ん春にふたたび逢はんわれならなくに
いちはつの花咲きいでて我目には今年ばかりの春行かんとす
夕顏の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我いのちかも
絲瓜咲て痰のつまりし佛かな
痰一斗絲瓜の水も間に合はず
をとゝひのへちまの水も取らざりき
ごて/\と草花植し小庭かな
瓶にさす藤の花ぶさ一ふさはかさねし書の上に垂れたり
藤なみの花をし見れば奈良のみかど京のみかどの昔こひしも
藤なみの花をし見れば紫の繪の具取り出で寫さんと思ふ
藤なみの花のむらさき繪にかかばこき紫にかくべかりけり
瓶にさす藤の花ぶさ花垂れて病の牀に春暮れんとす
去年の春龜戸に藤を見しことを今藤を見て思ひ出でつも
くれなゐの牡丹の花にさきだちて藤の紫咲きいでにけり
この藤は早く咲きたり龜戸の藤咲かまくは十日まり後
八入折の酒にひたせばしをれたる藤なみの花よみがへり咲く
絲瓜さへ佛になるぞ後るゝな
成佛ヤ夕顏ノ顔ヘチマノ屁
病牀の財布も秋の錦かな
栗飯ヤ病人ナガラ大食ヒ
カブリツク熟柿ヤ髯ヲ汚シケリ
驚くや夕顏落ちし夜半の音
世の中は常なきものと我愛づる山吹の花散りにけるかも
別れ行く春のかたみと藤波の花の長ふさ繪にかけるかも
くれなゐの薔薇ふふみぬ我病いやまさるべき時のしるしに
薩摩下駄足にとりはき杖つきて萩の芽摘みし昔おもほゆ
若松の芽だちの緑長き日を夕かたまけて熱いでにけり
いたづきの癒ゆる日知らにさ庭べに秋草花の種を蒔かしむ
病牀に日毎餅食ふ彼岸かな



