風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第二
春歌中

81

院御歌

百首の御歌の中に

みどり濃き霞の志たの山の端にうすき柳の色ぞこもれる
82

權大納言公蔭

題志らず

春雨にめぐむ柳の淺みどりかつ見るうちも色ぞ添ひ行く
83

伏見院御歌

五十首の御歌の中に、柳を

いつはとも心に時は分かなくに遠の柳のはるになるいろ
84

前大納言爲世

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

ひと方に吹きつる風や弱るらむなびきも果てぬ青柳の糸
85

西園寺前内大臣女

柳を詠み侍りける

霞み渡る岡の柳の一もとに長閑にすさぶはるのゆふかぜ
86

儀子内親王

吹くとなき風に柳はなびき立ちて遠近かすむ夕ぐれの春
87

權大納言公宗母

百首の歌奉りし時

はつかなる柳の糸の淺みどり亂れぬほどの春かぜぞ吹く
88

土御門院御歌

名所柳を

舟つなぐかぜも緑になりにけり六田の淀の玉のをやなぎ
99

前大納言爲家

春の歌の中に

廣澤のいけの堤の柳かげみどりもふかくはるさめぞ降る
90

法印定圓

芳野川岩浪はらふふし柳はやくぞはるのいろは見えける
91

永福門院内侍

春はまづなびく柳の姿より風も長閑けく見ゆるなりけり
92

權大納言公宗

雨そゝぐ柳が末は長閑にてをちのかすみの色ぞくれゆく
93

前中納言定家

古集の一句を題にて歌詠み侍りけるに、黄梢新柳出城墻といふ事を

此里のむかひの村の垣根より夕日をそむる玉のをやなぎ
94

中務

柳を詠める

繰り返し年經て見れど青柳の糸は舊りせぬみどりなりけり
95

大江嘉言

岸の上の柳は痛く老いにけり幾世の春をすぐしきぬらむ
96

人丸

百敷の大宮人のかざしたる志だり柳は見れどあかぬかも
97

讀人志らず

梅のはな咲きたる園の青柳は鬘にすべくなりにけらしも
98

貫之

よる人もなき青柳の糸なれば吹きくる風にかつ亂れつゝ
99

藤原爲基朝臣

春の歌の中に

淺みどり柳の糸の打ちはへて今日も志き/\春雨ぞ降る
100

徽安門院一條

昨日今日世は長閑にて降る雨に柳が枝ぞ志だりまされる
101

前大納言爲兼

春雨を

春の色を催ほす雨の降るなべに枯野の草も下めぐむなり
102

土御門院御歌

淺みどり初志ほ染むる春雨に野なる草木ぞ色まさりける
103

權大納言公蔭

かき暮れてふりだにまされつく%\と雫寂しき軒の春雨
104

從三位親子

見るまゝに軒の雫はまされども音には立てぬ庭のはる雨
105

皇太后宮大夫俊成

住吉の社に奉りける百首の歌の中に、同じ心を

春雨は軒のいと水つく%\と心ぼそくて日をもふるかな
106

前中納言定家

題志らず

春雨に木の葉亂れし村時雨それもまぎるゝ方はありけり
107

前大納言爲兼

さびしさは花よいつかの詠めして霞にくるゝ春雨のそら
108

從二位兼行

詠めやる山はかすみて夕暮の軒端の空にそゝぐはるさめ
109

藤原教兼朝臣

霞み暮るゝ空ものどけき春雨に遠き入相の聲そさびしき
110

徽安門院

晴れゆくか雲と霞のひま見えて雨吹きはらふはるの夕風
111

後伏見院御歌

春の御歌の中に

春風は柳の糸を吹きみだし庭よりはるゝゆふぐれのあめ
112

前大納言爲兼

題を探りて歌詠み侍りけるに、河上春月といふ事を

打ち渡す宇治の渡りの夜深きに川音澄みて月ぞかすめる
113

前大納言實明女

百首の歌奉りし時、春の歌

風になびく柳の影もそことなく霞更け行く春の夜のつき
114

永福門院

題志らず

何となく庭の梢は霞み更けているかた晴るゝ山の端の月
115

同院内侍

閨までも花の香深き春の夜の窓にかすめる入り方のつき
116

俊惠法師

きゞすを詠める

狩人の朝踏む小野の草若みかくろへ兼ねて雉子鳴くなり
117

人麿

題志らず

朝霧に志のゝに濡れて呼子鳥み船の山をなきわたる見ゆ
118

前大納言尊氏

喚子鳥を

人もなき深山の奥の呼子鳥いく聲鳴かばたれかこたへむ
119

太上天皇

百首の歌の中に

つばくらめ簾の外に數多見えて春日のどけみ人影もせず
120

儀子内親王

題志らず

春日影世は長閑にてそれとなく囀りかはす鳥のこゑ%\
121

後二條院御歌

春の御歌の中に

雲雀あがる山の裾野の夕暮にわかばの志ばふ春風ぞ吹く
122

永福門院

何となき草の花咲く野邊の春雲にひばりの聲も長閑けき
123

前大僧正慈鎭

春深き野邊の霞の下風に吹かれてあがるゆふひばりかな
124

前大納言爲家

千首の歌詠み侍りけるに

歸る雁羽根打ちかはす志ら雲の道行きぶりは櫻なりけり
125

從二位家隆

春の歌とて詠める

歸る雁秋來し數は知らねども寐ざめの空に聲ぞすくなき
126

藤原爲秀朝臣

歸雁を

別るらむ名殘ならでも春の雁哀なるべきあけぼのゝこゑ
127

永福門院内侍

入り方の月は霞のそこに更けてかへり後るゝ雁の一つら
128

康資王母

雁がねの花の折しも歸るらむ尋ねてだにも人はをしむに
129

皇太后宮大夫俊成

春日の社に奉りける百首の歌の中に、同じ心を

何となく思ひぞおくる歸る雁言づてやらむ人はなけれど
130

西行法師

題志らず

春になる櫻の枝は何となく花なけれどもなつかしきかな
131

俊頼朝臣

いまだ咲かざる花といふ事を

めぐむより氣色ことなる花なれば兼ねても枝の懷かしき哉
132

鴨長明

花を思ふ心を詠める

思ひやる心やかねて詠むらむまだ見ぬ花の面かげに立つ
133

前關白右大臣母

咲かぬ間の待ち遠にのみ覺ゆるは花に心の急ぐなるらし
134

朔平門院

春の歌の中に

咲き咲かぬ梢の花もおしなべてひとつ薫りにかすむ夕暮
135

永福門院右衛門督

花の歌とて

見るまゝに軒端の花は咲き添ひて春雨かすむ遠の夕ぐれ
136

前大納言爲兼

伏見院西園寺に御幸ありて花の歌人々に詠ませ給ひける時

宿からや春の心も急ぐらむ外にまだ見ぬはつざくらかな
137

讀人志らず

題志らず

打ちなびき春は來ぬらし山際の遠き梢の咲き行く見れば
138

人麿

見渡せば春日の野邊に霞立ち開くる花はさくらばなかも
139

鶯の木づたふ梅の移ろへばさくらの花のときかたまけぬ
140

中納言家持

櫻を

春雨にあらそひかねて我宿の櫻のはなは咲きそめにけり
141

後鳥羽院下野

寳治の百首の歌の中に、見花

山櫻またれ/\て咲きしより花に向はぬときの間もなし
142

民部卿爲定

春の歌に

三吉野の芳野の櫻咲きしより一日も雲のたゝぬ日ぞなき
143

光明峰寺入道前攝政左大臣

住捨てし志賀の花園しかすがに咲く櫻あれば春は來に鳬
144

從二位家隆

行く末の花かゝれとて吉野山誰れ白雲のたねをまきけむ
145

後京極攝政前太政大臣

後鳥羽院に五十首の歌召されける時、深山花

かへり見る山は遙かに重なりて麓の花も八重のしらくも
146

前中納言匡房

題志らず

白雲のやへたつ峯と見えつるは高間の山の花ざかりかも
147

貫之

延喜十四年、女一宮の屏風の歌

山のかひたなびき渡る白雲は遠きさくらの見ゆるなりけり
148

前中納言定家

春の歌とて

いつも見し松の色かは泊瀬山さくらに洩るゝ春の一しほ
149

後西園寺入道前太政大臣

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

山遠きかすみのにほひ雲の色花の外までかをるはるかな
150

權大納言公宗女

春の歌の中に

花薫る高嶺の雲の一むらは猶あけのこるしのゝめのそら
151

前參議雅有

花咲かぬ宿の梢もなかりけり都のはるはいまさかりかも
152

左兵衛督直義

花を

花見にと春はむれつゝ玉鉾の道行く人の多くも有るかな
153

貫之

延喜十六年、齋院の屏風に、人の花のもとに立ちて見たる所

山櫻よそに見るとてすがの根の永き春日をたち暮しつる
154

天慶四年、右大將の屏風に、山里に人の花見たる所

まだ知らぬ所までかく來て見れば櫻ばかりの花なかり鳬
155

從二位行家

寳治の百首の歌の中に、見花

櫻花あかぬ心のあやにくに見ても猶こそ見まくほしけれ
156

藤原爲秀朝臣

花の歌の中に

咲き滿ちて散るべくも非ぬ花盛薫るばかりの風は厭はず
157

永福門院右衛門督

伏見院花の頃折々に御幸有りて御覽ぜられけるに嵯峨にて詠み侍りける

眺め殘す花の梢もあらし山風よりさきにたづねつるかな
158

前中納言爲相

春の歌とて

御吉野の大宮所たづね見む古きかざしのはなやのこると
159

中務

櫻を詠める

いそのかみ故郷に咲く花なれば昔ながらに匂ひけるかな
160

貫之

承平五年内裏の御屏風に馬に乘りたる人の故郷と覺しき所に櫻の花見たる所

故郷に咲ける物から櫻花色はすこしもあせずぞありける
161

皇太后宮大夫俊成

大炊御門右大臣未だ納言に侍りける時三條の家の櫻盛りになりける頃人々歌詠み侍りけるに

君がすむ宿の梢の花ざかり氣色ことなるくもぞ立ちける

其の後いくばくの年も隔てず、近衛太皇太后宮、立后侍りけるとなむ。

162

前大納言爲氏

寳治の百首の歌に、翫花

櫻花いざや手ごとに手折りもて共に千歳の春にかざゝむ
163

普光園入道前關白左大臣

花下日暮と云へる心を

すがの根の永き日影を足びきの山の櫻にあかでくれぬる
164

藤原家經朝臣

永承五年賀陽院の歌合に、櫻を

さても猶あかずやあると山櫻花を常磐に見るよしもがな
165

西行法師

題志らず

同じくば月のをり咲け山櫻はな見る春の絶え間あらせじ
166

太上天皇

百首の歌に

薫り匂ひ長閑けき色を花にもて春にかなへる櫻なりけり
167

前左大臣

春の歌とて

長閑なる鶯の音に聞きそめて花にぞ春のさかりをば見る
168

法橋顯昭

誰にかも今日をさかりとつげやらむ一人見まうき山櫻哉
169

祝部成茂

年ごとに詠めぬ春はなけれどもあかぬは花の色や添ふらむ
170

壽成門院

今朝はなほ咲き添ふ庭の花盛移ろはぬ間を訪ふ人もがな
171

白川院御歌

寛治七年三月十日法勝寺の花御覽じけるついでに常行堂のまへにて、人々鞠つかうまつりけるに、京極前關白太政大臣鞠を奉るとて、尋ねと聞くに、誘はれぬと奏し侍りける御返し

山深く尋ねにはこでさくら花なにし心をあくがらすらむ
172

小侍從

高倉院の御時、内裏より女房數多誘なひて、上達部殿上人花見侍りけるに、右京大夫、折ふし風の氣ありてとて伴ひ侍らざりければ、花の枝に付けて遣しける

さそはれぬ心の程はつらけれど一人見るべき花の色かは
173

建禮門院右京大夫

返し

風を厭ふ花のあたりは如何とてよそながらこそ思遣りつれ
174

源道濟

題志らず

駒とめて見るにもあかず櫻花折りてかざゝむ心ゆくまで
175

前大納言爲家

旅人のゆきゝの岡は名のみして花に留まる春の木のもと
176

前參議爲實

あすか井の春の心は知らねども宿りしぬべき花の蔭かな
177

淨妙寺關白前右大臣

糸櫻の盛りに法勝寺を過ぐとて

立ち寄らで過ぎぬと思へど糸櫻心にかゝる春の木のもと
178

從二位爲子

花の歌あまた詠み侍りける中に

見ぬ方の木末いかにと此里の花にあかでも老をこそ思へ
179

藤原爲基朝臣

尋ね行く道も櫻を三吉野の花のさかりのおくぞゆかしき
180

大納言公重

百首の歌奉りし時

越えやらであかずこそ見れ春の日の長柄の山の花の下道
181

後伏見院御歌

遠村花と云ふ事を

櫻咲くとほぢの村の夕ぐれに花折りかざし人かへるなり
182

前大納言爲世

文保三年後宇多院に奉りける百首の歌の中に

暮れぬとて立ちこそ歸れ櫻狩なほ行くさきに花を殘して
183

伏見院御歌

花の御歌の中に

枝もなく咲き重なれる花の色に梢も重きはるのあけぼの
184

從二位兼行

盛りとは昨日も見えし花の色のなほ咲きかをる木々の曙
185

從三位親子

花なれやまだ明けやらぬ東雲の遠のかすみの奥深きいろ
186

從一位教良女

伏見院人々に花の歌數多よませさせ給ひけるに

山の端の月は殘れるしのゝめに麓の花のいろぞあけゆく
187

後伏見院御歌

春のあしたと云ふ事を

花の上にさすや朝日のかげ晴れて囀る鳥の聲も長閑けき
188

進子内親王

開け添ふ梢の花に露見えておとせぬ雨のそゝぐあさあけ
189

永福門院

夕花を

花の上に志ばし移ろふ夕附日入るともなしに影きえに鳬
190

從三位親子

伏見院の御時五十番歌合に、春夕を

つく%\とかすみて曇る春の日の花靜なるやどの夕ぐれ
191

前大納言家雅

同じ歌合に、春風を

吹くとなき霞の志たの春風に花の香深きやどのゆふぐれ
192

花山院御歌

題志らず

足引の山に入り日の時しもぞあまたの花は照り増りける
193

伏見院御歌

花の上の暮れ行く空に響きゝて聲に色あるいりあひの鐘
194

徽安門院

そことなき霞の色にくれなりて近き梢のはなもわかれず
195

進子内親王

山うすき霞の空はやゝ暮れて花の軒端ににほふつきかげ
196

從二位爲子

前大納言爲兼の家に歌合し侍りけるに、春夜を

花白き梢の上はのどかにてかすみのうちに月ぞふけぬる
197

前大納言忠良

千五百番歌合に

峯しらむ梢の空に影落ちてはなのゆき間にありあけの月
198

後鳥羽院御歌

春の御歌の中に

あたら夜のなごりを花に契りおきて櫻分け入る有明の月
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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