風雅和歌集

Fūga wakashū

作者複数 Various

風雅和歌集卷第三
春歌下

199

後嵯峨院御歌

西園寺に御幸ありて、翫花といふ題を講ぜられけるに

萬代の春日を今日になせりとも猶あかなくに花や散る覽
200

崇徳院御製

花の御歌の中に

年經れどかへらぬ色は春ごとに花に染めてし心なりけり
201

後光明照院前關白左大臣

花を尋ねて伴ひ侍りける人に次の日遣しける

今日も猶散らで心に殘りけりなれし昨日の花のおもかげ
202

從二位隆博

花の歌に

あぢきなくあだなる花の匂ひゆゑ浮世の春に染む心かな
203

修理大夫顯季

三月に閏ありける年よめる

常よりも長閑けく匂へ櫻花はるくはゝれる年の志るしに
204

前大僧正慈鎭

千五百番歌合に

春の心長閑けしとても何かせむ絶えて櫻のなき世なりせば
205

後西園寺入道前太政大臣

惜花と云ふ事を

老が身は後の春とも頼まねば花もわが世も惜まざらめや
206

伏見院御歌

持明院に移住ませ給て花の木共數多植添へられて三歳計の後花咲きたるを御覽じて

植渡す我が世の花もはるは經ぬまして舊木の昔をぞ思ふ
207

權中納言定頼

雨の中に花を思ふと云ふ事をよみ侍りける

雨のうちに散りもこそすれ花櫻折りて簪さむ袖はぬる共
208

俊惠法師

源師光の家にて人々歌よみ侍りけるに、花を

折らずとて散らでもはてじ櫻花この一枝は家づとにせむ
209

平忠盛朝臣

山家花をよめる

尋ね來る花もちりなば山里は最ど人めや枯れむとすらむ
210

藤原元眞

屏風の繪に旅人道行くに櫻の花の散る所

行きてだにいかでとく見む我宿の櫻は今日の風に殘らじ
211

中納言家持

題志らず

立田山見つゝ越えこし櫻花ちりか過ぎなむ我が歸るとき
212

二條院參河内侍

花の歌の中に

見る人の惜む心やまさるとて花をば風の散らすなりけり
213

藻壁門院但馬

寳治の百首の歌の中に、落花

雲まよふ風に天ぎる雪かとてはらへば袖に花の香ぞする
214

前中納言定家

後京極攝政左大將に侍りける時家に六百番歌合し侍りけるに、志賀山越をよめる

袖の雪空吹く風もひとつにて花ににほへる志賀の山ごえ
215

式子内親王

正治二年後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

今朝見れば宿の梢に風過て知られぬ雪のいくへともなく
216

皇太后宮大夫俊成女

千五百番歌合に

高砂の松のみどりも紛ふまで尾のへの風に花ぞちりける
217

前中納言爲相女

春の歌の中に

足柄の山のあらしの跡とめて花の雪ふむたけの志たみち
218

前大納言爲兼

落花をよめる

一志きり吹亂しつる風はやみて誘はぬ花も長閑にぞちる
219

入道二品親王法守

春風のやゝ吹きよわる梢より散り後れたる花ぞのどけき
220

顯親門院

院位におはしましける時、南殿の花の頃入らせ給ふべかりけるを、さはる事ありて程經侍りけるに、花の散りがたに奉られける

恨みばや頼めし程の日數をもまたで移ろふ花のこゝろを
221

院御歌

御返し

あだなれと咲き散る程はある物をとはれぬ花や猶恨む覽
222

伏見院御歌

花の頃北山に御幸あるべかりけるを、とゞまらせ給ひて次の日遣はさせ給ひける

頼めこし昨日の櫻ふりぬともとはゞやあすの雪の木の本
223

後西園寺入道前太政大臣

御返し

花の雪明日をも待たず頼め置きし其言の葉の跡もなければ
224

從二位爲子

落花をよみ侍りける

梢よりよこぎる花を吹きたてゝ山本わたる春のゆふかぜ
225

徽安門院

吹きわたる春の嵐の一はらひあまぎる花にかすむ山もと
226

正三位知家

長らへむ物とも志らで老が世に今年も花の散るを見る覽
227

後鳥羽院御歌

春の御歌の中に

我が身世に布留の山邊の山櫻移りにけりな詠めせしまに
228

大納言經信

宇治にて、山家見花と云ふ心を

白雲の八重たつ山のさくら花散り來る時や花と見ゆらむ
229

入道二品親王尊圓

百首の歌奉りしに

櫻花うつろふ色は雪とのみふるの山風吹かずもあらなむ
230

從二位宣子

落花を

いかにせむ花も嵐もうき世哉誘ふもつらし散るも恨めし
231

鎌倉右大臣

春ふかみ嵐の山の櫻ばな咲くと見し間に散りにけるかな
232

左京大夫顯輔

散る花を惜むばかりや世の中の人の心のかはらざるらむ
233

安嘉門院高倉

寳治の百首の歌に惜花といふ事を

一すぢに風も恨みじ惜めどもうつろふ色は花のこゝろを
234

前參議教長

題志らず

散らざりしもとの心は忘られてふまゝく惜しき花の庭哉
235

前中納言定家

百首の歌に

散りぬとてなどて櫻を恨み劔散らずは見まし今日の庭かは
236

從三位親子

春の歌とて

菫咲くみちの志ばふに花散りて遠かたかすむ野邊の夕暮
237

永福門院内侍

散り殘る花落ちすさぶ夕暮の山の端薄きはるさめのそら
238

前中納言清雅

閑庭落花を

つく%\と雨ふる郷のにはたづみ散りて波よる花の泡沫
239

藤原爲顯

題志らず

吹きよする風にまかせて池水の汀にあまる花の志らなみ
240

院御歌

百首の御歌の中に

梢より落ち來る花ものどかにて霞におもきいりあひの聲
241

前大納言公任

三井寺へまかりけるかへさに白川わたりにもとすみ侍りける所へよりたりけるに花の皆散りにければ

故郷の花はまたでぞ散りにける春より先に歸ると思へば
242

皇太后宮大夫俊成

花留客と云ふ事を

尋ね來る人は都をわするれどねにかへり行く山ざくら哉
243

太宰大貳重家

花の歌の中に

根に歸る花とは聞けど見る人の心の内にとまるなりけり
244

前參議爲實

散る花は浮草ながらかたよりて池のみさびに蛙鳴くなり
245

永福門院

瀧つ瀬や岩もとしろくよる花は流るとすれど又かへるなり
246

從三位頼政

水上落花と云ふ事を

芳野川岩瀬の波による花やあをねが峰に消ゆるしらくも
247

法橋顯昭

題志らず

駒とめて過ぎぞやられぬ清見潟ちりしく花や波の關もり
248

後伏見院御歌

雨中花を

雨しぼるやよひの山の木がくれに殘るともなき花の色哉
249

大納言經信

山花末落と云ふ事を

うらみじな山の端かげの櫻花遲く咲けども遲く散りけり
250

道因法師

花の一枝散り殘れるを人のそれ折りてと云ひければ詠める

風だにも誘ひも果てぬ一枝のはなをば如何折りて歸らむ
251

前中納言定家

題志らず

おもだかや下葉に交る燕子花はな踏み分けてあさる白鷺
252

院御歌

百首の御歌に

やぶし分かぬ春とや汝も花の咲く其名も知らぬ山の下草
253

安嘉門院四條

苗代を

山川をなはしろ水にまかすれば田面にうきて花ぞ流るゝ
254

儀子内親王

櫻散る山した水をせき分けて花に流るゝ小田のなはしろ
255

九條左大臣女

春の田のあぜの細道たえまおほみ水せきわくる苗代の頃
256

太上天皇

百首の歌の中に

みなそこの蛙のこゑも物ふりて木深き池の春のくれがた
257

後鳥羽院御歌

建保四年百首の御歌に

せきかくる小田のはなしろ水澄てあぜこす浪に蛙鳴く也
258

西行法師

春の歌の中に

ますげおふるあら田に水を任すれば嬉し顏にも鳴く蛙哉
259

殷富門院大輔

みがくれてすだく蛙の聲ながら任せてけりな小田の苗代
260

前大僧正慈鎭

蛙鳴苗代と云ふ事をよめる

春の田の苗代みづを任すればすだく蛙のこゑぞながるゝ
261

伏見院御歌

題志らず

小夜ふかく月はかすみて水落つる木陰の池に蛙鳴くなり
262

中務

山吹の花のさかりは蛙なく井手にや春も立ちとまるらむ
263

皇太后宮大夫俊成

太神宮へ奉りける百首の歌に、山吹を

昔たれうゑはじめたる山ぶきの名を流しけむ井手の玉水
264

後鳥羽院御歌

春の御歌の中に

芳野川櫻流れし岩間よりうつればかはるやまぶきのいろ
265

大納言公重

百首の歌奉りし時

末おもる花は宛がら水にふして河瀬に咲ける井手の山吹
266

順徳院御歌

百首の御歌に

河のせに秋をや殘すもみぢ葉のうすき色なる山ぶきの花
267

壬生忠見

屏風に井手の山吹むら/\みゆる家の川の岸にも所々山ぶきあり、をとこまがきによりてせをそこ云ひたる所

折りてだに行べき物を餘所にのみ見てや歸らむ井手の山吹
268

藤原元眞

朱雀院の御屏風の繪に池のほとりに山吹櫻さけり。女簾をあげて見てたてり。

我宿の八重山吹は散りぬべし花のさかりを人の見にこぬ
269

讀人志らず

題志らず

鶯の來鳴く山吹うたかたも君が手触れずはな散らめやも
270

藤原興風

亭子院の歌合に

吹く風に止りもあへず散る時はやへ山吹の花もかひなし
271

後鳥羽院御歌

春の御歌の中に

山吹の花の露添ふ玉川のながれてはやきはるのくれかな
272

前大僧正慈鎭

日吉の社に奉りける百首の歌に

春深き野寺立ち籠むる夕霞つゝみのこせる鐘のおとかな
273

伏見院御歌

暮春の心を

霞渡るとほつ山べの春の暮なにのもよほす哀れともなき
274

前大納言公任

三條關白籠りゐて侍りける頃家の藤の咲きはじめたるを見てよみ侍りける

年毎に春をも知らぬ宿なれど花咲きそむる藤もありけり
275

前大僧正覺圓

朝藤と云ふ事を

むらさきの藤咲くころの朝曇つねより花の色ぞまされる
276

俊頼朝臣

題志らず

吹く風にふちこの浦を見渡せば波は梢の物にぞありける
277

兵部卿成實

藤の花思へばつらき色なれや咲くと見し間に春ぞ暮ぬる
278

永福門院

春の御歌の中に

散りうける山の岩根の藤つゝじ色に流るゝたに川のみづ
279

前大納言實明女

百首の歌奉りし時

躑躅咲く片山蔭の春の暮それとはなしにとまるながめを
280

前大僧正慈鎭

樵路躑躅といふ事を

山人のつま木にさせる岩躑躅心ありてや手折りくしつる
281

後伏見院御歌

題志らず

何となく見るにも春ぞ慕はしき芝生に交る花のいろ/\
282

前大納言爲兼

暮春浦と云ふ事を

春の名殘ながむる浦の夕なぎに漕ぎ別れ行く船も恨めし
283

太上天皇

百首の歌の中に

此頃の藤山吹の花ざかりわかるゝはるもおもひおくらむ
284

進子内親王

春もはやあらしの末に吹きよせて岩根の苔に花ぞ殘れる
285

藤原教兼朝臣

春の歌の中に

花の後も春のなさけは殘りけり有明かすむ志のゝめの空
286

殷富門院大輔

春の暮によめる

身にかへて何歎くらむ大かたは今年のみやは春に別るゝ
287

藤原長能

行きて見む深山がくれの遲櫻あかず暮れぬる春の形見に
288

俊頼朝臣

三月晦日人々歌よみけるに

留らむ事こそ春の難からめ行くへをだにも知せましかば
289

皇太后宮大夫俊成

彌生のつごもりに、花はみな四方の嵐に誘はれてひとりや春の今日は行くらむと法印靜賢申して侍りけるに

惜しと思ふ人の心し後れねばひとりしもやは春の歸らむ
290

貫之

三月盡の心を

來む年も來べき春とは知り乍ら今日の暮るゝは惜くぞ有ける
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Last Modified: Thursday, January 09, 2014
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