金葉和歌集

Kin'yō wakashū

作者複数 Various

金葉和歌集卷第十
雜部下

642

藤原基俊

公實卿かくれ侍りてのちかの家にまかりたりけるに梅の花さかりにさきけるをみて枝にむすびつけて侍りける歌

昔見しあるじ顏にも梅がえの花だにわれに物がたりせよ
643

中納言實行

かへし

ねにかへる花の姿の戀しくば唯この本をかたみとはみよ
644

平基綱

人々あまたぐして花見ありきてかへりてのち風おこりて臥したりけるにぐして花見ける人のもとよりなに事にかなど尋ねて侍りければつかはしける

櫻ゆゑ厭ひし風の身にしみて花より先にちりぬべきかな
645

藤原有祐朝臣

後三條院かくれおはしまして後五月五日一品宮の御帳にさうぶ葺かせ侍りけるにさくらのつくり花のさゝれたりけるを見てよめる

菖蒲草ねをのみかくる世の中にをりたがへたる花櫻かな
646

六條右大臣

北の方うせ侍りて後天王寺にまゐりけるみちにてよめる

難波江の芦の若根の志げゝれば心もゆかぬ舟出をぞする
647

康資王母

郁芳門院かくれおはしまして又のとしの秋知陰がりつかはしける

うかりしに秋は盡ぬと思ひしを今年も虫の音社なかるれ
648

藤原知陰

かへし

虫の音はこの秋しもぞ鳴きまさる別の遠くなる心地して
649

源俊頼朝臣

下臈にこえられて歎き侍りけるころよめる

せきもあへぬ涙の川は早けれど身のうき草は流れざり鳬
650

讀人志らず

律師實源がもとにしらぬ女房の佛供養せむとて[1]よばぜ7侍りければまかりてみればこともかなはずげなるけしきをみてかたのごとくいそぎくやうして立ちける程にすだれの内より女ばう手づからきぬ一へとまきゑの手箱をさし出したりければ從僧してとらせ歸りてみれば志ろがねの箱のうちにかきて入れたりける歌

玉匣かけごに塵もすゑざりし雙親ながらなき身とをしれ
651

大路に子をすてゝ侍りけるおしくゝみにかきつけ侍りける歌

身に勝る物なかりけり嬰子はやらむ方なく悲しけれども
652

藤原知陰母

阿波守知綱におくれ侍りけるころながされたりける人のゆるされて歸りたりけるを聞きてよめる

流れてもあふせありけり涙河きえにし沫をなにゝ譬へむ
653

讀人志らず

心地例ならず侍りけるころ人のもとよりいかゞなど申したりければよめる

呉竹のふし沈みぬる露の身もとふ言の葉に起ぞゐらるゝ
654

藤原通宗朝臣

範永の朝臣出家しぬときゝて能登守にてはべりけるころ國よりいひ遣はしける

よそ乍世を背きぬと聞くからに越路の空は打時雨れつゝ
655

律師長濟かくれてのち母の其あつかひをしてありける夜の夢にみえける歌

垂乳めの歎きをつみて我はかく思ひの下になるぞ悲しき
656

大藏卿匡房

顯仲卿女子におくれてなげき侍りけるころ程經てとひに遣はすとてよめる

その夢をとはゞ歎きや勝るとて驚かさでも過ぎにける哉
657

藤原賢子

從三位藤原賢子れいならぬ事ありてよろづ心ぼそくおぼえけるに人の許よりいかゞなど言ひて侍りければよめる

古は月をのみこそ眺めしに今は日をまつわが身なりけり
658

權僧正永縁

身まかりてのち久しうなりにける母を夢にみてよめる

夢にのみ昔の人をあひみれば覺むる程こそ別れなりけれ
659

讀人志らず

人のむすめ母ものへまかりたりける程におもき病を志てかくれなむと志ける時かきおきて身まかりにける歌

露の身の消も果てなば夏草の母いかにして逢はむとす覽
660

和泉式部

小式部内侍うせてのち上東門院より年ごろ給はりけるきぬをなき跡にも遣したりけるに小式部内侍と書き附けられたるを見てよめる

諸共に苔の下には朽ちずして埋もれぬ名をみるぞ悲しき
661

平忠盛朝臣

志たしき人におくれてわざのことはてゝ歸り侍りけるによめる

今ぞ志る思ひの果は世中のうき雲にのみまじるものとは
662

藤原資陰

陽明門院かくれまして後御わざの事果てゝ又の日雲のたなびけるをみてよめる

定なき世をうき雲ぞあはれなるたのみし君が烟と思へば
663

僧正行尊

白河院の女御かくれ給ひて後かの家の南面の藤の花さかりに咲きたりけるをみてよめる

草木まで思ひけりともみゆるかな松さへ藤の衣きたれば
664

橘元任

兼房の朝臣重服になりてこもりゐて侍りけるに出??辨がもとよりとぶらひたりけるを是が返しせよと申しければよめる

悲しさの其夕暮の儘ならばあリへて人に問はれましやは
665

能因法師

範國の朝臣にぐして伊豫國に罷りたりけるに正月より三四月までいかにも雨のふらざりければなはしろもせでよろづに祈りさわぎけれどかなはざりければ守、能因歌よみて一宮にまゐらせて雨祈れと申しければまゐりて祈り申しける歌

天の河苗代水にせきくだせあま降りますかみならばかみ

神惑ありて大雨ふりて三日三夜やまずと家集にみえたり。

666

攝政左大臣

心經供養してその心を人々によませ侍りけるに

色もかも空しととける法なれど祈る驗はありとこそきけ
667

三宮

注文のありけるをさとなる女房のもとより宮に申さずとも忍びてあからさまにとりてなど申したりけるをほのきゝてよませ給ひける

見し儘に我は悟をえてしかば知せでとると知ざらめやは
668

僧正行尊

月のあかゝりける夜瞻西上人のもとへ遣はしける

いさぎよき空の景色を頼むかなわれ惑はすな秋の夜の月
669

源行宗朝臣

例ならぬ事ありけるころいかゞなどおもひつゞけて心細さに

いかにせむ憂世の中にすみ竈の果は煙となりぬべき身を
670

靜嚴法師

實範聖人山寺にこもりゐぬと聞きてつかはしける

心には厭ひはてつと思ふらむあはれ何處も同じうき世を
671

選子内親王

八月ばかりに月あかゝりける夜あみだの聖のとほりけるを呼びよせてさとなる女房にいひ遣しける

あみだ佛といふなる聲に夢さめて西へ傾ぶく月を社みれ
672

皇后宮肥後

依釋迦遺教念阿彌陀といふ事をよめる

教へおきて入りにし月の微りせば爭で心を西にかけまし
673

清海上人後生を猶おそり思ひてねぶり入りたりけるに枕がみに僧の立ちてよみかけゝる歌

かく計りこちてふ風のふくをみて塵の疑を殘さずもがな
674

覺樹法師

普賢十願の文に願我臨欲命終時といへる文をよめる

命をも罪をも露に譬へけり消えば共にや消えむとすらむ
675

覺譽法師

衆罪如霜露といへる文をよめる

罪はしも露も殘らず消えぬらむ長き夜すがらくゆる思に
676

僧正靜圓

弟子品の心をよめる

吹き返すわしの山風なかりせば衣のうらの玉をみましや
677

瞻西上人

提婆品の心をよめる

法の爲擔ふ薪にことよせてやがて浮世をこりぞ果てぬる
678

皇后宮權大夫師時

けふぞ志るわしの高嶺にてる月を谷川くみし人の影とは
679

勝超法師

龍女成佛をよめる

渡つ海の底の藻屑と見し物をいかでか空の月となるらむ
680

權僧正永縁

涌出品の心をよめる

垂乳根は黒髮ながらいかなれば此まゆ白き糸となるらむ
681

覺雅法師

不輕品の心をよめる

ありがたき法をひろめし聖にぞ打ちみし人も導かれける
682

懷尋法師

藥王品の心をよめる

憂身をし渡すときけば蜑小舟のりに心をかけぬ日ぞなき
683

權僧正永縁

人のもとにて經供養志けるに五百弟子授記品の心を説きけるに繋寶珠のことのたふとかりけるよしをよみてかづけものにむすびつけて侍りけるをみてかへしによみ侍りける

いかにして衣の玉を志りぬ覽思ひもかけぬ人もあるよに
684

懷尋法師

依他の八つのたとひを人々よみけるに此身如幻といへる事をよめる

いつをいつと思たゆみて陽炎のかげろふ程の世を過す覽
685

澄成法師

常住心月輪といへる事をよめる

世と共に心の中にすむ月をありと志るこそはるゝ也けれ
686

源俊頼朝臣

極樂をおもふといへる事を

よもの海の波に漂ふ水屑をも七重の綱にひきなもらしそ
687

珍海法師母

醍醐の舎利會に花のちるをみてよめる

けふも猶惜みやせまし法の爲ちらす花ぞと思ひなさずは
688

和泉式部

地獄の繪に劔のえだに人のつらぬかれたるをみてよめる

淺ましや劔の枝の撓むまでこは何のみのなれるなるらむ
689

田口重如

人のもとに侍りにけるに俄にたえいりて失せなむとしければ志とみのもとにかきいれて大路におきたりけるに草の露のあしにさはる程郭公のなくを聞きていきのしたによめる

草の葉にかどでは志たり郭公志での山路もかくや露けき
690

かくてつひにおちいるとてよめる

たゆみなく心をかくる彌陀ぼとけ人遣ならぬ誓たがふな
691

源俊頼朝臣

障子のゑに天王寺の西門にて法師の舟にのりてにしざまにこぎ離れてゆくかたかける所をよめる

阿彌陀佛と唱ふる聲を楫にてや苦しき海を漕ぎ離るらむ
692

連歌

永成法師

ゐたりける所の北のかたに聲なまりたる人のものいひけるを聞きて

あづま人の聲こそ北に聞ゆなれ

律師慶範

みちの國よりこしにやあるらむ
693

頼經法師

もゝぞのゝ花をみて

桃園のもゝの花こそさきにけれ

公資朝臣

うめ津のうめはちりや志ぬらむ
694

神主成助

賀茂の御社にてものつく音の志けるをきゝて

志めの内に杵の音こそ聞ゆなれ

行重

いかなる神のつくにかあるらむ
695

僧正源覺

宇治にて田の中に老いたる男のふしたりけるをみて

春の田にすきいりぬべき翁かな

宇治入道前太政大臣

かのみなくちにみづをいればや
696

觀暹法師

日の入るを見て

日のいるは紅にこそ似たりけれ

平爲成

あかねさすともおもひけるかな
697

永源法師

田中に馬のたてるをみて

田にはむこまは畔にぞありける

永成法師

苗代の水にはかげとみえつれど
698

讀人志らず

かはらやをみて

瓦屋の板ぶきにてもみゆるかな

助成

つちくれしてやつくりそめけむ
699

爲助

志かの島をみて

つれなくたてる志かのしまかな

國忠

弓張の月のいるにもおどろかで
700

頼綱朝臣

宇治へまかりけるみちにて日頃雨のふりければ水の出でゝ賀茂川を男のはかまをぬぎて手にさゝげてわたるをみて

かも川をつる脛にても渡るかな

信綱

かりばかまをばをしとおもひて
701

讀人志らず

あゆをみて

なにゝあゆるをあゆといふらむ

匡房卿妹

鵜舟にはとりいれし物を覺束な
702

神主忠頼

和泉式部がかもにまゐりけるにわらうづにあしをくはれてかみをまきたりけるをみて

千早振かみをばあしにまく物か

和泉式部

これをぞしものやしろとはいふ
703

源頼光朝臣

源頼光が但馬守にてのぼりける時舘の前にけた川といふ川あり。かみより舟のくだりけるを蔀あくるさぶらひ志てとはせければ蓼と申すものかりてまかるなりといふをきゝて口ずさびにいひける

たでかるふねのすぐるなりけり

相摸母

これを連歌にきゝなして

朝まだきからろの音の聞ゆるは
704

讀人志らず

花莖はちるてふことぞなかりける

前太政大臣家木綿四手

かぜのまに/\うてばなりけり
705

讀人志らず

すまひぐさといふ草のおほかりけるをひきすてさせけるをみて

ひくにはよわきすまひぐさかな

とる手には儚くうつる花なれど
706

鳥を籠に入れて侍りけるが横雨にぬれけるをみて

雨ふれば雉も志とゞになりに鳬

かさゝぎならばかゝらましやは
707

律師慶

簔むしのうめの花咲きたる枝にあるをみて

うめのはながさきたるみのむし

まへなるわらはのつけゝる

雨よりは風ふくなとや思ふらむ
708

頼算法師

鵜の水にうかべるをみて

あらふとみれどくろきとりかな

讀人志らず

さも社は住の江ならめよと共に
709

讀人志らず

たきの音のよるまさりけるをきゝて

よるおとすなりたきのしらいと

くり返し晝も夜とはみゆれども
710

成光

柱をみて

おくなるをもやはしらとはいふ

觀暹法師

見渡せば内にも戸をばたてゝ鳬
711

源俊頼朝臣

七十になるまでつかさもなくて萬にあやしき事をおもひつゞけて

なゝそぢに滿ちぬる潮の濱楸久しくよにも埋れぬるかな
712

卷第七 戀歌上

藤原爲眞朝臣

攝政左大臣の家にて戀の心をよめる

逢ふことの無きを浮田の杜に住む呼小鳥こそ我身なりけれ
713

藤原親隆朝臣

頼めて逢はぬ戀

戀ひ死なで心づくしに今までも頼むればこそいきの松原

在水鳥下夢にだに上

714

隆覺法師

山の歌合に戀の心を

身の程を思ひ知りぬる事のみやつれなき人の情なるらむ

在面影下淺ましや上

715

淋賢法師

戀の心を

あゝといふこともしらばや紅の泪に染まるそでやかへると

在逢見ての下、いつとなく上

716

卷第八 戀歌下

讀人志らず

題志らず

最攻て戀しき時は播磨なる飾磨に染むるかちよりぞくる

在逢ふ事の下、逢ふ事は上

右之歌在異本

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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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