新勅撰和歌集

Shin Chokusen wakashū

作者複数 Various

新勅撰和歌集卷第十九
雜歌四

1267

中納言兼輔

亭子院大内山におはしましける時勅使にて參りて侍りけるに麓より雲の立ちのぼりけるをみてよみ侍りける

志ら雲の九重にたつ峯なれば大内山といふにぞありける
1268

讀人志らず

題志らず

山城のくせのさぎ坂神代より春はもえつゝ秋はちりけり
1269

久邇の都のあれにけるを見てよみ侍りける

みかの原くにの都はあれにけり大宮人のうつりいぬれば
1270

皇太后宮大夫俊成

春日の社に百首の歌よみて奉りけるに、橋の歌

都いでゝ伏見を越ゆる明方はまづうちわたすひつ河の橋
1271

内大臣

百首の歌よみ侍りけるに、早秋の歌

吹きそむる音だにかはれ山城のときはの森の秋のはつ風
1272

僧正行意

建保四年百首の歌奉りける時

山城のときはの森の夕時雨そめぬみどりに秋ぞ暮れぬる
1273

寂身法師

名所の歌よみ侍りけるに

志た草もいかでか色の變るらむ染めぬときはの松の雫に
1274

眞昭法師

飛鳥河かはせの霧も晴れやらでいたづらに吹く秋の夕風
1275

讀人志らず

題志らず

世中はなど大和なるみなれ河見馴れそめてぞあるべかりける
1276

中納言家持

千鳥なく佐保の川瀬の清きせを駒うち渡しいつか通はむ
1277

入道前太政大臣

春は花ふゆは雪とて志ら雲の絶えずたなびくみ吉野の山
1278

正三位家隆

いにしへの幾世の花に春くれて奈良の都の移ろひぬらむ
1279

源家長朝臣

前關白の家の歌合に名所月

何處にもふりさけ今や三笠山もろこしかけておつる月影
1280

後京極攝政前太政大臣

百首の歌よみ侍りける

久かたの雲ゐに見えしいこま山春は霞のふもとなりけり
1281

讀人志らず

題志らず

いとまあらば拾ひに行かむ住の江の岸によるてふ戀忘貝
1282

和泉式部

住吉の有明の月をながむればとほざかりにし影ぞ戀しき
1283

一條右大臣恒

亭子院の御供に仕うまつりて住吉の濱にてよめる

住吉の浦に吹きあぐる白浪ぞ汐滿つときの花と咲きける
1284

太宰權帥公頼

同じみゆきに難波の浦にてよみ侍りける

難波潟志ほ滿つ濱の夕暮はつまなきたづの聲のみぞする
1285

讀人志らず

謙徳公に遣しける

思ふこと昔ながらの[19]はし橋19ふりぬる身こそ悲しかりけれ
1286

正三位家隆

名所の歌奉りける時、あしの屋

短夜のまだふしなれぬ蘆の屋のつまも顯はに明くる東雲
1287

藤原行能朝臣

布引瀧をよめる

布引の瀧の白糸わくらばにとひくる人もいくよへぬらむ
1288

入道前太政大臣

百首の歌に紅葉をよみ侍りける

下葉まで心のまゝにそめてけり時雨にあまる神なびの森
1289

安貴王

伊勢國に御幸の時よみ侍りける

伊勢の海おきつ白浪花にがも包みていもが家づとにせむ
1290

正三位家隆

戀の歌よみ侍りける中に

いせの海の蜑のまてがたまて暫し恨に浪の隙はなくとも
1291

大藏卿有家

名所の歌奉りけるに、鈴鹿山

秋深くなりにけらしな鈴鹿山紅葉は雨と降りまがひつゝ
1292

家長朝臣

春浦月といへる心をよみ侍りける

梓弓いちしの浦の春の月海士のたくなはよるも引くなり
1293

中務

志かすがのわたりにてよみ侍りける

ゆけばあり行ねば苦し志かすがの渡りにきてぞ思たゆたふ
1294

正三位家隆

前關白の家の歌合に名所月をよみ侍りける

光そふ木のまの月におどろけば秋もなかばのさやの中山
1295

藤原光俊朝臣

すみわたるひかりも清し白妙の濱名のはしの秋のよの月
1296

讀人志らず

題志らず

戀しくば濱名の橋を出でゝ見よ下ゆく水に影やとまると
1297

大中臣能宣朝臣

平兼盛するがのかみになりて下り侍りける時餞し侍るとてよめる

ゆき歸り手向するがの富士の山煙も立たぬ君を待つらし
1298

仁和寺二品法親王守覺

家の五十首の歌

富士の嶺はとはでも空に知られ鳬雲より上にみゆる白雪
1299

從三位範宗

名所の百首の歌奉りける時よめる

よと共にいつかは消えむ富士の山烟になれてつもる白雪
1300

相摸

題志らず

いつとなく戀するがなる有渡濱の疎くも人になり増る哉
1301

後京極攝政前太政大臣

百首の歌に

足柄の關路こえゆく志のゝめに一むらかすむうき島が原
1302

小町

題志らず

武藏野のむかひの岡の草なればねを尋ねても哀とぞ思ふ
1303

讀人志らず

葛飾のまゝの浦まをこぐ舟のふな人さわぐ浪たつらしも
1304

前大僧正慈圓

かつしかの昔のまゝのつぎ橋をわすれずわたる春霞かな
1305

能因法師

常陸にまかりてよみ侍りける

よそにのみ思ひおこせし筑波ねの峯の白雪けふみつる哉
1306

清原元輔

天祿元年大甞會悠紀方の御屏風の歌

唐崎の濱のまさごの盡くるまで春の名殘は久しからなむ
1307

前大僧正慈圓

山にのぼりける道にて月をみてよみ侍りける

大たけの峯ふく風に霧はれてかゞみの山の月ぞくもらぬ
1308

鎌倉右大臣

題志らず

春きては花とかみえむおのづから朽木の杣にふれる白雪
1309

參議雅經

花さかでいくよの春にあふみなる朽木のそまの谷の埋木
1310

後京極攝政前太政大臣

伊勢の勅使にて甲賀のうまやにつき侍りける日

遙なるみかみの島をめにかけていくせ渡りぬやすの河浪
1311

讀人志らず

題志らず

今更にさらしな河の流れてもうき影見せむ物ならなくに
1312

寂蓮法師

とくさ苅るきその麻衣袖ぬれて磨かぬ露も玉と置きけり
1313

源有教朝臣

信濃國に罷りける人にたき物おくり侍りける

忘るなよあさまのたけの煙にも年へて消えぬ思ありとは
1314

讀人志らず

題志らず

陸奥にありといふなる玉河の邂逅にだに逢ひ見てしがな
1315

源信明朝臣

陸奥守に侍りける時忠義公のもとに申しおくり侍りける

あけくれは籬の島をながめつゝ都戀しき音をのみぞ鳴く
1316

讀人志らず

題志らず

つらきをも岩での山の谷に生ふる草の袂ぞ露けかりける
1317

清輔朝臣

名所の歌あまたよみ侍りけるに

ふる里の人にみせばや白浪のきくよりこゆる末のまつ山
1318

祝部成重

題志らず

心ある海士の藻汐木たきすてゝ月にぞあかす松がうら島
1319

寂延法師

寄露戀をよめる

忍山木の葉志ぐるゝ下草にあらはれにける露のいろかな
1320

平政村

題志らず

宮城野の木のしたふかき夕露も涙にまさる秋やなからむ
1321

信明朝臣

天暦の御時、屏風の歌

昔より名にふりつめる白山の雲居の雪は消ゆるともなし
1322

大納言師頼

百首の歌奉りける、雪の歌

かき暮し玉ゆらやまずふる雪のいくよ積りぬこしの白山
1323

讀人志らず

題志らず

朝毎に石見の河のみを絶えず戀しき人にあひ見てしがな
1324

内大臣

前關白の家の歌合に名所月といへる心を

夕なぎに明石のとより見渡せば大和しまねを出づる月影
1325

大納言旅人

題志らず

鞆の浦のいその室の木みる毎に逢見し妹は忘られむやは
1326

後京極攝政前太政大臣

浪高きむしあけの瀬戸に行く船のよるべ知せよ沖つ汐風
1327

入道前太政大臣

春秋の雲居の雁もとゞまらずたが玉章のもじのせきもり
1328

讀人志らず

妹がため玉を拾ふときの國の由良のみ崎にこの日暮しつ
1329

藻刈舟沖漕來らし妹がしまかたみの浦にたづかけるみゆ
1330

正三位家隆

時しあれば櫻とぞ思ふ春風のふきあげの濱にたてる白雲
1331

前參議教長

名所の歌よみ侍りけるに

浪よする吹上のはまの濱風に時しもわかぬ雪ぞつもれる
1332

權中納言國信

堀河院に百首の歌奉りける時、山の歌

淺みどり霞わたれる絶間よりみれどもあかぬ妹脊山かな
1333

入道前太政大臣

百首の歌に眺望の心をよみ侍りける

和田の原なみと一つにみくまのゝ浦の南は山のはもなし
1334

七條院大納言

題志らず

みくまのゝ浦わの松の手向草いくよかけきぬ浪の白ゆふ
1335

寂蓮法師

後京極攝政の家の百首の歌に草の歌十首よみ侍りける

風吹けば濱松がえの手向草いく代までにか年のへぬらむ
1336

中院入道右大臣

家に十首の歌よみ侍りけるに晩霞隔浦といへる心をよみ侍りける

淡路島とわたる舟やたどるらむ八重たちこむる夕霞かな
1337

前内大臣

和歌所の歌合に海邊霞をよみ侍りける

あはぢしま志るしの煙みせわびて霞をいとふ春の舟びと
1338

讀人志らず

題志らず

志賀の蜑の煙やきたてやく鹽のからき戀をも我はする哉
1339

志賀の蜑のめかり鹽やき暇なみ櫛笥の小櫛とりもみなくに
1340

前大僧正慈圓

霞志く松浦の沖にこぎ出でゝもろこし迄の春を見るかな
1341

正三位知家

秋山鹿といへる心をよみ侍りける

あさぢ山色かはり行く秋風にかれなで鹿の妻を戀ふらむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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