新勅撰和歌集

Shin Chokusen wakashū

作者複数 Various

新勅撰和歌集卷第二十
雜歌

1342

源俊頼朝臣

源政長朝臣の家にて人々歌よみ侍りけるに初冬述懷といへる心をよめる

やまざとは 冬こそことに かなしけれ 峯吹きまよふ 木がらしの 戸ぼそを叩く こゑ聞けば やすき夢だに むすばれず 時雨とともに かたをかの 正木のかづら ちりにけり 今はわが身の なげきをば 何につけてか なぐさめむ 雪だにふりて しもがれの 草葉のうへに つもらなむ 其につけてや あさゆふに わがまつ人の われを待つらむ
1344

返し歌

幾返り起きふし志てか冬の夜の鳥の初音を聞きそめつ覽
1345

皇太后宮大夫俊成

久安百首の歌奉りける長歌

志きしまや やまと島ねの かぜとして 吹き傳へたる ことの葉は 神の御代より かはたけの 世々に流れて 絶えせねば 今もはこやの やまかぜの 枝もならさず しづけさに むかしの跡を たづぬれば 峰の木ずゑも かげしげく よつの海にも なみ立たず 和歌のうら人 かずそひて 藻汐のけぶり 立ちまさり 行く末までの ためしをぞ 島のほかにも きこゆなる これを思へば きみが代に あふくま河は うれしきを みわだに懸る うもれ木の しづめることは からびとの みよ迄あはぬ なげきにも 限らざりける 身のほどを 思へばかなし かすがやま 峯のつゞきの まつがえの いかに指ける すゑなれや きたの藤なみ かけてだに 云にもたらぬ しづえにて した行く水の こされつゝ いつゝの品に としふかく 十とてみつに へにしより よもぎの門に さしこもり みちのしば草 おひはてゝ 春のひかりは こととをく 秋はわが身の うへとのみ つゆけき袖を いかゞとも とふ人もなき まきの戸に 猶ありあけの つきかげを まつことがほに ながめても 思ふこゝろは おほぞらの 空しき名をば おのづから 殘さむことも あやなさに なにはのことも 津のくにの 葦のしをれの 刈りすてゝ すさびにのみぞ なりにしを きし打つ浪の たちかへり かゝるみことも かしこさに 入江のもくづ かきつめて とまらむ跡は みちのくの 忍ぶもぢずり みだれつゝ 忍ぶばかりの ふしやなからむ
1345

返し歌

山川のせゞのうたかた消えざらばしられむ末の名社惜けれ
1346

清輔朝臣

あしねはふ うき身の程や つれもなく 思ひもしらず すぐしつゝ ありへける社 うれしけれ 世にも嵐の やまかげに たぐふ木葉の ゆくへなく 成なましかば まつが枝に 千世に一だび 咲くはなの 稀なることに いかでかは 今日は近江に ありといふ くち木の杣に くちゐたる 谷のうもれ木 なにごとを 思ひいでにて くれたけの 末の世までも しられまし うらみを殘す ことはたゞ とわたる船の とりかぢの 取もあへねば 置くあみの しづみ思へる こともなく 木の下がくれ 行くみづの 淺きこゝろに まかせつゝ かき集めたる くちばには 由もあらぬに 伊勢の海の あまのたく繩 ながき世に とゞめむことぞ やさしかるべき
1347

上西門院兵衞

はるははな 秋はもみぢの いろ/\に 心にそめて すぐせども 風にとまらぬ はかなさを 思ひよそへて なにごとを むなしき空に すむつきの 浮世にめぐる ともとして あはれ/\と みるほどに つもれば老と なりはてゝ おほくの年は よるなみの かへる水屑の かひなきは はかなく結ぶ 水のおもの うたかたさへも 數ならぬかな
1348

俊頼朝臣

權中納言通俊かつらの家にて旋頭歌よみ侍りけるに戀の心をよめる

つれなきを思ひ明石の怨みつゝ蜑のいさりにたく藻の煙おもかげにたつ
1349

藤原顯綱朝臣

家に人々まうできて旋頭歌よみ侍りけるに旅の心をよめる

草枕ゆふ露はらふ旅ごろも袖もしをゝにおきあかす夜の數ぞかさなる
1350

清輔朝臣

百首の歌奉りける、旅の歌

松が根のしもうちはらひめもあはで思ひやる心やいもが夢にみゆらむ
1351

伊勢

物名

りうたむをよみ侍りける

風寒みなく雁がねの聲によりうたむ衣をまづやかさまし
1352

しをに

うけとめむ袖をし緒にて貫かば涙の玉のかずはみてまし
1353

躬恒

たなばだ

年にあひ稀にきませる君を措てまた名はたてじ戀は死ぬ共
1354

ひともと菊

あだなりと人もときくか物からに花の方りは過がてにする
1355

二條太皇太后大貳

くつわむし

數ならぬかゝるみくづはむしろだの鶴の齡も何か祈らむ
1356

すだれかけ

風にゆく雲をあだにも我はみずたれか煙を遁れ果つべき
1357

權中納言定頼

わかぐり

立變りたれならすらむ年をへてわがくりかへし行歸る道
1358

俊頼朝臣

はぎの花

常盤木のはなれて獨見えつるは類なしとや身をば知る覽
1359

この島のみやしろ

あなしにはこの島のみや白妙の雪に紛へる浪は立つらむ
1360

大炊御門右大臣

久安百首の歌に、たき物

大井川くだす筏の隙ぞなきおちくる瀧ものどけからねば
1361

左京大夫顯輔

ときのふだ

つらけれど昨日頼めし言の葉に今日迄いける身とは知ずや
1362

清輔朝臣

からにしき

睦言も盡きてあけぬと聞くからに鴫の羽根掻恨めしき哉
1363

花薗左大臣家小大進

かゝげのはこ

霜ふればなべて枯れぬる冬草も岩ほが陰のはこそ萎れね
1364

從三位頼政

から錦をよみ侍りける

うば玉のよるはすがらにしき忍ぶ涙の程を志る人もなし
1365

基俊

みつながしはをよめる

ちる紅葉なほ柵にかけとめよ谷の下みづながしはてじと
1366

後徳大寺左大臣

物名の歌よみ侍りけるに、やまとごと、かぐら

湊山とことはに吹く汐かぜにゑじまの松は浪やかくらむ
1367

殷富門院大輔

きむのこと

狩衣志かまのかぢに染めてきむ野毎の露に歸らまく惜し
1368

源有仲

錦のふすまをよめる

昔見し外山のさとは荒れにけり淺茅が庭に鴫のふすまで
1369

鴨光兼

志きり羽の矢といふことを人のよませ侍りけるに

隔てこし霧は野山にはれねどもゆく方志るくを鹿鳴くなり
1370

俊頼朝臣

春つれ%\に侍りければ權大納言公實の許に遣しける

儚しなをのゝ小山田作り兼てをだにも君はてをふれずや

返しはせで頓てまうできていざゝは花尋ねむなどさそひ侍りける。

1371

權中納言俊忠

堀河院の御時藏人頭にて殿上にさぶらひける朝出させ給ひてこいたじきときのふだをくつかうぶりによめと仰せ言侍りければ仕うまつりける

こし袂いとらひがたき旅のよの白露拂ふ木々のこのした
1372

橘廣房

この里はいはねど志るき谷水の志づくもにほふ菊の下枝
1373

藤原行能朝臣

清見がた、富士の山をよみ侍りける

君しのぶよな/\分けし道芝のかはらぬ露や絶えぬ白玉
1374

二條太皇太后大貳

庚申の夜あやめ草を折句によみ侍りける

あな戀し八重の雲路にめも合ず暮るゝ夜な/\騷ぐ心か
1375

同じ文字なき歌とてよみ侍りける

あふことよ今はかぎりの旅なれや行末志らで胸ぞもえける
1376

大僧正親嚴

春の始に定家にあひて侍りける次でに僧正聖寶はをはじめ、るをはてに、ながめをかけて春の歌よみて侍る由をかたり侍りければその心よまむと申してよみ侍りける

初子日摘める若菜か珍らしと野邊の小松に傚へとぞ見る

新勅撰和歌集終

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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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