新後撰和歌集

Shin Gosen wakashū

作者複数 Various

新後撰和歌集卷第十七
雜歌上

1212

前中納言定家

千五百番歌合に

いくとせのかざし折りけむ古の三輪の檜原のこけの通路
1213

從二位家隆

幾代とも志られぬものは白雲のうへよりおつる布引の瀧
1214

寂蓮法師

野中の清水を見て

汲む人は又いにしへになりぬとも野中の清水思ひ忘るな
1215

土御門入道内大臣

弘安元年百首の歌奉りしとき

ありし世をこふる泪の露ぞ置く今も嵯峨野の道のさゝ原
1216

如願法師

住の江にてよめる

住吉の松ふく風もかはらねば岸うつ浪やむかしなるらむ
1217

權中納言公雄

題志らず

いかにして思ふ方には通ふらむ風に志たがふあまの釣舟
1218

前内大臣實

くれぬとて我がすむ方に歸るなりあしやの沖の蜑の釣舟
1219

今上御製

海邊夕と云ふ事を

蜑のすむ里の知べやこれならむくるれば見ゆる漁火の影
1220

讀人志らず

題志らず

風吹けば波こすいその岩ね松いく志ほ染むる緑なるらむ
1221

後嵯峨院御製

白川殿の七百首の歌に、子日松

子日とてけふ引初むる小松原木高きまでをみる由もがな
1222

前大僧正良覺

春の歌の中に

影茂き園生の竹のそのまゝにこぞ降りつみし雪ぞ殘れる
1223

月花門院

雪の山つくられて侍りける雪を睦月の二十日頃に萬里小路右大臣申して侍りけるに

消え殘る雪につけてや我宿を花よりさきに人のとふらむ
1224

院大納言典侍

梅の花につけて藤原爲道朝臣の許に遣しける

色香をも志る人みよと咲く梅の花の心にまかせてぞ祈る
1225

藤原爲道朝臣

返し

色香をも志る人ならぬ我爲に折るかひなしと花や思はむ
1226

平時高

題志らず

心ある人はとひこでわが袖に梅が香をしき春のゆふかぜ
1227

平義政

春の歌の中に

明けぬとてたが名は立たじ歸る鴈夜深き空を何急ぐらむ
1228

前大僧正禪助

迷はじなこしざの空は霞むとも歸りなれたる春の雁がね
1229

津守國助

志賀の蜑の釣する袖はみえわかで霞む浪路に歸る雁がね
1230

前大僧正源惠

行くさきも跡も霞のなか空に志ばしは見えて歸る雁がね
1231

入道前太政大臣

院に三十首の歌奉りし時、庭春雨

世を捨つる身のかくれがの故郷におとさへ忍ぶ庭の春雨
1232

正三位經朝

題志らず

我ばかり待つとはいはじ山櫻花もうき身を厭ひもぞする
1233

平時直

雲とだにさだかにはみずやま櫻とほき梢や猶かすむらむ
1234

前參議能清

中務卿宗尊親王の家の歌合に、閑居花

ありとだに人に知られぬ宿なれば花咲きぬ共誰か問來む
1235

院御製

三十首の歌めされしついでに、見花

哀れ今は身をいたづらの詠めして我世ふり行く花の下陰
1236

二品法親王覺助

雨のふりける朝人のもとに花を遣すとて

思ひやれ老いて慰む花だにも萎るゝけさの雨のつらさを
1237

藤原爲綱朝臣

花の歌の中に

咲く花の盛を見ても山陰にふりはてぬべき身を歎くかな
1238

藤原宗泰

ながめつゝ我身もふりぬ山櫻よそぢあまりの春を重ねて
1239

源師光

正治の百首の歌に

年毎に花は咲けども人志れぬ我身ひとつに春なかりけり
1240

權律師玄覺

題志らず

いたづらに散りなば惜しき花故に我爲ならず人を待つ哉
1241

平親世

山里にすみ侍りける頃花ちりて後にまうでくべきよし申して侍りける人の返事に

散りはてゝ後は何せむ山里の花みよとてぞ人は待たれし
1242

道供法師

花の盛に山寺にまかりてよめる

つらしとて背く憂世の外までも花も我身を猶さそひける
1243

源光行

題志らず

命をもをしむ心やなからまし花にこの世を思ひおかずば
1244

津守國平

櫻花ちらずばやがて三吉野の山やいとはぬ栖かならまし
1245

前大僧正公澄

いく春も我立つ杣に庵しめて山のかひある花をこそ見め
1246

前大僧正源惠

院みこの宮と申しける時御持僧に加はりて程なく位につかせ給ひて後天台座主になりて内裏にて春の頃七佛藥師の法をおこなひ侍りける時思ひつゞけ侍りける

春の宮に仕へしまゝの年をへて今は雲居の月をみるかな
1247

良助法親王

正安三年の春櫻の枝につけて内裏へ奏し侍りける

九重に色を重ねて匂ふらし花もときしる御代にあひつゝ
1248

今上御製

御返し

今ぞみるきみが心もをりをえて春のときしる花の一えだ
1249

前大僧正公豪

弘安三年三月日吉の社にはじめて御幸侍りける時天台座主にてよみ侍りける

年ごとの御幸を契る春なれば色をそへてや花も咲くらむ
1250

源兼朝

春の歌の中に

哀とて花見しことを數ふればこゝらの年の春ぞへにける
1251

漸空上人

花の頃まうできて侍りける人のもとに遣しける

今よりの心通はゞ思出でよかならず花のをりならずとも
1252

西園寺入道前太政大臣

道助法親王の家に八重櫻あるよし聞きて申し遣しける

勅ならで又ほり移す宿もがなためしにゆるせ八重の櫻木
1253

入道二品親王道助

返し

櫻花をりしる人の宿に植ゑて幾かへりとも春ぞかぎらぬ
1254

源淑氏

題志らず

咲けば且ちるも絶間の見えぬ哉花より外の色しなければ
1255

前左兵衞督範藤

咲く花の心づからの色をだに見はてぬほどに春風ぞ吹く
1256

澄覺法親王

此春も又ちる花をさきだてゝ惜しからぬ身の猶殘りつゝ
1257

辨内侍

長らへていけらば後の春とだに契らぬ先に花ぞ散りぬる
1258

祝部國長

人とはぬ宿の櫻のいかにして風につらくはしられそめ劔
1259

僧正範兼

咲なばと花に頼めし人はこでとふにつらさの春風ぞ吹く
1260

平時村朝臣

雨はるゝ雲のかへしのやま風に雫ながらや花の散るらむ
1261

平貞時朝臣

水上や花の木かげをながれけむ櫻をさそふ春のかはなみ
1262

中臣祐春

散り易き花の心をしればこそ嵐もあだにさそひそめけめ
1263

法印雲雅

散りぬればふくも梢の寂しさに風もや花を思ひいづらむ
1264

源時清

中務卿宗尊親王の家の歌合に

涙にぞ又宿しつる春の月うきはかはらぬもとの身にして
1265

前關白太政大臣

春の歌の中に

廻り逢ふ春は五十ぢの老が世にことわり過ぎて霞む月哉
1266

法印能海

春の頃月蝕を祈りて思ひつゞけ侍りける

霞むだに心づくしの春の月曇れといのる夜半もありけり
1267

源兼氏朝臣

山階入道左大臣の家の十首の歌に、田家水

苗代の春のかど田にせく水の道あるかたに身をや任せむ
1268

平宣時朝臣

題志らず

うき事もいふにぞつらき山吹は心ありける花のいろかな
1269

前關白太政大臣

忘れめや春日の野べに黒木もてつくれる宿の軒の藤なみ
1270

前大僧正行尊

春日山木高きみねの藤の花すゑ葉も春に逢はざらめやは
1271

中原師尚朝臣

諸共に花見むと契りて後久しく音づれざりける人のもとに三月つごもりに遣しける

花見むと契りし人を待つ程にあやなく春の暮れにける哉
1272

藤原景房朝臣

三月に閏月ありける年よめる

散り殘るのちの彌生の八重櫻かさなる春の花とこそ見れ
1273

天台座主道玄

同じきつごもりの日よみ侍りける

なれて猶あかぬ名殘の悲しきはかさなる春の別なりけり
1274

賀茂經久

述懷の心を

神やまにその名をかけよ二葉ぐさ三の位のあとを尋ねて
1275

惟宗忠景

祖父忠久検非違使にて祭主たりける事を思ひて賀茂の社によみて奉りける

かけて祈る志るしあらせよ葵草かさなる跡は神も忘れじ
1276

大江貞重

題志らず

待つ事を習ひになして郭公なくべき頃もつれなかりけり
1277

讀人志らず

侘び人の心にならへ郭公うきにぞやすくねはなかれける
1278

權大僧都覺守

あり明の月にも鳴かず郭公つれなき程のかぎり知らせて
1279

平時遠

みじか夜もなほ寐覺して郭公はつ音も老の後にこそ聞け
1280

賀茂遠久

年をへて我神山のほとゝぎす同じ初音をいまも聞くかな
1281

西行法師

無言の行し侍りける頃郭公を聞きて

時鳥人にかたらぬ折にしも初音きくこそかひなかりけれ
1282

平時藤

羇中郭公

鳴く方にまづあこがれて郭公こゆる山路の末もいそがず
1283

光俊朝臣

夏の歌の中に

いつまでか哀と聞かむ時鳥思へばたれもねこそなかるれ
1284

雅成親王

色ふかき泪をかりてほとゝぎすわが衣手の杜に鳴くなり
1285

中務卿宗尊親王

菖蒲を

いつまでかあやめ計の長きねを泪も志らぬ袖にかけゝむ
1286

中原師宗

前中納言俊定のもとへ代々つかはしける橘を遣すとて

今もまた五月まちけるたちばなに昔忘れぬ程は志らなむ
1287

前中納言俊定

返し

家の風かはらずともに傳へ來てむかしの跡に匂ふたち花
1288

觀意法師

題志らず

水まさる淀の川瀬をさす棹の末もおよばぬ五月雨のころ
1289

大江茂重

かきくらし漂ふ雲の行く方も見えずなりぬる五月雨の頃
1290

源季茂

風わたる葦の末葉に置く露のたまらず見えてとぶ螢かな
1291

平親清女妹

螢をつゝみて姉のもとに遣すとて

戀しさの身より餘れる思をば夜半の螢によそへてもみよ
1292

平親清女

返し

我は又ひるも思のきえばこそ夜半の螢に身をもたゝへめ
1293

前參議忠定

蝉をよみ侍りける

思ふ事空しきからに空蝉の木隱れはつる身こそつらけれ
1294

津守國助

夕顏を

いとゞ又ひかりやそはむ白露に月まち出づる夕がほの花
1295

藤原朝宗

題志らず

風の音はまだ吹變へぬ草のはの露にぞ秋の色は見えける
1296

空人法師

なれぬればつらき心もあるやとて七夕つめの稀に逢ふ覽
1297

式乾門院御匣

忘られぬむかしの秋を思ひねの夢をばのこせ庭の松かぜ
1298

雅成親王

寄風述懷といへる心を

露の身のおき所こそなかりけれ野にも山にも秋風ぞ吹く
1299

前權僧正通海

秋の歌の中に

むすび置く露も雫もあだし野の蓬がもとをはらふ秋かぜ
1300

前大納言爲家

弘長元年百首の歌奉りける時、露

よな/\の泪しなくばこけ衣秋おく露のほどは見てまし
1301

前僧正公朝

題志らず

わが袖のたぐひとみるも悲しきはおいて露けき森の下草
1302

前左衛門督基顯

今は世にたれかは我を招くべきなさけありける花簿かな
1303

惟宗忠景

人ぞうきもとの心は變れどもふる枝の萩は今も咲くなり
1304

權中納言公雄

なにゝわが老の泪のかゝるらむ古枝の萩も露ぞこぼるゝ
1305

前大僧正實承

年をへてもろくなり行く泪かないつかかぎりの秋の夕暮
1306

藤原秀長

關の戸をさゝでも道やへだつらむ逢坂山のあきの夕ぎり
1307

入道二品親王性助

弘安元年百首の歌奉りし時

雨はるゝ高嶺は空にあらはれて山本のぼる富士の河ぎり
1308

法印定意

秋の歌の中に

すみなれし月はむかしの秋風に古郷さむき庭のあさぢふ
1309

後九條内大臣

我ながらいつを泪の絶間とて身の程志らず月を見るらむ
1310

入道前關白左大臣

いかなれば眺むる袖の志ぐるらむ雲も懸らぬ山の端の月
1311

遊義門院

なさけとや泪のかゝる袖にしも長き夜すがら月宿るらむ
1312

光俊朝臣

思ふことげになぐさむる月ならば苔の袂は秋やほさまし
1313

源季廣

身のうさの忘るゝ月の影ならば秋の心はなぐさみなまし
1314

津守國平

秋をへてなれ行く月のます鏡つもれば老の影を見るかな
1315

法印良守

長らへて今幾とせか月を見む今年も秋はなかば過ぐなり
1316

常磐井入道前太政大臣

定かなる夢か現かなゝそぢの秋を待ちえて見つる月かげ
1317

辨内侍

月の夜むかしを思ひ出でゝうちにさぶらひける人のもとに遣しける

忘れずよ思ひや出づる雲居にてともに見しよの秋の月影
1318

後嵯峨院御製

文永五年九月十三夜、白河殿の五首の歌合に、河水澄月

我のみや影もかはらむ飛鳥川ふちせも同じ月はすめども
1319

讀人志らず

題志らず

大方の名こそ吹飯の浦ならめかたぶかですめ秋の夜の月
1320

入道二品親王性助

入る迄も月見むとてぞ住みそめし名におふ秋の西の山里
1321

靜仁法親王

つれなくもめぐり逢ひぬる命かなむそぢの秋の有明の月
1322

順徳院御製

秋の日の山のは遠くなるまゝに麓の松のかげぞすくなき
1323

典侍光子

都人おもひおこせよ苔ふかき松のとぼその秋のあはれを
1324

信實朝臣

聞かざりし嵐のかぜも身にそひぬ今はすみかの秋の山里
1325

平頼泰

里擣衣を

秋ふかくなりゆくまゝに衣うつ音羽の里や夜寒なるらむ
1326

入道二品親王性助

秋の歌の中に

我庵は嵐のまゝに住みなして露も時雨ももらぬまぞなき
1327

後嵯峨院御製

文永五年九月十三夜、白河殿の五首の歌合に、暮山紅葉

かねてより袖も志ぐれてすみ染の夕色ます山のもみぢば
1328

權中納言公雄

題志らず

夜をのこす老の涙のわが袖に猶ほしがたく降る時雨かな
1329

前權僧正教範

年をへてふりぬる身とは志る物を何故袖の又志ぐるらむ
1330

大江宗秀

よそに見し高嶺の雲のいつのまに此里かけて時雨きぬ覽
1331

藤原爲道朝臣

神無月の頃歌合のまけわざせさせ給ひけるとき法皇御幸し侍りけるに紅葉の舟につけらるべき歌とて仕うまつりける

紅葉ばのあけのそぼ舟こぎよせよこゝを泊と君も見る迄
1332

寂惠法師

冬の歌の中に

吹立つる木の葉の下もこのはにて風だにわけぬ庭の通路
1333

藤原親範

冬川の氷のひまを行く水のまたよどむこそ木の葉なりけれ
1334

前大僧正忠源

薄氷あやふき身とは思へどもふみ見て世をも渡りける哉
1335

前大納言爲世

百首の歌奉りし時、千鳥

和歌の浦や色をかさねて濱千鳥七たび同じ跡をつけぬる
1336

院御製

三十首の歌めされしついでに、浦千鳥

我世には集めぬわかの浦千鳥むなしき名をや跡に殘さむ
1337

入道前太政大臣

浦千鳥なにはの事の立居にも老の波にはねぞなかれける
1338

前僧正公朝

中務卿宗尊親王の家の歌合に、千鳥

哀れにも老の寐覺の友千鳥わがよ更けぬる月に鳴くなり
1339

從三位頼政

いまだ殿上ゆるされざりける時雪の降り侍りける日清凉殿にさしおかせ侍りける

いかなれば雲の上にはちり乍ら庭にのみふる雪を見る覽
1340

讀人志らず

返し

心ざし深くも庭につもりなばなどか雲居の雪もみざらむ
1341

權中納言公雄

前中納言定家はやう住み侍りける所に前大納言爲家わづらふこと侍りける時雪のあしたに申し遣しける

消えもせで年をかさねよ今も世にふりて殘れる宿の白雪
1342

前大納言爲家

返し

消えのこる跡とて人に問はるゝも猶たのみなき庭の白雪
1343

按察使實泰

野外雪を

過ぎ來つる跡に任せむ春日野のおどろの道は雪深くとも
1344

如願法師

山家雪といふ事をよめる

春はまづとはれし物を山深み雪ふりにける身社つらけれ
1345

光俊朝臣

題志らず

今更に何とか雪のうづむらむ我身世にふる道は絶えにき
1346

法眼慶融

降り積る雪につけても我身世に埋もれてのみつもる年哉
1347

藤原信顯朝臣

冬さむみあらしになびく炭がまの烟にまじる嶺のうき雲
1348

小督

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

あすしらぬ世のはかなさを思ふにも惜かるまじき年の暮かは
1349

土御門入道内大臣

弘安三年百首の歌奉りし時

何と又暮行く年を急ぐらむ春に逢ふべき身ともしらぬに
1350

藤原爲相朝臣

百首の歌奉りし時、歳暮

我身世に憂もはてある年ならば近づく春も急がれやせむ
1351

讀人志らず

題志らず

程もなくいそぢの年もこゆるぎの急ぎなれたる年の暮哉
Japanese Text Initiative
Electronic Text Center | University of Virginia Library
PO Box 400148 | Charlottesville VA 22904-4148
434.243.8800 | fax: 434.924.1431
Etext Home | Library Home | Search the Library Web
Contact Us:UVA Library Feedback
Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
© 2025 The Rector and Visitors of the University of Virginia