新後撰和歌集

Shin Gosen wakashū

作者複数 Various

新後撰和歌集卷第十八
雜歌中

1352

權中納言俊忠

桂の家にてうれふる事侍りける頃月を見てよみ侍りける

眺めつる心のやみもはるばかりかつらの里にすめる月影
1353

基俊

月の歌の中に

夜もすがら獨待ち出でゝ眺むればうきことのみぞ有明の月
1354

二品法親王覺助

弘安元年百首のうた[8]8たてつまりし時

いつかわれ涙にぬるゝ影ならで袖より外の月を見るべき
1355

入道二品親王性助

題志らず

思ひやれさらでもぬるゝ苔のそで曉おきの露のしげさを
1356

法印憲基

正安元年九月の頃衣笠殿にて御如法經侍りし時三七日の懺悔こよひはつべき日になりて名殘をしき由など申しける人の返事に

なれきつる曉おきの鐘のおとも一夜計りになるぞ嬉しき
1357

式乾門院御匣

題志らず

いつまでと聞くにつけても悲しきは老のねざめの曉の鐘
1358

法皇御製

百首の歌よませ給ひける時、曉

しづかなるねざめ夜深き曉の鐘よりつゞく鳥のこゑ%\
1359

太上天皇

閑庭松といふ事をよませ給ひける

かくしこそ千年も待ため松が枝の嵐志づかにすめる山里
1360

遊義門院

龜山殿にて山家の心を

峯のあらし麓の川の音をのみいつまで友とあかし暮さむ
1361

前大僧正道瑜

那智の山に千日こもりて出で侍りける時よみ侍りける

三年へし那智のを山のかひあらば立ち歸るらむ瀧の白浪
1362

讀人志らず

題志らず

大原やおぼろの清水汲みて知れすます心も年へぬる身を
1363

蓮生法師

同じ心におこなひける人のもとに遣しける

忘るなよながれの末はかはるともひとつみ山の谷川の水
1364

前大納言爲氏

寳治の百首のうた奉りける時、山家水

すまば又すまれこそせめ山里は筧の水のあるにまかせて
1365

式乾門院御匣

山家の心を

靜かなる草の庵の雨のよを訪ふ人あらばあはれとや見む
1366

土御門院御製

世のうきにくらぶる時ぞ山里は松の嵐も堪へてすまるゝ
1367

法皇御製

さびしさも誰にかたらむ山陰の夕日すくなき庭の松かぜ
1362

前大納言爲氏

天台座主道玄無動寺にすみ侍りける頃申し遣しける

聞くまゝにいかに心のすみぬらむ昔のあとの嶺のまつ風
1363

天台座主道玄

返し

訪はるゝやむかしの跡のかひならむ我山ざとの庭の松風
1364

讀人志らず

題志らず

まつ風の音を聞かでや山里をうき世の外と人はいひけむ
1365

津守國助

とへかしな霞の衣をかさねてもあらしさむけき峰の庵を
1366

藤原盛徳

すみわびば立ち歸るべき故郷をへだてなはてそ嶺の白雲
1367

前大納言爲家

住初めし跡なかりせば小倉山いづくに老の身を隱さまし
1368

天台座主道玄

百首の歌奉りし時、山家

山里に世をいとはむと思ひしは猶ふかゝらぬ心なりけり
1369

平泰時朝臣

題志らず

思ふにはふかき山路もなきものを心の外に何たづぬらむ
1370

前大僧正實伊

訪はれねば世の憂事も聞えこず厭ふかひある山の奥かな
1371

讀人志らず

世のうさを歎く心の身にそはゞ山の奥にも住まむ物かは
1372

九條左大臣女

思ひ入る吉野の奥もいかならむ憂世の外の山路ならねば
1373

從三位基輔

世をうしと思も入れぬ月だにも澄みける物を山の奥には
1374

二品法親王覺助

弘安元年百首の歌奉りしとき

契あらば又やたづねむ吉野やま露わけわびしすゞの下道
1375

顯意上人

山家の心を

今はよし浮世のさがと志りぬれば又こと山に宿は求めじ
1376

賀茂在藤朝臣

憂き事の聞えこざらむ山影を誰にとひてか身を隱さまし
1377

藤原爲信朝臣

百首の歌奉りし時、おなじ心を

寂しさも身のならはしの山里に立ち歸りてはすむ心かな
1378

心圓法師

題志らず

世を厭ふ山の奥にもすまれぬや我身にそへる心なるらむ
1379

前大納言實家

寂しさも流石慣行く柴の戸は暫しぞ人のこぬも待たれし
1380

式乾門院御匣

里とほき宿の眞柴のゆふ烟たゝぬも猶ぞさびしかりける
1381

法印最信

山ふかみ昔や人のかよひけむ苔の志たなる谷のかけはし
1382

三條入道左大臣

守覺法親王の家の五十首の歌に

思ひ出づる人はありとも誰か此苔ふりにける道を尋ねむ
1383

惟康親王家右衛門督

題志らず

迷はじな通ひなれたる山人のつま木の道は志をりせず共
1384

藤原基政

よみおきて侍りける歌を前中納言定家の許に遣すとてつゝみ紙に書き付けゝる

おろかなる心は猶もまよひけり教へし道の跡はあれども
1385

津守國助

觀意法師續拾遺集にかへり入りて侍りける時申し遣しける

思のみ滿ちゆく汐の蘆分にさはりも果てぬ和歌のうら舟
1386

觀意法師

返し

後れてもあし分け小舟入る汐にさはりし程を何か恨みむ
1387

入道前太政大臣

弘安元年百首の歌奉りし時

あし原の跡とばかりは忍べどもよる方志らぬ和歌の浦浪
1388

前大納言爲氏

つかさめしの頃爲世が參議を望み申すとて奏し侍りける

和歌の浦に獨老いぬるよるの鶴の子の爲思ふね社なかるれ
1389

法皇御製

御返し

和歌の浦に子を思ふとて鳴く鶴の聲は雲居に今ぞ聞ゆる
1390

前大納言爲家

題志らず

垂乳根の親のいさめの數々に思ひ合せてねをのみぞなく
1391

丹波長有朝臣

つたへ置く言の葉にこそ殘りけれ親のいさめし道芝の露
1392

前大納言良教

弘長三年内裏の百首の歌に、窓竹

いかにして窓に年へし笛竹の雲居にたかくねを傳へけむ
1393

豐原政秋

述懷の心をよめる

家の風吹くとはすれど笛竹の代々に及ばぬねぞ泣れける
1394

源有長朝臣

風さわぐ荒磯浪に引く網の置きどころなき身を恨みつゝ
1395

前右近大將頼朝

前大僧正慈鎭にまかりあひて後に遣しける

逢ひみてし後はいかこの海よりも深しや人をおもふ心は
1396

前大僧正慈鎭

返し

頼む事深しといはゞ渡つ海もかへりて淺くなりぬべき哉
1397

入道二品親王性助

題志らず

消えやらで波に漂ふうたかたの寄邊志らぬや我身なる覽
1398

内大臣

淀むなよ佐保の河みづ昔よりたえぬながれの跡に任せて
1399

藤原嗣房朝臣

稻舟ものぼりかねたる最上川志ばし計といつを待ちけむ
1400

前内大臣實

一品ののぞみとゞこほり侍りける頃人のもとに遣しける

のぼりえぬ淀の筏の綱手繩この瀬ばかりをひく人もがな
1401

民部卿資宣

つかさめしに恨むる事ありける頃人のとぶらひて侍りける返事に

憂に猶たへてつれなき末の松こゆる浪をもえこそ恨みね
1402

前大納言教良

述懷の歌の中に

玉鉾のみちある御代の位山ふもとにひとり猶まよふかな
1403

太上天皇

除目のあした尚侍藤原現子朝臣に給はせける

そのかみに頼めしことの違はねばなべて昔の代にや返らむ
1404

尚侍藤原現子朝臣

御返し

契りこし心の末は知らねどもこのひと言や變らざるらむ
1405

前大納言經任

太宰權帥にかへりなりて侍りける頃人のよろこび申しける返事に申して侍りける

知らざりき香椎の挿頭年ふりて過にし跡に歸るべしとは
1406

源兼泰

題志らず

くり返し猶うきものは數ならでわが身老蘇の杜の志め繩
1407

藤原基頼

身一つのうきに限らぬ此世ぞと思ひなせども濡るゝ袖哉
1408

前關白太政大臣

思ふともそれによるべき世ならぬを何歎かるゝ心なる覽
1409

賀茂久世

ことわりと思ひなすべき心さへ身を忘れては猶歎くかな
1410

源師光

さりともと儚き世をも頼む哉あるべき程はみゆる我身を
1411

惟宗忠宗

中々に憂もつらきも知られずば心の儘に世をやすぐさむ
1412

左近中將具氏

中務卿宗尊親王の家の百首の歌に

とにかくに我から物を思ふ哉身よりほかなる心ならねば
1413

式乾門院御匣

題志らず

大方の世をも恨みじ心だにうき身に叶ふならひなりせば
1414

平久時

うしといふもたゞ大方の習ひとや心を知らぬ人は思はむ
1415

權僧正尊源

よしさらばあるに任て過してむ思ふに叶ふ浮世ならねば
1416

行生法師

おろかなる心をいかに慰めてうきを報とおもひわかまし
1417

前大納言實家

うしとても身に喞つべき方ぞなき此世一つの報ならねば
1418

天台座主道玄

行末の何かゆかしきこし方にうき身の程は思ひしりにき
1419

平時茂

ながらへばうき事やなほ數そはむ昔も今も物ぞかなしき
1420

法印圓勇

世中に猶もつれなく長らへてうきを知らぬは命なりけり
1421

圓道法師

行末もさこそと思へばあらましの慰めだにもなき我身哉
1422

前右衛門督基顯

せめて我が身の慰めのなき儘にうき例をぞ今はかぞふる
1423

道洪法師

世中を恨むるとしはなけれども身のうき時ぞ涙おちける
1424

法印定意

憂き事を思續けてねぬる夜は夢の内にもねぞなかれける
1425

前參議能清

いつ迚も變らず夢は見しかども老の寐覺ぞ袖はぬれける
1426

平時廣

物をのみ思ひなれたる老が身にねざめせられぬ曉もがな
1427

前僧正實伊

はかなくも我があらましの行末を待つとせしまの身社老ぬれ
1428

前右兵衛督爲教

弘安元年百首の歌奉りし時

見ても猶ありしにも似ぬ面影や老をますみの鏡なるらむ
1429

鴨長明

題志らず

いかにせむ鏡のそこにみづはぐむ影も昔の友ならなくに
1430

前大納言忠良

あくがれて世のうき度にとゞまらぬ心の友や涙なるらむ
1431

平時元

濁江の葦間に宿る月みればげにすみ難き世こそ知らるれ
1432

天台座主道玄

平親世人々に歌よませ侍りけるによみて遣しける

道のべに茂る小笹の一ふしも心とまらぬこの世なりけり
1433

後久我太政大臣

述懷の心を

心なきいづみの杣の宮木だにひく人あれば朽果てぬ世を
1434

平宗宣

あづさ弓心のひくに任せずば今もすぐなる世にや返らむ
1435

藤原爲信朝臣

味氣なく思知らるゝ世のうさも身の數ならば猶や歎かむ
1436

入道前太政大臣

弘安元年百首の歌奉りし時

存へていかになるべきはてぞ共我さへ知らぬ身の行方哉
1437

大江忠成朝臣女

題志らず

何事にしばしうき身の忘られて思ひなぐさむ心なるらむ
1438

中臣祐世

世をうしと何歎きけむ背かれぬ心ぞ身をば思はざりける
1439

平時村朝臣

世中の憂につけてもつらからじ身を人數に思ひなさずば
1440

院大納言典侍

とにかくに思ひし事のかはる世は我心とて頼みやはする
1441

高階宗成朝臣

ありへてもたが厭ふべき浮世とて猶身をすてぬ心なる覽
1442

永福門院少將

心からうきを忍びていとはぬや歎くべき身の報なるらむ
1443

法眼能圓

世の人の數にもあらばいかならむ憂にだに猶背かれぬ身は
1444

參議雅經

厭はじな偖もなからむ後は又戀しかるべき此世ならずや
1445

從二位行家

いつかわれ背かざりけむ古をくやしき物と思ひ志るべき
1446

按察使資平

哀れなど身をうき物と厭ひても猶すてやらぬ心なるらむ
1447

[9]9金判盛久

背くべき理りしらぬ心こそうき世に身をば惜みとめけれ
1448

良心法師

憂世とて背き果てゝも如何せむあらましにだに變る心を
1449

靜仁法親王

世中をうしといひてもかひぞなき背かれぬ身の心弱さに
1450

殷富門院大輔

まつ事のあるだに定なき物を何を頼むとすぐすなるらむ
1451

按察使高定

哀れいつわがあらましの限にて背きはつべき浮世なる覽
1452

平時常

いかゞせむ厭ふとも猶世の中を歎く心のもとの身ならば
1453

道洪法師

厭へども猶長らふる命こそうき世に殘るつらさなりけれ
1454

心海上人

命をばいかなる人の惜むらむ憂にはいける身社つらけれ
1455

寂蓮法師

守覺法親王の家の五十首の歌に、述懷

うしとのみ厭ふさへ社哀なれある物とやは身を思ふべき
1456

法印定爲

題志らず

はかなくも思ひすてゝし同じ身を世にあり顏に猶歎く覽
1457

前僧正道性

世を遁れて後百首の歌よみ侍りける中に

涙こそ心も志らね捨てしより何のうらみか身には殘らむ
1458

内大臣

百首の歌奉りし時、述懷

仕へこし代々の昔の名殘とて殘るばかりに身をや喞たむ
1459

前大納言實家

同じ心を

いかゞせむ關の藤川代々をへて仕へし跡にうきせ殘さば
1460

權中納言公雄

小倉の山庄思の外なる事いできて住まずなりにける頃よみ侍りける

代々かけて思をぐらの山水のいかに濁ればすまずなる覽
1461

そののち程なく歸り住み侍りけるを悦び申しける人の返事に

山水に二たび影を宿しても濁らぬ世こそ身に志られけれ
1462

後嵯峨院御製

題志らず

道あれとなにはの事も思へども蘆わけ小舟末ぞとほらぬ
1463

普光園入道前關白左大臣

むくゆべき世の理は思へども民のちからを助けやはする
1464

太上天皇

百首の歌めされしついでに、述懷

ふして思ひ起きても歎く世の中に同じ心と誰をたのまむ
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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