新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第十一
戀歌一

927

藤原道信朝臣

始めて人に遣はしける

如何にしていかに打出でむ言はゞ又なべての事になりぬべき哉
928

左大臣

百首の歌奉りし時、初戀

行く末は猶如何ならむ思ひ入る今だにやがてまよふ心は
929

前關白近衞

踏み初むる程は苦しき戀路ぞと迷ふを強ひて思ひ入る哉
930

權中納言公雄

文保三年百首の歌奉りけるに

涙川如何に堰くべき流れとも習はぬ物をそでのしがらみ
931

相摸

題志らず

陸奥の袖のわたりのなみだ川心のうちにながれてぞすむ
932

讀人志らず

思ひつゝ程經るまゝに涙河いとゞ深くもなりまさるかな
933

從二位業子

戀の歌の中に

物思ふみなかみよりや涙川そでに流るゝものとなりけむ
934

前大納言爲定

文保三年、百首の歌に

堰き侘びぬ洩しやせまし涙川ひとめづゝみも心なりけり
935

權中納言爲重

百首の歌奉りし時、忍戀

涙川袖のなかなるみをなれば瀬々を早しと知る人もなし
936

入道二品親王尊道

題志らず

したむせぶ岩垣淵の草がくれ淺しとだにも知る人ぞなき
937

前僧正宋縁

思ふとも誰かは知らむ初尾花まだ穗に出でぬしたの心を
938

攝政太政大臣

知られじな氷をかづく鳰鳥の底に碎くるこゝろありとは
939

正三位通藤女

うきにはふ芦間のみくり下にのみ絶えず苦しき物をこそ思へ
940

安嘉門院四條

袖も知れ枕も洩らせ戀しさを堰きとゞむべき涙ならねば
941

源義久二女

よしさらば夜は涙に任せなむ枕ならでは誰か知るべき
942

唯圓法師

洩さじとおもふは誰れが涙にてつゝむ袂のひま求むらむ
943

源直氏

涙川はては浮名や流さましせくかひもなき袖のしがらみ
944

藤原頼兼

如何にせむ程なき袖のしがらみに包みなれても餘る涙を
945

爲冬朝臣

袖までもまだ洩さねば夜な/\の月だに知らぬ涙なりけり
946

前大納言資季

寶治の百首の歌に、寄月戀

天の川光とゞめず行く月の早くもひとにこひやわたらむ
947

天暦御製

戀の御歌の中に、同じ心を

月影に身をやかへまし哀れてふ人の心に入りて見るべく
948

權中納言爲重

更けてこそ思絶ゆとも三日月の宵の間ばかり見る影もがな
949

讀人志らず

山の端に廿日の月のはつ/\に見し計りにや斯は戀しき
950

前大納言爲定

貞和二年、百首の歌に

通路の無きにつけてぞ志のぶ山つらき心の奧は見えける
951

藤原藤經

題志らず

心こそ絶えぬ思ひに亂るとも色にな出でそ忍ぶもぢずり
952

深守法親王

百首の歌奉りし時、忍戀

名取川音にな立てそ陸奧のしのぶが原はつゆあまるとも
953

藤原惟成

女に遣しける

うら若み荻の下葉に置く露をさもほのめかす風の音かな
954

源兼氏朝臣

題志らず

我が戀はまだ古巣なる鶯の鳴きても人に知らせかねつゝ
955

爲道朝臣

螢より燃ゆといひても頼まれず光に見ゆる思ひならねば
956

藻壁門院少將

洞院攝政の家の百首の歌に

人知れぬ泪の色はかひもなし見せばやとだに思ひ寄らねば
957

讀人志らず

題志らず

人知れぬ思ひするがの國にこそ身を木枯の杜はありけれ
958

前中納言定家

建保二年内裏に百首の歌奉りけるに

片絲のあだの玉の緒より懸てあはでの杜に露消えねとや
959

惟宗光吉朝臣

題志らず

戀ひ死なむ命をだにも惜まぬに誰がため包む心なるらむ
960

參議教長

人目をも包まぬ計り戀しきはおぼろげならぬ心とを知れ
961

前大納言爲定

寄烟戀

絶えず立つ烟よりこそ富士の嶺のならぬ思も身に知られけれ
962

信慶法師

思ふとも知らじなよそに海士の燒く藻鹽の烟下に焦れて
963

深守法親王

夕烟さしも苦しき下もえの立つ名とならば猶やこがれむ
964

藤原爲量朝臣

我が方に靡くとも見ば夕烟せめて浮名はよそに立つとも
965

權中納言經重

共にさてうき名や立たむあづまなる霞の浦の烟ならねど
966

太上天皇

百首の歌めされし時、忍戀

なほざりに抑ふる方もありけりと洩らば涙を人や喞たむ
967

從二位家隆

建保二年、内裏の百首の歌に

筑波山しづくと絶えぬ谷水の如何なる隙に洩し初めまし
968

三善長康

題志らず

よそに散る玉とな見えそ堰く袖のたぎつ心は湧き返る共
969

前大納言爲定

貞和二年百首の歌奉りけるに

洩れぬべき袖の涙に知らせばや問へど白玉いはぬ習ひを
970

左大臣

永徳元年五月五日内裏にて三首の歌講ぜられし時、思不言戀を

戀しさの例もいかゞ岩躑躅染めてなみだは色に見ゆとも
971

左近大將朝光

女に思ふやと問ひたりけれどいらへもせざりければ

思ふともいはずなりぬる時よりも増る方にて頼まるゝ哉
972

讀人志らず

返し

言はねども心の程を見えぬれば何れをまさる方と頼まむ
973

前中納言爲明

貞和二年、百首の歌に

よしさらば言ひだに放てとにかくに芦間の池の障る契を
974

前大納言爲定

建長二年八月十五夜、鳥羽殿の歌合に

消えねたゞ蜑のすくも火下燃の烟やそれと人もこそ問へ
975

基運法師

題志らず

消え果てむむなし烟の末までも靡く方とは人に知られじ
976

祝部行藤

人知れずまた懲りずまに燒く鹽の烟は下に猶むせびつゝ
977

從三位爲信

里はいづくぞと問へばそことも無く海士のやうになむあると云ふ人に遣はしける

渡つ海のそことも知らぬ蜑なれば藻鹽の烟立たば尋ねむ
978

讀人志らず

返し

みるめなき潮の亂るゝ蜑なれば袖の浦にぞ尋ねても見む
979

前大納言爲兼

弘安の百首の歌に

蜑のかる磯の玉藻の下亂れ知らせ初むべき波の間もがな
980

左衛門督資康

百首の歌奉りし時

昨日より今日は色添ふ染川に立つ名も知らず戀や渡らむ
981

深守法親王

如何にして空に立ちける浮名ぞと宿りし袖の月にとはゞや
982

源義種

題志らず

靡くともみぬめの浦の夕烟かくてうき名を猶や立つらむ
983

道喜法師

如何なれば小野の秋津にゐる雲の靡きもあへず浮名立つらむ
984

寶篋院贈左大臣

つひに早おさふる袖も朽ち果てぬ何に涙を今はつゝまむ
985

前關白近衞

百首の歌奉りし時、顯戀

朽ち果てむ後をば何に歎きけむ今より袖に餘るなみだを
986

權律師義寶

題志らず

身にあまる思ひや猶も知られまし涙は袖に包み來ぬれど
987

勝部師綱

なほざりに思ひし程や包みけむ恨にあまる袖のなみだを
988

寶篋院贈左大臣

延文の百首の歌に、寄烟戀

身に餘る思の烟遂にはやよそにうき名の立ちにけるかな
989

善源法師

題志らず

如何にせむ芦のしのびの夕烟無き名計りは早立ちにけり
990

元可法師

いかゞせむうだの燒野にふす鳥のよそに隱れぬ戀の疲を
991

源兼能朝臣

逢ふことに堪へぬ心を較ぶればせめては惜しき名をや洩さむ
992

正三位通藤女

戀死なば逢ふにかへたる命かと無き名をさへや跡に殘さむ
993

右衞門督親雅

内裏にて人々題を探りて歌仕うまつりけるに、寄玉戀

逢ふ夜はの數になさばや袖の上に落ちて淀なき瀧の白玉
994

太上天皇

百首の御歌に

衣手よさのみな漏れそ藤代の御坂を越ゆるこひの道かは
995

讀人志らず

題志らず

大井川おろす筏の如何なれば流れてつひに戀しかるらむ
996

權律師桓輸

戀ひ死ねと駿河の海の濱つゞら來る世も波の袖濡すらむ
997

小槻兼治

逢ふ事は猶かた岡の眞葛原恨みも果てず濡るゝそでかな
998

後鳥羽院下野

戀の歌の中に

最上川いなとこたへていな舟のしばし計りは心をも見む
999

道因法師

最上川登りもやらぬいな舟の逢ふ瀬過ぐべき程ぞ久しき
1000

讀人志らず

瀬を早み絶えず流るゝ水よりも盡きせぬ物は涙なりけり
1001

二品法親王覺助

弘安の百首の歌に

深き江に流れもやらぬ亂芦のうき節ながらさてや朽なむ
1002

攝政太政大臣

延文の百首の歌奉りけるに、寄橋戀

芦根はふ堀江の橋の絶えず猶下に亂れて戀ひわたるかな
1003

寂眞法師

寄舟戀を

浦風のむかふ潮瀬に行く舟のたゆむ時なく身は焦れつゝ
1004

前大納言經繼

文保の百首の歌に

如何なれば我身の方に置く網のこと浦にのみ心引くらむ
1005

前中納言定家

建保二年、内裏の百首の歌に

梓弓いそまの浦に引く網の目にかけながら逢はぬ君かな
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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