新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第十
羇旅歌

866

民部卿爲藤

嘉元の百首の歌奉りける時、旅

志ひて猶思ひ立つかな旅衣行きてはかへる道とばかりに
867

後芬陀利花院前關白左大臣

旅の歌とて

故郷を立ちし日數は積れどもなほ末とほき旅ごろもかな
868

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りける時

やすらひに我が古郷を出でしより頓て日數の積る旅かな
869

平政村朝臣

題志らず

都出でゝ今日越え初むる逢坂の關や旅寐の始めなるらむ
870

後照念院關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りけるに、關

越えて行く杉の下道明けやらで鳥のねくらき逢坂のせき
871

前關白近衞

百首の歌奉りし時、旅

鳥の音に關をば越えて逢坂の山路よりこそ明初めにけれ
872

後鳥羽院御製

題志らず

駒なべて打出の濱を見わたせば朝日にさわぐ志賀の浦波
873

人丸

朝まだき我がうち越ゆる立田山深くも見ゆる松の色かな
874

小式部内侍

人もこえ駒もとまらぬ逢坂の關は清水のもる名なりけり
875

正三位經朝

旅行の心を

夕烟訪ふべき里の知るべだにまだはるかなる武藏野の原
876

源頼貞

雲もなほ志たに立ちける棧の遙かに高き木曾のやまみち
877

堯尋法師

里まではまだ遙かなる宇津の山夕ゐる雲に宿や訪はまし
878

藤原政宗

題志らず

明けば又獨や行かむ夜もすがら月に伴なふ宇津の山ごえ
879

式子内親王

自から逢ふ人あらば言傳てよ宇津の山邊を越え別るとも
880

後山階前内大臣

延文二年百首の歌奉りしに、旅

足引の山わけ衣さのみやは雲よりくもに日かずかさねむ
881

後光嚴院御製

露拂ふ袂もいとゞ干し侘びぬ山わけごろも日數かさねて
882

藤原爲盛

題志らず

行く末を急ぐにつけて旅衣ふる里とほくなほへだてつゝ
883

權中納言資教

百首の歌奉りし時、旅

行きつるゝ友となるより旅衣立ち寄る宿に人もつきつゝ
884

從二位嚴子

旅の歌とて

行き暮るゝ露わけごろも干しやらでさながら結ぶ草枕哉
885

藤原基世女

都思ふ涙の上にたびごろも野山のつゆをかさねてぞ敷く
886

兼好法師

都思ふ草のまくらの夢をだにたのむかたなく山風ぞ吹く
887

僧正行意

峰より出で侍りて又あづまの方へ修行し侍りけるにさやの中山にて詠み侍りける

これよりも深き嵐に聞きなれて今宵は寐ぬるさやの中山
888

法印顯詮

題志らず

露拂ふ草の枕に聞き侘びぬ今宵かり寐の鳥籠のやまかぜ
889

法眼澄基

嵐吹く野原の草の露ながら結ぶかり寐のゆめぞはかなき
890

讀人志らず

草枕たびは如何なる契にてなれぬ人をもともと待つらむ
891

中宮大夫公宗

行き暮れて今日も宿訪ふたび衣着つゝ假寐の數や重ねむ

892

後久我太政大臣

八幡宮の撰歌合に、羇中暮

暮は又いづくに宿をかりの鳴く峯に別るゝ袖のあきかぜ
893

前參議爲實

題志らず

暮れぬとて山路わかるゝ衣手に伴ひ捨つる峯のあきかぜ
894

源詮直

行く末の宿をやかねて定めけむ暮れて急がぬ今日の旅人
895

祝部尚長

我が爲は結びも置かぬいほ崎の隅田河原に宿や借らまし
896

讀人志らず

たづの音の聞ゆる田居に庵志て我れ旅なりと妹に告げこせ
897

刑部卿範兼

旅の歌の中に

はかなしや何處を遂の住みかにて之をば旅と思ひなすらむ
898

按察使公敏

思ひねと知りてもせめて慰むは都にかよふ夢路なりけり
899

常磐井入道前太政大臣

かり寐する岡の萱根のかや莚かた敷き明す旅のつゆけさ
900

權中納言爲重

曉旅と云ふ事を

急げたゞ曉おきの旅ごろも立ちて山路はつゆふかくとも
901

源兼澄

初瀬に詣でゝ曉に歸るに川霧の立ちけるを見てよめる

川霧も旅の空とや思ふらむまだ夜深くも立ちにけるかな
902

和泉式部

題志らず

見るらむと思ひおこせて古郷の今宵の月を誰れ詠むらむ
903

左大臣

百首の歌奉りし時、旅

都をば花を見捨てゝ出でしかど月にぞ越ゆる白川のせき
904

後京極攝政前太政大臣

和歌所にて六首の歌奉りけるに

夢にだに逢ふ夜稀なる都人寢られぬ月にとほざかりぬる
905

定顯法師

題志らず

假寐訪ふ月を一夜のちぎりにて手枕うとき猪名のさゝ原
906

道成法師

さゝ枕猪名野のよはに假寐して古郷とほき月を見るかな
907

平宗宣朝臣

東へ下りける道にて詠みける

山の端にかたぶく方を都とて心におくるありあけのつき
908

光嚴院御製

貞和二年百首の歌召しける次でに

草枕假寐の露に我れを置きて伴なふ月もあけがたのそら
909

前參議雅有

題志らず

明けぬるか今は立ちなむ旅衣袖に消え行く野邊の月かげ
910

信實朝臣

弘長の百首の歌に、海路

月を見て泊はせじと漕行けば知らぬ浪路に夜ぞ明けにける
911

崇賢門院

百首の歌奉りし時

有明の影を志るべに誘はれて夜ふかくいづる須磨の浦舟
912

前大納言爲氏

弘長の百首の歌に

浦波のたよりに風やなりぬらむ由良のみなとを渡る舟人
913

讀人志らず

題志らず

限なく思ひしよりもわたの原漕ぎ出でゝ遠き末のうら浪
914

源頼春朝臣

浦風の湊によわる明方もしほにまかせてふなでをぞする
915

讀人志らず

淡路潟瀬戸の追風吹き添ひてやがてなるとにかゝる舟人
916

源秀春

舵枕幾夜なれてか浪の音におどろくほどの夢をだに見む
917

十佛法師

風寒き磯屋の枕夢覺めてよそなるなみに濡るゝそでかな
918

賀茂清宣朝臣

夢ながら結び捨てつる草枕いく夜になりぬ野邊の假ぶし
919

等持院贈左大臣

貞和二年、百首の歌に

東路は古郷ながら武藏野のとほきに末をなほやまよはむ
920

源頼康

旅の歌に

草枕あまた旅寢をかぞへてもまだ武藏野は末ぞのこれる
921

宗久法師

武藏野も流石果ある日數にや富士の嶺ならぬ山も見ゆ覽
922

藤原長秀

旅行の心を

富士の嶺をふりさけ見れば白雪の尾花に續く武藏野の原
923

權大納言經嗣

あらち山越ゆべき道も行き暮れぬ矢田野の草に枕結ばむ
924

前大納言爲定

孰くにか今宵はさ寢む印南野の淺茅が上も雪降りにけり
925

讀人志らず

題志らず

古郷の人知るらめやかくばかり旅寢露けき小野のしの原
926

藤原隆信朝臣

後法性寺入道前關白、右大臣に侍りける時、よませ侍りける百首の歌に

柞原した葉折り敷く山城の岩田の小野に侘びつゝぞぬる
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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