新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第五
秋歌下

373

順徳院御製

秋の御歌の中に

秋田もるかりほの苫屋薄からし月に濡れたるよはのさ莚
374

仁和寺二品法親王守覺

田家曉月と云へる事を

明けぬとは宵より見つる月なれど今ぞ門田に鴫も鳴くなる
375

津守國助

題志らず

霧晴るゝ田面の末の山の端に月立ち出でゝ秋かぜぞ吹く
376

如願法師

わさ田もる床の秋風吹き初めて假寐寂しき月を見るかな
377

前大納言爲定

文保の百首の歌奉りける時

夜な/\は月の影もやうつるらむ遠山どりのをろの鏡に
378

御製

人々に廿首の歌めされしついでに

天の河くもの志がらみ洩れ出でゝ緑の瀬々に澄める月影
379

讀人志らず

題志らず

月の舟さし出づるより空の海ほしの林は晴れにけらしも
380

津守經國

水郷月を

久方の中にありてふ里の名を空に知れとも澄める月かな
381

法眼慶融

題志らず

かずならぬ身を知る袖の涙とも月より外は誰かとふべき
382

爲冬朝臣

あくがるゝ心の果よ孰く迄さやけきよはの月にそふらむ
383

從三位爲信

嘉元の百首の歌奉りけるに、月

あくがれむ心の果も身の憂さも秋に任せて月を見るかな
384

藤原仲實朝臣

同じ心を

諸共に見るとはなしに行き歸り月に棹さす舟路なりけり
385

前大納言爲家

月の歌の中に

さしかへる雫も袖の影なれば月になれたる宇治の河をさ
386

月かげもにほてる浦の秋なれば鹽やくあまの烟だになし
387

御製

百首の歌めされしついでに、潟月

夕汐のさすには連れし影ながら干潟にのこる秋の夜の月
388

左兵衛督基氏

磯月を

舟とむる磯の松蔭くるゝ間にはや月のぼる浦のとほやま
389

左大臣

百首の歌奉りし時、湖月

月ばかり澄めとぞなれる小波や荒れにし里は志賀の浦風
390

安嘉門院高倉

寶治の百首の歌奉りける時、同じ心を

鏡山くもらぬ秋の月なればひかりをみがく志賀の浦なみ
391

前關白近衞

百首の歌奉りし時

山の名を分けては云はじ月影のにほてる海も鏡なりけり
392

源頼春朝臣

月の歌とて

さゞ波の音にもよはや更けぬらし月に靜まる志賀の浦風
393

前中納言基成

あくがれてこと浦ならば出でなまし須磨の浮寐に見つる月影
394

藤原信實朝臣

西園寺入道前太政大臣の家にて人々十首の歌詠ませ侍りける時、橋月

道遠き佐野の舟橋夜をかけて月にぞ渡るあきのたびゞと
395

藤原長秀

題志らず

あらち山矢田の庵野の月影にやどり殘さぬ淺茅生のつゆ
396

從一位宣子

百首の歌奉りし時

小笹しく猪名野の月の更くる夜にふし原寒きつゆの手枕
397

伏見院御製

月前露を詠ませ給うける

更けぬるか露のやどりも夜寒にて淺茅が月に秋風ぞ吹く
398

仁和寺二品法親王守覺

題志らず

荒間もる軒端の月は露滋き志のぶよりこそ宿り初めけれ
399

信實朝臣

弘長元年百首の歌奉りける時、月

濡れてこそ月をも宿せ我が袖の露をばほさじ涙なりとも
400

正二位隆教

嘉元の百首の歌奉りけるに、同じ心を

それをだに身の思出と慰めて秋のいく夜か月を見つらむ
401

伏見院御製

山路月を

誰に又月より外はうれへましなれぬ山路の秋のこゝろを
402

大藏卿有家

題志らず

末の松待つ夜更け行く空晴れて涙より出づる山の端の月
403

等持院贈左大臣

延文二年百首の歌奉りけるに

音ばかり志ぐるとぞ聞く月影の曇らぬよはの峯の松かぜ
404

惟宗光之朝臣

前大納言實教人々に三十首の歌詠ませ侍りけるに、松間月

山風に志ぐるゝ松を洩る月は雲間に出づる影かとぞ見る
405

西行法師

題志らず

誠とも誰か思はむひとり見て後にこよひの月をかたらば
406

後鳥羽院御製

建永の頃太神宮に奉らせ給うける百首の御歌の中に

思ふこと我が身にありや空の月片敷く袖に置ける志ら露
407

正三位知家

月の歌とて詠める

積るとて厭ひしかども身はふりぬ今は飽く迄月をだに見む
408

光俊朝臣

秋の歌の中に

積るとも何のためにか厭ふべき老いぬる後の秋の夜の月
409

權中納言公雄

文保三年百首の歌奉りける時

身一つに積り果てたる老なれば心のまゝに月をこそ見れ
410

津守國冬

題志らず

夜寒なる野寺の鐘はおとづれて淺茅が霜と澄める月かげ
411

民部卿資宣

初瀬山明けぬと月におどろけば夜深き鐘の音ぞきこゆる
412

平貞秀

曉月の心を詠める

いづるより入る迄見るを秋の夜の月には誰か寐覺しつ覽
413

前大納言爲世

同じ心を

西になる影は木の間に顯れて松の葉見ゆるありあけの月
414

皇太后宮大夫俊成

爲忠朝臣の家の百首の歌に、有明月

秋の夜のふかき哀は有明の月見しよりぞ知られ初めにし
415

從二位爲敦

永和四年九月十三夜内裏にて十三首の歌構ぜられけるに、月前虫

露はまだ結びもかへぬ月影を草葉の霜とむしや鳴くらむ
416

大江宗秀

題志らず

終夜つゆのやどりに鳴くむしのなみだ數そふ庭の淺茅生
417

太政大臣

宵の間に置くなる野邊の露よりも猶こと繁き虫の聲かな
418

按察使資明

蛬を詠める

長き夜は絶間もあれや蛬鳴きつくすべきうらみならぬを
419

式乾門院御匣

前大納言爲氏人々に詠ませ侍りし住吉の社の十首の歌に

きり%\す鳴く音も悲し人知れず秋の思のふかき寢覺に
420

津守國冬

嘉元の百首の歌奉りけるに

浪を越す尾花がもとによわるなり夜寒の末の松虫のこゑ
421

後京極攝政前太政大臣

題志らず

今年見る我が元結の初霜に三十ぢあまりの秋ぞ更けぬる
422

頓阿法師

里人は衣うつなり志がらきの外山の秋や夜さむなるらむ
423

神祇伯顯仲

堀河院に百首の歌奉りける時

唐衣この里人のうつ聲を聞き初めしよりぬる夜半ぞなき
424

前中納言定宗

入道二品親王詠ませ侍りける五十首の歌に

里人や夜寒の霜のおきゐつゝ更くるも知らず衣うつらむ
425

兵部卿長綱

題志らず

小夜衣うつ聲さむし秋風の更け行く袖に志もや置くらむ
426

三善爲連

あくがるゝ心なればや小夜衣明くるも知らず月に擣つ覽
427

前大僧正覺濟

秋ふかき夜寒は里を分かねばや同じ心にころも擣つらむ
428

鎌倉右大臣

月前擣衣を

小夜更けて半たけ行く月かげにあかでや人の衣擣つらむ
429

寶篋院贈左大臣

題志らず

宵の間は志ばしとだえて有明の月よりさらに擣つ衣かな
430

從二位行家

九條前内大臣の家の百首の歌合に

あすかには衣擣つなりたをやめの袖の秋風夜寒なるらし
431

前中納言定家

題志らず

山水の老いせぬ千代をせきとめておのれ移ろふ白菊の花
432

貫之

小野宮の大いまうち君の屏風の繪に長月の九日の日のかたかけるを詠める

露とてもあだにやは見る長月の菊は千歳を過すと思へば
433

藤原基任

題志らず

いつまでに老いせぬ秋とかざしけむ戴く霜の志ら菊の花
434

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りける時

分け過ぐる山路の菊の花の香に濡れてもほさぬ袖の白露
435

前大納言實教

日數こそ移ろひ果てめ暮れて行く秋をばのこせ庭の白菊
436

權大納言實直母

秋の歌に

白菊の一色ならず移ろふや八重咲く花の志るしなるらむ
437

中勢卿宗尊親王

古郷秋風と云ふ事を

故郷の垣ほの蔦もいろづきて河原のまつに秋かぜぞ吹く
438

藤原行朝

題志らず

初霜の岡の葛はら今よりはうらがれわたる秋かぜぞ吹く
439

好忠

最どしく夜を長月になりぬれば寢覺がちにて明すべき哉
440

從二位家隆

明方に秋の寐ざめやなりぬらむ殘るかたなく物ぞ悲しき
441

讀人志らず

夕されば雁の越え行く立田山時雨にきほひ色づきにけり
442

入道一品親王法守

山紅葉を

初時雨降りにし日より足引の山の木の葉は紅葉しぬらし
443

柿本人丸

同じ心を

露霜の置く朝より神なびの三室のやまはいろづきにけり
444

欣子内親王

日に添へて色こそ増れ昨日より今日は志ぐるゝ峯のもみぢ葉
445

前内大臣實

百首の歌奉りし時、杜紅葉

染めてけり時雨も露もほしやらぬ雫の杜の秋のもみぢ葉
446

讀人志らず

題志らず

唐錦おりはへそめよ山姫のたちきる袖のつゆも志ぐれも
447

立田姫紅葉の庵にすみなさばたまらで染めよ露も時雨も
448

源和義朝臣

むら時雨降り出てそむる紅も今いくしほの紅葉なるらむ
449

津守國夏

唐錦時雨の雨のたてぬきに織りかけてほす山のもみぢ葉
450

太政大臣

延文二年百首の歌奉りけるに

立田川紅葉を水のみかさとやうつるも深き色に見ゆらむ
451

津守國冬

伏見院に三十首の歌奉りける時、山紅葉を

もみぢ葉も誰が禊とて立田山秋風吹けばぬさと散るらむ
452

儀同三司

百首の歌奉りし時、瀧紅葉

となせ川山もひとつのもみぢ葉に染めて殘らぬ瀧の白糸
453

源義將朝臣

となせ川紅葉に咽ぶたきつ瀬の中なる淀や色まさるらむ
454

前内大臣

まだきより散るかとぞ見るもみぢ葉の移りて落つる山の瀧つ瀬
455

内大臣

題志らず

嵐山散らぬ紅葉の影ながら移れば落つるたきの志らなみ
456

前大納言爲兼

弘安の百首の歌に

秋深き紅葉の幣の唐にしきけふも手向のやまぞ志ぐるゝ
457

伏見院御製

題志らず

行く秋の末葉の淺茅露ばかりなほ影とむるありあけの月
458

後深草院辨内侍

百首の歌奉りける時

名殘をば夕の空にとゞめ置きて明日とだになき秋の別路
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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