新後拾遺和歌集

Shin Goshūi wakashū

作者複数 Various

新後拾遺和歌集卷第六
冬歌

459

中務卿宗尊親王

初冬の心を

秋よりも音ぞ寂しき神無月あらぬ時雨や降りかはるらむ
460

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りける時

今朝はなほ志ぐれもあへず神無月日數や冬の始なるらむ
461

等持院贈左大臣

貞治二年三百首の歌奉りけるに

信樂の外山の空のうちしぐれ今日や里人ふゆを知るらむ
462

山階入道前左大臣

弘安元年龜山殿にて十首の歌講ぜられけるに、初冬雨時

袖濡れし秋のなごりも慕はれて時雨を冬と定めかねつゝ
463

深守法親王

百首の歌奉りし時、時雨

降るもかつ晴るゝもやすき我袖の涙乾かぬ時雨なりけり
464

前大納言爲世

同じ心を

風に行くたゞ一村の浮雲にあたりは晴れて降る時雨かな
465

源高秀

聞きなれし木の葉の音はそれながら時雨に變る神無月哉
466

藤原爲量朝臣

山風のさそひもやらぬうき雲の漂ふ空はなほしぐれつゝ
467

前大僧正道意

わきて又曇るとはなき村雲の往來につけて猶志ぐれつゝ
468

津守國冬

嘉元の百首の歌奉りける時

山の端に暫し絶間のある程や里までめぐる時雨なるらむ
469

法印慶運

題志らず

曇るとも分かぬ山路の木の間より日影と共に洩る時雨哉
470

山本入道前太政大臣

山時雨と云へる事を

山の端に漂ふ雲の晴れぞのみ浮きて時雨の降らぬ日ぞなき
471

前中納言定家

名所の百首の歌奉りける時

淡路島むかひの雲の村時雨そめもおよばぬすみよしの松
472

前大納言爲氏

弘安元年百首の歌奉りける時

嵐山脆き木の葉に降りそへて峯行く雲もまた志ぐれつゝ
473

藤原泰宗

題志らず

誘はるゝ嵐と共に志ぐれきて軒端に散るは木の葉なりけり
474

藤原行春

神無月今や落葉の初時雨にはを木ずゑにそめ變へてけり
475

源藤經

寶篋院贈左大臣の家にて人々三首の歌詠み侍りけるに、落葉

山風の吹く方にのみ誘れて木の葉は根にも歸らざりけり
476

前大僧正公朝

同じ心を

足引の山颪吹きて冬はきぬいかに木の葉の降り増るらむ
477

前參議能清

外山なる楢の落葉をさそひ來て枯野にさわぐ木枯のかぜ
478

前關白近衞

百首の歌奉りし時

千しほとは何急ぎけむ色深き木葉よりこそ散初めにけれ
479

源重之女

題志らず

四方の山木々の紅葉も散果てゝ冬はあらはになりにける哉
480

昭慶門院一條

嘉元の百首の歌奉りける時

梢にはさてもかへらぬもみぢ葉を庭よりおくる木枯の風
481

權大納言忠光

百首の歌奉りける時

落ち積る程より薄き紅葉かなあらしやにはを又拂ふらむ
482

太政大臣

貞和二年百首の歌奉りし時

亂れつる落葉は庭に志づまりて弱るあらしを梢にぞ聞く
483

皇太后宮大夫俊成

百首の歌詠み侍りけるに

初霜は降りにけらしな志ながどり猪名の笹原色變るまで
484

俊頼朝臣

堀川院に百首の歌奉りけるに、霜

住吉の千木の片そぎ行きも逢はで霜置き迷ふ冬は來に鳬
485

祝部成光

寒草の心を詠める

人目さへかれ行く霜の古郷に殘るも寂しにはのふゆぐさ
486

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りける時

枯れ殘る冬野の尾花うちなびき誰が手枕も霜や置くらむ
487

皇太后宮大夫俊成

冬の歌の中に

難波潟芦の枯葉にかぜさえて汀のたづも志もに鳴くなり
488

權中納言爲重

江寒蘆を

難波江やあしの夜な/\霜氷り枯葉亂れて浦かぜぞ吹く
489

津守國助

後西園寺入道前太政大臣の家の十首の歌に

入江なるあしの霜枯かりにだに難波の冬をとふ人もがな
490

從三位雅家

百首の歌奉りし時、寒蘆

難波潟枯れても立てる芦の葉の折れ臥す迄と浦風ぞ吹く
491

源義種

題志らず

霜さやぐよはも更け行く篠の葉に氷れる月を拂ふ山かぜ
492

平重時朝臣

霜枯の野なかにこほる忘水志のぶかげなきふゆの夜の月
493

權中納言公時

閨の上に積る木葉を吹きわけて風ぞ板間の月は見せける
494

從二位行家

弘長元年百首の歌奉りける時、冬月

村雲の斯れとてしも烏羽玉の夜渡る月のなど志ぐるらむ
495

順徳院御製

同じ心を詠ませ給うける

志ぐれつる村雲ながら吹く風を知らでや月の山を出づ覽
496

百首の歌召されしついでに

清瀧や岩間によどむ冬がはのうへは氷にむすぶつきかげ
497

從二位隆博

弘安の百首の歌に

庭まではやどるとも見ず山川の氷のうへをみがく月かげ
498

寶篋院贈左大臣

延文二年百首の歌奉りける時

空よりも影や冴ゆらむ池水の氷にやどるふゆの夜のつき
499

前大納言資季

題志らず

久かたの月のかゞみとなる水をみがくは冬の氷なりけり
500

等持院贈左大臣

延文二年百首の歌奉りけるに

二見潟月影冴えて更くる夜に伊勢島とほく千鳥鳴くなり
501

醍醐入道太政大臣

千五百番歌合に

小夜千鳥浦傳ひ行く涙の上にかたぶく月も遠ざかりぬる
502

御製

百首の歌召されしついでに、千鳥

風に寄る浪のまくらを厭ひ來て汐干や床と千鳥鳴くらむ
503

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りけるに

友千鳥何をかたみの浦づたひ跡なき波に鳴きて行くらむ
504

左近中將親雅

上のをのこども三首の歌仕うまつりける時、浦千鳥

浪よりも先にと立ちて浦風の吹き越す磯に鳴く千鳥かな
505

伴周清

題志らず

沖つ波立ちも歸らで潮風の吹き志くかたに鳴く千鳥かな
506

按察使資明

貞和二年百首の歌奉りける時

舟いだす與謝の港のあけ方に友呼ぶこゑは千鳥なりけり
507

寶篋院贈左大臣

延文二年百首の歌奉りけるに、千鳥

解けて寐ぬ須磨の關守夜や寒き友呼ぶ千鳥月に鳴くなり
508

源氏頼

題志らず

楫枕うき寐も寒き浦風にゆめをさそひて鳴く千どりかな
509

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

冬の夜はつがはぬをしも友と見よ同じ入江にやどる月影
510

郁芳門院安藝

題志らず

逢ふ事の滯りたる水の上につがはぬ鴛のうき音をぞ鳴く
511

等持院贈左大臣

貞和二年百首の歌奉りし時

置く霜を拂ひかねてや青羽なる鴨の羽がひも色變るらむ
512

權大納言具通

題志らず

下くゞる道と見し間に鳰どりのうき巣をかけて氷る池水
513

左大臣

百首の歌奉りし時、水鳥

薄氷なほ閉ぢやらで池水の鴨のうき寐を志たふなみかな
514

二品法親王承覺

題志らず

おのづから氷に洩れて行く浪も末は音せぬ山がはのみづ
515

正三位成國

絶え%\になほ水上は流れきて氷にとまる山がはのみづ
516

前中納言實遠

百首の歌奉りし時、氷

落ちたぎつ碎くる波は岩越えて行く瀬に氷る山川のみづ
517

藤原長秀

同じ心を

澤田川袖つく程のなみもなしこほりにわたる眞木の繼橋
518

入道贈一品親王尊圓

貞和二年百首の歌奉りけるに

あじろ木にせかるゝ水や氷るらむ音こそ弱れ宇治の川波
519

惟明親王

題志らず

網代木に寄りくる色は一つにて止らぬ氷魚や宇治の川波
520

從二位家隆

冬の歌の中に

志ぐれつる宵の村雲冴えかへり更け行く風に霰降るなり
521

後二條院御製

嵐吹く楢のひろ葉の冬枯にたまらぬ玉はあられなりけり
522

入道二品親王尊道

百首の歌奉りし時、霰

暫しこそ音も聞ゆれ楢の葉のともにたまらず散る霰かな
523

常磐井入道前太政大臣

弘長元年百首の歌奉りける時、同じ心を

枯れ果てゝ霜の下なる荻の葉も碎くばかりに降る霰かな
524

源頼光

題志らず

音たてゝ降れどもいとゞ溜らぬや小笹が上の霰なるらむ
525

寶篋院贈左大臣

延文の百首の歌の中に、鷹狩

今日も早交野のみのに立つ鳥の行方も見えず狩暮しつゝ
526

源貞世

同じ心を

はし鷹のと返る山の木の下にやどり取るまで狩暮しつゝ
527

前參議實名

延文の百首の歌奉りける時

御狩する交野の雪の夕ぐれに天の川かぜさむく吹くらし
528

皇太后宮大夫俊成

百首の歌詠み侍りけるに

御狩する交野の小野に日は暮れぬ草の枕を誰にからまし
529

按察使資康

百首の歌奉りし時

狩人の暮るれば歸る鈴の音に合せぬとりや草がくるらむ
530

寂眞法師

題志らず

御狩塲のつかれの鳥のおち草は中々雪のつもるにぞ知る
531

前大納言爲兼

弘安の百首の歌に

この里は志ぐれて寒き冬の夜の明くる高嶺に降れる白雪
532

御製

百首の歌めされし時、庭雪

峯にまづよその眺めはふりぬれど庭こそ雪の始なりけれ
533

龜山院御製

曙雪を詠ませ給うける

ほの%\と明け行く山の高嶺より横雲かけて降れる白雪
534

藤原雅幸朝臣

題志らず

さえあかす嵐の程も今朝見えて雪に別るゝ峯のよこぐも
535

權大僧都經賢

月はなほ雲間に殘る影ながら雪に明け行くをちの山の端
536

讀人志らず

足引の山の白きは我が宿に昨日のくれに降りしゆきかも
537

從三位爲理

庭雪を

今朝はまづともなふ方に誘はれて人をも待たず庭の白雪
538

前中納言定家

名所の百首の歌奉りけるに

有乳山峯の木枯さきだてゝ雲の行くてに落つる志らゆき
539

前大納言爲家

雪の歌の中に

矢田の野に打出でゝ見れば山風の有乳の嶺は雪降りに鳬
540

津守國貴

今朝は猶まだ霜がれと見ゆるまで初雪うすき淺茅生の庭
541

後徳大寺左大臣

久かたの空も紛ひぬ雲かゝる高間の山にゆきの降れゝば
542

源兼氏朝臣

樵路雪と云ふ事を

さらでだにかへさ苦しき山人のつま木の上に積る雪かな
543

津守國助

題志らず

吉野山奧よりつもる志ら雪の古郷ちかくなりまさるかな
544

法印顯詮

三吉野の山の通路絶えしより雪降るさとは訪ふ人もなし
545

源氏經朝臣

奥山のまさ木のかづら埋れて雪にはいとゞ來る人もなし
546

源有長朝臣

誰か又同じ山路をたどるらむ越ゆればうづむ跡の志ら雪
547

仲實朝臣

八條太政大臣の家に歌合しはべりけるに、雪を詠める

いつの間に降り積りぬる雪なれば歸る山路に道迷ふらむ
548

從二位行家

弘長元年百首の歌奉りける時

降り積る上葉の雪の夕ごりに氷りてかゝるまつの下つゆ
549

光明峰寺入道前攝政左大臣

後鳥羽院に奉りける百首の歌の中に

佐野の岡越え行く人の衣手に寒き朝げのゆきはふりつゝ
550

左大臣

百首の歌奉りし時、庭雪

草枯に殘ると見えし籬さへ猶あともなくうづむゆきかな
551

入道二品親王尊道

野雪を

立ち歸る君ぞ殘さむ跡絶えし野べの深雪の古きためしは
552

源義將朝臣

氷るぞと見しよりくまぬいなみ野の野中の水を埋む白雪
553

法眼行濟

題志らず

訪はでふる日數のみこそ積りけれ今日も跡なき庭の白雪
554

法印淨辨

閑居雪を

山深きすみかならずば庭の雪に訪はれぬ迄も跡や待たれむ
555

寂蓮法師

和歌所にて六首奉りけるに

山人の道のたよりも自から思ひ絶えねとゆきは降りつゝ
556

贈從三位爲子

嘉元の百首の歌奉りける時

跡惜む我が習はしに云ひなさむさのみ訪はれぬ庭の白雪
557

前大納言爲世

題志らず

踏分けて出でつるもとの跡をさへ又降り埋む庭の雪かな
558

小侍從

千五百番歌合に

跡つけしその昔こそ悲しけれ長閑につもる雪を見るにも
559

式部卿邦省親王

題志らず

庭にこそ積り添へけれ松が枝の梢のゆきを拂ふあらしに
560

後三條入道前太政大臣

文保の百首の歌に

沖つ風吹き越す磯の岩根松浪こそかゝれゆきはたまらず
561

元可法師

海邊雪を

埋もれぬ烟をやどの志るべにて雪に潮くむさとの海士人
562

權中納言爲重

同じ心を

渡つ海の浪もひとつに冴ゆる日の雪ぞかざしの淡路島山
563

從三位頼政

題志らず

身の上にかゝらむことぞ遠からぬ黒髮山に降れる志ら雪
564

卜部兼直

雲のぼる富士の山風そら冴えて烟も見えず雪ぞ降りつゝ
565

源頼春朝臣

冴ゆる日に猶たき増る炭竈の烟はゆきもうづまざりけり
566

前大納言善成

炭竈のあたりの松も埋もれて殘るけぶりは雪よりぞ立つ
567

寶篋院贈左大臣

炭竈煙といふ事をよみ侍りける

炭竈の烟の末もうち靡きゆき吹きおろす小野のやまかぜ
568

讀人志らず

なげきのみ大原山の炭竈に思ひ絶えせぬ身をいかにせむ
569

贈從三位爲子

百首の歌詠み侍りける中に

いつ迄か烟も立てむ降る雪につま木絶えぬる小野の炭竈
570

光俊朝臣

雪中歳暮を

誰が身にも積れる年の暮なればさこそは雪も深くなるらめ
571

前中納言匡房

題志らず

吉野川流れて過ぐる年波にたちゐの影もくれにけるかな
572

權中納言公雄

正中の百首の歌に

何となき世の人事に紛れきて暮れ果てゝこそ年は惜けれ
573

信實朝臣

歳暮の心を

はからざる八十ぢのそとの年の暮積るとだにも今は覺えず
574

入道二品親王道助

寶治の百首の歌奉りける時

哀れ又末の松山六十ぢにもちかづく年のこえむとすらむ
575

太政大臣

延文の百首の歌に

今は身にこむと云ふなる老ゆらくの春より近き年の暮哉
576

入道贈一品親王尊圓

貞和二年百首の歌奉りける時

過ぎ來つる五十ぢの夢のほどなさを更に驚く年の暮かな
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Last Modified: Tuesday, August 31, 2004
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